糖尿病の数値 どこを見る?|基準値とHbA1c・血糖値解説
健康診断の結果を見て、「血糖値が高め」「HbA1cの数値に注意」といった指摘を受け、ご自身の糖尿病の数値について不安に感じている方も多いのではないでしょうか。糖尿病は初期段階では自覚症状がほとんどないため、健康診断などで示される客観的な「数値」を正しく理解することが、ご自身の健康を守るための第一歩となります。
この記事では、糖尿病の診断に用いられる主要な数値である「HbA1c」と「血糖値」について、診断基準や正常値、そして危険な数値を分かりやすく解説します。ご自身の数値を照らし合わせながら、健康管理にお役立てください。
糖尿病と診断される数値(診断基準)
糖尿病の診断は、主に血液検査で測定される「HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)」と「血糖値」の2つの数値を用いて行われます。一度の検査結果だけでなく、再検査の結果や症状、家族歴などを総合的に見て、医師が最終的な診断を下します。
診断基準は、以下のHbA1cと血糖値の基準を組み合わせることで、「正常型」「境界型(糖尿病予備群)」「糖尿病型」のいずれかに分類されます。
HbA1cの基準値
- 6.5% 以上の場合、「糖尿病型」と判断される基準の一つとなります。
血糖値の基準値(空腹時・食後)
血糖値は測定するタイミングによって基準値が異なります。
- 空腹時血糖値: 126 mg/dL 以上
- 75g経口ブドウ糖負荷試験(75g OGTT)2時間値: 200 mg/dL 以上
- 随時血糖値: 200 mg/dL 以上
これらのいずれかを満たす場合、「糖尿病型」と判断されます。
では、具体的に「正常型」「境界型」「糖尿病型」はどのような数値で分けられるのでしょうか。
正常型とは?
生活習慣が良好で、糖尿病のリスクが低い健康な状態です。
- 空腹時血糖値: 110 mg/dL 未満
- HbA1c: 5.6% 未満
この範囲内であれば、現時点では心配いりませんが、今後も健康的な生活を維持することが大切です。
境界型とは?(糖尿病予備群)
正常型と糖尿病型の中間に位置し、いわゆる「糖尿病予備群」と呼ばれる状態です。この段階ではまだ糖尿病ではありませんが、将来的に糖尿病へ移行するリスクが高い状態と言えます。
- 空腹時血糖値: 110~125 mg/dL
- HbA1c: 5.6%~6.4%
境界型と診断された場合は、糖尿病への進行を防ぐために、生活習慣を見直す絶好のタイミングです。
糖尿病型とは?
血糖値が慢性的に高い状態が続き、治療が必要となる状態です。
- 空腹時血糖値: 126 mg/dL 以上
- HbA1c: 6.5% 以上
上記基準のいずれか、または両方を満たした場合に「糖尿病型」と判定されます。ただし、一度の検査で「糖尿病型」の範囲に入ったからといって、すぐに糖尿病と診断されるわけではありません。別の日に行った再検査でも基準を満たした場合や、典型的な症状(口の渇き、多飲、多尿など)や糖尿病網膜症がみられる場合に、糖尿病と確定診断されます。
糖尿病の検査項目
診断で使われる「HbA1c」と「血糖値」。この2つは似ているようで、見ているものが異なります。それぞれの役割を理解しましょう。
HbA1cとは?
HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)は、過去1~2ヶ月間の平均的な血糖コントロール状態を反映する指標です。
赤血球の中にあるヘモグロビンに、血液中のブドウ糖がどれくらいの割合で結合しているかを示したものです。血糖値が高い状態が続くと、ブドウ糖と結合するヘモグロビンの割合も高くなります。
赤血球の寿命は約120日であるため、HbA1cを測定することで、検査直前の食事などに左右されない、より長期間の平均的な血糖状態を知ることができます。そのため「血糖コントロールの成績表」とも呼ばれます。
血糖値とは?
血糖値は、採血した「その時点」での血液中のブドウ糖濃度を示す指標です。
食事や運動、ストレスなどによってリアルタイムに変動するのが特徴です。そのため、測定するタイミングが重要になります。
- 空腹時血糖値: 10時間以上食事を摂らずに測定した血糖値。基本的な血糖の状態を把握するために用いられます。
- 食後血糖値: 食後に上昇した血糖値。インスリンの分泌能力や働きを評価するのに役立ちます。
HbA1cと血糖値、どちらが重要?
結論から言うと、どちらも重要です。
- HbA1c: 長期的な血糖コントロールの評価に優れています。
- 血糖値: 日々の血糖変動(食後高血糖や低血糖など)を把握するために不可欠です。
HbA1cの数値が良くても、食後に血糖値が急上昇する「血糖値スパイク」が隠れていることもあります。長期的な視点(HbA1c)と短期的な視点(血糖値)の両方からご自身の状態を把握することが、適切な治療や対策につながります。
糖尿病の正常値と危険な数値
改めて、ご自身の数値を評価するための目安を確認しましょう。
正常値の範囲
一般的に、健康とされる正常値の範囲は以下の通りです。
項目 | 正常型 | 境界型(予備群) | 糖尿病型 |
---|---|---|---|
HbA1c (%) | 5.6未満 | 5.6~6.4 | 6.5以上 |
空腹時血糖値 (mg/dL) | 110未満 | 110~125 | 126以上 |
いわゆる「やばい数値」とは?
どの数値からが「危険」「やばい」と感じるかは個人差がありますが、合併症のリスクが著しく高まるという観点からは、以下の数値が一つの目安となります。
- HbA1cが8.0%を超えている状態
- 空腹時血糖値が250mg/dLを超えている状態
- 随時血糖値が300mg/dLを超えている状態
このような高い血糖値が続くと、血管が傷つき、三大合併症と呼ばれる
- * 糖尿病網膜症(最悪の場合、失明に至る)
- * 糖尿病腎症(進行すると人工透析が必要になる)
- * 糖尿病神経障害(手足のしびれや感覚麻痺が起こる)
のリスクが非常に高まります。
また、心筋梗塞や脳梗塞といった、命に関わる疾患のリスクも高進します。健康診断などでこれらの数値に近い値を指摘された場合は、自覚症状がなくても決して放置せず、速やかに医療機関を受診してください。
糖尿病の数値を下げるには?
糖尿病の数値を改善するための治療の基本は、「食事療法」と「運動療法」です。これらで改善が見られない場合に「薬物療法」が加わります。
生活習慣の改善(食事・運動)
糖尿病治療の根幹であり、予防においても最も重要です。
- 食事療法
- バランスの良い食事: 主食・主菜・副菜をそろえる。
- 食べる順番を工夫: 野菜・きのこ類(食物繊維)→肉・魚(たんぱく質)→ごはん(炭水化物)の順で食べると、血糖値の急上昇を抑えられます。
- 腹八分目を心がける: 過食は血糖値を上げる大きな原因です。
- 糖質の多い間食やジュースを控える。
- 運動療法
- 有酸素運動: ウォーキング、ジョギング、水泳など。1回20~30分、週に3~5日行うのが目安です。
- 筋力トレーニング: スクワットなど。筋肉量を増やすことで、糖の代謝が改善します。
重要なのは継続することです。無理のない範囲で、生活の中に楽しみながら取り入れましょう。
薬物療法
食事療法や運動療法を行っても血糖コントロールが不十分な場合に、医師の判断で開始されます。
- 経口血糖降下薬(飲み薬): インスリンの分泌を促す薬、インスリンの効きを良くする薬など、様々な種類があります。
- 注射薬(GLP-1受容体作動薬、インスリン製剤): 体内で不足しているインスリンを補充したり、その働きを助けたりします。
薬物療法は、医師が患者さん一人ひとりの状態に合わせて処方するものです。自己判断で量を調整したり中断したりせず、必ず医師の指示に従ってください。
*免責事項: 本記事は情報提供を目的としており、医学的アドバイスに代わるものではありません。糖尿病の診断や治療については、必ず専門の医療機関にご相談ください。*