1型と2型糖尿病の違いは?原因・症状・治療法を分かりやすく解説
1型糖尿病と2型糖尿病は、どちらも血糖値が高くなる病気ですが、その原因や特徴、治療法には大きな違いがあります。
これらの違いを正しく理解することは、適切な自己管理や治療を受ける上で非常に重要です。
この記事では、1型糖尿病と2型糖尿病のそれぞれの特徴を分かりやすく解説し、その違いを比較していきます。
あなたがご自身やご家族の健康について考えるきっかけになれば幸いです。
1型糖尿病とは? 原因・症状を解説
1型糖尿病は、膵臓からインスリンがほとんど分泌されなくなることによって起こる病気です。
インスリンは、血液中のブドウ糖(血糖)を細胞に取り込ませ、エネルギーとして利用したり貯蔵したりする役割を担っています。
インスリンが不足すると、ブドウ糖が細胞に取り込まれず、血液中に留まり、血糖値が高くなってしまいます。
1型糖尿病の主な原因とメカニズム
1型糖尿病の多くの場合は、自己免疫疾患が原因とされています。
自己免疫疾患とは、本来なら体内に侵入したウイルスや細菌などを攻撃するはずの免疫システムが、誤って自分自身の体を攻撃してしまう病気です。
1型糖尿病では、免疫システムが膵臓にあるインスリンを作り出す細胞(β細胞)を攻撃し、破壊してしまいます。
なぜ自己免疫がβ細胞を攻撃するのか、その詳しいメカニズムはまだ完全に解明されていませんが、遺伝的な体質に加えて、特定のウイルス感染などの環境要因が引き金になると考えられています。
β細胞が破壊されるスピードは個人差がありますが、多くの場合、数ヶ月から数年の間にインスリンを分泌できる能力が著しく低下し、最終的にはほとんど分泌されなくなります。
ごく稀に、自己免疫とは関係なく、原因不明でβ細胞が破壊される「突発性1型糖尿病」というタイプもあります。
1型糖尿病の典型的な症状
1型糖尿病は、インスリン分泌能が急速に失われるため、症状が比較的急激に現れるのが特徴です。
代表的な症状としては、以下のようなものがあります。
- 口が異常に渇く(口渇):血糖値が高いと、体は余分なブドウ糖を尿として排出しようとします。
このとき、多くの水分が一緒に失われるため、のどが渇きやすくなります。 - 尿の量が増える、排尿回数が増える(多尿):水分を多く摂るため、尿の量や回数が増えます。
夜中に何度もトイレに行くようになることもあります。 - 体重が急激に減る:インスリンがないと、細胞がブドウ糖をエネルギーとして利用できません。
代わりに脂肪や筋肉を分解してエネルギーを作り出すため、体重が急激に減少します。
たくさん食べているのに痩せるということもあります。 - 疲れやすい、体がだるい(倦怠感):細胞がエネルギー不足になるため、全身倦怠感や疲労感を感じやすくなります。
- 視力がかすむ、物が見えにくい:血糖値が高い状態が続くと、目のレンズの役割をする水晶体の浸透圧が変化し、一時的に視力が低下したりかすんだりすることがあります。
- 吐き気、腹痛:インスリンが極端に不足し、体が脂肪を分解して「ケトン体」を大量に作り出すと、「糖尿病ケトアシドーシス」という危険な状態になります。
このとき、吐き気や腹痛、意識障害などの症状が現れることがあります。
これは命に関わる緊急性の高い状態です。
これらの症状が突然現れた場合、速やかに医療機関を受診することが大切です。
1型糖尿病の発症時期と特徴
1型糖尿病は、主に小児期や思春期といった若い頃に発症しやすいという特徴があります。
そのため、「小児糖尿病」と呼ばれることもありますが、正確には年齢に関係なく発症する可能性があります。
実際、成人になってから1型糖尿病を発症するケースもあり、これは「劇症1型糖尿病」や「緩徐進行1型糖尿病(LADA: Latent Autoimmune Diabetes in Adults)」などと呼ばれます。
特にLADAは、最初は2型糖尿病と診断されることもあり、ゆっくりとインスリン分泌能が低下していくため、診断が難しい場合があります。
発症から診断までの期間は比較的短く、数日から数週間の間に急激に症状が進むことが多いです。
そのため、早期の発見と治療開始が非常に重要になります。
2型糖尿病とは? 原因・症状を解説
2型糖尿病は、日本人に最も多いタイプの糖尿病です。
インスリンは膵臓から分泌されていますが、その働きが悪くなったり(インスリン抵抗性)、インスリンの分泌量が十分でなくなったりすることによって起こります。
これらの要因が複合的に関与している場合がほとんどです。
2型糖尿病の主な原因とメカニズム
2型糖尿病の主な原因は、遺伝的な体質に加えて、長年の生活習慣の乱れが大きく関わっています。
- インスリン抵抗性:肥満(特に内臓脂肪型肥満)、運動不足、不規則な食生活などが原因で、体内でインスリンが十分に作用しにくくなる状態です。
インスリンは出ているのに、その「効き目」が悪くなってしまうのです。 - インスリン分泌能の低下:インスリン抵抗性があると、血糖値を下げるために膵臓はより多くのインスリンを分泌しようと頑張ります。
しかし、その状態が長く続くと、膵臓が疲れてしまい、インスリンを十分に分泌できなくなってしまいます。
これらの両方が組み合わさることで、血糖値が高い状態が続くのが2型糖尿病です。
特に、脂質の多い食事や甘い飲み物の摂りすぎ、運動不足、喫煙、過度な飲酒、睡眠不足、ストレスなどが生活習慣病として関与することが知られています。
また、遺伝的にインスリンの分泌能力が低かったり、インスリンが効きにくい体質であったりする方もいます。
2型糖尿病の典型的な症状
2型糖尿病は、病気がかなり進行するまで自覚症状がないことが多いのが特徴です。
血糖値が非常に高くなると、1型糖尿病と同様の口渇、多尿、倦怠感といった症状が現れることもありますが、緩やかに進行するため、体が少しずつ高血糖に慣れてしまい、症状を感じにくい傾向があります。
そのため、健康診断で血糖値が高いことを指摘されたり、合併症(糖尿病網膜症で視力が落ちた、糖尿病神経障害で手足がしびれる、糖尿病腎症でむくみが出たなど)が進んで初めて病気に気づくケースも少なくありません。
初期に自覚症状がなくても、高血糖の状態が続くと血管が傷つき、全身にさまざまな合併症を引き起こすリスクが高まります。
これが、2型糖尿病が「サイレントキラー」と呼ばれる理由の一つです。
2型糖尿病の発症時期と特徴
2型糖尿病は、主に40歳代以降の中高年に多く見られる病気ですが、近年は食生活の欧米化や運動不足などの影響で、小児や若い世代でも2型糖尿病を発症する人が増えています。
病気の進行はゆっくりとしている場合が多く、数ヶ月から数年かけて徐々に血糖値が悪化していきます。
健康診断で「血糖値が高めですね」「境界型糖尿病の可能性があります」などと指摘された後、適切な対応をせずにいると、やがて2型糖尿病へと移行してしまうケースも見られます。
発症の背景に生活習慣が深く関わっているため、食事療法や運動療法といった生活習慣の改善が治療の基本となります。
【一覧比較】1型糖尿病と2型糖尿病の主な違い
ここでは、これまで解説してきた1型糖尿病と2型糖尿病の主な違いを、様々な視点から比較してみましょう。
発症原因の違い
項目 | 1型糖尿病 | 2型糖尿病 |
---|---|---|
主な原因 | 自己免疫による膵臓β細胞の破壊 | インスリン抵抗性+インスリン分泌不足 |
背景 | 遺伝的素因+環境要因(ウイルスなど) | 遺伝的素因+生活習慣(肥満、運動不足、食生活) |
インスリン | ほとんど分泌されない(絶対的不足) | 分泌されるが働きが悪い、または分泌量が不足 |
1型糖尿病は、自分の体を攻撃してしまう自己免疫反応が原因で、インスリンを作る細胞が壊されてしまいます。
一方、2型糖尿病は、生活習慣などが原因でインスリンが効きにくくなったり、分泌が足りなくなったりすることが主な原因です。
発症時期・経過の違い
項目 | 1型糖尿病 | 2型糖尿病 |
---|---|---|
発症時期 | 小児期〜思春期に多い(全年齢) | 中高年に多い(近年若年化) |
発症の速さ | 比較的急激 | 比較的緩徐 |
進行 | 症状が比較的早く現れる | 初期は無症状、ゆっくり進行する |
1型糖尿病は、急激に発症して症状も早く現れる傾向がありますが、2型糖尿病はゆっくりと進行し、初期にはほとんど症状がないことが一般的です。
発症年齢も典型的なパターンは異なりますが、どちらのタイプも若い人も高齢の人も発症する可能性があります。
症状の特徴の違い
項目 | 1型糖尿病 | 2型糖尿病 |
---|---|---|
初期症状 | 典型的症状(口渇、多尿、体重減少など)が多い | 無症状が多い |
高血糖症状 | 比較的早期に重い症状が現れやすい | 進行すると現れる(口渇、多尿など) |
ケトアシドーシス | 起こしやすい(インスリンがほとんどないため) | 通常は起こりにくい(インスリンがゼロではない) |
1型糖尿病は、インスリンがほとんどないため、比較的早期に高血糖による典型的な症状や、場合によってはケトアシドーシスといった危険な状態に陥りやすいです。
2型糖尿病は、インスリンがゼロではないため、ケトアシドーシスは起こりにくいですが、病状が進行すると1型と同様の高血糖症状が現れます。
治療法の違い
項目 | 1型糖尿病 | 2型糖尿病 |
---|---|---|
治療の中心 | インスリン療法が必須 | 食事療法・運動療法が基本、経口薬、インスリン |
インスリン | 生きていくために必ず必要 | 病状に応じて使用(必須ではない) |
経口薬 | 基本的に効果なし | インスリンの働きを良くしたり分泌を促したりする |
生活習慣改善 | 血糖コントロールのために重要 | 病気の原因であり、治療の最も基本となる |
1型糖尿病では、自分でインスリンを作れないため、注射でインスリンを補う「インスリン療法」が生きていく上で必須となります。
2型糖尿病は、まず食事療法や運動療法といった生活習慣の改善を行い、それだけでは血糖コントロールが難しい場合に、インスリンの働きを助けたり分泌を促したりする飲み薬(経口薬)を使います。
さらに血糖コントロールが不十分な場合や病状が進んだ場合には、インスリン療法を行うこともあります。
遺伝との関係性
1型糖尿病と2型糖尿病は、どちらも遺伝的な要因が関わっていると考えられていますが、その関連性の強さには違いがあります。
- 1型糖尿病:特定の遺伝子と関連があることが分かっていますが、遺伝だけでは発症せず、環境要因が強く影響します。
親が1型糖尿病だからといって、必ず子どもも1型糖尿病になるわけではありません。
遺伝的な関連性は比較的低いと言えます。 - 2型糖尿病:親や兄弟姉妹に2型糖尿病の人がいると、自分が2型糖尿病になるリスクは高まります。
インスリンの分泌能やインスリン抵抗性になりやすい体質が遺伝すると考えられています。
遺伝的な関連性は、1型糖尿病よりも強い傾向があります。
ただし、遺伝だけで発症するわけではなく、生活習慣が大きく影響します。
遺伝的な素因があっても、健康的な生活を送ることで発症を予防したり遅らせたりすることが可能です。
患者数の違い(頻度)
日本の糖尿病患者さんのうち、約95%以上が2型糖尿病と言われています。
1型糖尿病は、糖尿病全体の1%未満と非常に稀な病気です。
この患者数の違いも、両者の大きな特徴の一つです。
自分がどちらのタイプか知るには?(診断)
血糖値が高いことが分かった場合、それが1型糖尿病なのか、それとも2型糖尿病なのかを正確に診断することが重要です。
なぜなら、治療法が大きく異なるからです。
自己判断はせずに、必ず医療機関を受診しましょう。
糖尿病の診断基準
糖尿病の診断は、血液検査で行われます。
代表的な検査項目は以下の通りです。
- 空腹時血糖値:10時間以上飲食せずに測定した血糖値。
126mg/dL以上の場合に糖尿病が疑われます。 - HbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー):過去1〜2ヶ月の血糖値の平均的な状態を示す指標です。
6.5%以上の場合に糖尿病が強く疑われます。 - 75g経口ブドウ糖負荷試験(75gOGTT):空腹時にブドウ糖を溶かした飲み物を飲み、その後定期的に血糖値を測定する検査です。
ブドウ糖を摂取してから2時間後の血糖値が200mg/dL以上の場合に糖尿病と診断されます。 - 随時血糖値:食事に関係なく測定した血糖値。
200mg/dL以上で、かつ典型的な糖尿病症状(口渇、多尿、体重減少など)がある場合に糖尿病と診断されます。
上記のいずれかに該当する場合、あるいは複数の基準を満たす場合に糖尿病と診断されます。
しかし、これらの基準を満たしただけでは、それが1型か2型かは分かりません。
さらに詳しい検査が必要になります。
1型糖尿病の診断に役立つ検査(自己抗体など)
1型糖尿病と2型糖尿病を鑑別するためには、特別な血液検査が行われます。
- 自己抗体検査:膵臓のβ細胞に対する自己抗体が存在するかどうかを調べます。
代表的なものに、抗GAD抗体、抗IA-2抗体、抗インスリン抗体などがあります。
これらの自己抗体が陽性である場合は、自己免疫性の1型糖尿病である可能性が非常に高くなります。 - C-ペプチド測定:インスリンは、プロインスリンという物質が分解されて作られますが、その際にC-ペプチドという物質も一緒に作られます。
C-ペプチドはインスリンの分泌量と相関するため、血液中や尿中のC-ペプチド量を測定することで、膵臓がどのくらいインスリンを分泌しているかを評価できます。
1型糖尿病では、β細胞が破壊されているため、C-ペプチドの値が著しく低くなります。
一方、2型糖尿病では、分泌が低下していてもゼロではないため、1型ほど低くならないことが多いです(ただし、病状が進んだ2型ではC-ペプチドが低くなることもあります)。
これらの検査結果と、患者さんの発症時の年齢、症状の出方、家族歴、体格(BMI)、合併症の有無などを総合的に判断して、医師が診断を行います。
特に1型糖尿病の診断には専門的な知識が必要となるため、糖尿病専門医の診察を受けることが望ましいでしょう。
まとめ:違いを理解し、適切な対応を
1型糖尿病と2型糖尿病は、どちらも高血糖を特徴とする病気ですが、その原因、発症の仕方、進行のスピード、そして何より治療法が大きく異なります。
項目 | 1型糖尿病 | 2型糖尿病 |
---|---|---|
原因 | 自己免疫でβ細胞破壊(インスリンほぼゼロ) | インスリン抵抗性+分泌不足(生活習慣・遺伝) |
発症 | 急激(特に若年) | 緩徐(特に中高年、近年若年化) |
症状 | 典型的高血糖症状、ケトアシドーシスリスク高い | 初期無症状多い、進行すると高血糖症状 |
治療 | インスリン療法必須 | 食事・運動療法基本、経口薬、必要ならインスリン療法 |
頻度 | 非常に稀 | 大多数 |
これらの違いを正しく理解することは、適切な治療を受けるための第一歩です。
1型糖尿病は、生涯にわたってインスリン療法が必要不可欠ですが、適切に血糖コントロールを行うことで健康な人と変わらない生活を送ることができます。
2型糖尿病は、生活習慣の改善が最も重要であり、それによって病気の進行を遅らせたり、合併症を防いだりすることが可能です。
不安な場合は医療機関へ相談を
もしあなたが、口の渇きや多尿、体重減少といった糖尿病の症状を感じている場合、あるいは健康診断で血糖値が高いことを指摘された場合は、迷わず医療機関を受診してください。
特に、急激な症状がある場合は、緊急性が高い1型糖尿病の可能性も考えられますので、速やかに医師の診察を受けましょう。
医療機関では、必要な検査を行い、あなたの糖尿病が1型なのか2型なのか、あるいは他の種類の糖尿病なのかを正確に診断してくれます。
診断に基づいて、あなたに最も合った治療法を提案し、血糖コントロールをサポートしてくれます。
糖尿病は早期発見・早期治療が非常に重要な病気です。
適切な知識を持って、自身の健康状態に関心を持ち、不安なことがあれば専門家である医師に相談することが何よりも大切です。
【免責事項】
本記事は、1型糖尿病と2型糖尿病の違いに関する一般的な情報を提供するものであり、医学的な診断や治療に関する助言ではありません。
ご自身の症状や健康状態については、必ず医師や専門家にご相談ください。
提供される情報は、可能な限り正確であるよう努めていますが、その内容の完全性、正確性、信頼性を保証するものではありません。
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