糖尿病の初期症状と治る可能性|境界型・隠れ糖尿病なら希望が
糖尿病の初期症状は、疲れやすい、喉が渇くといった日常的にも起こりうる症状が多く、見過ごされがちです。しかし、これらのサインに早く気づき、適切な対処をすることで、病気の進行を食い止め、「治る」に近い状態、すなわち「寛解」を目指せる可能性があります。糖尿病は一度発症すると完全に「完治」することは難しい病気ですが、初期段階であれば血糖値を正常に近い状態に維持し、健康な人と変わらない生活を送ることが十分に可能です。この記事では、糖尿病の初期症状や、初期の段階で病気をコントロールし、寛解を目指すための方法について詳しく解説します。もしご自身の体調に不安を感じているなら、ぜひ最後までお読みいただき、早期発見・早期治療の重要性をご理解ください。
糖尿病は、血液中のブドウ糖(血糖)の濃度が必要以上に高くなる状態が慢性的に続く病気です。健康な体では、食事から摂取したブドウ糖はインスリンというホルモンの働きによって細胞に取り込まれ、エネルギーとして利用されたり、貯蔵されたりします。これにより、血糖値は一定の範囲に保たれています。
しかし、何らかの原因でインスリンの量が不足したり、働きが悪くなったりすると、ブドウ糖がうまく細胞に取り込まれなくなり、血液中にあふれてしまいます。これが高血糖の状態です。高血糖が長く続くと、全身の血管や神経が傷つき、さまざまな合併症を引き起こす原因となります。
糖尿病にはいくつかのタイプがありますが、最も多いのは「2型糖尿病」です。これは遺伝的な体質に、過食、運動不足、肥満、ストレスといった生活習慣が加わることで発症します。日本の糖尿病患者さんの95%以上がこの2型糖尿病だと言われています。その他、自己免疫疾患などによってインスリンを作る膵臓の細胞が壊されてしまう「1型糖尿病」や、妊娠中に血糖値が高くなる「妊娠糖尿病」などがあります。
この記事で主に焦点を当てるのは、生活習慣が深く関わる2型糖尿病です。2型糖尿病は、初期段階では自覚症状がほとんどないことが特徴です。そのため、気づかないうちに病気が進行し、気がついた時には合併症が進んでいるというケースも少なくありません。だからこそ、初期のサインを知り、早期に発見することが非常に重要なのです。
糖尿病の初期症状にはどんなものがある?
糖尿病の初期段階では、多くの場合、これといったはっきりした症状がありません。健康診断で初めて血糖値が高いことを指摘されて気づくという方も少なくありません。しかし、注意深く体の変化を見ていれば、見過ごされがちなサインが現れていることがあります。
見過ごしやすい初期症状
「初期症状」と言われるものも、最初は非常に軽微で、「年のせいかな」「疲れているのかな」と見過ごしてしまいがちです。例えば、なんとなく体がだるい、以前より疲れやすい、ちょっとしたことで喉が渇くようになった、といったあいまいな症状です。これらの症状は、高血糖によって体の機能が少しずつ影響を受け始めているサインかもしれません。特に、健康診断で「血糖値が高め」と指摘されたことがある方や、家族に糖尿病の方がいる方、肥満気味の方などは、これらの見過ごしやすいサインにも注意が必要です。
具体的な初期症状一覧
高血糖の状態が少し進んでくると、以下のような比較的はっきりした症状が現れてくることがあります。ただし、これらの症状が全て揃うわけではなく、現れ方にも個人差があります。
喉が渇きやすい・多飲
血液中の糖の濃度が高くなると、体は血液を薄めようとして水分を欲します。そのため、いつも喉が渇いているように感じたり、普段より大量の水分を摂取したりするようになります。特に甘い飲み物を無性に飲みたくなる方もいます。これは、体が必要としている水分だけでなく、血糖値をさらに上げてしまう可能性のある飲み物を選んでしまう悪循環です。
尿の量が多い・回数が増える
高くなった血糖値を下げるために、体は余分な糖を尿と一緒に排出しようとします。このとき、ブドウ糖は多くの水分を引き連れて排出されるため、尿の量が増え、トイレに行く回数も増えます。夜中に何度もトイレに起きるようになった、という方もいます。
体重が急に減る
食事からブドウ糖を摂取しているにも関わらず、インスリンがうまく働かないと、細胞はブドウ糖をエネルギーとして利用できません。そのため、体は代わりに脂肪や筋肉を分解してエネルギーを得ようとします。その結果、食事の量が変わらないのに、あるいはむしろ増えているのに、体重が急激に減ってしまうことがあります。これは一見喜ばしい変化に思えるかもしれませんが、体が正常に機能していない危険なサインです。
疲れやすい・だるい(全身倦怠感)
細胞がブドウ糖をエネルギーとして利用できないため、体全体がエネルギー不足の状態になり、強い疲労感や倦怠感を感じやすくなります。また、多尿による脱水もだるさの原因となることがあります。十分に休息をとっても疲れが取れない、体が重い、といった症状が続く場合は注意が必要です。
足のしびれやむくみ、冷感(糖尿病 初期症状 足)
高血糖は全身の細かい血管や神経を傷つけ始めます。特に足先や手の指先といった体の末端部分は影響を受けやすく、しびれ、ピリピリ感、むくみ、冷感などの症状が現れることがあります。これは糖尿病性神経障害の初期サインである可能性があります。「足の指の感覚が鈍くなった」「正座した後のようなしびれがとれにくい」といった症状があれば要注意です。
皮膚のかゆみや乾燥、化膿しやすい
高血糖の状態では、皮膚が乾燥しやすくなり、かゆみを伴うことがあります。また、血液中の糖分が多いと細菌や真菌が繁殖しやすくなるため、ちょっとした傷や虫刺されが悪化して化膿しやすくなったり、水虫やカンジダ症などの感染症にかかりやすくなったりします。特に皮膚のトラブルが治りにくいと感じる場合は、血糖値が高い可能性があります。
女性に特有の初期症状(糖尿病 初期症状 女性)
女性の場合、免疫力の低下からくる感染症が初期症状として現れることがあります。特に、膀胱炎を繰り返したり、膣カンジダ症になりやすかったりする場合は注意が必要です。これらの感染症は血糖値が高い状態が続くと起こりやすくなることが知られています。生理不順や不妊の原因になることもあります。
これらの具体的な初期症状が現れている場合、糖尿病はすでにある程度進行している可能性があります。しかし、これらの症状が出ている段階であっても、適切な治療を開始することで、その後の進行を抑え、合併症を防ぐことが可能です。症状に気づいたら、できるだけ早く医療機関を受診することが大切です。
糖尿病は初期段階で「治る」のか?
「糖尿病は一度なると治らない」という言葉を耳にすることが多いかもしれません。確かに、医療の現場で使われる「完治」という意味では、現在の医学では1型糖尿病も2型糖尿病も完全に元の状態に戻すことは難しい病気です。しかし、初期の段階であれば、「治る」という言葉の別の側面、つまり「寛解」を目指すことが十分に可能です。
「完治」と「寛解」の違い
医療における「完治」とは、病気の原因が完全に取り除かれ、再発の心配がなくなり、治療の必要が一切なくなる状態を指します。例えば、細菌感染症に対する抗生物質による治療や、早期のがんを切除する手術によって得られる状態などが「完治」に近いと言えます。
一方、「寛解(かんかい)」とは、病気の症状が一時的に、あるいは継続的に軽減または消失し、検査データなども正常に近い状態を維持していることを指します。治療によって病気による悪影響がコントロールできている状態であり、必ずしも病気の原因が完全になくなったわけではありません。糖尿病における「寛解」は、薬物療法なしで、食事療法や運動療法などの生活習慣改善だけで血糖値が正常値、あるいはそれに近い良好な状態を長期間(例えば数ヶ月~数年)維持できている状態を指すのが一般的です。これは、見た目には病気がなくなったかのように見える状態であり、日常生活を送る上での制限もほとんどなくなります。
初期段階での「寛解」の可能性(糖尿病は初期でも治る?)
2型糖尿病の場合、特に発症の早期段階であれば、膵臓のインスリンを分泌する能力がまだ比較的保たれています。この時期に適切な治療、特に強力な生活習慣の改善に取り組むことで、インスリンの働きが改善し、血糖値を正常に近い状態に戻せる可能性があります。この状態が維持できれば、「糖尿病が治った」と感じられる「寛解」に至ることができます。
寛解の定義にはいくつかありますが、例えば日本糖尿病学会では、「少なくとも1ヶ月間、血糖降下薬、インスリン、GLP-1受容体作動薬を使用せずに、空腹時血糖値が100mg/dL未満、かつHbA1cが6.0%未満である状態が維持されていること」などを挙げています。この状態を維持できれば、糖尿病による将来的な合併症のリスクを大幅に減らすことが期待できます。
つまり、糖尿病は「完治」は難しくても、初期段階でなら「寛解」という形で病気の影響を限りなくゼロに近づけ、「治った」と感じられるレベルにまで改善させることが十分に可能であると言えます。早期発見・早期治療が、この寛解を目指す上で非常に重要な鍵となります。
糖尿病になりかけの状態なら治る?(糖尿病になりかけは治る?)
糖尿病の診断基準には至らないものの、血糖値が正常よりも少し高い状態を「境界型」または「糖尿病予備群」と呼びます。この「糖尿病になりかけ」の状態であれば、まだ糖尿病と診断されたわけではありません。この段階であれば、適切な生活習慣の改善によって血糖値を正常値に戻すことが十分可能です。これはまさに「治る」と言える状態です。
境界型を放置すると、年間数パーセントの確率で糖尿病へと移行すると言われています。しかし、食事や運動を見直し、体重を減らすなどの対策をとることで、糖尿病への進行を予防したり、遅らせたりすることができます。厚生労働省の研究では、境界型の人に対する生活習慣改善介入によって、糖尿病の発症リスクを半減できることが示されています。
「糖尿病になりかけ」と言われたら、それは生活習慣を見直す絶好の機会です。このチャンスを活かせば、糖尿病の発症そのものを防ぐことができます。
糖尿病は自然回復する?(糖尿病は自然回復しますか?)
残念ながら、一度糖尿病と診断された場合、治療を何もしないで自然に血糖値が正常に戻る、いわゆる「自然回復」はほとんど期待できません。前述の境界型であれば生活習慣の改善で正常に戻ることはありますが、これは糖尿病と診断される前の段階です。
糖尿病は進行性の病気であり、高血糖の状態を放置すればするほど、膵臓のインスリン分泌能力はさらに低下し、インスリンの効きも悪くなっていきます。これにより血糖値はさらに上昇し、合併症のリスクも高まります。
ごくまれに、風邪などで一時的に高血糖になった後、体調が回復すれば血糖値も正常に戻るといったケースはありますが、これは厳密には糖尿病と診断される状態とは異なります。慢性的に血糖値が高い状態が続く糖尿病では、自然に良くなることは期待せず、必ず医療機関を受診し、適切な診断と治療を受けることが重要です。
初期糖尿病における「寛解」を目指すには?
初期の2型糖尿病、あるいは境界型(糖尿病予備群)の段階で「寛解」を目指すためには、何よりも「早期発見・早期治療」が重要です。そして、その治療の柱となるのが「適切な生活習慣の改善」です。
早期発見・早期治療の重要性
糖尿病は、発症から時間が経つほど膵臓のインスリンを分泌する細胞が疲弊し、インスリンの働きが悪くなります。早期に発見し、この膵臓の負担がまだ軽い段階で治療を開始できれば、膵臓の機能を温存し、インスリンの働きを改善させることが期待できます。これにより、生活習慣の改善だけでも血糖値を良好に保てる可能性が高まり、寛解へと繋げやすくなります。
逆に、診断が遅れて病気が進行してしまうと、生活習慣の改善だけでは血糖コントロールが難しくなり、薬物療法が必要になる可能性が高まります。薬物療法は血糖値を下げる上で非常に有効ですが、可能であれば薬に頼らずに血糖値をコントロールできるのが理想です。早期に発見し、適切な治療を始めることが、将来にわたって健康を維持し、合併症を防ぐための最も重要なステップと言えます。
適切な生活習慣の改善が鍵
初期糖尿病や境界型の治療において、最も基本となり、最も効果が期待できるのが生活習慣の改善です。これは薬物療法よりも優先されるべきであり、薬物療法を開始した後も継続することが非常に重要です。
食事療法のポイント
食事は血糖値に直接影響を与えるため、糖尿病治療の根幹をなします。
- 適切なエネルギー量: 年齢、性別、活動量に応じた適切な摂取カロリーを知り、過剰なエネルギー摂取を控えます。
- 栄養バランス: 炭水化物、タンパク質、脂質のバランスを整えます。特に糖質の摂りすぎに注意が必要です。ご飯、パン、麺類などの主食の量を調整し、甘いものや清涼飲料水は控えましょう。
- 食べる順番: 食物繊維を多く含む野菜やきのこ類、海藻類から先に食べることで、糖質の吸収を穏やかにし、食後の急激な血糖値の上昇(血糖値スパイク)を抑えることができます。次にタンパク質(肉、魚、卵、大豆製品)、最後に炭水化物(ご飯、パンなど)の順で食べると良いでしょう。
- ゆっくりよく噛んで食べる: 満腹感を得やすくなり、食べすぎを防ぎます。
- 食物繊維を積極的に摂る: 野菜、きのこ、海藻、玄米、全粒粉製品など、食物繊維が豊富な食品は血糖値の上昇を緩やかにするだけでなく、コレステロールを下げる効果や便通を改善する効果も期待できます。
- 脂質の質と量: 動物性脂肪を減らし、植物油や魚油などの不飽和脂肪酸を適量摂るように心がけます。揚げ物やバター、生クリームなどは控えめにしましょう。
- 規則正しい食事時間: 1日3食を規則正しく摂り、食事と食事の間隔を一定にすることで、血糖値の変動を小さく抑えられます。
運動療法のポイント
運動は、筋肉が血液中のブドウ糖をエネルギーとして利用するのを促進し、インスリンの働きを改善する効果があります。また、体重管理にも役立ちます。
- 有酸素運動: ウォーキング、ジョギング、水泳、自転車などの有酸素運動は、血糖値を下げる効果が高いです。できれば毎日、または週に3~5日、1回20~60分程度を目安に行いましょう。食後1~2時間後に行うと、食後の高血糖を抑える効果が期待できます。
- 筋力トレーニング: 筋肉量を増やすことで、ブドウ糖の利用効率が上がります。スクワットや腕立て伏せなど、簡単なものでも良いので、週に2~3回取り入れるのがおすすめです。
- 「ちょい足し」運動: エレベーターやエスカレーターを使わずに階段を使う、一駅分歩く、テレビを見ながらストレッチするなど、日常生活の中で体を動かす機会を増やす工夫も有効です。
- 運動前の注意: 糖尿病の合併症がある場合や、心臓病などの持病がある場合は、運動の内容や強度について必ず医師に相談してから始めましょう。運動中に低血糖を起こす可能性もあるため、ブドウ糖などを携帯しておくと安心です。
薬物療法の役割
生活習慣の改善をしっかり行っても血糖コントロールが目標値に達しない場合や、診断時にすでに血糖値がかなり高い場合には、薬物療法が必要になります。薬物療法には、インスリンの分泌を促す薬、インスリンの働きを良くする薬、糖の吸収や排出を調整する薬など、さまざまな種類があります。
早期糖尿病の段階で薬物療法を行うことには、単に血糖値を下げるだけでなく、膵臓の負担を軽減し、インスリンを分泌する能力を温存するという目的もあります。一時的に薬を使って血糖値をしっかりコントロールすることで、膵臓の機能が回復し、その後薬なしでも寛解を維持できる状態になることもあります。
どの薬を使うか、どのような組み合わせで使うかは、患者さんの状態(年齢、肥満度、合併症の有無、膵臓の機能など)によって医師が判断します。薬はあくまで治療をサポートするものであり、生活習慣の改善と並行して行うことが最も効果的です。医師とよく相談し、指示された通りに正しく服用することが重要です。
治療法 | 特徴 | 初期糖尿病・境界型での役割 |
---|---|---|
食事療法 | 適切なエネルギー・栄養バランス、食べる順番など | 治療の根幹。 血糖値上昇抑制、体重管理に不可欠。寛解を目指す上で最も重要。 |
運動療法 | 有酸素運動、筋力トレーニングなど | 筋肉によるブドウ糖利用促進、インスリン抵抗性改善、体重管理。食事療法と並行して行うことで相乗効果。 |
薬物療法 | 血糖降下薬(内服薬)、インスリン注射など | 生活習慣改善で不十分な場合や高血糖が強い場合に必要。膵臓の負担軽減、機能温存に繋がり、寛解導入・維持をサポートする。 |
上記のように、初期糖尿病の寛解を目指すためには、生活習慣の改善が最も重要であり、必要に応じて薬物療法がその効果を強力にサポートします。どれか一つに頼るのではなく、これらを組み合わせて行うことが成功への鍵となります。
糖尿病の自覚症状が出たらもう手遅れ?
「糖尿病の自覚症状が出たらもう手遅れ」と感じて、絶望してしまう方がいらっしゃるかもしれません。確かに、前述したような具体的な自覚症状(多飲多尿、体重減少、だるさなど)が現れている場合、糖尿病は無症状の初期段階よりも進行していると考えられます。膵臓のインスリンを分泌する能力も、ある程度低下している可能性があります。
自覚症状が出た段階でも治療は重要(糖尿病の自覚症状が出たらもう手遅れですか?)
しかし、自覚症状が出たからといって決して「手遅れ」ではありません。この段階で適切な治療を開始すれば、血糖値を目標値まで下げることが十分に可能です。血糖値をコントロールすることで、将来起こりうる重篤な合併症(神経障害、網膜症、腎症、心血管疾患など)の発症を予防したり、進行を遅らせたりすることができます。
自覚症状が出ているということは、体が「高血糖ですよ」というサインを送っているということです。このサインに気づき、迅速に医療機関を受診して治療を開始することが、それ以上の病気の進行を防ぎ、健康寿命を延ばすために非常に重要です。放置するのと治療するのとでは、将来の体の状態に大きな差が出ます。手遅れだと諦めずに、すぐに専門医の診察を受けましょう。
放置するとどうなる?糖尿病の合併症リスク
自覚症状があるにも関わらず糖尿病を放置し、高血糖の状態が長く続くと、全身の血管が傷つき、様々な合併症が引き起こされます。特に怖いのが、細い血管が傷つくことによって起こる「三大合併症」です。
- 糖尿病性神経障害: 手足のしびれ、痛み、感覚の鈍化、立ちくらみ、便秘・下痢、ED(勃起不全)など、全身の神経に障害が起こります。足の感覚が鈍くなると、傷に気づきにくくなり、重症化して切断に至ることもあります(糖尿病性足病変)。
- 糖尿病性網膜症: 目の奥にある網膜の血管が傷つき、視力が低下したり、失明に至ったりすることもあります。初期には自覚症状がないまま進行することが多いため、定期的な眼科受診が必要です。
- 糖尿病性腎症: 腎臓の血管が傷つき、老廃物を尿として体の外に排出する機能が低下します。進行すると人工透析が必要になることもあります。初期には自覚症状がなく、尿にタンパクが出るなどのサインが出た時には、すでに病気が進んでいることが多いです。
これら三大合併症の他にも、動脈硬化が進みやすくなり、心筋梗塞や脳卒中といった命に関わる病気のリスクが高まります。また、免疫力が低下し、肺炎や結核などの感染症にかかりやすくなったり、歯周病が悪化したりすることも知られています。
これらの合併症は、一度発症すると元の状態に戻すのが非常に難しいものがほとんどです。自覚症状が出た時点で医療機関を受診し、高血糖を改善するための治療を始めることが、これらの恐ろしい合併症を防ぐために何よりも大切です。
糖尿病が疑われる場合の受診の目安と検査
もしこの記事を読んで、ご自身の体調や健康診断の結果から糖尿病が疑われると感じた場合は、迷わず医療機関を受診することが重要です。
どんな症状が出たら受診すべきか
前述したような具体的な初期症状、例えば「喉が異常に渇く」「トイレに行く回数が急に増えた」「食事を変えていないのに体重が減った」「体がだるくて仕方がない」「手足がしびれる」といった症状が一つでも当てはまる場合は、早めに受診しましょう。
また、以下のようなケースも受診を強く推奨します。
- 健康診断で血糖値やHbA1cが高いと指摘された: 症状がなくても、検査値異常は病気のサインです。「様子を見ましょう」と言われた場合でも、ご心配であれば専門医の意見を聞くのも良いでしょう。
- 家族に糖尿病の人がいる: 糖尿病は遺伝的な要因も関与します。ご家族に糖尿病の方がいる場合、ご自身も発症しやすい体質である可能性があります。定期的に健康診断を受けるとともに、少しでも気になる症状があれば積極的に受診しましょう。
- 肥満やメタボリックシンドロームがある: 肥満、特に内臓脂肪の蓄積はインスリン抵抗性を高め、2型糖尿病の大きな原因となります。肥満を解消するためのアドバイスも含め、医療機関で相談することをおすすめします。
- 年齢が40歳以上: 2型糖尿病は40歳以降に発症する方が多いです。加齢とともに発症リスクは高まります。
- 妊娠経験のある女性で、妊娠糖尿病だったことがある: 妊娠糖尿病にかかったことのある女性は、将来的に2型糖尿病を発症するリスクが高いことが知られています。
糖尿病の検査方法
糖尿病の診断や血糖コントロールの状態を把握するために、いくつかの検査が行われます。主なものは血液検査です。
検査項目 | 説明 | 糖尿病の診断基準(一例) |
---|---|---|
空腹時血糖値 | 10時間以上何も食べたり飲んだりせず(水は可)採血したときの血糖値。 | 126 mg/dL 以上(再検査で確認) |
随時血糖値 | 食事時間に関係なく、採血したときの血糖値。典型的な糖尿病症状(口渇、多尿、体重減少など)がある場合に測定。 | 200 mg/dL 以上(典型的な症状と合わせて) |
75gブドウ糖負荷試験 (OGTT) | 10時間以上絶食後、ブドウ糖75gが入った液体を飲み、30分後、1時間後、2時間後に採血して血糖値の変動を調べる検査。早期診断に有用。 | 負荷2時間後の血糖値が 200 mg/dL 以上 |
HbA1c (ヘモグロビン・エイワンシー) | 過去1~2ヶ月間の平均的な血糖値を反映する指標。赤血球中のヘモグロビンに糖がどのくらい結合しているかを測定する。血糖値が高いほど高くなる。 | 6.5 % 以上(再検査で確認) |
グリコアルブミン | 過去2週間程度の平均的な血糖値を反映する指標。HbA1cよりも短期間の血糖変動を反映しやすい。 | 基準値は検査施設による(例: 16%未満が正常域) |
尿糖 | 尿中に糖が出ているかを調べる検査。血糖値が160~180mg/dLを超えると尿中に糖が出やすくなる(腎性糖尿を除く)。過去の血糖状態はわからない。 | 陽性の場合、高血糖の可能性あり(確定診断には血液検査が必要) |
これらの検査結果や、症状、年齢、合併症の有無などを総合的に判断して、医師が診断を行います。一度の検査で診断が確定しない場合や、境界型との区別が必要な場合は、日を変えて再度検査を行ったり、より詳しい検査を行ったりすることもあります。
何科を受診すべき?
糖尿病が疑われる場合、まずはかかりつけ医に相談するのが良いでしょう。かかりつけ医がいない場合は、一般内科や糖尿病内科を受診します。
- 内科: 多くの内科クリニックや病院で、糖尿病の基本的な診断や治療を受けることができます。初期の段階であれば、内科医の指導のもとで十分な血糖コントロールが可能です。
- 糖尿病内科: 糖尿病を専門とする医師がいる診療科です。糖尿病の診断や治療に長けており、複雑な病状や合併症の評価、専門的な治療法の選択などにおいて、より詳しいアドバイスや治療を受けることができます。特に、血糖コントロールが難しい場合や、合併症が進んでいる場合は、糖尿病内科の受診が推奨されます。
どちらの診療科を受診すべきか迷う場合は、まずは近くの内科を受診し、必要に応じて専門医への紹介を受けるという流れでも問題ありません。大切なのは、気になる症状や検査結果を放置せず、できるだけ早く専門家に相談することです。
まとめ|糖尿病の初期症状に気づき、寛解を目指そう
糖尿病の初期症状は、多くの場合あいまいで見過ごされがちです。しかし、喉の渇き、多尿、疲れやすさ、原因不明の体重減少など、体に現れるわずかなサインに気づくことが、糖尿病の早期発見に繋がります。
糖尿病は一度発症すると「完治」は難しい病気ですが、特に初期段階や「なりかけ」の境界型の状態であれば、適切な治療によって「寛解」と呼ばれる、血糖値が正常に近い良好な状態を薬なしで維持できる可能性が十分にあります。これは、実質的に「治った」と感じられる状態であり、その後の合併症リスクを大幅に減らすことができます。
寛解を目指すためには、何よりも「早期発見・早期治療」が重要です。そして、その治療の柱となるのが食事療法や運動療法といった「生活習慣の改善」です。必要に応じて薬物療法が加わることもありますが、早期に治療を開始することが、膵臓の機能を温存し、寛解を達成・維持するために非常に有利に働きます。
「自覚症状が出たらもう手遅れ」ということは決してありません。症状が出ているということは、病気がサインを送っているということです。このサインを見逃さずに医療機関を受診し、適切な治療を開始することが、将来の健康を守るために最も大切です。
もし、ご自身の体調で気になる点があったり、健康診断で血糖値の異常を指摘されたりした場合は、一人で悩まず、迷わず医療機関を受診してください。早期に専門家のアドバイスを受け、適切な一歩を踏み出すことが、健康な未来を取り戻すための大きな力となります。
免責事項: 本記事は一般的な情報提供を目的としており、医学的な助言や診断を代替するものではありません。個々の症状や健康状態については、必ず医療専門家の診断を受けてください。治療法や検査方法についても、担当医と十分に相談してください。