糖尿病の主な原因を分かりやすく解説!タイプ別・リスクファクター
糖尿病の原因を知ることは、予防や早期発見、そして適切な管理のために非常に重要です。
この記事では、糖尿病がなぜ起こるのか、そのメカニズムや種類ごとの違い、そして私たちの日常生活におけるリスク要因について詳しく解説します。
ご自身の健康状態と照らし合わせながら読み進め、糖尿病への理解を深め、予防や改善に向けた第一歩を踏み出すための参考にしてください。
1型糖尿病の原因
1型糖尿病は、主に自己免疫の異常によって、膵臓のβ細胞が破壊され、インスリンがほとんど分泌されなくなることで発症します。
比較的に若年期に急激に発症することが多いですが、成人してから発症するケースもあります。
自己免疫の異常
私たちの体には、外部から侵入する細菌やウイルスなどから身を守るための「免疫システム」が備わっています。
通常、免疫は自分の体の細胞を攻撃することはありません。
しかし、何らかの原因でこのシステムに異常が生じ、自分自身の体の細胞を誤って攻撃してしまう病気を「自己免疫疾患」と呼びます。
1型糖尿病の場合、この自己免疫の攻撃の標的となるのが、膵臓のランゲルハンス島にあるβ細胞です。
β細胞は、血糖値を下げる唯一のホルモンである「インスリン」を分泌する役割を担っています。
免疫細胞(特にT細胞)がβ細胞を異物と認識して攻撃・破壊することで、インスリンの分泌量が減少し、最終的にはほとんど分泌されなくなります。
インスリンが不足すると、食事で摂取したブドウ糖を細胞がエネルギーとして利用できなくなり、血液中にブドウ糖が滞留し、血糖値が著しく上昇してしまうのです。
この自己免疫によるβ細胞の破壊は、数ヶ月から数年かけてゆっくりと進行することもあれば、数週間から数ヶ月という短期間で急速に進行することもあります。
遺伝的素因
1型糖尿病の発症には、遺伝的な要因も関わっていると考えられています。
特定のヒト白血球抗原(HLA)遺伝子のタイプを持っている人は、1型糖尿病を発症しやすいことが分かっています。
HLA遺伝子は、免疫システムが自己と非自己を識別する上で重要な役割を果たしており、特定のHLAタイプが自己免疫反応の異常を引き起こしやすくする可能性があります。
ただし、1型糖尿病が親から子へ必ず遺伝する病気というわけではありません。
特定の遺伝的素因を持っているだけでは発症せず、後述する環境要因などが複合的に作用することで発症に至ると考えられています。
例えば、両親が1型糖尿病であっても、子どもが必ず発症するわけではなく、その確率は数パーセント程度とされています。
これは、1型糖尿病が単一の遺伝子異常で起こるのではなく、複数の遺伝子と環境要因が複雑に絡み合って発症する多因子疾患であるためです。
遺伝的素因はあくまで「なりやすさ」を示すものであり、発症を決定づけるものではありません。
環境要因(ウイルス感染など)
遺伝的な素因に加えて、ウイルス感染などの環境要因が1型糖尿病発症の引き金になる可能性が指摘されています。
特に、エンテロウイルス(コクサッキーウイルスやエコーウイルスなど)やサイトメガロウイルス、風疹ウイルスなどが関連するウイルスとして研究されています。
これらのウイルスが膵臓に感染し、炎症を引き起こすことで、自己免疫反応を誘発したり、β細胞自体を損傷させたりする可能性が考えられています。
例えば、特定のウイルスに感染した際に、ウイルスの構造がβ細胞の構造と似ている場合、免疫システムがウイルスだけでなくβ細胞も誤って攻撃してしまう「分子擬態」という現象が起こる可能性が示唆されています。
また、ウイルス感染による炎症が、免疫細胞を活性化させ、β細胞への攻撃を促進するというメカニズムも考えられています。
ただし、特定のウイルスに感染した人が全て1型糖尿病を発症するわけではありません。
遺伝的な素因がある人が、特定の環境要因にさらされることで、自己免疫の異常が引き起こされ、1型糖尿病の発症につながると考えられています。
まだ完全に解明されているわけではありませんが、遺伝と環境の複雑な相互作用によって発症する病気として理解されています。
2型糖尿病の主な原因
2型糖尿病は、糖尿病の中で最も患者数が多いタイプであり、日本人の糖尿病患者さんの約95%を占めると言われています。
主に遺伝的な要因に加えて、生活習慣(食事、運動、肥満など)が深く関わって発症します。
インスリンが全く出なくなるわけではありませんが、「インスリンの効きが悪くなる(インスリン抵抗性)」ことや、「インスリンの分泌量が不足する」ことによって高血糖を招きます。
中高年以降に発症することが多いですが、近年では若年層での発症も増加傾向にあります。
インスリン抵抗性
インスリン抵抗性とは、インスリンが正常に分泌されているにもかかわらず、標的となる細胞(主に筋肉、脂肪組織、肝臓)でインスリンの作用が十分に発揮されない状態を指します。
インスリンは、血液中のブドウ糖をこれらの細胞に取り込ませることで血糖値を下げる働きをします。
インスリン抵抗性があると、細胞がブドウ糖をうまく取り込めなくなるため、血糖値が高いままになってしまいます。
インスリン抵抗性の主な原因は、肥満(特に内臓脂肪の蓄積)、運動不足、そして不適切な食生活です。
内臓脂肪からは、インスリンの働きを妨げる様々な生理活性物質(アディポカインなど)が分泌されます。
これらの物質が、筋肉や肝臓でのインスリン信号の伝達を阻害し、ブドウ糖の取り込みや利用効率を低下させます。
また、運動不足は筋肉の糖を取り込む能力を低下させ、インスリン抵抗性を高めます。
体がインスリン抵抗性の状態になると、血糖値を正常に保つために、膵臓はより多くのインスリンを分泌しようとします。
これを「代償性インスリン分泌亢進」と呼びます。
一時的に膵臓が頑張ってインスリンを大量に出すことで血糖値を正常に保つことができますが、この状態が長く続くと、膵臓は疲弊してしまい、やがてインスリンを十分に分泌できなくなってしまいます。
これが次に説明するインスリン分泌機能の低下へとつながります。
インスリン分泌機能の低下
インスリン分泌機能の低下とは、膵臓のβ細胞がインスリンを十分に作り出し、分泌する能力が衰える状態です。
インスリン抵抗性が持続することでβ細胞が過剰な負担を受け続けると、β細胞の機能が低下し、インスリンの分泌量が減少します。
また、インスリン抵抗性がなくても、遺伝的にβ細胞の機能が弱い人もいます。
β細胞の機能低下は、インスリンの「量」だけでなく、「質」や「タイミング」にも影響します。
食後に血糖値が上昇した際に、速やかに適切な量のインスリンを分泌するというβ細胞の反応が悪くなります。
特に、食事の開始直後に出るはずのインスリン(初期分泌)が遅れたり少なくなったりすると、食後の急激な血糖上昇(血糖スパイク)を引き起こしやすくなります。
血糖スパイクは血管に大きな負担をかけ、糖尿病合併症のリスクを高めることが知られています。
インスリン抵抗性があっても膵臓の機能が十分に保たれていれば糖尿病にはなりにくいですが、インスリン抵抗性に加えてβ細胞の機能が低下すると、血糖値を正常に保つことが難しくなり、2型糖尿病が発症します。
つまり、2型糖尿病はインスリン抵抗性とインスリン分泌能低下という二つの主な原因が複雑に絡み合って起こる病気なのです。
肥満・過体重
肥満、特にお腹周りに脂肪が蓄積する内臓脂肪型肥満は、2型糖尿病の強力なリスク要因です。
内臓脂肪は、皮膚の下につく皮下脂肪と異なり、インスリン抵抗性を引き起こしやすい性質を持っています。
内臓脂肪細胞から分泌されるアディポカイン(善玉のものと悪玉のものがある)のうち、インスリン抵抗性を高める悪玉アディポカイン(TNF-α、IL-6など)が増加し、善玉アディポカイン(アディポネクチンなど)が減少します。
これにより、筋肉や肝臓でのインスリンの働きが悪くなり、血糖値が上昇しやすくなります。
国際的な基準では、体格指数(BMI)が25kg/m²以上を肥満と定義しますが、特に日本人の場合、BMIが25未満でも内臓脂肪が蓄積しやすい傾向があり、ウエスト周囲径(男性85cm以上、女性90cm以上)が内臓脂肪蓄積の目安とされています。
内臓脂肪が多いメタボリックシンドロームの状態では、高血圧や脂質異常症なども合併しやすく、これらの病気もインスリン抵抗性を悪化させる要因となります。
体重が増え、脂肪細胞が大きくなると、インスリン抵抗性が強まります。
膵臓はそれを補うために一生懸命インスリンを分泌しますが、限界が来ると分泌能力が低下し、糖尿病を発症します。
したがって、適正体重を維持し、内臓脂肪を減らすことは、2型糖尿病の予防・改善において非常に重要です。
運動不足
運動不足は、インスリン抵抗性を高める主要な要因の一つです。
筋肉は体の中で最もブドウ糖を消費する組織であり、インスリンの働きによって血液中のブドウ糖を取り込み、エネルギーとして利用したり、グリコーゲンとして蓄えたりします。
運動、特にウォーキングやジョギングなどの有酸素運動や、筋力トレーニングは、筋肉量を維持・増加させ、筋肉細胞のインスリン感受性を高める効果があります。
つまり、インスリンがより効率的に働くようになり、血糖値が下がりやすくなります。
しかし、運動不足の状態が続くと、筋肉量が減少し、筋肉細胞のインスリン感受性が低下します。
これにより、インスリンが十分に分泌されていても、筋肉が血液中のブドウ糖をうまく取り込めなくなり、インスリン抵抗性が高まります。
デスクワーク中心の生活や、日常生活での活動量が少ない人は、運動不足になりやすく、2型糖尿病のリスクが高まります。
定期的な運動は、体重管理にも役立つだけでなく、インスリン抵抗性を改善し、膵臓の負担を軽減する効果が期待できます。
座っている時間を減らし、意識的に体を動かす習慣をつけることが、糖尿病予防には不可欠です。
食生活の乱れ
不適切な食生活は、2型糖尿病の最も直接的な原因の一つです。
特に、以下のような食習慣は血糖値に悪影響を及ぼし、糖尿病リスクを高めます。
- 高カロリー・高脂肪食: 摂取カロリーが消費カロリーを上回ると、余ったエネルギーは脂肪として蓄積され、肥満につながります。特に動物性脂肪や加工食品に含まれる脂肪は内臓脂肪を増やしやすく、インスリン抵抗性を高めます。
- 高糖質食・精製された糖質の過剰摂取: 白米、白いパン、砂糖が多く含まれる清涼飲料水やお菓子などは、消化吸収が早く、食後の血糖値を急激に上昇させます。血糖値が急上昇すると、それを下げるために膵臓は大量のインスリンを分泌しなければならず、膵臓に負担がかかります。慢性的な高糖質食は、インスリン分泌機能の疲弊を招く可能性があります。食物繊維が豊富な玄米や全粒粉製品、野菜などを選ぶことが重要です。
- 不規則な食事時間: 欠食したり、一度にまとめて大量に食べたり、夜遅くに食事を摂ったりする習慣は、血糖値のコントロールを乱し、インスリン抵抗性を高めることが知られています。
- 早食い: 食事を早く食べると、血糖値の上昇が速くなり、インスリンの分泌が追いつかなくなることがあります。よく噛んでゆっくり食べることで、血糖値の急激な上昇を抑えることができます。
- 清涼飲料水や加工食品: 砂糖が多く含まれる清涼飲料水は、大量の糖質を瞬時に摂取することになり、血糖値の急激な上昇を引き起こします。また、加工食品には見えないところで多くの糖質や脂質、塩分が含まれていることがあり、これらも糖尿病リスクを高めます。
これらの食習慣は、肥満を招くだけでなく、直接的にインスリン抵抗性を高めたり、膵臓に負担をかけたりすることで、2型糖尿病の発症リスクを著しく高めます。
バランスの取れた食事を心がけ、食事内容や食べる量、タイミングを見直すことが、糖尿病予防・改善の第一歩となります。
遺伝的要因
2型糖尿病は、1型糖尿病と同様に遺伝的な要因も関わっていますが、その関わり方は異なります。
2型糖尿病の場合、特定の単一遺伝子の異常で発症する病気ではなく、複数の遺伝子が複雑に影響し合い、環境要因(生活習慣)が加わることで発症する「多因子疾患」と考えられています。
具体的には、インスリンの分泌能力が低い体質や、インスリン抵抗性が生じやすい体質など、糖尿病になりやすい遺伝的な「体質」が受け継がれると考えられています。
これらの遺伝子は、インスリンの生成や分泌、細胞でのインスリン信号伝達、脂肪細胞の働きなど、血糖コントロールに関わる様々な機能に関与しています。
家族に2型糖尿病の人がいる場合、そうでない人に比べて2型糖尿病を発症するリスクが高いことが分かっています。
両親ともに2型糖尿病の場合、そのリスクはさらに高まります。
しかし、遺伝的な体質があっても、適切な生活習慣を維持することで、発症を予防したり、発症を遅らせたりすることが十分に可能です。
逆に、遺伝的に糖尿病になりやすい体質でなくても、不適切な生活習慣を続けていれば糖尿病を発症するリスクは高まります。
遺伝はあくまで「素因」であり、発症するかどうかは生活習慣との相互作用によって決まる側面が大きいと言えます。
加齢
加齢も2型糖尿病の発症リスクを高める要因の一つです。
年齢を重ねると、以下のような変化が体内で起こり、血糖コントロールが難しくなる傾向があります。
- インスリン分泌能力の低下: 膵臓のβ細胞の機能は、加齢とともに徐々に衰えていく傾向があります。これにより、インスリンの分泌量が減ったり、分泌のタイミングが遅れたりすることがあります。
- インスリン抵抗性の増加: 加齢に伴い、筋肉量が減少し、体脂肪率が増加する傾向があります。特に内臓脂肪が蓄積しやすくなり、インスリン抵抗性が高まります。また、細胞レベルでもインスリンの感受性が低下することが知られています。
- 活動量の低下: 年齢とともに身体活動量が減少し、運動不足になりやすいことも、インスリン抵抗性を高める要因となります。
これらの生理的な変化に加えて、長年の生活習慣の積み重ね(不適切な食事、運動不足など)も、高齢者の糖尿病発症に影響しています。
ただし、加齢による変化は避けられませんが、健康的な生活習慣を続けることで、その影響を最小限に抑え、糖尿病の発症を遅らせたり、予防したりすることは可能です。
高齢になっても、適度な運動を続け、バランスの取れた食事を心がけることが重要です。
ストレスや睡眠不足
意外に思われるかもしれませんが、慢性的なストレスや睡眠不足も血糖コントロールを乱し、2型糖尿病の発症リスクを高める可能性が指摘されています。
- ストレス: ストレスを感じると、体はアドレナリンやコルチゾールといったホルモンを分泌します。これらのホルモンは、体を活動状態にするために血糖値を上げる作用があります。通常、ストレスが解消されれば血糖値は元に戻りますが、慢性的なストレスが続くと、これらのホルモンが常に高い状態となり、インスリンが効きにくくなる(インスリン抵抗性が高まる)原因となります。また、ストレスによる過食や運動不足が、間接的に糖尿病リスクを高めることもあります。
- 睡眠不足: 睡眠時間が不足したり、睡眠の質が悪かったりすると、血糖値を調節するホルモンのバランスが崩れることが分かっています。睡眠不足は、食欲を増進させるグレリンというホルモンの分泌を増やし、食欲を抑えるレプチンというホルモンの分泌を減らす傾向があります。これにより、過食につながりやすくなります。また、睡眠不足はインスリン抵抗性を高めることも複数の研究で報告されています。
現代社会では、仕事や人間関係など、様々な原因によるストレスや睡眠不足を抱えている人が少なくありません。
これらの要因も、血糖コントロールを乱し、2型糖尿病発症の一因となりうることを理解し、適切なストレスマネジメントや十分な睡眠を心がけることが大切です。
血糖値の正常なコントロール
健康な人の体は、食事によって摂取したブドウ糖をエネルギー源として効率的に利用し、血糖値を常に一定の範囲内に保つ素晴らしい仕組みを持っています。
この血糖値の調節には、主に膵臓から分泌されるインスリンとグルカゴンという二つのホルモンが重要な役割を果たしています。
- 食事による血糖値の上昇: 食事をすると、含まれる炭水化物が消化されてブドウ糖となり、小腸から吸収されて血液中に入ります。これにより、血糖値が上昇します。
- インスリンの働き: 血糖値が上昇すると、膵臓のβ細胞からインスリンが分泌されます。インスリンは血液中のブドウ糖をキャッチし、体の様々な細胞(特に筋肉細胞、脂肪細胞、肝細胞)にブドウ糖を取り込むように促します。これにより、血液中のブドウ糖が減少し、血糖値が下がります。また、インスリンは肝臓でブドウ糖が作られる(糖新生)のを抑える働きもあります。
- グルカゴンの働き: 一方、血糖値が下がりすぎた場合(空腹時など)は、膵臓のα細胞からグルカゴンが分泌されます。グルカゴンは肝臓に働きかけ、蓄えられているグリコーゲンをブドウ糖に分解したり、アミノ酸などからブドウ糖を作り出したり(糖新生)することで、血液中にブドウ糖を放出し、血糖値を上げる働きをします。
このように、インスリンとグルカゴンがバランスを取りながら働くことで、血糖値は食事や活動量の変動に関わらず、狭い範囲(健康な人で空腹時70~100mg/dL、食後でも140mg/dL未満程度)に保たれています。
高血糖を引き起こすメカニズム
糖尿病による高血糖は、この血糖コントロールの仕組みがうまく機能しなくなることによって起こります。
そのメカニズムは、主に以下の二つの問題のいずれか、または両方が原因となります。
- インスリンの作用不足:
- インスリン分泌量の不足: 膵臓のβ細胞が破壊されたり、機能が低下したりすることで、インスリンを十分に作り出し、分泌することができなくなります(主に1型糖尿病、および2型糖尿病の進行した状態)。
- インスリン抵抗性: インスリンが十分に分泌されていても、標的となる細胞(筋肉、脂肪、肝臓)がインスリンの指示をうまく受け取れなくなり、ブドウ糖の取り込みや利用が滞ります(主に2型糖尿病)。
これにより、血糖値が上昇します。 - 肝臓からのブドウ糖放出の過剰:
インスリンは肝臓での糖新生を抑制する働きがありますが、インスリンの作用が不足すると、肝臓がブドウ糖を作りすぎてしまい、血液中に過剰に放出されることになります。
特に食後のインスリン作用不足は、肝臓での糖新生を十分に抑えられず、食後高血糖を招く一因となります。
このように、インスリンの「量」が足りないか、「質」(効き)が悪いか、あるいはその両方によって、血液中のブドウ糖を適切に処理できなくなり、高血糖状態が引き起こされるのです。
特に2型糖尿病では、まずインスリン抵抗性が生じ、それを補うために膵臓が頑張ってインスリンを分泌しますが、やがて膵臓が疲弊して分泌能力も低下するという経過をたどることが一般的です。
一時的な高血糖と糖尿病による高血糖
血糖値は、食事や運動などの影響で一日の中でも変動します。
健康な人でも、食事をした後には一時的に血糖値が上昇します。
しかし、インスリンが速やかに分泌され、働くことで、血糖値は比較的短時間で正常なレベルに戻ります。
これを一時的な高血糖と言います。
例えば、食後血糖値が一時的に140 mg/dLを超えることがあっても、それが持続せず、空腹時には正常値に戻る場合は、必ずしも糖尿病とは診断されません。
一方、糖尿病による高血糖は、この血糖値の高い状態が慢性的に続くことを指します。
空腹時でも血糖値が高かったり、食事をした後になかなか血糖値が下がらず、長時間高いままだったりします。
糖尿病の診断基準では、空腹時血糖値が126mg/dL以上、またはブドウ糖負荷試験(OGTT)で2時間値が200mg/dL以上、または随時血糖値が200mg/dL以上といった基準が用いられます(これに加えてHbA1cという過去1~2ヶ月の血糖値の平均を示す指標も重要です)。
一時的な高血糖(特に食後高血糖)は、健康な人でも起こり得ますが、これが頻繁に起こったり、その程度が強かったりする場合は、「境界型糖尿病」と呼ばれる糖尿病予備群の状態である可能性があり、将来的に2型糖尿病へ移行するリスクが高いと考えられています。
境界型糖尿病の段階であれば、生活習慣の改善によって糖尿病への移行を予防できる可能性が十分にあります。
重要なのは、糖尿病による高血糖は、インスリンの作用不足という根本的な問題によって引き起こされており、放置すると全身の血管や神経にダメージを与え、様々な合併症を引き起こすということです。
単なる一時的な血糖変動とは異なり、病的な状態として捉え、適切な対応が必要です。
遺伝的要因
- 家族歴: 血縁者(両親、兄弟姉妹、祖父母など)に糖尿病の人がいる場合、糖尿病を発症しやすい体質を受け継いでいる可能性があります。特に二親等以内の血縁者に糖尿病患者がいる場合はリスクが高いと言えます。
- 特定の遺伝子: 1型、2型ともに特定の遺伝子が発症に関与することが分かっていますが、これは個人の努力で変えられるものではありません。遺伝的な素因はあくまで「なりやすさ」を示すものです。
生活習慣(肥満、運動不足、食生活など)
- 肥満・過体重: 特に内臓脂肪の蓄積はインスリン抵抗性を高めます。BMIが25kg/m²以上、または腹囲が基準値(男性85cm、女性90cm)以上である場合はリスクが高まります。
- 運動不足: 定期的な運動習慣がない人は、筋肉での糖利用が低下し、インスリン抵抗性が高まります。
- 不適切な食生活: 高カロリー、高脂肪、高糖質の食事、不規則な食事時間、早食いなどは、血糖値のコントロールを乱し、膵臓に負担をかけます。
- 喫煙: 喫煙は血管を傷つけ、インスリン抵抗性を高める作用があると考えられています。
- 過度な飲酒: 大量のアルコール摂取は、血糖値のコントロールを乱したり、肝臓の機能に影響したりすることがあります。また、アルコール自体にカロリーがあり、おつまみも含めてカロリー過多になりやすい点もリスクです。
その他のリスク要因(妊娠糖尿病の既往、特定の薬剤など)
- 加齢: 年齢を重ねるにつれて、インスリン分泌能や感受性が低下する傾向があります。
- 妊娠糖尿病の既往: 妊娠中に血糖値が高くなった「妊娠糖尿病」を経験した女性は、出産後に血糖値が正常に戻っても、将来的に2型糖尿病を発症するリスクが高いことが分かっています。
- 境界型糖尿病(糖尿病予備群): 健康診断などで空腹時血糖値や食後血糖値が正常値より高いが、糖尿病の診断基準には満たない状態を指します。この状態は、将来の糖尿病発症リスクが非常に高い状態です。
- 特定の薬剤の使用: ステロイド薬や一部の精神疾患治療薬などは、血糖値を上昇させる副作用を持つ場合があります。
- 特定の疾患: 多嚢胞性卵巣症候群、睡眠時無呼吸症候群、膵臓の病気なども糖尿病リスクを高める可能性があります。
- 高血圧・脂質異常症: これらの疾患は、インスリン抵抗性と関連が深く、合併している場合は糖尿病リスクがさらに高まります。
これらのリスク要因をチェックリストのように確認してみましょう。
当てはまる項目が多いほど、糖尿病になる可能性は高まります。
リスク要因 | 説明 | あなたは?(自己チェック) |
---|---|---|
遺伝的要因 | 血縁者に糖尿病の人がいる | □ はい □ いいえ |
肥満・過体重 | BMIが25以上である、または腹囲が大きい | □ はい □ いいえ |
運動不足 | 普段あまり体を動かさない | □ はい □ いいえ |
不適切な食生活 | 高カロリー・高脂肪・高糖質の食事が多い、早食い、食事時間が不規則 | □ はい □ いいえ |
喫煙習慣 | 現在喫煙している | □ はい □ いいえ |
過度な飲酒 | 毎日大量にお酒を飲む | □ はい □ いいえ |
加齢 | 高齢である | □ はい □ いいえ |
妊娠糖尿病の既往 | 妊娠中に糖尿病と診断されたことがある(女性) | □ はい □ いいえ |
境界型糖尿病 | 以前、糖尿病予備群と診断されたことがある | □ はい □ いいえ |
特定の薬剤使用 | 血糖値を上げる可能性のある薬を服用している | □ はい □ いいえ |
特定の疾患がある | 高血圧、脂質異常症、多嚢胞性卵巣症候群などの持病がある | □ はい □ いいえ |
ストレス/睡眠不足 | 慢性的なストレスを抱えている、または睡眠不足が続いている | □ はい □ いいえ |
※このチェックリストはあくまで目安です。
正確な診断は医療機関で行われます。
ご自身に当てはまるリスク要因がある場合は、後述する予防・対策について意識することがより重要になります。
糖尿病の、特に患者数の多い2型糖尿病の原因が、遺伝的な素因に加えて生活習慣が大きく関わっていることを理解すれば、私たち自身でできる予防や対策があることが分かります。
原因に対処することが、糖尿病の発症を防いだり、すでに発症している場合の進行を遅らせたり、合併症を防いだりすることにつながります。
最も効果的な予防・対策は、健康的な生活習慣を実践することです。
- 適正体重の維持: 肥満、特に内臓脂肪を減らすことが、インスリン抵抗性を改善する上で非常に重要です。
現在の体重が過多であれば、まず3~5%の減量を目指すだけでも、インスリンの効きが良くなることが期待できます。 - バランスの取れた食事:
- 摂取カロリーを適正にする。
- 食物繊維を豊富に含む野菜、きのこ、海藻、未精製の穀物(玄米、全粒粉パンなど)を積極的に摂る。食物繊維は糖の吸収を穏やかにし、食後血糖値の急激な上昇を抑えます。
- 脂肪、特に動物性脂肪や加工食品に含まれる飽和脂肪酸の摂取を控える。代わりに魚や植物油に含まれる不飽和脂肪酸を選びましょう。
- 砂糖が多く含まれる清涼飲料水やお菓子、ジュースなどの摂取を減らす。
- 規則正しい時間に、よく噛んでゆっくり食べる。
- 適度な運動の継続:
- ウォーキング、ジョギング、水泳などの有酸素運動を、可能であれば毎日30分以上行うことを目指しましょう。難しければ、合計で週150分以上でも効果があります。
- スクワットや腕立て伏せなどの筋力トレーニングも、筋肉量を増やしインスリン抵抗性を改善するのに役立ちます。週2~3回行うのが理想的です。
- 日常生活の中で、階段を使う、一駅歩く、など、活動量を増やす工夫も大切です。
- 禁煙: 喫煙は血管に悪影響を与え、糖尿病だけでなく様々な生活習慣病のリスクを高めます。禁煙は糖尿病予防・改善に必須です。
- 節酒: アルコールは適量であれば問題ない場合もありますが、過度な飲酒は血糖コントロールを乱し、肝臓への負担も増えます。飲酒量が多い場合は減らすようにしましょう。
- 十分な睡眠とストレス管理: 質の良い睡眠を確保し、自分に合った方法でストレスを解消することも、血糖コントロールを整える上で重要です。
これらの生活習慣の改善は、糖尿病の予防だけでなく、すでに発症している場合の病状の改善や、高血圧、脂質異常症、心血管疾患などの他の生活習慣病の予防・改善にもつながります。
また、ご自身にリスク要因が多いと感じる方、特に家族に糖尿病患者がいる方や、健康診断で血糖値が高めを指摘された方は、定期的に健康診断や人間ドックを受け、ご自身の血糖値を把握しておくことが早期発見のために非常に重要です。
境界型糖尿病の段階で発見できれば、積極的に生活習慣を改善することで、糖尿病の発症を食い止めることができる可能性があります。
この記事では、糖尿病の原因について詳しく解説しましたが、個々のケースで原因や状況は異なります。
ご自身の健康状態や、健康診断の結果について不安や疑問がある場合は、専門家である医師に相談することが最も適切で確実な方法です。
- 健康診断で血糖値やHbA1cの値が高いと指摘された。
- 家族に糖尿病の人がいて、自分も心配だ。
- 最近、体重が増えてきた、運動不足が続いている。
- のどの渇き、頻尿、疲れやすいなどの糖尿病かもしれない症状がある。
- どのような生活習慣を改善すれば良いか、具体的なアドバイスが欲しい。
このような場合は、かかりつけ医や内科の医師に相談してみましょう。
必要に応じて、糖尿病専門医を紹介してもらうこともできます。
医師はあなたの現在の状態を詳しく調べ、適切な診断を行い、一人ひとりに合った予防法や治療法について具体的なアドバイスをしてくれます。
自己判断せず、まずは専門家の意見を聞くことが、健康を守るための第一歩です。
本記事で提供する情報は、糖尿病の原因に関する一般的な知識の提供を目的としており、医学的な診断や治療に関するアドバイスではありません。
個人の健康状態に関するご質問やご相談については、必ず医療機関を受診し、医師の判断を仰いでください。
本記事の情報に基づいて行った行為によって生じたいかなる結果についても、当方は一切の責任を負いかねますのでご了承ください。