糖尿病のインスリン注射|なぜ必要?正しい打ち方・副作用を解説
糖尿病の治療を始められた方にとって、「インスリン注射が必要」と告げられることは、少なからず不安を感じる瞬間かもしれません。「痛くないの?」「毎日打たなきゃいけないの?」「費用はいくらくらいかかるの?」など、様々な疑問が頭をよぎることでしょう。しかし、インスリン注射は、適切に血糖値をコントロールし、糖尿病合併症を防ぐために非常に重要な治療法です。このインスリン注射について、その役割から具体的な打ち方、費用、副作用、そしてよくある疑問まで、初心者の方にも分かりやすく解説します。この記事を読んで、インスリン注射への正しい理解を深め、安心して治療に取り組んでいただければ幸いです。
インスリン注射とは?糖尿病治療における役割
私たちの体には、血糖値を調整する働きを持つ「インスリン」というホルモンがあります。インスリンは、膵臓から分泌され、血液中のブドウ糖(血糖)を体の様々な細胞に取り込ませることで、血糖値を下げる役割を担っています。食事をすると血糖値は上がりますが、健康な体であればインスリンが分泌され、血糖値を正常な範囲に戻してくれます。
糖尿病は、このインスリンの働きが不足したり、十分に作用しなくなったりすることで、血糖値が高い状態が続いてしまう病気です。高血糖の状態が長く続くと、血管や神経が傷つき、目や腎臓、神経などに様々な合併症を引き起こすリスクが高まります。
インスリン注射は、このように体内で不足したり、働きが悪くなったインスリンを、体外から補う治療法です。注射によって適切な量のインスリンを体に入れることで、食後や普段の血糖値の上昇を抑え、血糖値を目標範囲に近づけることができます。これにより、高血糖による血管や神経へのダメージを軽減し、将来的な糖尿病合併症の発症や進行を予防・遅延させることが、インスリン注射による治療の最も重要な目的となります。インスリン注射は、糖尿病と共に健康的な生活を維持していくための、強力な味方と言えるでしょう。
なぜインスリン注射が必要?適応となる対象者・血糖値
糖尿病の治療法は、病状やタイプによって様々です。食事療法、運動療法、飲み薬による治療などがありますが、これらだけでは血糖コントロールが難しくなった場合に、インスリン注射が必要となることがあります。
インスリン注射が適応となる主な対象者は以下の通りです。
- 1型糖尿病の方: 1型糖尿病は、膵臓のβ細胞が自己免疫などによって破壊され、インスリンがほとんど、または全く分泌されなくなる病気です。生命を維持するために、外部からインスリンを補うことが必須となります。
- 進行した2型糖尿病の方: 2型糖尿病は、インスリンの分泌量が不足したり(インスリン分泌不全)、インスリンが効きにくくなったり(インスリン抵抗性)することで起こります。飲み薬やGLP-1受容体作動薬などによる治療だけでは血糖コントロールが不十分な場合、インスリン分泌機能が著しく低下している場合などにインスリン注射が開始されます。
- 妊娠糖尿病の方: 妊娠中に発症する糖尿病で、食事・運動療法だけでは血糖コントロールができない場合、胎児への影響を考慮してインスリン注射が選択されることがあります。インスリンは胎盤を通過しないため、妊娠中でも比較的安全に使用できる治療法です。
- シックデイ(体調不良時)や手術など、一時的に血糖コントロールが悪化した場合: 風邪や感染症などで体調を崩した際(シックデイ)や、手術前後などは、体のストレス反応で血糖値が急激に上昇することがあります。このような一時的な高血糖に対して、血糖値を速やかに下げるためにインスリン注射が使われることがあります。
- 特定の薬(ステロイドなど)の使用により血糖値が上昇した場合: ステロイド剤などの特定の薬は、副作用として血糖値を上昇させることがあります。このような場合にも、インスリン注射で血糖コントロールを行うことがあります。
インスリン注射が必要な血糖値は?(HbA1cの目安)
インスリン注射を開始する血糖値の目安は、患者さんの年齢、糖尿病の罹病期間、合併症の有無、全身状態、治療目標などによって個別に判断されます。一概に「この数値になったら必ず注射」という明確な基準があるわけではありません。
しかし、一般的に、経口糖尿病薬による治療を最大限に行っても、血糖コントロール目標(多くの場合はHbA1c 7.0%未満)を達成できない場合に、インスリン注射の開始が検討されます。特に、HbA1cが8.0%を超えるような高血糖が続く場合や、食後血糖値が非常に高い場合、あるいは、膵臓のインスリン分泌能力を示す指標(例:C-ペプチド)が著しく低い場合などは、インスリン注射が必要となる可能性が高くなります。
HbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)は、過去1~2ヶ月の平均的な血糖値を示す指標であり、糖尿病の診断や治療効果の判定に非常に重要です。HbA1cの値が高いほど、高血糖の状態が長く続いていることを意味し、合併症のリスクも高まります。医師はHbA1cの値や他の血糖値データ、そして患者さんの体の状態を総合的に評価して、インスリン療法の必要性を判断します。
重要なのは、数値だけで自己判断せず、必ず医師と相談し、自身の病状に最適な治療法を選択することです。
1型糖尿病と2型糖尿病でのインスリン療法の違い
インスリン療法は、1型糖尿病と2型糖尿病ではそのアプローチに違いがあります。
1型糖尿病
1型糖尿病では、膵臓のβ細胞が破壊され、インスリンが体内でほとんど分泌されません。そのため、体が必要とするインスリンの基礎分泌(空腹時や食間、夜間など、常に少量分泌されているインスリン)と、追加分泌(食事をしたときに血糖値が上昇するのに応じて分泌されるインスリン)の両方を、注射によって補う必要があります。このため、通常は持効型インスリン(基礎分泌を補う)と、超速効型または速効型インスリン(追加分泌を補う)を組み合わせて使用する「強化インスリン療法」が基本となります。これは、健康な人のインスリン分泌パターンを模倣することを目的としており、1日に複数回(通常4回以上)の注射が必要となります。
2型糖尿病
2型糖尿病では、インスリン分泌能力が残っている場合が多いですが、それが不足したり、インスリンが効きにくくなったりしています。インスリン療法を開始する段階では、まず基礎分泌を補う目的で持効型インスリンを1日1回注射する「BOT療法(Basal Supported Oral Therapy)」から始めることが一般的です。これは、飲み薬など他の治療を続けながら、不足した基礎インスリンだけを補う方法です。BOT療法だけでは血糖コントロールが不十分な場合、食後の血糖上昇を抑えるために、超速効型または速効型インスリンを食事に合わせて追加する治療法へステップアップすることがあります。病状が進み、インスリン分泌がさらに低下した場合には、1型糖尿病と同様に強化インスリン療法が必要となることもあります。2型糖尿病におけるインスリン療法は、患者さんの病状やライフスタイルに合わせて、より柔軟な形で導入されることが多いです。
項目 | 1型糖尿病 | 2型糖尿病(進行期など) |
---|---|---|
インスリン分泌 | ほとんどない | 不足している、または働きが悪い |
治療の目的 | 生命維持と血糖コントロールによる合併症予防 | 血糖コントロール目標達成による合併症予防(他の治療と併用) |
インスリンの種類 | 基礎インスリン(持効型)+追加インスリン(超速効型など) | 基礎インスリン(持効型)から開始、必要に応じて追加インスリン |
注射回数 | 1日複数回(強化インスリン療法が基本) | 1日1回(BOT療法)から開始、複数回になる場合も |
治療の継続 | 基本的に生涯必要 | 病状改善により減量・中止できる場合もある |
このように、同じインスリン療法でも、糖尿病のタイプによって治療の目的や方法、注射回数などが異なります。
インスリン注射の種類と特徴
インスリン注射に使用されるインスリン製剤には、その効果が現れるまでの時間(作用発現時間)や効果が持続する時間(作用持続時間)によって、いくつかの種類があります。これらの特性を理解することは、適切なタイミングでインスリンを注射するために非常に重要です。
ペン型インスリン注射について
現在、インスリン注射の主流となっているのは、ペン型注射器(インスリンペン)です。従来のシリンジ(注射筒と一体になったタイプ)に比べて、より手軽で使いやすく、携帯にも便利なように工夫されています。
ペン型注射器の主な特徴は以下の通りです。
- 簡便性: インスリン製剤があらかじめ充填またはセットされており、ダイヤルを回して必要な単位数をセットするだけで注射できます。手技が簡単で、特に自己注射を行う患者さんにとって扱いやすくなっています。
- 正確性: ダイヤルで正確な単位数をセットできるため、量の間違いを防ぎやすくなっています。
- 携帯性: コンパクトで持ち運びやすいため、外出先や職場など、様々な場所で注射を行うことができます。
- 種類:
- カートリッジ交換型: 本体にインスリンの入ったカートリッジをセットして使用し、カートリッジがなくなったら交換するタイプです。繰り返し使用できるため、環境負荷が少ないという利点があります。
- 使い捨て型(プレフィルド型): インスリン製剤があらかじめ本体に充填されており、インスリンを使い切ったら本体ごと廃棄するタイプです。交換の手間がなく、より手軽に扱えます。
- 針: 注射器の先端に付ける針は使い捨てで、使用ごとに新しいものに交換します。針は非常に細く短くなっており、痛みを軽減する工夫がされています。針の長さや太さにも種類があり、注射部位や体格に合わせて適切なものが選択されます。
ペン型注射器は、患者さんがより安全かつ容易にインスリン自己注射を行えるよう、日々改良が進められています。初めて使用する際には、必ず医療スタッフから正しい使い方についての指導を受けることが重要です。
インスリンの種類(速効型、持効型など)と作用時間
インスリン製剤は、作用特性によって主に以下の種類に分類されます。
種類 | 特徴 | 作用発現時間*¹ | ピーク時間*¹ | 作用持続時間*¹ | 注射のタイミング(一般的な例) |
---|---|---|---|---|---|
超速効型 | 食事による血糖上昇に素早く対応。インスリン分泌の追加分泌を補う。 | 5~15分 | 0.5~1.5時間 | 3~5時間 | 食事の直前(5~15分前) |
速効型 | 超速効型よりもゆっくり効き始める。インスリン分泌の追加分泌を補う。 | 30分~1時間 | 1~3時間 | 5~8時間 | 食事の30分前 |
混合型 | 超速効型または速効型インスリンと中間型インスリンをあらかじめ混合したもの。基礎分泌と追加分泌を補う。 | 10~30分 | 1~8時間 | 18~24時間 | 1日1~2回、食事の前に注射 |
中間型 | 基礎分泌を補う。1日1~2回の注射で効果が持続。 | 1~3時間 | 6~12時間 | 18~24時間 | 1日1~2回、朝食前や就寝前に注射 |
持効型 | ピークがなく、ほぼ一日中安定した効果が持続。インスリン分泌の基礎分泌を補う。 | 1~2時間 | ピークなし | 24時間以上 | 1日1回、時間を決めて注射 |
*¹ 作用時間には個人差があり、注射部位や量、体調などによっても変動します。上記の時間は目安です。
- 超速効型・速効型: 主に食後の血糖上昇を抑えるために使用され、食事の直前や前に注射します。食後の高血糖が気になる場合に有効です。
- 中間型・持効型: 主に基礎インスリンの分泌を補うために使用され、空腹時や夜間の血糖値を安定させる目的で、1日1回または2回注射します。持効型インスリンはピークがないため、低血糖のリスクが比較的低いとされています。
- 混合型: 基礎インスリンと追加インスリンの両方を1回の注射で補うことができ、注射回数を減らしたい場合に用いられることがあります。
どの種類のインスリンを使用し、どのような組み合わせで、1日に何回注射するかは、患者さんの病状、血糖コントロールの状態、ライフスタイルなどを考慮して、医師が決定します。治療を開始する際には、ご自身の使用しているインスリンの種類と、その作用特性、注射のタイミングについてしっかりと理解しておくことが重要です。
インスリン注射の正しい打ち方・場所・手順
インスリン自己注射は、正しい方法で行うことが、効果を最大限に引き出し、合併症や痛みを避けるために非常に重要です。初めて自己注射を行う際には、必ず医療機関で看護師や薬剤師から直接指導を受けましょう。ここでは、一般的なインスリン注射の打ち方について解説します。
インスリン注射を打つ場所(部位)
インスリンは、皮下脂肪の層に注射するのが基本です。筋肉内や血管内に注射すると、インスリンの吸収が不安定になったり、低血糖を引き起こしたりする危険性があります。
インスリン注射の主な部位は以下の4箇所です。
- お腹(腹部): へそを中心にして、約2cm(指2本分)以上離れた周囲が適しています。この部位は皮下脂肪が多く、インスリンの吸収速度が比較的安定しており、自己注射もしやすいため、最も一般的に推奨される部位です。
- 太もも: 付け根から膝までの外側が適しています。インスリンの吸収速度は腹部よりやや遅くなります。衣服の上からでも打ちやすい場合もあります。
- 腕: 肩から肘までの外側(二の腕の外側)が適しています。自分で注射する場合は利き手と反対側の腕に打つことが多いですが、腕は皮下脂肪が薄いことがあり、筋肉に近くならないように注意が必要です。
- お尻: お尻の上外側が適しています。この部位は皮下脂肪が厚く、吸収が比較的遅く安定しています。自分で打つのが難しい場合もありますが、夜間など持効型インスリンの注射に適している場合があります。
【重要】注射部位のローテーション
同じ場所に続けて注射すると、その部位の皮下脂肪が硬くなったり盛り上がったり(脂肪肥厚、リポジストロフィー)することがあります。脂肪肥厚した場所に注射すると、インスリンの吸収が悪くなり、血糖コントロールが不安定になる原因となります。これを防ぐために、注射部位を毎回少しずつずらしたり、複数の部位を日替わりで使ったりする「ローテーション」を行うことが非常に重要です。例えば、今日は腹部の右上に打ったら、明日は腹部の左上、明後日は腹部の右下、その次は腹部の左下、といったように、お腹のエリアをさらにいくつかの区画に分けてローテーションしたり、腹部、太もも、腕、お尻といった大きな部位ごとにローテーションしたりします。
インスリン注射の具体的な打ち方(手順)
ペン型インスリン注射器を使った、一般的な注射の手順です。使用するペン型注射器の種類によって若干異なる場合がありますので、必ず医療機関での指導内容を確認してください。
- 準備:
- 清潔な場所にペン型注射器、新しい注射針、消毒用アルコール綿(必要な場合)、使用済み針入れ(セーフティーボックス)を用意します。
- 石鹸で手をきれいに洗います。
- インスリン製剤の種類(超速効型、持効型など)や濃度、有効期限を確認します。濁っているインスリン(中間型や混合型など)の場合は、指示通りにペンをゆっくりと振って十分に混ぜ合わせます。透明なインスリン(超速効型、速効型、持効型など)は混ぜる必要はありません。
- 注射針の装着:
- 新しい注射針の保護シールを剥がし、ペン型注射器の先端にまっすぐねじ込みます。カチッと音がするか、しっかりと固定されるまで回します。
- 外側のキャップと内側のキャップを外します。内側のキャップは細いので、誤って針を刺さないように注意してください。
- 空打ち(安全性確認):
- 毎回、新しい針に交換したら、注射の前に「空打ち」を行います。ダイヤルを回して指示された単位数(通常2単位)をセットします。
- 針先を上に向け、指で軽くはじいたり、ペンをトントン叩いたりして、インスリン製剤の中に気泡があれば上部に集めます。
- ダイヤルを親指でゆっくり押し込み、インスリン液が針先から出るのを確認します。もし出ない場合は、針が詰まっているか、正しく装着されていない可能性があります。もう一度空打ちを試すか、新しい針に交換してやり直してください。空打ちは、針が通っていることと、インスリンが正しく注入できることを確認するために非常に重要です。
- 単位数の設定:
- 空打ちが終わったら、注射する単位数をダイヤルで正確にセットします。設定した単位数が窓に表示されていることを確認します。
- 注射部位の消毒(必要な場合):
- 注射する部位を決めます。アルコール綿で消毒する場合は、アルコールが完全に乾いてから注射してください。アルコールが乾く前に刺すと、痛みを感じやすくなることがあります。消毒は必須ではありませんが、医療機関の指示に従ってください。
- 皮膚をつまむ(必要な場合):
- 使用する針の長さや注射部位、体格によっては、皮膚と皮下脂肪を軽くつまんで厚みを持たせてから注射する場合があります(スキンフォールド)。特に皮下脂肪が薄い方や、針が長い場合につまむことが推奨されます。つまむかどうかは医療機関の指導に従ってください。
- 注射:
- セットした単位数を確認し、針を皮膚に対して垂直に(または指示された角度で)まっすぐ刺します。
- 親指でダイヤルを最後まで押し込み、インスリンを注入します。注入中はダイヤルがゼロに戻っていくのを確認してください。
- 待つ:
- ダイヤルがゼロに戻っても、すぐに針を抜かず、指示された時間(通常5秒から10秒程度)そのまま待ちます。これは、注入したインスリンが皮下組織にしっかり広がり、液だれを防ぐためです。特に多量のインスリンを打つ場合は、少し長めに待つ必要があることもあります。
- 抜針:
- 指示された時間待ったら、針を刺した角度のまままっすぐ抜きます。皮膚をつまんでいた場合は、針を抜いてから指を離します。
- 後処理:
- 抜いた注射針は、リキャップ(一度外したキャップを戻すこと)せずに、専用の使用済み針入れ(セーフティーボックスなど)に安全に廃棄します。使用済みの針は感染の危険があるため、絶対に素手で扱わないでください。針を外したら、ペン本体のキャップを閉めて保管します。
これらの手順を正しく行うことが、安全で効果的なインスリン自己注射につながります。不明な点があれば、必ず医師や看護師、薬剤師に確認しましょう。
インスリン注射は痛い?痛みを軽減する方法
「インスリン注射は痛そう…」と感じる方は多いかもしれません。しかし、現在のインスリン注射針は、昔に比べて格段に細く短くなっており、ほとんど痛みを感じない、あるいは蚊に刺された程度の痛みだという方が増えています。
痛みをさらに軽減するための工夫がいくつかあります。
- 極細の短い針を使う: 現在は34G(ゲージ、針の太さを示す単位で、数字が大きいほど細い)といった非常に細い針や、長さが4mmといった短い針が主流になっています。これらの針は痛覚神経の少ない皮下組織に届きやすく、痛みを軽減するのに役立ちます。
- 注射部位をローテーションする: 上記で述べたように、同じ場所に繰り返し打つと皮膚が硬くなり、痛みや内出血、インスリンの吸収不良の原因になります。常に異なる場所に打つように心がけましょう。
- 注射部位をリラックスさせる: 筋肉が緊張していると痛みを感じやすくなります。注射する部位の力を抜いて、リラックスした状態で行いましょう。
- アルコールが乾いてから注射する: アルコール消毒を行う場合、アルコールが完全に蒸発する前に注射すると、アルコールが皮膚の傷に入り込んでしみるような痛みを感じることがあります。焦らず、アルコールが乾くのを待ってから注射しましょう。
- 冷蔵庫から出したてをすぐに打たない: 冷えたインスリン液をそのまま注射すると、痛みを感じやすいことがあります。冷蔵庫から出してすぐの場合は、少し常温に戻してから使用すると痛みが軽減されることがあります。ただし、使用開始後のインスリンは常温保管が推奨されますので、その場合はこの限りではありません。
- 精神的な準備: 注射に対する不安や緊張は、痛みを強く感じさせる可能性があります。「大丈夫」「痛くないはず」と自分に言い聞かせたり、深呼吸したりして、リラックスして臨むことも大切です。
これらの工夫を試しても痛みが強い場合や、注射部位が赤く腫れたり硬くなったりした場合は、医療スタッフに相談してください。使用している針の種類や注射の手技を見直すことで改善されることがあります。
インスリン注射にかかる費用と医療費助成
インスリン注射を続ける上で、気になることの一つに費用があります。インスリン製剤は薬剤の種類や使用量、自己負担割合(保険診療の場合1割、2割、3割)によって異なりますが、ある程度の費用がかかります。
インスリン注射 月いくら?自己負担額の目安
インスリン注射にかかる費用は、主に以下の要素で決まります。
- インスリン製剤の種類と使用量: 作用時間や濃度が異なる様々な種類のインスリン製剤があり、それぞれ薬価が異なります。また、必要な単位数は患者さんの病状や血糖コントロール目標によって大きく異なるため、使用量が多いほど薬剤費は高くなります。
- 注射針や穿刺器具などの消耗品: インスリン注射針は使い捨てであり、毎日複数回交換する必要があります。また、血糖測定のためのセンサーや試験紙、穿刺器具などの費用もかかります。
- 診察料や検査費用: 定期的な診察や血液検査、尿検査などの費用もかかります。
- 自己負担割合: 健康保険の種類や年齢、所得によって、医療費の自己負担割合が1割、2割、または3割となります。
これらの合計金額が、1ヶ月の医療費となります。例えば、1日あたりのインスリン使用量が比較的少ない場合でも、針やその他の消耗品、診察料などを合わせると、自己負担額は月数千円〜数万円程度になることが一般的です。特にインスリンの使用量が多い方や、複数の種類のインスリンを使用している方、自己血糖測定(SMBG)を頻繁に行っている方は、費用が高くなる傾向があります。
あくまで目安であり、個々のケースによって費用は大きく変動することを理解しておくことが重要です。具体的な費用については、主治医や医療機関の受付、またはかかりつけの薬局に相談して確認するのが最も確実です。
医療費控除や助成制度について
インスリン療法にかかる医療費は、経済的な負担となることがあります。しかし、糖尿病患者さんが利用できる医療費の負担を軽減するための制度がいくつかあります。
- 高額療養費制度: 同じ月内にかかった医療費の自己負担額が、年齢や所得に応じて定められた上限額を超えた場合、超えた分の金額が払い戻される制度です。インスリン注射や関連する医療費もこの制度の対象となります。事前に手続きをしておくと、医療機関の窓口での支払いを上限額までにとどめることも可能です。
- 医療費控除: 1年間(1月1日~12月31日)に支払った医療費が一定額(原則として10万円、または所得金額の5%のいずれか少ない方)を超えた場合、確定申告をすることで所得税の控除を受けられる制度です。インスリン製剤や注射針、血糖測定器の消耗品(センサー、試験紙など)の購入費用、通院のための交通費なども医療費控除の対象となります。領収書を保管しておくことが必要です。
- 身体障害者手帳(内部障害): 糖尿病によって、眼(網膜症)、腎臓(腎症)、神経(神経障害)、心臓、呼吸器などの合併症が進行し、一定の基準を満たすと、身体障害者手帳(内部障害)の交付対象となる場合があります。手帳を取得することで、医療費の助成(自治体による)、税金の減免、公共料金の割引、交通機関の割引など、様々な福祉サービスを受けることができる場合があります。
- 特定疾患医療費助成制度(難病医療費助成制度): 一部の非常に稀なタイプの糖尿病(遺伝子異常によるものなど)は、指定難病として医療費助成の対象となる場合があります。一般的な1型糖尿病や2型糖尿病は通常、この制度の対象外です。
- 自治体独自の医療費助成: 住んでいる市区町村によっては、独自の医療費助成制度を設けている場合があります。例えば、重度心身障害者向けの医療費助成などです。
これらの制度について、ご自身が対象となるかどうか、また具体的な手続き方法については、加入している健康保険組合や市区町村の窓口、または医療機関の相談窓口(医療ソーシャルワーカーなど)に問い合わせてみましょう。経済的な不安を抱え込まず、利用できる制度は積極的に活用することが大切です。
インスリン注射の副作用と注意点
インスリン注射は、適切に使用すれば安全で有効な治療法ですが、いくつかの副作用や注意すべき点があります。これらを理解し、適切に対処することが、治療を安全に継続するために重要です。
主な副作用(低血糖など)と対処法
インスリン注射の最も一般的な副作用は、低血糖です。インスリンの作用によって血糖値が下がりすぎた状態を指します。
低血糖の原因
インスリン注射による低血糖は、以下のような場合に起こりやすくなります。
- インスリンの注射量が多すぎた
- 食事量が少なかったり、食事の時間が遅れたりした
- 激しい運動をしたり、いつもより多く運動したりした
- アルコールを摂取した(特に空腹時や運動後)
- 体調不良(シックデイ)から回復してきたとき
- 特定の薬(一部の飲み薬など)と併用している場合
低血糖の症状
低血糖の症状は、血糖値が下がるにつれて段階的に現れます。初期症状に早く気づき、対処することが重要です。
- 初期症状(血糖値 70mg/dL以下を目安):
- 震え、動悸
- 冷や汗、顔面蒼白
- 強い空腹感
- 吐き気
- 脱力感、体がだるい
- 集中力の低下、生あくび
- 進行した症状(血糖値 50mg/dL以下を目安):
- 頭痛、めまい
- 目の前がかすむ、二重に見える
- 眠気、疲労感
- ろれつが回らない
- ふらつき、まっすぐ歩けない
- 落ち着きがなくなる、わけのわからない行動をとる
- 意識がぼんやりする
- 重症な症状(血糖値 30mg/dL以下を目安):
- 痙攣(けいれん)
- 意識を失う
低血糖が起きた場合の対処法
低血糖の症状を感じたら、速やかに糖分を摂取することが重要です。
- ブドウ糖を摂取する: 最も効果的で推奨されるのはブドウ糖です。ブドウ糖タブレット10g程度(製品による、約2~3粒)、またはブドウ糖を含む清涼飲料水(ジュースなど)150~200mLを摂取します。アメや砂糖でも代用できますが、ブドウ糖が最も速やかに血糖値を上昇させます。
- 15分待つ: 糖分を摂取した後、約15分待ちます。
- 血糖値を測定し、症状を確認する: 血糖測定器があれば血糖値を測り、症状が改善したか確認します。
- 症状が改善しない場合: まだ症状がある場合や血糖値が低い場合は、再度糖分を摂取し、さらに15分待ちます。これを症状が改善するまで繰り返します。
- 食事が近い場合: 症状が改善したら、食事が近い時間であれば食事を摂ります。食事がまだ時間がある場合は、血糖値が再び下がるのを防ぐために、軽食(炭水化物を含むもの、例:クラッカー、パンなど)を摂ると良いでしょう。
- 意識を失っている場合: 意識がない場合は、口の中に飲食物やブドウ糖タブレットなどを入れると窒息の危険があります。絶対に口に物を入れないでください。すぐに救急車を呼び、家族や周囲の人がいる場合は、あらかじめ医師から処方されているグルカゴン注射キットを使用してもらうなどの対応が必要です。
インスリン療法を行っている方は、常にブドウ糖や糖分を含む食品を携帯しておくことが非常に重要です。また、家族や職場の人など、周囲の人にも低血糖の症状と対処法を伝えておくと、万が一の際に助けてもらえる可能性があります。
その他の副作用
低血糖以外に起こりうる副作用には以下のようなものがあります。
- 注射部位の反応: 注射した場所が赤くなる、かゆみ、腫れ、硬くなる(脂肪肥厚)など。脂肪肥厚はインスリンの吸収不良の原因となるため、注射部位のローテーションで予防することが重要です。
- 体重増加: インスリンの作用により、摂取したブドウ糖が効率的に体内に取り込まれるようになるため、体重が増加しやすい傾向があります。適切な食事量と運動で体重管理を心がけることが大切です。
- アレルギー反応: まれですが、インスリン製剤や添加物に対してアレルギー反応(発疹、かゆみ、呼吸困難など)を起こすことがあります。重篤なアレルギー(アナフィラキシー)の場合は、速やかに医療機関を受診する必要があります。
- むくみ: インスリン療法開始初期に、一時的に体がむくむことがあります。
これらの副作用や体調の変化に気づいたら、自己判断せず、必ず医師や医療スタッフに相談してください。
インスリン注射による体重増加について
インスリン注射を開始すると、「体重が増える」という話を耳にすることがあります。これはインスリンの生理的な作用によるもので、副作用の一つと考えられています。
インスリンは、血液中のブドウ糖を体の細胞(筋肉や脂肪細胞など)に取り込ませて利用したり、エネルギーとして貯蔵したりする働きがあります。糖尿病でインスリンの働きが不十分な状態では、摂取したブドウ糖がうまく利用されずに血糖値が高いままになります。インスリン注射によってインスリンが適切に補われると、ブドウ糖が効率よく細胞に取り込まれるようになるため、エネルギーとして利用されなかった分が脂肪として蓄えられやすくなります。これが体重増加の主な理由です。
また、これまでは高血糖のために尿中にブドウ糖が排泄され、その分のカロリーが失われていた状態(尿糖)だったのが、インスリン療法によって血糖コントロールが改善すると尿糖が減少し、失われていたカロリーが体内に留まるようになることも、体重増加の一因となります。
インスリンによる体重増加は、適切なカロリー摂取と運動によって抑えることが可能です。食事療法や運動療法を継続し、適正な体重を維持することは、糖尿病治療全体の目標達成にも繋がります。もし体重増加が気になる場合は、食事内容や運動量について医師や管理栄養士に相談してみましょう。
打ち忘れや打ち間違いへの対応
インスリン注射は毎日適切な量を適切なタイミングで打つことが重要ですが、うっかり打ち忘れてしまったり、量の設定を間違えてしまったりすることもあるかもしれません。このような場合の対応は、使用しているインスリンの種類や、いつ・どれくらい忘れたか、またはどれくらい間違えたかによって異なります。
打ち忘れに気づいた場合
- 超速効型・速効型(食事の前に打つインスリン): 食事の前に打ち忘れて、食事が終わってから気づいた場合、基本的にその回は打たない方が良いことが多いです。食事後の高い血糖値を下げるために後から打つと、次の食事までの間に低血糖になるリスクが高まります。ただし、少量であれば医師の指示で打つ場合もあります。必ず事前に医師と相談し、打ち忘れた場合のルールを確認しておきましょう。
- 中間型・持効型(基礎インスリン): 1日1回または2回、時間を決めて打つインスリンです。打ち忘れに気づいたタイミングによって対応が異なります。すぐに気づいた場合は指示された量を打つことがありますが、大幅に時間が経ってから気づいた場合は、自己判断せず、必ず医師や看護師に連絡して指示を仰いでください。次の注射時間との間隔が短くなりすぎると、インスリンが重なって作用し、低血糖の危険性が高まります。
打ち間違い(過剰量、誤った種類のインスリンなど)
- インスリン量を間違えて多く打ってしまった: 必要量よりも多くインスリンを注射してしまった場合、重症な低血糖を引き起こす危険性が非常に高まります。速やかに医療機関(かかりつけ医や夜間・休日であれば救急外来)に連絡し、指示を仰いでください。自己判断で様子を見たりせず、すぐに専門家の助言を求めることが重要です。指示があるまで食事を摂る準備をする、ブドウ糖を確保するなど、低血糖に備えましょう。
- 誤った種類のインスリンを打ってしまった: 例えば、食事前に打つべき超速効型インスリンの代わりに、夜寝る前に打つ持効型インスリンを打ってしまったなど。これもインスリンの作用時間が本来意図したものと異なるため、血糖コントロールが不安定になったり、低血糖や高血糖のリスクが高まったりします。気づいた時点で速やかに医療機関に連絡し、指示を受けてください。
打ち忘れや打ち間違いは誰にでも起こり得ることです。重要なのは、気づいたときに慌てず、自己判断せずに、必ず医師や医療スタッフに相談することです。日頃から、打ち忘れや間違いを防ぐために、注射するタイミングを習慣づけたり、注射した時間を記録したりする工夫も有効です。
インスリン注射と糖尿病性ケトアシドーシス
糖尿病性ケトアシドーシスは、インスリンが極端に不足した状態が続くことで発生する、糖尿病の急性の重篤な合併症です。主に1型糖尿病の患者さんで、インスリン注射を中断したり、病気などでインスリン必要量が増加したにも関わらず増量しなかったりした場合に起こりやすいですが、2型糖尿病でも重症化した場合に起こることがあります。
インスリンが不足すると、体はエネルギー源としてブドウ糖を利用できなくなり、代わりに脂肪を分解してエネルギーを得ようとします。この脂肪分解の過程で「ケトン体」という物質が大量に作られ、血液中に蓄積します。ケトン体は酸性の物質であるため、血液が酸性に傾き(アシドーシス)、様々な臓器に悪影響を及ぼします。
糖尿病性ケトアシドーシスの主な症状
- 著しい高血糖(血糖値が非常に高くなる)
- 吐き気、嘔吐
- 激しい腹痛
- 呼吸が荒くなる、速くなる(クスマウル呼吸)
- アセトン臭のする息(甘酸っぱい果物のような臭い)
- 強い喉の渇き、多尿
- 脱水症状
- 全身の倦怠感
- 意識がもうろうとする、昏睡
これらの症状が現れた場合は、非常に危険な状態です。速やかに医療機関を受診するか、救急車を要請してください。適切なインスリン療法や輸液療法など、緊急の治療が必要です。
糖尿病性ケトアシドーシスは、インスリン注射を適切に行うこと、特に1型糖尿病の方が自己判断でインスリン注射を中断しないことで、ほとんどの場合予防できます。体調が悪いとき(シックデイ)なども、インスリン注射の量や食事について医師から具体的な指示を受けておくことが大切です。
インスリン注射は一生必要?不要になるケースもある?
「一度インスリン注射を始めたら、一生続けなければならないのか」という疑問や不安を持つ方は少なくありません。この問いに対する答えは、糖尿病のタイプや病状、そしてその後の治療の進捗によって異なります。
インスリンは一生打たなくてはいけないのですか?
1型糖尿病の場合:
1型糖尿病は、膵臓のβ細胞が破壊されてインスリンが体内でほとんど作られなくなる病気です。現在の医療では、β細胞の機能を回復させる方法は確立されていません。そのため、生命を維持し、血糖コントロールを適切に行うために、インスリン注射は基本的に生涯にわたって必要となります。
2型糖尿病の場合:
2型糖尿病は、インスリンの分泌不足や抵抗性によって起こります。病状は多様であり、治療段階や生活習慣の改善度合いによって、インスリン療法の必要性が変化する可能性があります。
- インスリン注射が一時的に必要な場合: シックデイや手術前後、妊娠糖尿病など、一時的な高血糖に対してインスリン注射を行う場合があります。これらのケースでは、原因が解消されればインスリン注射が不要になることが一般的です。
- インスリン注射を継続する必要がある場合: 2型糖尿病が進行し、膵臓のインスリン分泌能力が著しく低下してしまった場合や、経口薬など他の治療では血糖コントロールが維持できない場合は、インスリン注射を継続する必要があります。
- インスリン注射を中止・減量できる可能性がある場合: 2型糖尿病の初期段階や、インスリン分泌能力が比較的保たれている方で、インスリン療法を開始した場合でも、その後の食事療法や運動療法を徹底し、体重を減らすなど生活習慣を大幅に改善することで、血糖コントロールが良好になり、インスリンの量を減らしたり、注射を中止して飲み薬や食事療法のみに切り替えたりできる可能性があります。
インスリン治療を中止できる可能性について
2型糖尿病の患者さんにとって、インスリン治療の中止は一つの目標となるかもしれません。これは、主に以下のような場合に可能性が出てきます。
- 強力な生活習慣の改善: インスリン注射を開始した後、食事内容の見直し(適切なカロリー、バランスの良い食事)、定期的な運動の実施、体重管理(特に肥満がある場合)などを徹底的に行うことで、体全体のインスリンの効きやすさが改善したり、残存する膵臓のインスリン分泌能力がサポートされたりすることがあります。
- 血糖コントロールの安定: 上記の生活習慣の改善や、インスリン注射以外の糖尿病治療薬との併用などにより、血糖値が長期間にわたって目標範囲内で安定して推移するようになった場合、医師の判断でインスリンの量を減らしたり、最終的に注射を中止したりすることが検討されます。
- 病状の改善: 糖尿病の原因や病態によっては、一時的なインスリン抵抗性などが改善することで、インスリン必要量が減少したり不要になったりすることもあります。
ただし、インスリン治療を中止できるかどうかは、個々の患者さんの病状(膵臓のインスリン分泌能力がどの程度残っているかなど)に大きく左右されます。自己判断でインスリン注射を中止するのは非常に危険であり、リバウンドによる急激な高血糖や糖尿病性ケトアシドーシスを引き起こす可能性があります。インスリン治療の中止や減量を検討する際は、必ず主治医と十分に話し合い、指示に従って行うようにしてください。インスリン療法を続けることが、結果的に長期的な健康維持に繋がる場合も多いことを理解することが大切です。
インスリン注射に関するよくある質問(FAQ)
インシュリンの注射は1日何回くらいするのですか?
インスリン注射の回数は、使用するインスリンの種類や患者さんの病状、治療目標によって大きく異なります。
- 1型糖尿病の場合: 基礎インスリンと追加インスリンを組み合わせる強化インスリン療法が基本となるため、通常は1日に4回以上(持効型または中間型1回+超速効型または速効型を毎食前)注射します。
- 2型糖尿病の場合: 治療段階によって様々なパターンがあります。
- 基礎インスリン補充療法(BOT療法):持効型インスリンまたは中間型インスリンを1日1回注射します。これが最も少ない回数です。
- 混合型インスリン療法:混合型インスリンを1日1回または2回、食事前に注射します。
- 強化インスリン療法に近いパターン:基礎インスリンに加えて、食後の血糖が高い場合に超速効型や速効型を追加して注射します。1日に複数回注射することになります。
このように、インスリン注射の回数は1日1回から4回以上まで幅があります。医師が患者さんの病状やライフスタイルに最適な注射回数とタイミングを決定します。
インスリン注射と糖尿病の寿命について
「インスリン注射を始めると寿命が縮まるのではないか」といった誤解をしている方がいるかもしれませんが、これは間違いです。むしろ、インスリン注射は糖尿病を適切に管理し、合併症の発症や進行を防ぐことで、健康寿命を延ばすための非常に有効な治療法です。
糖尿病による寿命への影響は、高血糖の状態が長く続くことで引き起こされる様々な合併症(腎症、網膜症、神経障害、心筋梗塞、脳卒中など)によってもたらされます。インスリン注射を含む適切な血糖コントロールは、これらの合併症のリスクを低減し、QOL(生活の質)を維持・向上させるために不可欠です。
インスリン注射自体が直接寿命を縮めるわけではありません。正しくインスリン療法を行い、血糖値を目標範囲に保つことは、糖尿病と共に健やかに長く生きるために非常に重要なのです。
インスリン注射によるダイエット効果はありますか?
インスリン注射は、基本的にダイエットを目的とした治療ではありません。インスリンの作用により、摂取したブドウ糖が体内に取り込まれやすくなるため、むしろ適切にカロリーコントロールを行わないと体重が増加しやすい傾向にあります。
ただし、インスリン療法によって血糖コントロールが改善し、体の状態が良くなることで、食事療法や運動療法に取り組む意欲や体力が向上し、結果として健康的な体重管理に繋がることはあります。しかし、インスリン注射自体が脂肪を分解して体重を減らす効果を持つわけではありません。
安易な目的でインスリンを使用することは、低血糖などの重篤な副作用を引き起こす危険性があり、絶対に避けるべきです。ダイエット目的でインスリン注射を使用することは、医学的に推奨されません。
インスリン注射の保管方法
インスリン製剤は温度や光に影響を受けやすい薬剤です。正しい方法で保管することが、インスリンの品質を保ち、効果を維持するために非常に重要です。
- 使用前のインスリン: 冷蔵庫で保管してください(2℃~8℃)。ただし、凍結させないように注意が必要です。冷蔵庫の吹き出し口付近など、温度が低すぎる場所は避けましょう。凍結したインスリンは使用できません。
- 使用開始後のインスリン: 開封後やペンにセットしたインスリンは、製品によって異なりますが、通常は室温(1℃~30℃程度、製品の指示に従う)で保管します。冷蔵庫に戻す必要はありません。むしろ、冷えたまま使用すると痛みの原因になることがあります。使用開始後のインスリンには使用期限が設定されており(通常、開封後4週間程度)、期限を過ぎたものは残っていても廃棄してください。
- 保管場所: 直射日光や高温多湿を避け、安定した温度の場所に保管してください。車の中など、温度が極端に変化する場所での保管は避けてください。
- 持ち運び: 外出や旅行などで持ち運ぶ際は、直射日光や高温になる場所を避け、必要に応じて保冷バッグなどを利用しましょう。ただし、凍結は避けるように注意してください。
インスリン製剤の添付文書や、医療機関・薬局からの説明をよく確認し、それぞれの製剤に合った正しい方法で保管することが大切です。保管方法に不安がある場合は、薬剤師に相談しましょう。
まとめ:インスリン注射への正しい理解を深めましょう
インスリン注射は、糖尿病治療において非常に有効かつ重要な手段です。特に1型糖尿病の方にとっては生命維持に不可欠であり、進行した2型糖尿病の方にとっても、良好な血糖コントロールを達成し、将来的な合併症を防ぐために欠かせない治療法となり得ます。
初めてインスリン注射が必要と言われたときには、様々な疑問や不安を感じるかもしれませんが、現在のインスリンペンや極細の針は、自己注射をより簡単で痛みの少ないものにしています。また、インスリン注射に関する正しい知識を持つことで、低血糖などの副作用にも適切に対処できるようになります。
この記事では、インスリン注射の基本的な知識(役割、種類、打ち方、費用、副作用、保管方法など)について解説しました。インスリン注射は怖いものではなく、糖尿病と共に健康的な生活を送るための強力なツールです。
もし、インスリン注射について不安なことや分からないことがあれば、自己判断せず、必ず主治医や看護師、薬剤師などの医療スタッフに相談してください。専門家から正確な情報を得て、安心して治療に取り組むことが、糖尿病との付き合いにおいて最も大切です。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、個々の症状や病状に対する診断や治療方針を示すものではありません。インスリン療法の開始、種類や量の変更、中止などについては、必ず医師の指示に従ってください。