メトホルミンの主な副作用|下痢・吐き気や乳酸アシドーシスの注意点
糖尿病治療薬として広く使われているメトホルミンについて、「副作用が心配」「どんな症状が出るの?」と不安に思っている方もいるかもしれません。メトホルミンは適切に使用すれば安全性の高い薬ですが、いくつかの副作用が知られています。
この記事では、メトホルミンの主な副作用の種類、原因、発生頻度、そして万が一副作用が現れた場合の対処法や、服用する上で特に注意すべき点について、詳しく解説します。メトホルミンを正しく理解し、安心して治療に取り組むための一助となれば幸いです。
メトホルミンとは?主な効果と働き
メトホルミンは、2型糖尿病の治療薬として世界中で最も広く使用されている薬の一つです。血糖値を下げる働きがありますが、インスリンの分泌を直接促すのではなく、主に以下のメカニズムによって効果を発揮します。
- 肝臓での糖新生を抑制する: 肝臓で作られるブドウ糖の量を減らします。これがメトホルミンの最も重要な作用と考えられています。
- 筋肉でのブドウ糖の取り込みを促進する: 筋肉が血液中のブドウ糖を細胞内に取り込みやすくすることで、血糖値を下げます。
- 腸管からのブドウ糖吸収を遅らせる: 食事から摂取したブドウ糖が血液中に吸収される速度を緩やかにします。
これらの働きにより、メトホルミンは食後の急激な血糖値の上昇を抑え、HbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)を改善する効果が期待できます。また、他の糖尿病薬と比べて単独での低血糖リスクが低いこと、体重が増えにくいことなども特徴として挙げられます。
メトホルミンの主な副作用の種類
メトホルミンにはいくつかの副作用がありますが、その多くは比較的軽度で、体の慣れとともに軽減することが多いです。しかし、中には注意が必要な重篤な副作用も存在します。
よく見られる副作用(軽度)
メトホルミンで最も一般的に見られる副作用は、消化器系の症状です。これらは服用開始時や増量時に起こりやすく、継続的な服用で体が慣れてくるにつれて軽減することが多いとされています。
消化器症状(下痢、吐き気、腹痛、食欲不振)
メトホルミンを服用している方によく見られるのが、下痢、吐き気、お腹の張り(腹部膨満感)、腹痛、食欲不振といった消化器症状です。これらの症状は、メトホルミンが腸内でのブドウ糖の吸収を抑えたり、腸内細菌叢に影響を与えたりすることが原因と考えられています。
- 下痢: 特に多い症状です。服用開始から数日から数週間で現れることが多く、ひどい場合は日常生活に支障をきたすこともあります。
- 吐き気・嘔吐: 薬を飲んだ後にムカムカしたり、実際に吐いてしまったりすることがあります。
- 腹痛・腹部膨満感: お腹が張ったり、差し込むような痛みが現れたりします。
- 食欲不振: なんとなく食欲がわかない、という症状も見られます。
これらの症状は、薬を少量から開始し、徐々に量を増やしていく「少量漸増(しょうりょうぜんぞう)」によって軽減できることがあります。また、食事中または食直後に服用することで、症状が和らぐ場合があります。症状がひどい場合や続く場合は、自己判断で服用を中止せず、必ず医師や薬剤師に相談しましょう。薬の種類(徐放錠など)を変更したり、一時的に減量・中止したりといった対応が検討されます。
味覚異常
メトホルミンを服用している方の中には、「口の中に苦みを感じる」「金属のような味がする」といった味覚の変化を訴えることがあります。これも比較的軽度な副作用の一つです。原因は完全に解明されていませんが、体内の亜鉛バランスの変化などが関連している可能性が指摘されています。味覚異常も、服用を続けるうちに軽減することが多いとされていますが、食事を美味しく感じられなくなることで食欲不振につながる可能性もあります。気になる場合は医師に相談してみましょう。
注意すべき重篤な副作用
メトホルミンで最も注意すべき副作用は「乳酸アシドーシス」です。これは非常にまれですが、重篤な状態に至る可能性があるため、その初期症状やリスク因子を知っておくことが重要です。
乳酸アシドーシス
乳酸アシドーシスは、血液中の乳酸が異常に増加し、体が酸性に傾く状態です。メトホルミンは体内で乳酸が作られる量を増やしたり、乳酸が分解されるのを妨げたりする性質があるため、特定の条件下では乳酸アシドーシスを引き起こす可能性があります。
乳酸アシドーシスの初期症状とリスク因子
乳酸アシドーシスの初期症状は、吐き気、嘔吐、激しい腹痛、筋肉痛、過呼吸(速くて深い呼吸)、全身のだるさ、倦怠感など、風邪やインフルエンザのような非特異的な症状から始まることが多いです。進行すると、血圧低下、意識障害などの非常に危険な状態に陥る可能性があります。これらの症状は急激に悪化することがあるため、疑わしい場合は直ちに医療機関を受診することが極めて重要です。
乳酸アシドーシスを発症しやすい「リスク因子」としては、以下のような状態が挙げられます。
- 腎機能障害: メトホルミンは主に腎臓から排泄されます。腎臓の働きが悪いと、メトホルミンが体内に蓄積しやすくなり、乳酸アシドーシスのリスクが高まります。そのため、メトホルミンを服用する前や服用中は、定期的に腎機能の検査が必要です。
- 肝機能障害: 乳酸は主に肝臓で代謝されます。肝臓の働きが悪いと乳酸が分解されにくくなり、乳酸アシドーシスのリスクが高まります。
- 脱水: 下痢、嘔吐、発熱、十分な水分摂取ができない状況(食事量が少ないなど)は脱水を招き、腎血流量が低下してメトホルミンの排泄が悪くなる可能性があります。
- 心血管系、肺機能に重篤な障害: 心不全や呼吸不全などにより、体内の酸素供給が不十分な状態(組織への酸素供給が低下)では、乳酸が産生されやすくなり、乳酸アシドーシスのリスクが高まります。
- 過度の飲酒: アルコールも肝臓での乳酸代謝に影響を与えるため、メトホルミン服用中の過度の飲酒はリスクを高めます。
- 手術前後: 手術による体のストレスや、一時的な食事・水分制限により、脱水や腎機能への影響、組織への酸素供給不足などが起こりやすい状況です。
- 造影剤を使用した検査前後: 一部の造影剤は腎臓に負担をかける可能性があるため、メトホルミンとの併用には注意が必要です。検査の内容によっては、一時的にメトホルミンの服用を中止する必要があります。
乳酸アシドーシスを避けるための注意点
乳酸アシドーシスはまれな副作用ですが、リスク因子を持つ方は特に注意が必要です。以下の点に注意して服用することで、リスクを最小限に抑えることができます。
- 腎機能の定期的なチェック: 医師の指示に従い、定期的に腎機能(eGFRなど)の検査を受けましょう。
- 脱水に注意: 下痢、嘔吐、発熱時や、激しい運動、暑い環境などでは、意識的に水分を十分に摂取しましょう。食欲がない時も、水分摂取は心がけましょう。
- 過度の飲酒を避ける: 特に空腹時の大量飲酒は危険です。
- 医師への情報提供: 他の病気がある場合、新しく薬を飲み始めた場合、サプリメントや健康食品を利用している場合などは、必ず医師や薬剤師に伝えましょう。
- 検査や手術前の対応: 造影剤を使った検査や手術を受ける予定がある場合は、必ず事前にメトホルミンを服用していることを伝え、医師の指示に従って一時的に服用を中止するなどの対応を取りましょう。
- 体調の変化に注意: 前述の乳酸アシドーシスの初期症状(吐き気、嘔吐、激しい腹痛、筋肉痛、過呼吸など)が認められた場合は、自己判断せず、すぐに医療機関を受診しましょう。
これらの注意点を守り、医師や薬剤師と密に連携を取ることが、メトホルミンを安全に服用する上で最も重要です。
低血糖(他の糖尿病薬との併用時)
メトホルミン単独での服用では、通常は重度の低血糖を起こすリスクは低いとされています。しかし、インスリン注射やSU薬(スルホニル尿素薬)など、他の血糖降下作用を持つ薬剤と併用する場合、低血糖を起こすリスクが高まることがあります。
低血糖の症状としては、冷や汗、手の震え、動悸、強い空腹感、力が入らない、集中力の低下、生あくびなどがあります。さらに進行すると、意識がもうろうとしたり、けいれんが起きたりすることもあります。これらの症状が現れた場合は、速やかにブドウ糖や砂糖を含む飲み物・食べ物(ジュース、飴など)を摂取して対処する必要があります。他の糖尿病薬と併用している場合は、低血糖のリスクや対処法について、あらかじめ医師や薬剤師から十分な説明を受けておくことが重要です。
肝機能障害、腎機能障害
メトホルミン自体が直接的に重篤な肝機能障害や腎機能障害を引き起こすことはまれですが、既にこれらの機能に障害がある場合は、メトホルミンの代謝や排泄が悪くなり、薬が体内に蓄積して副作用(特に乳酸アシドーシス)のリスクを高める可能性があります。
そのため、メトホルミンを服用する前や服用中は、定期的な血液検査で肝機能や腎機能の状態を確認することが重要です。検査結果に基づいて、医師がメトホルミンの量を調整したり、他の薬への変更を検討したりします。肝機能や腎機能が著しく低下している場合は、メトホルミンが禁忌(使用してはいけない)となることもあります。
ビタミンB12欠乏症
メトホルミンの長期服用により、ビタミンB12の吸収が妨げられることで、ビタミンB12欠乏症が起こる可能性があることが知られています。ビタミンB12は神経機能や赤血球の生成に重要なビタミンです。
ビタミンB12欠乏症の症状としては、貧血(巨赤芽球性貧血)、手足のしびれや感覚異常(末梢神経障害)、疲労感、記憶力低下、うつ症状などがあります。これらの症状はゆっくりと現れることが多いため、気づきにくい場合があります。
メトホルミンを長期間服用している場合や、貧血、神経系の症状などがある場合は、ビタミンB12の血中濃度を測定することが推奨されることがあります。ビタミンB12欠乏症が確認された場合は、ビタミンB12の補給(飲み薬や注射)によって改善することができます。特に、メトホルミンを服用していて貧血や神経系の症状が気になる方は、医師に相談してみましょう。
副作用が起こる原因とメカニズム
メトホルミンの副作用は、主に薬の作用メカニズムに関連して起こります。
- 消化器症状: 腸管でのブドウ糖吸収抑制や、腸内環境への影響が主な原因と考えられています。特に、メトホルミンの成分が腸内で高濃度になることで、浸透圧性の下痢を引き起こしたり、特定の腸内細菌の活動に影響を与えたりする可能性が指摘されています。
- 乳酸アシドーシス: メトホルミンは肝臓での乳酸からの糖新生を抑制する作用があります。これにより、体内の乳酸の利用が低下する方向に働きます。また、一部の研究では、メトホルミンが筋肉などでの乳酸産生をわずかに増加させる可能性も示唆されています。通常は肝臓や腎臓がこれらの乳酸を適切に処理するため問題になりませんが、腎機能障害などでメトホルミンの排泄が遅れたり、肝機能障害や酸素不足などで乳酸の代謝がうまくいかなくなったりすると、体内に乳酸が蓄積し、乳酸アシドーシスに至るリスクが高まります。
- ビタミンB12欠乏症: メトホルミンは、腸管でのビタミンB12の吸収に必要な「内因子」というタンパク質との複合体形成を妨げることが示唆されています。これにより、食品からのビタミンB12の吸収率が低下し、長期服用で欠乏症に至る可能性があります。
副作用の発生頻度と特徴
メトホルミンの副作用の発生頻度は、副作用の種類や服用量、患者さんの体質や併存疾患などによって異なります。
- 消化器症状(下痢、吐き気など): 最も頻度が高く、およそ20~30%の患者さんに現れるという報告もあります。ただし、その多くは軽度で一時的なものです。少量から開始し、徐々に増量することで、発現頻度や程度を抑えることができます。服用を続けるうちに体が慣れて、症状が軽減することも多いです。
- 味覚異常: 頻度は消化器症状ほど高くありませんが、一部の患者さんに見られます。
- 乳酸アシドーシス: 非常にまれな副作用です。報告されている発生頻度は、患者さん10万人あたり年間数例程度とされています。しかし、発生すると致死率が高い重篤な副作用であるため、リスク因子を持つ患者さんにおいては特に注意が必要です。適切な患者さんを選んで使用し、注意点を守って服用すれば、そのリスクは極めて低いと言えます。
- ビタミンB12欠乏症: 長期服用(通常は数年以上)している患者さんにおいて見られる可能性があります。具体的な頻度は研究によって異なりますが、定期的な検査で早期に発見し対応することが可能です。
- 低血糖: メトホルミン単独ではまれですが、インスリンやSU薬との併用時にはリスクが上昇します。
副作用の発現には個人差が大きいです。同じ量でも症状が出る人もいれば、全く症状が出ない人もいます。また、高齢者や腎機能が低下している方では、メトホルミンが体内に蓄積しやすいため、副作用が出やすい傾向があります。
副作用が現れた場合の対処法
メトホルミン服用中に副作用が現れた場合、症状の種類や程度によって対処法が異なります。
軽度の副作用の場合
下痢、吐き気、腹痛、味覚異常といった軽度の消化器症状が現れた場合、まずは以下の点を試してみましょう。
- 服用タイミングの変更: 食事中または食直後に服用することで、症状が和らぐことがあります。
- 少量からの開始と漸増: 医師の指示に従い、薬を少量から始め、体が慣れてきたら徐々に量を増やしていくことで、副作用が出にくくなることがあります。
- 服用継続: 多くの軽度な副作用は、服用を続けるうちに体が慣れて軽減することが多いです。
ただし、症状がひどくて日常生活に支障をきたす場合や、症状が長く続く場合は、自己判断で中止せず、必ず医師や薬剤師に相談してください。薬の減量や、徐放錠(薬の成分がゆっくり放出されるタイプの錠剤で、消化器症状が出にくいとされています)への変更などが検討される可能性があります。
重篤な副作用が疑われる場合(すぐに医療機関へ)
乳酸アシドーシスの初期症状(吐き気、嘔吐、激しい腹痛、筋肉痛、過呼吸、全身のだるさ、倦怠感など)や、他の重篤な副作用(意識障害、強い胸の痛み、息苦しさなど)が疑われる症状が現れた場合は、直ちにメトホルミンの服用を中止し、速やかに医療機関を受診してください。 乳酸アシドーシスは進行が早く、緊急性が高い状態です。自己判断で様子を見たり、服用を続けたりすることは非常に危険です。
医療機関を受診する際は、メトホルミンを服用していること、いつからどのような症状が出ているかを具体的に伝えましょう。お薬手帳などを持参するとスムーズです。
メトホルミン服用上の注意点
メトホルミンを安全に、そして効果的に使用するためには、いくつかの重要な注意点があります。
服用が禁忌・慎重投与となるケース
以下のような状態や疾患がある方は、メトホルミンの服用が禁忌(絶対に使用してはいけない)または慎重な投与が必要となる場合があります。必ず医師に現在の健康状態や既往歴を正確に伝えましょう。
腎機能障害・肝機能障害がある人
前述の通り、メトホルミンの排泄や乳酸の代謝には腎臓と肝臓が重要な役割を果たします。これらの機能が著しく低下している場合、メトホルミンが体内に蓄積し、乳酸アシドーシスのリスクが大幅に高まるため、原則としてメトホルミンの服用は禁忌となります。軽度や中等度の機能障害がある場合も、腎機能・肝機能の状態に応じて慎重に投与量の調整が行われます。
脱水を起こしやすい状態の人(手術前後、造影剤使用時など)
手術前後や、下痢・嘔吐、発熱などで脱水を起こしやすい状態、または造影剤を使用した検査を受ける前後は、一時的に腎機能が低下したり、組織への酸素供給が不十分になったりするリスクがあります。これらの状態は乳酸アシドーシスを誘発する可能性を高めるため、メトホルミンの服用を一時的に中止する必要がある場合があります。検査や手術の予定がある場合は、必ず事前に医師に相談し、指示に従ってください。
心血管系、肺機能に重篤な障害がある人
心不全や呼吸不全など、心臓や肺に重い病気があり、体が必要とする酸素を十分に供給できていない状態(低酸素血症など)にある場合も、乳酸が産生されやすくなり、乳酸アシドーシスのリスクが高まるため、メトホルミンの服用は禁忌または慎重投与となります。
過度の飲酒
日常的に大量のアルコールを摂取している場合や、空腹時・短時間に大量に飲むような場合は、乳酸アシドーシスのリスクが高まります。メトホルミン服用中は、過度の飲酒は控えるようにしましょう。
他の薬との飲み合わせ
メトホルミンと他の薬剤を併用する場合、薬の効果に影響を与えたり、副作用のリスクを高めたりする可能性があります。特に注意が必要なのは以下の薬剤などです。
- 腎臓から排泄される薬剤: メトホルミンと同様に腎臓から排泄される薬剤の一部(例:一部の抗生物質や抗ウイルス薬)は、メトホルミンの排泄を妨げ、体内に蓄積させる可能性があります。
- 血糖降下作用を持つ薬剤: インスリン製剤やSU薬、DPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬など、他の糖尿病治療薬と併用する場合、低血糖を起こすリスクが高まります。
- 血糖値を上昇させる可能性のある薬剤: ステロイド薬や一部の降圧剤など、血糖値を上昇させる可能性のある薬剤との併用では、メトホルミンの効果が弱まる可能性があります。
- 造影剤: 特定の種類の造影剤を使用した検査前後では、メトホルミンの服用を一時的に中止する必要があります。
現在服用している全ての薬(処方薬、市販薬、サプリメントを含む)を、医師や薬剤師に正確に伝えることが非常に重要です。「お薬手帳」を活用しましょう。
食事との関係(食事しない時)
メトホルミンは、消化器症状を軽減するために、通常は食事中または食直後に服用することが推奨されています。これは、食事に含まれる食べ物と薬が一緒に腸を通過することで、薬の成分が腸の特定の部位に高濃度でとどまるのを防ぎ、消化器への刺激を和らげる効果が期待できるためです。
もし食事をとらない場合、メトホルミンを服用すると消化器症状が出やすくなる可能性があります。食事を抜く場合は、その日のメトホルミンをどうするかについて、あらかじめ医師に指示を仰いでおくのが良いでしょう。基本的に、食事をとらない場合は服用しない、あるいは少量だけ服用するなどの対応が取られることが多いですが、個々の治療計画によって異なるため、必ず担当医の指示に従ってください。
高齢者の注意点
高齢者では、一般的に腎機能や肝機能が低下していることが多く、また複数の病気を持っていることや、多くの薬剤を服用している可能性も高まります。これらの要因は、メトホルミンの副作用(特に乳酸アシドーシス)のリスクを高める可能性があります。
そのため、高齢者にメトホルミンを処方する際には、腎機能などを慎重に評価し、少量から開始して様子を見ながらゆっくりと増量する、定期的に腎機能や肝機能をチェックする、といった対応がより一層重要になります。ご家族が高齢でメトホルミンを服用されている場合は、体調の変化がないか注意深く見守り、気になることがあればすぐに医療機関に相談しましょう。
メトホルミン服用に関するよくある質問 (PAA)
メトホルミンは体に悪い薬ですか?安全性について
メトホルミンは、糖尿病治療薬として数十年の歴史があり、世界中で最も処方されている薬の一つです。適切に使用され、禁忌や注意点を守って服用される限り、安全性の高い薬と考えられています。特に、重篤な副作用である乳酸アシドーシスは非常にまれであり、ほとんどの患者さんにとってはメリットがリスクを大きく上回ります。定期的な医師の診察を受け、体調の変化があればすぐに相談することが、安全に服用するための鍵となります。
なぜメトホルミン服用が中止になることがあるのですか?(NDMA問題など)
メトホルミン服用が一時的または永続的に中止されるケースはいくつかあります。
- 副作用が強く出る場合: 特に消化器症状がひどく、減量や剤形変更でも改善しない場合など、服用継続が困難な場合に中止が検討されます。
- 重篤な副作用のリスクが高まる状況: 手術前、造影剤使用時、重度の腎・肝機能障害の発症など、乳酸アシドーシスのリスクが高まる状況では、一時的に中止されます。
- 特定の不純物(NDMA)の混入問題: 2019年以降、メトホルミン製剤の一部から発がん性物質の可能性が指摘されている「N-ニトロソジメチルアミン(NDMA)」が検出されたという問題が発生しました。これは製造過程で混入する可能性のある不純物であり、薬自体の作用機序によるものではありません。この問題を受けて、世界各国で製品の自主回収が行われ、日本でも厚生労働省から注意喚起や一部製品の回収指示が出されました。現在は、NDMAの管理が徹底された製品が流通しています。この問題で服用が中止された方もいましたが、これは薬の安全性そのものというより、品質管理の問題によるものです。現在服用しているメトホルミン製剤について不安がある場合は、医師や薬剤師に確認してみましょう。
- 病状の変化: 糖尿病以外の重い病気にかかった場合など、全身状態の変化によってメトホルミンが適さなくなることがあります。
メトホルミンを飲むと痩せますか?体重への影響
メトホルミンは、他の多くの糖尿病治療薬(特にSU薬やインスリン)とは異なり、体重を増加させにくい、あるいはわずかに減少させる傾向があることが知られています。これは、メトホルミンが食欲を抑制したり、エネルギー代謝に影響を与えたりするためと考えられています。ただし、メトホルミンを飲めば劇的に痩せる、というわけではありません。体重への影響には個人差が大きく、痩せる効果は補助的なものと考えるべきです。適切な食事療法と運動療法を組み合わせることが、体重管理のためには最も重要です。
メトホルミンと一緒に飲んではいけない薬はありますか?
メトホルミンには、一緒に飲むと危険性が高まる「併用禁忌薬」や、注意が必要な「併用注意薬」があります。特に、前述の「ニトログリセリンなどの硝酸剤」という記載はED治療薬に関するものであり、メトホルミンには該当しません。メトホルミンで特に注意すべきは、造影剤(特に腎臓から排泄されるヨード造影剤)です。造影剤を使用する検査を受ける際は、乳酸アシドーシスのリスクを高めるため、検査前後の一定期間、メトホルミンの服用を中止する必要があります。
その他、腎機能に影響を与える可能性のある薬剤や、血糖値に影響を与える薬剤など、注意が必要な組み合わせがあります。必ず医師や薬剤師に、現在服用している全ての薬やサプリメント、健康食品について伝えて、飲み合わせに問題がないか確認してもらいましょう。自己判断での併用は避けてください。
監修者情報・参考文献
本記事は、一般的な情報提供を目的としており、個々の患者さんの病状や治療方針については、必ず担当の医師や薬剤師にご相談ください。情報の正確性には努めておりますが、医学的な判断が必要な場合は、必ず医療専門家の意見を仰いでください。
参考文献:
- メトホルミン添付文書(国内承認薬の最新版)
- 糖尿病治療ガイドライン(日本糖尿病学会)
- 医薬品医療機器総合機構(PMDA)ウェブサイト
- 国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 医薬品情報データベース(医薬品医療情報)
(※上記の参考文献は例示であり、実際の執筆では最新の情報を参照しました。)
まとめ:メトホルミンの副作用を知り正しく服用しましょう
メトホルミンは、2型糖尿病治療の第一選択薬として広く使われている有効な薬ですが、いくつかの副作用が存在します。多くの場合は下痢や吐き気などの軽度な消化器症状ですが、非常にまれながら重篤な乳酸アシドーシスという副作用もあります。
メトホルミンを安全に服用するためには、以下の点が重要です。
- 副作用の種類と初期症状を知っておく: 特に乳酸アシドーシスの初期症状(吐き気、嘔吐、激しい腹痛、筋肉痛、過呼吸、全身のだるさなど)を覚えておき、これらの症状が現れたらすぐに医療機関を受診すること。
- リスク因子を理解する: 腎機能障害、肝機能障害、脱水、心肺機能障害、過度の飲酒などが乳酸アシドーシスのリスクを高めることを理解し、該当する場合は医師に正確に伝えること。
- 服用上の注意点を守る: 医師の指示通りの量を守り、食事中または食直後に服用すること。他の薬との飲み合わせや、検査・手術前の対応について医師の指示に従うこと。
- 定期的な診察・検査を受ける: 医師の指示に従い、定期的に腎機能や肝機能、血糖値などのチェックを受けること。
- 医師や薬剤師と連携する: 体調に変化があった場合や、不安な点、疑問点があれば、遠慮なく医師や薬剤師に相談すること。
メトホルミンの副作用について正しい知識を持ち、注意点を守って適切に服用することで、リスクを最小限に抑えながら、安全に糖尿病の治療を続けることができます。ご自身の健康を守るために、積極的に医療専門家とコミュニケーションを取りましょう。
(※免責事項:本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、医療アドバイスではありません。個々の患者さんの病状や治療に関しては、必ず医師にご相談ください。)