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【糖尿病】シックデイの危険性と体調不良時の正しい対応

[2025.06.29]

糖尿病患者さんにとって、体調不良は血糖コントロールに大きな影響を及ぼす可能性があります。
特に、発熱や下痢、嘔吐などで食事が十分に摂れない、または摂れても体調が優れない状態は「シックデイ」と呼ばれ、普段通りの対応では危険を伴うことがあります。
シックデイは誰にでも起こりうるため、糖尿病患者さん自身やそのご家族が正しい知識を持ち、適切に対応することが非常に重要です。
この記事では、シックデイがなぜ危険なのか、どのような症状に注意が必要か、そして体調不良時にどのように薬や食事を調整すべきか、さらには医療機関を受診する目安について、詳しく解説します。
いざという時に慌てないよう、シックデイへの備えにお役立てください。

シックデイ(sick day)とは、「病気の日」という意味で、糖尿病患者さんが風邪や胃腸炎などの感染症にかかったり、食欲不振、下痢、嘔吐といった体調不良を起こし、いつものように食事が摂れなくなったり、活動量が低下したりする日のことを指します。単なる軽い体調不良ではなく、血糖コントロールに影響を与える可能性がある状態を特にシックデイと呼びます。

健康な人であれば、体調不良時でも血糖値は体の働きによってある程度安定に保たれます。しかし、糖尿病患者さんの場合、シックデイによって血糖値が大きく変動し、普段の血糖コントロールが崩れやすくなるという大きなリスクがあります。これは、体調不良が体に与える様々な影響が関係しています。

シックデイの原因となる体調不良(感染症など)

シックデイを引き起こす体調不良の主な原因は、感染症です。具体的には以下のような病気が挙げられます。

  • 風邪やインフルエンザ: 発熱、咳、鼻水、喉の痛み、全身倦怠感など。
  • 胃腸炎: 吐き気、嘔吐、下痢、腹痛、食欲不振など。
  • 膀胱炎や腎盂腎炎: 発熱、排尿時の痛み、頻尿など。
  • 肺炎: 発熱、咳、呼吸困難など。
  • その他: 怪我、ストレス、睡眠不足なども血糖コントロールを乱す要因となり得ます。

これらの体調不良は、それ自体が血糖値を変動させるだけでなく、食事量が減ったり、消化吸収能力が低下したり、普段服用している薬が飲めなくなったりすることで、さらに血糖管理を難しくします。

シックデイ時の体の変化(血糖値の変動など)

体調が悪くなると、私たちの体はストレスに対応するためにいくつかのホルモン(コルチゾール、アドレナリンなど)を分泌します。これらのホルモンは、エネルギー源としてブドウ糖をいつでも使えるように、肝臓からのブドウ糖放出を増やしたり、インスリンの働きを妨げたり(インスリン抵抗性の増大)する作用があります。

その結果、体調不良時には食事をあまり摂っていなくても血糖値が上昇しやすくなります。特にインスリン療法を行っている患者さんや、インスリン分泌能力が低い患者さんでは、インスリンが十分に働かない、あるいは絶対的に足りない状態になり、血糖値が非常に高くなる危険があります。

一方で、食欲がなく全く食事が摂れない場合や、嘔吐・下痢が続いている場合は、体内に取り込まれるブドウ糖が減るため、低血糖に陥るリスクも高まります。特に、血糖を下げる薬(スルホニル尿素薬など)を服用している場合や、インスリン注射を行っている場合は注意が必要です。

また、発熱や下痢、嘔吐が続くと、体から水分が失われやすくなり、脱水状態になります。脱水が進むと血液が濃縮され、相対的に血糖値が高く測定されたり、腎臓に負担がかかったりする可能性があります。さらに、血糖値が非常に高い状態が続くと、体はエネルギー不足を補うために脂肪を分解し、ケトン体という物質を作り出します。これが体内に蓄積すると、糖尿病性ケトアシドーシスという重篤な状態に陥ることがあります。

このように、シックデイ時には高血糖と低血糖、そして脱水やケトアシドーシスといった様々なリスクが存在するため、普段以上に注意深い観察と適切な対応が必要になります。

シックデイで現れる主な症状

シックデイで現れる症状は、原因となっている病気による症状と、血糖値の変動によって引き起こされる症状に分けられます。

まず、原因となる病気自体の症状としては、前述のように発熱、咳、鼻水、喉の痛み、頭痛、吐き気、嘔吐、下痢、腹痛、全身倦怠感などが挙げられます。

次に、血糖変動に伴う症状です。

高血糖の症状:

  • 口が異常に渇く(口渇)
  • 水分をたくさん飲みたくなる(多飲)
  • 尿の回数が増え、量も多くなる(多尿)
  • 体がだるい、疲れやすい(全身倦怠感)
  • 体重が減る
  • 皮膚が乾燥してかゆくなる
  • 視力がかすむ

血糖値がさらに高くなり、ケトアシドーシスに進むと、以下の症状が現れます。

  • 強い吐き気や嘔吐
  • 激しい腹痛
  • 深く速い呼吸(クスマウル呼吸)
  • 息にアセトン臭(果物が腐ったような甘酸っぱい臭い)がある
  • 意識がもうろうとする、意識を失う

低血糖の症状:

  • 冷や汗が出る
  • 手が震える
  • 動悸がする
  • 空腹感
  • 吐き気
  • 頭痛
  • めまい、ふらつき
  • 集中力の低下
  • 異常な言動
  • 意識がもうろうとする、意識を失う(重症の場合)

脱水症状:

  • 口や唇、舌が乾燥する
  • 尿の量が減る、または全く出ない
  • 皮膚にハリがない、つまんでもすぐに戻らない
  • めまい、立ちくらみ
  • 全身倦怠感
  • 意識がもうろうとする

これらの症状は、軽度なものから重篤なものまで様々です。特に、血糖値が極端に高くなったり低くなったりする場合や、脱水が進んだりケトアシドーシスを起こしたりした場合は、命にかかわる危険な状態となるため、注意が必要です。普段から自分の体の状態をよく観察し、いつもと違う症状がないか確認することが大切です。

シックデイ時の薬(糖尿病薬・インスリン)の調整

シックデイ時の薬の調整は、糖尿病管理において最も重要なポイントの一つです。しかし、自己判断での薬の増減や中止は非常に危険です。必ず事前に主治医とシックデイ時の対応について話し合い、具体的な指示を受けておく必要があります。

体調不良時は、食事量が減ったり、体内でインスリンの効きが悪くなったりするなど、血糖コントロールが普段と大きく異なります。そのため、普段通りの薬の量やタイミングでは、血糖値が適切に管理できないだけでなく、低血糖や高血糖、あるいは他の副作用のリスクが高まることがあります。

薬の種類別(飲み薬、GLP-1受容体作動薬など)の対応

糖尿病の飲み薬には様々な種類があり、それぞれシックデイ時の対応が異なります。薬の作用メカニズムや、体調不良時の体の状態(食事摂取量、脱水、腎機能など)を考慮して調整が必要です。

以下に一般的な対応を示しますが、これはあくまで一般的な傾向であり、必ず個別の薬の種類や患者さんの状態に応じて、主治医の指示に従ってください。

薬の種類主な作用シックデイ時の対応(一般的な傾向)理由・注意点
スルホニル尿素薬 (SU薬)インスリン分泌を促進食事が摂れない場合は減量または中止低血糖リスクが高い。食事が減ると血糖値が上がりにくくなるため、薬が効きすぎると低血糖を招く可能性がある。
速効型インスリン分泌促進薬 (グリニド薬)食事後のインスリン分泌を促進食事を摂らなければ中止食事の摂取に合わせて服用するため、食事が摂れない場合は不要。服用すると低血糖を起こす。
ビグアナイド薬 (メトホルミン)肝臓からの糖放出を抑え、インスリン抵抗性を改善脱水や腎機能低下がある場合は中止が必要なことが多い脱水状態や腎機能が低下している場合に服用すると、乳酸アシドーシスという重篤な副作用を起こすリスクが高まる。特に発熱や嘔吐・下痢がある場合は注意。
チアゾリジン薬 (PPARγアゴニスト)インスリン抵抗性を改善通常は継続可能だが、状態によっては医師に確認効果発現に時間がかかるため、短期的なシックデイでは継続しても大きな問題にならないことが多い。ただし、浮腫など他の副作用に注意が必要な場合もある。
α-グルコシダーゼ阻害薬 (α-GI薬)糖質の吸収を遅らせる食事を摂らなければ中止食事中の糖の分解・吸収を抑える薬のため、食事が摂れない場合は服用する意味がない。
DPP-4阻害薬インスリン分泌を促進、グルカゴン分泌を抑制通常は継続可能だが、自己判断せず医師に確認低血糖リスクが比較的低いとされている。ただし、体調不良の原因や他の併用薬との関係で調整が必要な場合もある。
SGLT2阻害薬腎臓からの糖の再吸収を抑制し尿糖として排出原則として中止が必要なことが多い尿量を増やし脱水が進みやすくなる。また、血糖値が高くなくても糖尿病性ケトアシドーシスを起こすリスクが高まる(euglycemic DKA)。発熱、嘔吐、下痢、食欲不振時は必ず医師に相談して中止を検討する。
GLP-1受容体作動薬インスリン分泌促進、グルカゴン分泌抑制、胃排出遅延食事摂取量や状態に応じて減量または中止が必要な場合がある吐き気や食欲不振を悪化させる可能性がある。また、脱水に関連する場合があるため、体調によっては調整が必要。
GIP/GLP-1受容体作動薬インスリン分泌促進、グルカゴン分泌抑制、胃排出遅延食事摂取量や状態に応じて減量または中止が必要な場合があるGLP-1受容体作動薬と同様に、吐き気や食欲不振、脱水に関連する場合があるため、体調によっては調整が必要。

重要なポイント:

  • 自己判断での中止・変更は絶対に避けること。
  • 体調不良になったら、まずかかりつけ医に連絡し、指示を仰ぐこと。
  • 薬の説明書やシックデイ時の対応マニュアル(事前に医師からもらったもの)を確認すること。
  • 不安な場合はすぐに医療機関に連絡すること。

インスリンの種類別(基礎、追加)の調整方法

インスリン療法を行っている患者さんにとって、シックデイ時のインスリン調整は特に重要です。飲み薬と同様に、自己判断での大幅な変更や中止は危険を伴います。

インスリンは体の生命活動を維持するために常に必要とされるホルモンです。体調不良時でも、体は一定量のブドウ糖をエネルギーとして必要としており、肝臓もブドウ糖を作り続けています。したがって、インスリン注射を完全に中断してしまうと、血糖値が急激に上昇し、糖尿病性ケトアシドーシスを引き起こす可能性が高くなります。特に1型糖尿病患者さんの場合、インスリンが全く分泌されないため、インスリン注射の中断は非常に危険です。

インスリンの種類によって、シックデイ時の調整の考え方が異なります。

インスリンの種類主な作用シックデイ時の調整(一般的な傾向)理由・注意点
基礎インスリン1日を通して一定量のインスリンを補充原則として継続、または少量(例:20%程度)減量。完全に中止は危険。体調不良時も体はブドウ糖を必要とし、肝臓もブドウ糖を放出しているため、基礎的なインスリンは必要。完全に中止すると高血糖、ケトアシドーシスに至る危険がある。調整量は、体調や血糖値に応じて医師の指示に従う。
追加インスリン食事や高血糖に合わせて追加するインスリン食事摂取量や血糖値に応じて大幅に調整。食事が全く摂れない場合はスキップすることも。血糖値が高ければ少量追加が必要な場合も。食事からのブドウ糖を取り込むために使用するインスリン。食事が減れば追加量は減る。ただし、体調不良による高血糖があれば、少量追加する必要がある場合もあるため、血糖測定と医師の指示が必須。
混合型インスリン基礎インスリンと追加インスリンが混合医師の指示に従って調整。基礎部分と追加部分を分けて考える必要がある場合も。混合比率や種類によって調整方法が異なる。自己判断は難しいため、必ず主治医に相談する。食事摂取量によって追加部分をどうするかなどが変わる。
持効型インスリン1日を通して基礎インスリンとして作用原則として継続、または少量減量。完全に中止は危険。基礎インスリンと同様。
超速効型インスリン食前や高血糖時に追加するインスリン追加インスリンと同様。追加インスリンと同様。
速効型インスリン食前や高血糖時に追加するインスリン追加インスリンと同様。超速効型より効果発現がやや遅く、作用時間も長い場合がある。調整は医師の指示に従う。

重要なポイント:

  • 体調不良時は、普段よりも頻繁に血糖値を測定すること(例:2~4時間おき)。
  • 血糖値が常に高い状態が続く場合(例:250mg/dL以上)や、吐き気、腹痛がある場合は、尿ケトン体も測定すること(特に1型糖尿病)。
  • 必ず事前に主治医とシックデイ時のインスリン調整方法、連絡体制、受診目安について具体的に確認しておくこと。
  • 不安な場合はすぐに医療機関に連絡すること。

シックデイで休薬が必要な薬とその理由(脱水リスクなど)

糖尿病治療薬の中には、シックデイ時の体調不良によって副作用のリスクが高まるため、一時的に休薬が必要となるものがあります。特に注意が必要なのは、脱水や腎機能への影響に関連する薬です。

シックデイ時に休薬が必要となることが多い主な薬:

  1. ビグアナイド薬(例: メトホルミン):
    • 理由: 脱水状態や腎機能が低下している状況で服用すると、「乳酸アシドーシス」という重篤な副作用を起こすリスクが高まります。乳酸アシドーシスは、体内に乳酸が異常に蓄積する状態で、全身倦怠感、吐き気、嘔吐、腹痛、筋肉痛、呼吸困難などの症状が現れ、進行すると意識障害やショックに至ることもあります。発熱、下痢、嘔吐などで脱水が懸念される場合は、原則として中止が推奨されます。
  2. SGLT2阻害薬(例: ダパグリフロジン、エンパグリフロジン、カナグリフロジンなど):
    • 理由: この薬は腎臓でブドウ糖の再吸収を抑え、尿糖として排出することで血糖値を下げる働きがあります。この作用により尿量が増え、脱水が進みやすくなる傾向があります。また、SGLT2阻害薬を服用している場合は、血糖値がそれほど高くないにも関わらず糖尿病性ケトアシドーシス(euglycemic DKA)を起こすリスクがあることが報告されています。特にシックデイのような体調不良時は、脱水やケトアシドーシスのリスクがさらに高まるため、発熱、嘔吐、下痢、食欲不振時などは必ず中止が必要です。

上記以外にも、体調不良の原因(例: 腎臓病の悪化、心不全の悪化など)や、患者さんの全身状態によっては、普段服用している他の薬(例: 血圧を下げる薬の一部、利尿薬など)も一時的に休薬や減量が必要となる場合があります。

繰り返しになりますが、これらの薬を自己判断で中止するのではなく、必ず体調不良になったらかかりつけ医に連絡し、個別の指示を受けてください。 どのような場合にどの薬をどのように調整するかについて、事前に主治医とよく話し合っておくことが、シックデイを安全に乗り切るために非常に重要です。

シックデイ時の食事と水分摂取

体調不良で食欲がない時でも、糖尿病患者さんにとって最低限のエネルギーと水分、そして適量の糖分を摂取することは、低血糖や脱水、そしてケトアシドーシスを予防するために非常に重要です。しかし、普段通りの食事を摂ることは難しい場合が多いでしょう。

食欲がない時の食事の工夫(推奨される食品)

食欲がない時は、少量でも効率よくエネルギーや糖分を補給できる、消化の良いものを選びましょう。

推奨される食品例:

  • 主食:
    • おかゆ(全粥、七分粥、五分粥など、体調に合わせて濃度を調整)
    • くたくたに煮込んだうどん
    • 食パン(耳を落としたもの)
    • ビスケット(少量)
  • 糖分・エネルギー補給:
    • ゼリー飲料(エネルギーや糖分を含むもの)
    • アイスクリーム、シャーベット(ただし、糖分量が多いので注意し、血糖値を測りながら摂取)
    • プリン
    • ヨーグルト(プレーンタイプを推奨)
    • ジュース(果汁100%や糖分を含むもの。ただし、血糖値が急上昇しやすいので、少量ずつ、血糖値を測りながら摂取するか、医師に相談)
  • 水分・電解質補給:
    • 経口補水液(OS-1など。脱水予防に非常に有効)
    • スポーツドリンク(糖分量が多いので、水で薄めるなどの工夫が必要。経口補水液がより推奨される場合が多い)
    • 野菜スープ、コンソメスープ
    • 味噌汁の上澄み)

食事摂取のポイント:

  • 少量ずつ、頻回に: 一度にたくさん食べるのが難しければ、少量ずつ時間を置いて摂取しましょう。
  • 水分と糖分を同時に: おかゆに梅干しや塩昆布を加える、ゼリー飲料を飲むなど、水分と糖分(炭水化物)を一緒に摂れるものが理想です。
  • 血糖値を参考に: 食事を摂る前や後に血糖値を測定し、食事量や内容を調整する参考にしましょう。
  • 無理に食べない: 吐き気があるのに無理に食べようとすると、嘔吐を繰り返してしまうことがあります。無理せず、水分摂取を優先しましょう。

全く食事が摂れない状態が続く場合は、医療機関への連絡が必要です。点滴による水分や糖分の補給が必要になることがあります。

脱水症状の予防と対策

シックデイでは、発熱による発汗、嘔吐、下痢、あるいは高血糖による多尿などにより、体が脱水状態になりやすくなります。脱水は血糖コントロールをさらに悪化させたり、腎臓に負担をかけたり、血栓ができやすくなったりと、様々な悪影響を及ぼします。SGLT2阻害薬を服用している場合は、脱水リスクがさらに高まります。

脱水予防・対策のポイント:

  • こまめな水分摂取: 喉が渇いたと感じる前に、少量ずつ頻繁に水分を摂りましょう。一度に大量に飲むのではなく、コップ半分程度を1~2時間おきなど、意識的に水分補給を心がけます。
  • 水分だけでなく電解質も: 水だけを大量に飲むと、体内の塩分濃度が薄まってしまい危険な場合があります。発熱や下痢、嘔吐で電解質も失われているため、水分と一緒に塩分やミネラルも補給できる飲み物を選びましょう。経口補水液は、水分と電解質のバランスが崩れた体に効率よく補給できるよう調整されており、シックデイ時には非常に有用です。スポーツドリンクを利用する場合は、糖分が多い製品もあるため、水で薄めるなどの工夫が必要かどうか医師や薬剤師に相談しましょう。
  • 尿量を確認: 尿の回数や量がいつもより減っていないか確認しましょう。尿量が著しく減少している場合は、脱水が進んでいるサインです。
  • 口や皮膚の乾燥を確認: 口の中や唇が乾いている、皮膚にハリがないなどの症状も脱水のサインです。

脱水症状が改善しない場合や、水分を摂ってもすぐに吐いてしまうなど、経口での水分摂取が難しい場合は、速やかに医療機関に連絡し、点滴による水分補給が必要かどうか相談してください。

危険なシックデイの兆候と受診目安

シックデイは自宅での対応が可能である場合も多いですが、中には速やかに医療機関を受診する必要がある危険な状態に進行することがあります。これらの危険な兆候を見逃さず、早期に適切な医療を受けることが重症化を防ぐ上で極めて重要です。

どのような症状が出たら危険?(著しい高血糖・低血糖、ケトアシドーシスなど)

以下の症状が見られる場合は、危険なシックデイの兆候と考えられます。一つでも当てはまる場合は、すぐに医療機関に連絡するか、救急外来を受診してください。

  • 著しい高血糖が続く: 血糖値が測定上限に近い、あるいは普段の血糖値より明らかに高い状態(例えば、食前でも250~300mg/dL以上)が持続している場合。自宅での対応(インスリン調整など)を行っても改善しない場合。
  • 尿ケトン体が強陽性: 特に1型糖尿病患者さんで、尿ケトン体試験紙が強陽性(+++や++++)を示した場合。
  • 糖尿病性ケトアシドーシスの症状:
    • 強い吐き気や嘔吐が止まらない
    • 激しい腹痛
    • 息苦しさ、速くて深い呼吸(クスマウル呼吸)
    • 息から果物が腐ったような甘酸っぱい臭いがする(アセトン臭)
    • 意識がもうろうとする、呼びかけへの反応が鈍い、意識を失う
  • 重症の低血糖: 冷や汗や手の震えなどの低血糖症状が強く、ブドウ糖や糖分を含む食品を摂っても改善しない、あるいは意識レベルが低下している場合。
  • 脱水が改善しない、または悪化する: 水分を十分に摂っているにも関わらず、口の渇きや全身倦怠感が改善しない、尿量が著しく少ない、皮膚のハリがないなどの脱水症状が続く、あるいは悪化している場合。
  • 食事が全く摂れない、または水分を摂ってもすぐに吐いてしまう状態が続く: 経口での栄養・水分補給ができない状態。
  • 体調不良(発熱、下痢など)が改善しない、または悪化する: 原因となっている病気の症状が、自宅での対応で良くならず、かえって悪化している場合。
  • 意識レベルの低下: 普段と比べてぼんやりしている、返事が遅い、呼びかけに反応しないなど。

これらの症状は、糖尿病性ケトアシドーシスや高浸透圧高血糖状態、あるいは重症低血糖など、緊急性の高い状態に進行している可能性があります。

すぐに医療機関に連絡・受診すべきケース

上記の危険な兆候が見られる場合は、迷わずすぐに医療機関に連絡または受診してください。

具体的な受診目安としては、以下のような状況が挙げられます。

  • 危険な兆候(著しい高血糖、尿ケトン体強陽性、嘔吐・腹痛、呼吸困難、意識障害など)が見られる場合。
  • 体調不良により食事が全く摂れない状態が24時間以上続く場合。
  • 水分を摂っても、嘔吐や下痢で体外に出てしまい、十分に水分補給ができない場合。
  • 発熱が続き、解熱剤を使用しても下がらない場合。
  • 普段と違う症状や、不安を感じる症状がある場合。
  • 事前に主治医から指示されたシックデイ対応を行っても、血糖値が目標範囲に戻らない場合。

連絡先としては、まずかかりつけ医に連絡することが最も良い方法です。かかりつけ医が不在の場合は、夜間や休日の対応について事前に確認しておいた連絡先(地域の救急相談窓口、休日夜間診療所、連携病院など)に連絡しましょう。状況によっては、救急車を要請することもためらわないでください。

シックデイは早期発見と早期治療が大切です。「これくらいなら大丈夫だろう」と自己判断で様子を見すぎず、少しでも不安を感じたら医療機関に相談する勇気を持ちましょう。

シックデイを乗り切るために日頃から準備しておくこと

シックデイは予期せず突然やってくるものです。いざという時に慌てず、冷静に適切に対応するためには、日頃からの準備が非常に重要です。

  1. シックデイについての知識を持つ:
    • この記事のように、シックデイがどのような状態か、なぜ危険なのか、どのような症状に注意が必要か、基本的な対応方法などを理解しておくことが第一歩です。
  2. 主治医とシックデイ時の対応について事前に話し合っておく:
    • 自分が普段服用している薬や使用しているインスリンの種類に応じて、体調不良時にどのような調整が必要か、具体的な指示(例: 血糖値がXXX以上ならインスリンをYY単位追加するなど)を受けておきましょう。
    • どのような症状が出たら医療機関に連絡すべきか、具体的な血糖値や尿ケトン体の目安、連絡先なども確認しておきます。
    • 可能であれば、シックデイ時の対応について書かれた個人用の「シックデイシート」や「シックデイハンドブック」を作成してもらいましょう。
  3. シックデイ時の連絡先リストを作成する:
    • かかりつけ医の診察時間内の電話番号、診察時間外や休日の緊急連絡先(病院の代表番号、夜間・休日窓口の電話番号、連携病院など)、家族や信頼できる友人などの連絡先を分かりやすい場所に控えておきましょう。
  4. 血糖測定器や尿ケトン体測定紙(特に1型)の準備:
    • 体調不良時には血糖値を頻繁に測定する必要があります。測定器が正常に作動するか確認し、センサーや試験紙の予備を用意しておきましょう。
    • 1型糖尿病患者さんは、尿ケトン体測定紙も必須です。こちらも予備を用意しておきます。
  5. 体調不良時に備えた食料品・水分(経口補水液など)の備蓄:
    • 食欲がない時でも摂取しやすい食品(ゼリー飲料、おかゆ、スープなど)や、脱水予防に役立つ経口補水液などを、常に少しずつ自宅に備蓄しておくと安心です。賞味期限を確認し、定期的に補充しましょう。
  6. 家族や身近な人にシックデイについて共有する:
    • 一緒に暮らしている家族や、よく会う友人など、身近な人にもシックデイについて説明し、自分が体調を崩した時にどのような症状に注意が必要か、どこに連絡すれば良いかなどを共有しておきましょう。万が一、自分で対応できなくなった場合に助けになります。

これらの準備をしておくことで、シックデイになった時でも落ち着いて対応でき、重症化を防ぐことにつながります。特に、事前に主治医と具体的な対応方針を確認しておくことは、不安を軽減し、適切な処置を行う上で最も重要です。

まとめ:シックデイは正しく理解し適切に対応しましょう

シックデイは、糖尿病患者さんにとって血糖コントロールが大きく乱れる可能性のある重要な状態です。発熱、下痢、嘔吐などの体調不良は、体のストレス反応を引き起こし、血糖値を上昇させやすくする一方で、食事摂取量の低下や脱水によって低血糖やケトアシドーシスといった危険な状態を招くリスクがあります。

シックデイを安全に乗り切るためには、以下の点が特に重要です。

  • シックデイについての正しい知識を持つ: どのような状態がシックデイなのか、体で何が起こっているのかを理解しましょう。
  • 症状に注意する: 体調不良そのものの症状だけでなく、高血糖や低血糖、脱水、ケトアシドーシスのサインを見逃さないようにしましょう。
  • 薬やインスリンの調整は必ず医師の指示に従う: 自己判断で薬の増減や中止をすることは、低血糖や重篤な副作用(乳酸アシドーシス、ケトアシドーシスなど)のリスクを高めるため、非常に危険です。体調不良になったら、まずかかりつけ医に連絡し、指示を仰ぎましょう。
  • 適切な食事と水分補給を行う: 食欲がない時でも、少量ずつでも消化の良いもの、そして経口補水液などでしっかりと水分と電解質を補給し、脱水を防ぎましょう。
  • 危険な兆候を見逃さず、速やかに医療機関を受診する: 著しい高血糖や低血糖、嘔吐が止まらない、尿ケトン体強陽性、意識がもうろうとしているなど、危険なサインが見られたら、迷わず医療機関に連絡または受診してください。

シックデイは、日頃からの準備と、いざという時の早期かつ適切な対応によって、多くの場合、安全に乗り越えることができます。事前に主治医とシックデイ時の対応方針や連絡体制について十分に話し合っておき、安心して体調不良に対応できる準備をしておきましょう。

この記事で提供する情報は一般的な知識であり、個々の患者さんの状態や治療方針は異なります。必ず主治医の指示に従い、ご自身の糖尿病管理を行ってください。

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