【空腹時血糖】正常値・基準値はコレ!高い原因と改善策を解説
空腹時血糖は、私たちの健康状態、特に糖尿病リスクを把握するための重要な指標の一つです。健康診断や人間ドックで血糖値の項目をチェックする際に目にする方も多いでしょう。しかし、「空腹時血糖とは具体的に何を意味するのか」「どのような基準で正常と判断されるのか」「もし高かったらどうすれば良いのか」といった疑問をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。
この記事では、空腹時血糖の基本的な知識から、年齢別の目安、高くなる原因、そして改善のための具体的な対策まで、詳しく解説していきます。ご自身の血糖値の意味を正しく理解し、日々の健康管理に役立ててください。
血糖値とは、血液中に含まれるブドウ糖の濃度のことです。食事から摂取した糖質は体内で分解され、ブドウ糖として血液中に取り込まれ、全身の細胞のエネルギー源として利用されます。この血糖値は、食事や運動、ホルモンの働きなどによって常に変動しています。
中でも「空腹時血糖」は、直前の食事の影響を受けていない、比較的安定した状態での血糖値を示すため、糖尿病などの糖代謝異常を評価する上で非常に重要視されています。
空腹時血糖の測定方法と「空腹」の定義
空腹時血糖は、正確な測定のために一定の時間「空腹」の状態を保つ必要があります。一般的に、空腹時血糖値は検査前日の夜から、検査を受けるまでの10時間以上、何も食べたり飲んだりしていない状態で測定されます。
「何も食べたり飲んだりしていない」とは、水やお茶(糖分を含まないもの)以外の飲食物を一切摂取していないことを意味します。ジュースやコーヒー(砂糖入り・ミルク入り含む)、アメ、ガムなども血糖値に影響を与えるため避ける必要があります。喫煙も避けることが推奨されています。通常は夕食後から翌朝の検査までがこの空腹期間となります。
この厳格な空腹状態での測定は、食事による血糖値の変動を除外し、体の基礎的な糖代謝能力を評価するために不可欠です。
健常者の空腹時血糖正常値(基準値)
日本の糖尿病診断基準では、空腹時血糖値によって糖代謝の状態が3つのカテゴリーに分類されます。健常者の空腹時血糖値は、この中で最も低い範囲に位置します。
日本糖尿病学会の定める基準によると、空腹時血糖値が100mg/dL未満であれば、正常型と判断されます。これは、膵臓から分泌されるインスリンというホルモンが適切に働き、血糖値を正常な範囲に保てている状態と言えます。
ただし、この基準値内であっても、家族に糖尿病の人がいる、肥満、運動不足などのリスク因子がある場合は、定期的なチェックが重要です。
糖尿病予備群(境界型)の空腹時血糖基準
空腹時血糖値が正常値よりも高いけれど、糖尿病と診断されるほどではない状態を「糖尿病予備群」または「境界型」と呼びます。
具体的には、空腹時血糖値が100mg/dL以上126mg/dL未満の場合が、境界型(糖尿病予備群)に該当します。この状態は、インスリンの働きが少し弱まっていたり、量が十分でなくなってきたりしている可能性を示唆します。
境界型は、放置すると将来的に糖尿病へ移行するリスクが高い状態です。しかし、この段階で適切な生活習慣の改善を行うことで、糖尿病の発症を予防したり、遅らせたりすることが十分に可能です。健康診断などでこの範囲に入った場合は、自身の生活習慣を見直し、積極的に改善に取り組むことが非常に重要になります。
糖尿病型と診断される空腹時血糖基準
空腹時血糖値が一定の基準を超えると、糖尿病型と診断される可能性が高くなります。
日本糖尿病学会の診断基準では、空腹時血糖値が126mg/dL以上の場合、糖尿病型に分類されます。この数値が確認された場合、糖尿病である可能性が非常に高いため、精密検査が必要となります。
診断には、空腹時血糖値だけでなく、ヘモグロビンA1c(HbA1c)の値や、ブドウ糖負荷試験(OGTT)といった他の検査結果も総合的に判断されます。例えば、HbA1cが6.5%以上である場合や、ブドウ糖負荷試験で一定の基準を超える場合など、複数の検査結果を組み合わせて最終的な診断が行われますのが一般的です。
糖尿病と診断された場合は、早期に治療を開始し、血糖コントロールを行うことが、将来的な合併症(神経障害、網膜症、腎症、心筋梗塞、脳卒中など)を防ぐために不可欠です。医師とよく相談し、適切な治療計画を立てることが重要です。
空腹時血糖値による分類をまとめると以下のようになります。
分類 | 空腹時血糖値 | 状態 |
---|---|---|
正常型 | 100mg/dL未満 | 健康的な糖代謝状態 |
境界型 | 100mg/dL以上126mg/dL未満 | 糖尿病予備群。将来糖尿病のリスクあり |
糖尿病型 | 126mg/dL以上 | 糖尿病である可能性が高い |
※上記の基準は、診断を確定するものではなく、あくまで判断の一助となるものです。診断は医師が総合的に行います。
年齢別の空腹時血糖正常値
血糖値の基準値は基本的に全年齢共通で設定されています。しかし、高齢になるにつれて、体の機能や生活習慣の変化により、血糖値の管理目標や考え方が異なってくる場合があります。
50歳以上の空腹時血糖正常値目安
50歳以上になると、加齢に伴いインスリンの分泌や働きが若い頃と比べて低下しやすくなる傾向があります。また、長年の生活習慣の影響が血糖値に現れやすくなる時期でもあります。
この年代でも、前述の空腹時血糖100mg/dL未満が正常値の基準となります。しかし、実際には100mg/dLを超えている方も増えてきます。境界型(100~125mg/dL)の範囲にある場合は、本格的な糖尿病への進行を阻止するために、生活習慣の見直しが特に重要となる年代です。健康診断の結果を放置せず、積極的に改善策に取り組むことが推奨されます。
また、この年代以降は他の疾患や服用している薬なども考慮に入れる必要があります。医師は空腹時血糖値だけでなく、個々の健康状態全体を把握した上で、適切なアドバイスを行います。
70歳以上の空腹時血糖正常値目安
70歳以上の高齢者においては、糖尿病の診断基準値自体は変わりませんが、血糖コントロールの目標値については、個々の健康状態や合併症の有無、認知機能などを考慮して柔軟に設定されることが多くなっています。
極端な血糖コントロールを目指すあまり、低血糖を起こしてしまうリスクを避けることが重要になる場合があるためです。高齢者の低血糖は、意識障害や転倒のリスクを高め、QOL(生活の質)を著しく低下させる可能性があります。
そのため、日本糖尿病学会から発表されている高齢者糖尿病の血糖コントロール目標では、年齢や認知機能、ADL(日常生活動作)の状態に応じて、目標とするHbA1cや血糖値の範囲が細かく定められています。
空腹時血糖についても、若年者ほど厳格な「100mg/dL未満」という目標ではなく、個々の全身状態に合わせて、例えば「100~140mg/dL」程度を目標とするなど、より緩やかな目標が設定されることがあります。
重要なのは、単に数値を目標値内にするだけでなく、安全かつ健やかに日常生活を送れるように、医師と相談しながらご自身に合った目標設定をすることです。
空腹時血糖が高い(偏高)場合に考えられる原因
空腹時血糖値が高い状態は、インスリンの働きが不十分であることや、血糖値を上昇させるホルモンの影響が強いことなど、様々な要因が考えられます。主な原因を見ていきましょう。
早朝に空腹時血糖が高くなる現象(暁現象・ソモギー効果)
夜間は通常、インスリンの働きによって血糖値は安定または緩やかに低下します。しかし、早朝に空腹時血糖値が高くなる現象が見られることがあります。これには主に「暁現象」と「ソモギー効果」の二つが関係している場合があります。
- 暁現象(Dawn phenomenon): 健康な人でも、早朝(午前3時~5時頃)にかけて、血糖値を上昇させるホルモン(成長ホルモン、コルチゾールなど)の分泌が増加します。これにより、血糖値が自然と上昇しますが、通常はインスリンの分泌も増えて血糖値は正常範囲に保たれます。しかし、インスリンの分泌や働きが不十分な糖尿病患者さんでは、この早朝のホルモン増加に対応できず、空腹時血糖値が高くなってしまうことがあります。
- ソモギー効果(Somogyi effect): 夜間、インスリン注射などが効きすぎて血糖値が下がりすぎ(低血糖)た反動で、血糖値を上げようとするホルモン(グルカゴン、アドレナリンなど)が過剰に分泌され、その影響で早朝にかけて血糖値が急上昇する現象です。夜間の低血糖に気づかないまま朝を迎えると、空腹時血糖値が高い状態として現れます。
これらの現象は、特にインスリン療法を行っている糖尿病患者さんでよく見られますが、糖尿病ではない人でも軽度の暁現象が見られることはあります。早朝高血糖が見られる場合は、これらの可能性を考慮し、医師と相談して対応を決めることが重要です。
空腹時間が長すぎると血糖は高くなる?
一般的に、血糖値は食事をすることで上昇し、空腹時間が長くなると低下します。しかし、極端に空腹時間が長すぎると、かえって血糖値が上昇することがあります。
これは、体がエネルギー不足を感じると、肝臓に蓄えられているグリコーゲンを分解してブドウ糖を作り出し、血液中に放出する(糖新生)ためです。飢餓状態が続くと、この糖新生が活発になり、結果として空腹時血糖値が高くなることがあります。
例えば、前日の夕食から翌日の検査まで12時間以上空腹にした場合、通常より高めの値が出る可能性もゼロではありません。ただし、検査のための「10時間以上」の空腹は、この糖新生による影響が最小限になるように設定された時間です。極端に長い空腹時間は、日常的な血糖コントロールには推奨されません。規則正しい食事時間を心がけることが大切です。
空腹時血糖値が105mg/dLの場合の評価
空腹時血糖値が105mg/dLという数値は、前述の基準値に照らし合わせると「100mg/dL以上126mg/dL未満」の範囲に該当します。これは、境界型(糖尿病予備群)に分類される数値です。
この数値が出た場合、現時点では糖尿病と診断されるわけではありませんが、将来的に糖尿病を発症するリスクが高い状態にあることを意味します。インスリンの働きが以前より低下している、あるいは分泌量が減少している可能性が考えられます。
この段階で最も重要なのは、「様子を見る」のではなく、積極的に生活習慣を見直すことです。食事の内容や量、運動習慣、睡眠、ストレス管理など、改善できる点がないか確認し、実践することで、血糖値を正常範囲に戻したり、少なくとも糖尿病の発症を遅らせたりすることが期待できます。
医師や管理栄養士に相談し、具体的な改善プランを立てることも有効です。
空腹時血糖値が90mg/dLの場合の評価
空腹時血糖値が90mg/dLという数値は、前述の基準値に照らし合わせると「100mg/dL未満」の範囲に該当します。これは、正常型に分類される数値であり、現時点では血糖コントロールは良好であると考えられます。
血糖値が90mg/dLであることは、インスリンが適切に働き、血糖値が安定している状態を示唆します。これは健康的な糖代謝が行われていることの証拠と言えます。
ただし、この数値が正常範囲内であっても、安心して良いというわけではありません。特に、肥満、運動不足、喫煙、過度の飲酒、家族に糖尿病の人がいるなどのリスク因子がある場合は、今後血糖値が高くなる可能性があります。
良好な状態を維持するためにも、バランスの取れた食事、適度な運動、十分な睡眠、ストレス管理といった健康的な生活習慣を継続することが大切です。定期的な健康診断で血糖値をチェックし続けることも忘れないようにしましょう。
その他の空腹時血糖が高い原因
暁現象や長時間の空腹以外にも、空腹時血糖値が高くなる原因は多岐にわたります。
- 生活習慣の乱れ:
- 過食・偏食: 特に糖質や脂質の多い食事は、インスリンの負担を増やし、血糖コントロールを難しくします。
- 運動不足: 運動は筋肉でのブドウ糖の利用を促進し、インスリンの働きを改善します。運動不足はこれが滞る原因となります。
- 睡眠不足: 睡眠不足は血糖値を調整するホルモンバランスを崩し、インスリン抵抗性を高める可能性があります。
- ストレス: 慢性的なストレスは血糖値を上昇させるホルモン(コルチゾールなど)の分泌を増やします。
- 喫煙: 喫煙はインスリンの働きを妨げ、血糖コントロールを悪化させることが知られています。
- 過度の飲酒: 特に糖質の多いアルコールや、おつまみの食べ過ぎは血糖値に影響します。
- 特定の疾患:
- 膵臓の病気: 慢性膵炎など、膵臓が障害されるとインスリンの分泌能力が低下することがあります。
- ホルモン異常: 甲状腺機能亢進症、先端巨大症、クッシング症候群など、血糖値を上昇させるホルモンが過剰に分泌される病気によって血糖値が高くなることがあります。
- 薬剤の影響: ステロイド薬、一部の降圧薬、精神疾患治療薬など、特定の薬剤が血糖値を上昇させる副作用を持つことがあります。現在服用中の薬がある場合は、医師に相談しましょう。
- 肥満: 特に内臓脂肪の蓄積は、インスリンの働きを妨げるインスリン抵抗性を引き起こしやすく、血糖値を上昇させる大きな要因となります。
これらの原因が単独または複数組み合わさって、空腹時血糖値の上昇につながります。原因を特定し、適切に対処することが血糖コントロールには不可欠です。
空腹時血糖が高い場合の改善策と注意点
空腹時血糖値が高いと指摘されたら、できるだけ早く生活習慣の見直しを始めることが重要です。糖尿病への進行を予防し、健康を維持するための具体的な改善策と注意点を見ていきましょう。
食事習慣の見直しによる空腹時血糖の改善
食事は血糖値に最も直接的に影響します。以下の点を意識して、食事習慣を見直しましょう。
- バランスの取れた食事: 主食(ご飯、パン、麺類)、主菜(肉、魚、卵、大豆製品)、副菜(野菜、きのこ、海藻)を揃え、栄養バランスの良い食事を心がけましょう。
- 糖質の適切な管理: 糖質は血糖値を上昇させる主要な栄養素です。極端な糖質制限は栄養バランスを崩す可能性があるため、医師や管理栄養士と相談しながら、適切な量を摂取することが大切です。特に、砂糖が多く含まれる清涼飲料水やお菓子、菓子パンなどは控えましょう。
- 食物繊維を積極的に摂取: 野菜、きのこ、海藻、豆類、玄米、全粒粉パンなどに多く含まれる食物繊維は、糖質の吸収を穏やかにし、食後の急激な血糖値の上昇(血糖スパイク)を抑える効果があります。食事の最初に野菜やきのこ類を食べる「ベジタブルファースト」もおすすめです。
- 食べる順番: 食物繊維の多い食品(野菜、海藻など)を最初に食べ、次にタンパク質(肉、魚、卵、豆腐など)、最後に糖質の多い主食を食べるようにすると、食後の血糖値の上昇を緩やかにできます。
- 規則正しい食事時間: 毎日ほぼ同じ時間に食事をすることで、体のリズムが整い、血糖値の変動も安定しやすくなります。欠食やまとめ食いは避けましょう。
- ゆっくりよく噛んで食べる: 早食いは血糖値を急激に上昇させやすい傾向があります。時間をかけてゆっくり食べることで、満腹感も得やすくなり、食べ過ぎを防ぐ効果も期待できます。
適度な運動による空腹時血糖の改善
運動は、筋肉が血液中のブドウ糖をエネルギーとして利用するのを促進し、血糖値を下げる効果があります。また、インスリンの働きを改善する効果も期待できます。
- 有酸素運動: ウォーキング、ジョギング、水泳、サイクリングなどの有酸素運動は、血糖値を下げるのに効果的です。1回20~30分以上、週に3~5回行うことを目標にしましょう。運動時間は、食後1~2時間後が最も血糖値が上がりやすいため効果的とされています。
- 筋力トレーニング: スクワットや腕立て伏せなどの筋力トレーニングは、筋肉量を増やし、基礎代謝を高める効果があります。筋肉量が増えると、安静時でもブドウ糖の利用量が増え、血糖コントロールに役立ちます。週に2~3回取り入れるのがおすすめです。
- 日常生活での活動量増加: エレベーターやエスカレーターを使わずに階段を使う、一駅分歩く、買い物は徒歩で行くなど、日常生活の中で意識的に体を動かす習慣をつけるだけでも効果があります。
- 継続が重要: 運動の効果は継続することで得られます。無理のない範囲で、楽しく続けられる運動を見つけましょう。
運動を始める前に、特に持病がある方や高齢の方は、必ず医師に相談してください。
睡眠やストレス管理と空腹時血糖
睡眠不足や慢性的なストレスも、ホルモンバランスを乱し、血糖コントロールに悪影響を与えることが分かっています。
- 質の良い睡眠: 毎日同じ時間に寝起きするなど、規則正しい睡眠習慣を心がけましょう。一般的に、7時間程度の睡眠が推奨されています。寝る前にカフェインやアルコールを摂取したり、スマートフォンやPCの画面を見たりすることは避け、リラックスできる環境を整えましょう。
- ストレス解消: ストレスはコルチゾールなどのホルモンを分泌させ、血糖値を上昇させる可能性があります。自分に合ったストレス解消法(趣味、軽い運動、友人との会話、瞑想など)を見つけ、日常生活に積極的に取り入れましょう。
空腹時血糖が高い場合に医療機関を受診する目安
空腹時血糖値が100mg/dL以上の場合、特に126mg/dL近い、あるいは超えている場合は、必ず医療機関を受診し、詳しい検査を受けることを強く推奨します。
- 空腹時血糖値100mg/dL以上: 境界型に該当するため、この段階で専門家(医師、管理栄養士)に相談し、生活習慣の改善指導を受けることが重要です。放置せず、早めの対応が糖尿病予防につながります。
- 空腹時血糖値126mg/dL以上: 糖尿病型の基準値です。この数値が出た場合は、糖尿病と診断される可能性が非常に高いため、放置は禁物です。できるだけ早く医療機関(内科、糖尿病内科など)を受診し、精密検査と診断を受ける必要があります。
- その他の症状: 空腹時血糖値だけでなく、以下のような糖尿病の典型的な症状がある場合も、すぐに医療機関を受診してください。
- 喉が異常に渇く(多飲)
- 尿の量が多く、回数が増える(多尿)
- 食べても痩せる、体重が急に減る
- 体がだるい、疲れやすい
- 手足のしびれ
- 目がかすむ
- 傷が治りにくい
これらの症状は、血糖値がかなり高い状態が続いているサインである可能性があります。自己判断せず、必ず専門家の診察を受けましょう。
空腹時血糖以外の血糖値について
血糖値の評価には、空腹時血糖以外にもいくつかの指標が用いられます。それぞれの特徴を知ることで、より多角的にご自身の血糖状態を把握できます。
随時血糖の正常値とは
随時血糖とは、食事の時間に関係なく、文字通り「随時(いつでも)」測定した血糖値のことです。食後数時間以内や、空腹時以外の時間帯に測定されます。
随時血糖値の基準値は、空腹時血糖値とは異なります。一般的に、随時血糖値が100~140mg/dL程度であれば、正常範囲内とされることが多いです。ただし、直前の食事内容や運動量によって大きく変動するため、この数値だけで糖代謝異常の有無を診断することは難しいです。
診断においては、糖尿病の典型的な症状(多飲、多尿、体重減少など)がある場合に、随時血糖値が200mg/dL以上であれば、糖尿病型と判断される基準の一つとなります。症状がなく、随時血糖値が高い場合は、空腹時血糖やHbA1c、ブドウ糖負荷試験などの追加検査が必要となります。
随時血糖は、食後の血糖値の変動や、日常的な血糖コントロールの状態を大まかに把握するための目安として利用されます。
食後2時間血糖の正常値とは
食後2時間血糖値とは、食事を開始してからちょうど2時間後に測定した血糖値のことです。食事が血糖値に与える影響を評価するために重要な指標です。
健康な人では、食後2時間後にはインスリンが十分に分泌され、血糖値は食前の値に近いレベルまで戻るか、あるいは少し高い程度に落ち着きます。
日本糖尿病学会の診断基準では、ブドウ糖負荷試験(OGTT)における食後2時間値が140mg/dL未満であれば、正常型と判断されます。ブドウ糖負荷試験とは、空腹時にブドウ糖液を飲み、その後一定時間ごとに血糖値を測定する検査です。この試験で、食後2時間値が140mg/dL以上200mg/dL未満の場合は境界型、200mg/dL以上の場合は糖尿病型と診断される基準となります。
普段の食事における食後2時間血糖値も、糖代謝の状態を知る参考になります。一般的に、通常の食事をとった後の食後2時間血糖値が140mg/dL未満であれば良好とされます。140mg/dLを超える場合は、食後の血糖値上昇が大きい「隠れ高血糖」や「血糖スパイク」の兆候である可能性があり、注意が必要です。
食後2時間血糖値が高い場合は、食後の急激な血糖値上昇を抑えるような食事内容や食べ方(食物繊維を先に摂る、ゆっくり食べるなど)の工夫が有効です。
血糖値の正常値対照表
これまでに説明した主な血糖値の基準値を表で比較してみましょう。診断基準は、検査方法や状況によって異なる点に注意が必要です。
検査の種類 | 測定タイミング/方法 | 正常値(目安) | 境界型(目安) | 糖尿病型(目安) |
---|---|---|---|---|
空腹時血糖値 | 10時間以上絶食後 | 100mg/dL未満 | 100~125mg/dL | 126mg/dL以上 |
随時血糖値 | 食事に関係なく測定 | 100~140mg/dL | - | 200mg/dL以上(※) |
食後2時間血糖値 | 食事開始から2時間後(通常の食事) | 140mg/dL未満 | - | - |
ブドウ糖負荷試験 | ブドウ糖液摂取2時間後(OGTT) | 140mg/dL未満 | 140~199mg/dL | 200mg/dL以上 |
※随時血糖値は、糖尿病の典型的な症状(多飲、多尿、体重減少など)がある場合に診断基準の一つとなります。症状がない場合は、この数値だけでは診断できません。
※上記の数値はあくまで目安です。診断は医師が総合的に行います。
糖化ヘモグロビン(HbA1c)とは
糖化ヘモグロビン(HbA1c:ヘモグロビン・エーワンシー)は、過去1~2ヶ月間の平均的な血糖コントロールの状態を示す非常に重要な指標です。血糖値がその時々の状態を反映するのに対し、HbA1cは長期的な血糖の「履歴」を示します。
血液中のヘモグロビンというタンパク質は、血液中のブドウ糖と結合する性質があります。血糖値が高い状態が続くと、ヘモグロビンとブドウ糖が結合した「糖化ヘモグロビン」が増加します。一度糖化されたヘモグロビンは、赤血球の寿命が尽きるまで(約120日間)そのまま存在するため、HbA1cの値は過去1~2ヶ月間の平均血糖値を反映するのです。
HbA1cの基準値は以下のようになります。
- 正常値: 6.0%未満
- 境界型: 6.0%以上6.5%未満
- 糖尿病型: 6.5%以上
空腹時血糖値が正常でも、HbA1cが高い場合は、食後の血糖値が高い「隠れ高血糖」の状態である可能性が考えられます。逆に、たまたま測定時の空腹時血糖値が高かったとしても、HbA1cが正常範囲であれば、それほど心配ない場合もあります(ただし継続的な観察は必要です)。
HbA1cは、血糖コントロールの状態を継続的に評価したり、治療効果を判定したりするために、非常に有用な検査です。空腹時血糖値と組み合わせて評価することで、より正確な糖代謝の状態が把握することができます。
空腹時血糖に関するよくある質問
空腹時血糖について、皆さんが疑問に思うであろう点にお答えします。
空腹時血糖値の目標設定は?
空腹時血糖値の目標値は、年齢、糖尿病の罹病期間、合併症の有無、重症度、併存疾患、認知機能、ADL(日常生活動作)、使用している薬剤の種類などを考慮して、個々の患者さんごとに設定されます。
一般的な糖尿病治療における血糖コントロールの目標は、合併症予防の観点からHbA1cを7.0%未満に保つことですが、この目標達成のために、空腹時血糖値や食後血糖値も考慮されます。
日本糖尿病学会の目標HbA1c値(JDS値)と、国際標準値(NGSP値)があり、現在はNGSP値が主に使用されています。記事全体でNGSP値を使用しているため、ここでもNGSP値に準拠して解説します。
HbA1c目標値(NGSP値) | 空腹時血糖値の目安 | 状態 |
---|---|---|
6.0%未満 | 80~100mg/dL | 正常値。血糖コントロールが良好 |
7.0%未満 | 100~130mg/dL | 合併症予防のための目標範囲(多くの成人) |
8.0%未満 | 130~160mg/dL | 重症低血糖を起こす危険性が高い場合など |
※これらの空腹時血糖値の目安は、あくまで目標HbA1cを達成するための一般的な参考値であり、個々の状況によって異なります。
例えば、若い方や糖尿病の罹病期間が短い方は、合併症予防のために厳格なコントロール(HbA1c 6.0%台後半、空腹時血糖値100mg/dL前後)を目指すことが多いです。一方、高齢で合併症が進んでいる方や低血糖を起こしやすい方などは、低血糖のリスクを避けるために、より緩やかな目標(HbA1c 7.0%台後半、空腹時血糖値130~160mg/dL程度)が設定されることがあります。
ご自身の目標値については、必ず主治医とよく相談し、一緒に設定するようにしてください。
血糖自己測定(SMBG)について
血糖自己測定(SMBG: Self-Monitoring of Blood Glucose)とは、患者さん自身が簡易血糖測定器を使って、指先などから採取した少量の血液でその場の血糖値を測定することです。
SMBGは、特にインスリン療法を行っている方や、経口血糖降下薬を使用している方にとって、日々の血糖コントロール状態を把握し、治療の効果や問題点(食事内容や運動による血糖変動、低血糖など)を確認するために非常に有用です。
空腹時、食前、食後(1時間後、2時間後など)、就寝前など、医師の指示に従って様々なタイミングで測定することで、ご自身の血糖値の変動パターンを理解し、食事や運動、薬の使い方などを調整するのに役立てられます。
SMBGは、適切な測定方法を習得することが重要です。測定器の操作方法、正しい血液の採取方法、衛生管理などについて、必ず医療スタッフから指導を受けてください。また、測定結果を記録し、次回の診察時に医師に見せることで、より的確な治療方針の決定につながります。
その他よくある質問
- 空腹時血糖値を下げる食事はありますか?
特定の食品だけを食べれば劇的に下がるというものはありませんが、血糖値の上昇を緩やかにする効果が期待できる食品はあります。食物繊維が豊富な野菜、きのこ、海藻、大豆製品、全粒穀物などがおすすめです。調理法も、揚げ物や炒め物より、蒸したり茹でたりする方が、油や糖質の摂取を抑えられます。 - 検査前日に夜更かしすると血糖値に影響しますか?
はい、影響する可能性があります。睡眠不足は血糖値を調整するホルモンバランスを乱し、インスリン抵抗性を高めることが知られています。検査前日は十分な睡眠をとるように心がけましょう。 - 風邪など体調が悪いと血糖値は高くなりますか?
はい、高くなることがあります。感染症などで体に炎症が起きている状態では、血糖値を上昇させるホルモン(コルチゾールなど)が増加し、インスリンの働きが悪くなるため、血糖値が高くなる傾向があります。体調が悪い時は無理せず、医師に相談してください。 - 健康診断で空腹時血糖値が少し高かったのですが、すぐに病院に行った方がいいですか?
空腹時血糖値が100mg/dL以上126mg/dL未満(境界型)だった場合は、すぐに治療が必要というわけではありませんが、放置すると糖尿病へ進行するリスクが高い状態です。この段階で、まずはかかりつけ医に相談し、生活習慣改善のアドバイスを受けることを強く推奨します。必要に応じて、詳しい検査(HbA1c、ブドウ糖負荷試験など)を勧められることもあります。126mg/dL以上の場合は、速やかに医療機関を受診しましょう。
【まとめ】空腹時血糖を知り、健康管理に活かしましょう
空腹時血糖値は、私たちの糖代謝の状態を示す重要な指標であり、糖尿病の早期発見や予防において中心的な役割を果たします。10時間以上の空腹状態で測定されたこの数値が、正常値(100mg/dL未満)、境界型(100~125mg/dL)、糖尿病型(126mg/dL以上)のどの範囲にあるかを知ることは、ご自身の健康状態を把握する第一歩です。
もし空腹時血糖値が基準値を超えていたとしても、過度に心配しすぎる必要はありません。特に境界型であれば、食事の見直し、適度な運動、十分な睡眠、ストレス管理といった生活習慣の改善によって、血糖値を正常範囲に戻したり、糖尿病の発症を予防・遅らせたりすることが十分に可能です。
年齢によって血糖コントロールの目標値が柔軟に設定されることがあること、また空腹時血糖以外にも随時血糖や食後血糖、そして過去1~2ヶ月の平均を示すHbA1cといった指標があることも理解しておきましょう。これらの数値を総合的に評価することで、より正確な糖代謝の状態が把握できます。
定期的な健康診断でご自身の空腹時血糖値やHbA1cをチェックし、その数値の意味を正しく理解することが、日々の健康管理において非常に重要です。もし気になる数値が出た場合や、多飲多尿などの症状がある場合は、自己判断せず、必ず医療機関を受診し、専門家の診断とアドバイスを受けるようにしてください。早期発見、早期対応が、健康寿命を延ばすための鍵となります。
【免責事項】 本記事の情報は、一般的な知識を提供するものであり、特定の個人の病状や診断、治療法に関するアドバイスではありません。健康状態に関する疑問や懸念がある場合は、必ず医療専門家にご相談ください。本記事の情報に基づくいかなる行動についても、筆者および公開者は責任を負いかねます。