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血糖値が高いとどうなる?体に現れるサインと放置の危険性

[2025.06.29]

私たちの体は、食事から摂った糖をエネルギーとして利用するために、血糖値を適切にコントロールしています。血糖値とは、血液中に含まれるブドウ糖の濃度のこと。健康な状態では、インスリンというホルモンの働きによって、食後に上昇した血糖値は速やかに正常な範囲に戻されます。
しかし、さまざまな要因によってこのメカニズムがうまく働かなくなると、血糖値が高い状態が続いてしまうことがあります。

「血糖値が上がると」、一体体にどのような変化が起こるのでしょうか?
多くの場合、血糖値が少し高くなっただけでは、これといった自覚症状がないため気づきにくいものです。しかし、血糖値が高い状態が続いたり、急激に変動したりすることは、全身の血管や神経に負担をかけ、将来的に深刻な健康問題を引き起こすリスクを高めます。
この記事では、血糖値が上がると体に現れる症状から、その原因、そして血糖値が高い状態が引き起こす悪影響、さらには血糖値を適切に管理するための具体的な対策までを詳しく解説します。ご自身の健康状態を確認するためにも、ぜひ最後までお読みください。

血糖値が上がるとどうなる?体に現れる症状

血糖値が高い状態が続いても、初期の段階ではほとんど自覚症状がないことが多いため、「サイレントキラー(静かなる殺し屋)」と呼ばれることもあります。
しかし、血糖値が一定以上に高くなると、体に様々なサインが現れ始めます。その症状は、血糖値の上昇の度合いや、高血糖が続いた期間によって異なります。

血糖値の上昇が軽度な場合

食後に一時的に血糖値が急上昇する「血糖値スパイク」と呼ばれる状態や、血糖値が正常値よりもやや高い状態が続いている段階では、明確な自覚症状がないことが一般的です。しかし、中には以下のような症状を感じる方もいます。

  • 食後の強い眠気やだるさ: 食後に急激に血糖値が上がり、それを下げるためにインスリンが大量に分泌されると、今度は血糖値が急激に下がりすぎてしまうことがあります。この血糖値の大きな変動が、強い眠気や倦怠感、集中力の低下などを引き起こすと考えられています。特に、昼食後に我慢できないほどの眠気に襲われる、といった経験がある場合は、血糖値スパイクの可能性も考えられます。
  • 軽い立ちくらみやめまい: 血糖値の急激な変動が自律神経のバランスを乱し、立ちくらみやめまいを感じることがあります。
  • イライラ感や気分の落ち込み: 血糖値の不安定さは精神的な状態にも影響を与えることがあります。
  • 手足の冷えやしびれ感(軽度): 血管への負担がわずかに始まっている可能性が考えられます。

これらの症状は特異的なものではないため、多くの場合、疲れているだけ、体調が悪いだけ、と見過ごされてしまいがちです。
しかし、このようなサインが頻繁に現れる場合は、血糖値のコントロールに問題がある可能性も考慮し、注意深く観察することが大切です。

血糖値が著しく高い場合:初期症状

血糖値がさらに高くなり、空腹時血糖値が126mg/dL以上やHbA1cが6.5%以上といった基準値を超えてくると、いわゆる糖尿病の初期段階にあたり、比較的気づきやすい自覚症状が現れることがあります。これは、血液中のブドウ糖が多すぎるために、体がブドウ糖を尿として排出しようとしたり、それを補うために水分を欲したり、エネルギー不足になったりすることによって起こります。

  • 喉の渇き(口渇): 血液中の糖分が多くなると、浸透圧が高まり、体内の水分が血液中に引き出されます。これにより脱水気味となり、喉が異常に渇きます。
  • 水分をたくさん摂る(多飲): 喉が渇くため、自然と飲む量が増えます。
  • 尿の量が増える・回数が増える(多尿): 腎臓が血液中の余分な糖分を濾し取って尿と一緒に排出しようとするため、尿の量が多くなり、トイレに行く回数が増えます。特に夜間にトイレに起きる回数が増えることがあります。
  • 体がだるい・疲れやすい(倦怠感): ブドウ糖が体の細胞にうまく取り込まれてエネルギーとして利用されないため、エネルギー不足となり、疲れやすさや全身の倦怠感を感じるようになります。
  • 体重が減る: 糖分がエネルギーとして利用されずに尿と一緒に体外に排出されてしまうため、たくさん食べているつもりでも体重が減少することがあります。これは、インスリンが正常に働かず、ブドウ糖を細胞内に取り込めないために起こる現象です。
  • かすみ目、視力低下: 血糖値が高いと、目のレンズの役割をする水晶体の浸透圧が変化し、一時的に厚みが変わるためピントが合いにくくなり、物がかすんで見えたり、視力が低下したりすることがあります。血糖値が正常に戻ると改善することもありますが、高血糖が続くと糖尿病性網膜症につながるリスクが高まります。
  • 手足のしびれやピリピリ感: 高血糖が続くと、末梢神経が障害され始め、手足の指先などにしびれやジンジン、ピリピリといった異常な感覚が現れることがあります。
  • 傷が治りにくい: 高血糖は免疫機能の低下や血行不良を引き起こし、傷口の治りを遅くします。小さな傷でも化膿しやすくなることもあります。
  • 皮膚のかゆみ: 高血糖による皮膚の乾燥や血行不良、神経障害などが原因で、全身や特定の部分にかゆみを感じることがあります。

これらの初期症状は、血糖値がかなり高くなってから現れることが多いため、このような症状に気づいた時には、すでに糖尿病が進行している可能性も考えられます。
これらの症状を自覚したら、放置せずに早めに医療機関を受診することが非常に重要です。

血糖値がさらに高い場合:危険な状態

血糖値が極めて高い状態が続き、適切な処置がなされないと、命に関わる危険な状態に陥ることがあります。これは、体内のインスリンが極端に不足したり、うまく機能しなくなったりすることで、ブドウ糖をエネルギーとして利用できなくなり、他の方法でエネルギーを得ようとしたり、重度の脱水が起こったりするためです。

  • 糖尿病ケトアシドーシス: インスリンが不足し、体がブドウ糖を利用できない代わりに脂肪を分解してエネルギーを得ようとすると、「ケトン体」という物質が大量に作られます。ケトン体は酸性であるため、血液が酸性に傾き(アシドーシス)、様々な症状を引き起こします。主な症状は、強い腹痛、吐き気、嘔吐、意識障害(意識がぼんやりする、昏睡)、深く速い呼吸(クスマウル呼吸)、アセトン臭(果物のような甘い匂い)のする呼気などです。風邪や感染症、ストレスなどをきっかけに急激に発症することがあります。
  • 高浸透圧高血糖状態: 血糖値が非常に高くなり(しばしば600mg/dL以上)、同時に重度の脱水が起こった状態です。高齢者や自分で水分補給が十分にできない方に起こりやすい傾向があります。意識障害(傾眠、昏睡)、脱力感、片麻痺や感覚障害などの神経症状が見られることがあります。ケトアシドーシスとは異なり、ケトン体の上昇は軽度です。
  • 感染症の重症化: 高血糖状態では免疫機能が低下しており、様々な感染症にかかりやすくなるだけでなく、一度かかると重症化しやすくなります。特に肺炎、尿路感染症、皮膚感染症、足の感染症などが問題となりやすく、命に関わる場合もあります。
  • 糖尿病昏睡: 糖尿病ケトアシドーシスや高浸透圧高血糖状態が進行すると、意識を失い昏睡状態に陥ります。これは非常に危険な状態であり、速やかに医療機関で適切な治療を受ける必要があります。

これらの危険な状態は、適切な治療が行われないと数時間から数日のうちに命に関わることもあります。特に、すでに糖尿病と診断されている方や、高血糖の症状がある方が、感染症にかかったり、食事やインスリン注射などの治療を自己判断で中断したりした場合に起こりやすいため注意が必要です。このような症状が現れた場合は、一刻も早く救急医療機関を受診してください。

血糖値が高い状態が体に与える影響は、このように段階的に現れます。初期の軽微な症状から、進行すると危険な状態まで様々なサインがあります。ご自身の体調の変化に注意を払い、気になる症状があれば放置せず専門家に相談することが大切です。

血糖値が上がる原因とは?

血糖値が上がる、つまり血液中のブドウ糖の濃度が高くなる状態は、食事から摂取した糖分が体内でうまく利用されずに血液中に留まってしまうことによって起こります。この状態を引き起こす原因は一つだけでなく、様々な要因が複雑に絡み合っています。インスリンの分泌量が不足したり、インスリンが分泌されてもその効果が十分に発揮されなかったり(インスリン抵抗性)することが主なメカニズムです。

日常生活における主な原因

私たちが普段送っている生活習慣が、血糖値に大きな影響を与えています。特に以下のような要因は、慢性的な高血糖状態を引き起こすリスクを高めます。

  • 不規則な食生活: 毎日決まった時間に食事を摂らなかったり、食事の間隔が空きすぎたりすると、血糖値のコントロールが不安定になりやすいです。特に、朝食を抜いて昼食や夕食でまとめて食べる、といった「欠食」は、その後の食事で血糖値が急激に上がりやすくなる原因となります。
  • 高糖質・高脂質の食事: ご飯、パン、麺類などの炭水化物や、砂糖が多く含まれるお菓子、ジュース類は血糖値を直接的に上昇させます。また、揚げ物や肉の脂身などの脂質を摂りすぎると、インスリンの働きが悪くなり(インスリン抵抗性の増大)、血糖値が下がりくくなります。
  • 過食: 必要以上に多くのカロリーを摂取することは、体重増加につながり、インスリン抵抗性を高める大きな原因となります。
  • 早食い: 食事を早く済ませると、血糖値が急激に上昇しやすくなります。これは、血糖値を下げるホルモンであるインスリンの分泌が、血糖値の上昇に追いつかないためです。よく噛んでゆっくり食べることで、血糖値の上昇を緩やかにすることができます。
  • 運動不足: 運動は筋肉がブドウ糖をエネルギーとして利用するのを促進し、インスリンの働きを改善します。運動する機会が少ないと、ブドウ糖が効率よく消費されず、血糖値が高いままになりやすくなります。特に、食後の活動量が少ないと、食後高血糖の状態が長く続いてしまいます。
  • ストレス: 精神的なストレスがかかると、コルチゾールやアドレナリンといったストレスホルモンが分泌されます。これらのホルモンは血糖値を上げる働きがあるため、慢性的なストレスは血糖値のコントロールを乱す原因となります。
  • 睡眠不足: 睡眠時間が不足したり、睡眠の質が悪かったりすると、ホルモンバランスが崩れ、インスリンの働きが悪くなることがわかっています。また、睡眠不足は食欲を増進させるホルモンに影響を与え、高カロリーなものを食べたくなる傾向を強めることもあります。
  • 喫煙: 喫煙は血管を傷つけ、インスリンの働きを妨げる(インスリン抵抗性を高める)ことが知られています。また、喫煙は糖尿病の合併症のリスクを著しく高めます。
  • 過度な飲酒: アルコール自体は血糖値を下げる作用もありますが、飲みすぎると肝臓に負担をかけたり、おつまみで糖質や脂質を摂りすぎたりすることで、血糖値のコントロールを乱します。特に、清涼飲料水で割ったカクテルなどは糖分が多く含まれているため注意が必要です。
  • 加齢: 年齢を重ねるとともに、インスリンの分泌能力が低下したり、インスリン抵抗性が増大したりする傾向があり、血糖値が上がりやすくなります。
  • 遺伝的要因: 糖尿病になりやすい体質は遺伝することがあります。親や兄弟に糖尿病の方がいる場合は、そうでない方よりも糖尿病になるリスクが高いと考えられます。
  • 特定の薬剤: ステロイド薬や一部の降圧薬など、特定の薬剤の使用によって血糖値が上昇することがあります。

これらの日常生活における要因は、単独で血糖値を上げるだけでなく、複数組み合わさることでさらに影響が大きくなることがあります。例えば、運動不足で体重が増加し、さらにストレスが多いといった状況は、血糖値が上がりやすい典型的なパターンと言えます。

血糖値を急に上げる原因

食後に血糖値が急激に上昇する「血糖値スパイク」は、特に健康診断などで異常を指摘されていない方でも起こりうる状態であり、将来的な糖尿病のリスクを高めるだけでなく、血管に大きな負担をかけることがわかっています。血糖値を急激に上げる主な原因は、以下のような食事の摂り方や食品にあります。

  • 空腹時に糖質の多いものを摂取する: 長時間何も食べずに空腹の状態が続いた後で、いきなりご飯、パン、麺類といった主食や、お菓子、ジュースなどの糖質を多く含むものを摂ると、ブドウ糖が一気に血液中に流れ込み、血糖値が急激に上昇します。
  • 早食い: 食事の時間が短いと、消化吸収が早く進み、ブドウ糖が急速に血液中に取り込まれます。前述の通り、これによりインスリンの分泌が追いつかずに血糖値が急上昇します。
  • 清涼飲料水やジュース: 液体であるため消化吸収が非常に早く、大量の糖分が一気に血糖値を押し上げます。これは血糖値スパイクを引き起こす典型的な原因の一つです。スポーツドリンクや果汁100%ジュースでも、糖分が多く含まれているため注意が必要です。
  • 菓子パンやスイーツ: 糖質と脂質の両方を多く含むこれらの食品は、血糖値を上げやすく、さらにインスリン抵抗性を高める可能性もあります。
  • 食物繊維が少ない食事: 食物繊維は糖の吸収を緩やかにする働きがあります。野菜やきのこ、海藻などが少ない食事では、糖質が早く吸収され、血糖値が上がりやすくなります。
  • 食べる順番: 食事の最初に炭水化物や糖質の多いものを食べると、血糖値が急上昇しやすくなります。後述する「食べる順番」を意識することで、血糖値の急激な上昇を抑えることができます。

血糖値を急に上げる食習慣は、自覚症状がない場合でも血管にダメージを与えている可能性があります。日々の食生活の中で、何をどのように食べるかを少し意識するだけで、血糖値の急上昇を防ぎ、体の負担を減らすことにつながります。

このように、血糖値が上がる原因は多岐にわたります。遺伝的な要因や加齢など自分では変えられない部分もありますが、食生活や運動習慣、ストレス管理といった日常生活の多くの部分は、自分の意識と努力によって改善することができます。これらの原因を理解することが、血糖値の適切な管理への第一歩となります。

血糖値の急上昇や高い状態が続くことの悪影響

血糖値が高い状態が一時的であれば大きな問題にならないこともありますが、食後に急激に変動したり(血糖値スパイク)、慢性的に高い状態が続いたりすることは、私たちの体に様々な悪影響を及ぼします。これらの悪影響は、すぐに現れるものから、何年もかけて徐々に進行するものまであり、放置すると深刻な病気につながる可能性があります。

急上昇による体への影響(眠気、太るメカニズムなど)

血糖値スパイクのように、食後に血糖値が急激に上昇し、その後インスリンの過剰分泌によって急降下するような血糖値の大きな変動は、短期的には以下のような症状を引き起こします。

  • 強い眠気やだるさ、集中力低下: 前述の通り、血糖値の急激な変動が引き起こすインスリンの大量分泌とその後の血糖値の急降下は、脳のエネルギー不足を招き、眠気、だるさ、倦怠感、集中力の低下といった症状を引き起こすことがあります。仕事中や勉強中にこうした症状が現れると、パフォーマンスの低下につながります。
  • イライラや気分の不安定: 血糖値のジェットコースターのような変動は、精神的な安定性にも影響を与え、イライラしたり、気分が落ち込んだりすることがあります。

さらに、血糖値スパイクが繰り返されることは、長期的な健康問題にもつながります。

  • 脂肪蓄積の促進: 血糖値が急上昇すると、それを下げるためにインスリンが大量に分泌されます。インスリンには、ブドウ糖を脂肪として蓄える働きがあります。したがって、血糖値スパイクが頻繁に起こると、インスリンの過剰な分泌が繰り返され、体脂肪、特に内臓脂肪が蓄積されやすくなります。これが「血糖値が高いと太る」と言われるメカニズムの一つです。
  • 血管へのダメージ: 血糖値が急激に上昇すると、血管の内側にある血管内皮細胞に大きな負担がかかり、傷つきやすくなります。これにより、血管の柔軟性が失われたり、炎症が起きやすくなったりします。これが動脈硬化の始まりとなる可能性が指摘されています。
  • 酸化ストレスの増大: 高血糖状態は、体内で有害な活性酸素を増加させ、細胞や組織を傷つける「酸化ストレス」を高めます。これも血管をはじめとする様々な組織へのダメージにつながります。

血糖値スパイクは、健康診断の空腹時血糖値が正常でも起こりうるため、気づきにくいのが特徴です。しかし、その影響は小さくなく、毎日の食習慣の積み重ねが将来の健康に影響を与えることを理解することが重要です。

高い状態が続くことによる影響(合併症)

血糖値が高い状態(高血糖)が数年、あるいは数十年と長く続くことの最も深刻な悪影響は、全身の血管や神経が徐々に障害され、様々な合併症を引き起こすことです。これらの合併症は不可逆的な場合が多く、生活の質を著しく低下させたり、命に関わることもあります。糖尿病の代表的な合併症は、障害される血管の太さによって「細小血管合併症」と「大血管合併症」に分けられます。

細小血管合併症: 体の細い血管が障害されることで起こる合併症です。主に以下の3つが代表的です。

  • 糖尿病性神経障害: 糖尿病の合併症の中で最も早くから現れやすいとされています。高血糖により末梢神経への血流が悪くなったり、神経細胞そのものがダメージを受けたりすることで起こります。
    • 感覚神経障害: 手足、特に足の指先や足の裏で、しびれ、痛み(特に夜間)、焼けるような痛み、ピリピリ感、または逆に感覚が鈍くなる(触っても感じにくい、熱い・冷たいが分かりにくい)といった症状が現れます。感覚が鈍くなると、足の傷や火傷に気づきにくくなり、足病変のリスクが高まります。
    • 運動神経障害: 進行すると、手足の筋力が低下したり、細かい動きが難しくなったりすることがあります。
    • 自律神経障害: 自分の意思とは関係なく体の機能を調節している自律神経が障害されることで、様々な症状が現れます。
      • 胃腸の動きが悪くなる(胃もたれ、吐き気、便秘と下痢を繰り返す)
      • 立ちくらみやめまい(起立性低血圧)
      • 発汗異常(汗をかきすぎる、または全くかかない)
      • 排尿障害(頻尿、残尿感、尿が出にくい)
      • 勃起不全(ED)
      • 不整脈
      • 無自覚性低血糖(低血糖になっても症状が出にくく、重症化しやすい)
  • 糖尿病性網膜症: 目の奥にある光を感じる組織である網膜の血管が障害される病気です。初期には自覚症状がほとんどなく、進行すると視力低下、飛蚊症(目の前に虫のようなものが飛んで見える)、かすみ目などが現れ、最終的には失明に至ることもあります。糖尿病網膜症は、成人の失明原因の上位を占めています。定期的な眼科での検査が非常に重要です。
  • 糖尿病性腎症: 腎臓の細い血管(糸球体)が障害され、腎臓の機能が低下していく病気です。腎臓は血液を濾過して老廃物を尿として排出する働きをしていますが、腎症が進行するとこの働きが衰えます。
    • 初期には自覚症状がなく、尿の中にタンパク質が漏れ出る「タンパク尿」が最初の兆候となることが多いです。
    • 進行すると、むくみ(特にまぶたや足)、貧血、血圧の上昇などが現れます。
    • さらに進行すると、腎不全となり、体内の老廃物や水分が十分に排出できなくなり、最終的には人工透析や腎移植が必要となります。人工透析が必要となる原因の約半数は糖尿病性腎症です。

大血管合併症: 体の比較的太い血管(動脈)が障害されることで起こる合併症です。高血糖やそれに伴う脂質異常症、高血圧などが組み合わさることで、動脈硬化(血管が硬くなり、狭くなること)が急速に進行します。

  • 動脈硬化: 糖尿病患者さんでは、高血糖が血管壁にダメージを与え、炎症を引き起こし、悪玉コレステロールなどが血管壁に蓄積しやすくなります。これにより、プラークと呼ばれる塊ができ、血管の内腔を狭めたり、硬くしたりする動脈硬化が促進されます。
  • 虚血性心疾患: 心臓に血液を送る冠動脈の動脈硬化が進むと、血管が狭くなり、心臓の筋肉に十分な血液が供給されなくなります。
    • 狭心症: 労作時などに一時的な胸の痛みや圧迫感が生じます。
    • 心筋梗塞: 冠動脈が完全に詰まり、心臓の筋肉の一部が壊死する重篤な病気です。命に関わることも多く、糖尿病患者さんでは典型的な胸の痛みが現れにくい「無痛性心筋梗塞」を起こすこともあるため注意が必要です。
  • 脳血管障害: 脳に血液を送る血管の動脈硬化が進むと、血管が詰まったり破れたりします。
    • 脳梗塞: 脳の血管が詰まり、その先の脳組織に血液が届かなくなる病気です。手足の麻痺、ろれつが回らない、顔の歪み、感覚障害などの症状が現れます。
    • 脳出血: 脳の血管が破れて出血する病気です。突然の頭痛、意識障害、手足の麻痺などの症状が現れます。
    • 糖尿病患者さんでは、これらの脳血管障害を起こすリスクが健常者に比べて数倍高いことがわかっています。
  • 閉塞性動脈硬化症: 足の血管の動脈硬化が進み、血管が狭くなったり詰まったりする病気です。足への血流が悪くなるため、歩くとふくらはぎなどが痛くなり休むと回復する「間欠性跛行」という特徴的な症状が現れます。進行すると、安静時にも足が痛んだり、足にできた傷や潰瘍が治りにくくなったり、最終的には足指や足の一部が壊疽(組織が死ぬこと)を起こし、切断が必要になることもあります(糖尿病足病変)。神経障害による感覚麻痺も相まって、足の異常に気づきにくいことが問題を深刻化させます。

その他の合併症:

  • 感染症: 前述の通り、高血糖は免疫機能を低下させるため、肺炎、尿路感染症、皮膚の感染症(化膿)、カンジダ症など、様々な感染症にかかりやすくなり、治りにくくなります。
  • 歯周病: 糖尿病と歯周病は相互に悪影響を及ぼす関係にあります。高血糖は歯周病を悪化させ、歯周病はインスリン抵抗性を高めると考えられています。
  • 認知症: 糖尿病がある人は、認知症(特にアルツハイマー型認知症や血管性認知症)になるリスクが高いことが指摘されています。高血糖による脳血管の障害や炎症などが関与していると考えられています。
  • 骨粗鬆症: 糖尿病患者さんでは骨密度が低下し、骨折しやすくなるリスクが高いことがわかっています。

このように、血糖値が高い状態が続くことは、全身の様々な臓器にダメージを与え、深刻な合併症を引き起こします。これらの合併症の多くは、一度発症すると完全に元の状態に戻すことが難しく、生活の質を著しく低下させたり、早期の死亡につながったりします。そのため、血糖値を適切にコントロールし、これらの合併症を予防したり、早期に発見して進行を遅らせたりすることが非常に重要になります。合併症は自覚症状がないまま進行することも多いため、定期的な医療機関での検査を受けることが何よりも大切です。

血糖値を上げないための対策

血糖値を適切に管理し、高血糖や血糖値スパイクを防ぐためには、日々の生活習慣の見直しが非常に効果的です。特に食事療法と運動療法は、血糖値コントロールの基本となります。

食事療法

食事は血糖値に最も直接的に影響を与える要因です。何を、どれだけ、どのように食べるかを工夫することで、血糖値の急激な上昇を抑え、安定した血糖値を保つことができます。

  • 食べる順番を意識する: 食事の際に、まず野菜やきのこ、海藻類といった食物繊維が豊富なものから食べ始め、次にお肉、魚、卵、豆腐などのタンパク質や脂質のおかず、最後に炭水化物(ご飯、パン、麺類)を食べるようにします。食物繊維は糖の吸収を遅らせる働きがあるため、最初に食べることで食後の血糖値の急激な上昇を抑えることができます。これを「ベジタブルファースト」や「カーボラスト」と呼びます。
  • PFCバランスを考慮する: PFCとは、エネルギー産生栄養素であるProtein(タンパク質)、Fat(脂質)、Carbohydrate(炭水化物)のことです。これらの栄養素を適切なバランスで摂取することが重要です。糖質(炭水化物から食物繊維を除いたもの)の摂りすぎは血糖値を直接的に上昇させるため、適量に抑える必要があります。タンパク質や良質な脂質もバランス良く摂ることで、血糖値のコントロールをサポートします。ただし、極端な糖質制限は栄養バランスを崩す可能性もあるため、専門家と相談しながら行うのが良いでしょう。
  • 食物繊維を積極的に摂る: 食物繊維は、血糖値の上昇を緩やかにするだけでなく、満腹感を与えて食べすぎを防いだり、腸内環境を整えたりと、様々な健康効果があります。野菜、きのこ、海藻、こんにゃく、豆類、全粒穀物などに豊富に含まれています。毎食、野菜やきのこなどをたっぷり食べるように心がけましょう。
  • GI値(グリセミックインデックス)を参考にする: GI値とは、食品に含まれる糖質がどれくらいの速さで血糖値を上げるかを示す指標です。GI値の高い食品(白米、食パン、砂糖など)は血糖値を急激に上げやすい一方、GI値の低い食品(玄米、ライ麦パン、野菜など)は血糖値の上昇を緩やかにします。全ての食事でGI値を厳密に意識する必要はありませんが、主食などを選ぶ際に参考にするのは有効です。
    • 参考例:GI値の比較(一般的な食品)
      食品 GI値 分類(目安)
      食パン 95 高GI
      白米 88 高GI
      うどん 80 高GI
      じゃがいも 90 高GI
      砂糖 109 高GI
      パスタ(全粒粉) 50 低GI
      そば 54 低GI
      玄米 55 低GI
      ライ麦パン 58 低GI
      ほとんどの野菜 ~50 低GI
      きのこ類 ~30 低GI
      海藻類 ~20 低GI
      牛乳 25 低GI
      ヨーグルト 36 低GI

      ※GI値は調理法や組み合わせによって変動します。あくまで目安としてください。一般的にGI値70以上が高GI、56〜69が中GI、55以下が低GI食品とされています。

  • 飲み物に注意する: 砂糖が多く含まれる清涼飲料水、ジュース、加糖コーヒー・紅茶などは、大量の糖分を短時間で摂取することになり、血糖値を急激に押し上げます。これらは避け、水やお茶(無糖)を飲むようにしましょう。牛乳や無糖のヨーグルトなども、比較的血糖値を上げにくい飲み物です。
  • 間食やデザートの選び方: 食べるなら、食物繊維やタンパク質を含むもの(ナッツ類、無糖ヨーグルト、チーズ、果物少量など)を選び、時間帯や量に注意しましょう。空腹時の甘いお菓子やジュースは血糖値スパイクの典型的な原因です。
  • 規則正しい時間に、適切な量を食べる: 毎日決まった時間に食事を摂ることで、体のリズムが整い、血糖値のコントロールがしやすくなります。また、一度にたくさん食べるのではなく、腹八分目を心がけ、適切な食事量を守ることが大切です。自分の適量がわからない場合は、医療機関や管理栄養士に相談してみましょう。
  • よく噛んでゆっくり食べる: 満腹感を感じやすくなり食べすぎを防げるだけでなく、糖の消化吸収を緩やかにし、血糖値の急上昇を抑える効果もあります。一口あたり30回程度を目安に、時間をかけて食事を楽しみましょう。

運動療法

運動は、ブドウ糖をエネルギーとして消費し、インスリンの働きを改善することで血糖値を下げる効果があります。食事療法と組み合わせて行うことで、より効果的に血糖値をコントロールすることができます。

  • 食後1~2時間後に行う: 食後1~2時間は、食事によって血糖値が上がり始める時間帯です。このタイミングで体を動かすと、筋肉が血液中のブドウ糖を効率的に取り込んでくれるため、食後高血糖を抑えるのに効果的です。
  • 有酸素運動: ウォーキング、ジョギング、水泳、サイクリング、ダンスなど、軽い負荷を継続的にかける運動です。これらの運動は、体脂肪を燃焼させるとともに、筋肉がブドウ糖を利用する能力を高めます。
    • 目安: 週に3~5回、1回あたり20~60分程度行うのが推奨されています。少し息が弾む程度の「ややきつい」と感じる強度で行うのが効果的ですが、無理のない範囲で継続することが最も重要です。ウォーキングであれば、1日合計で30分以上を目指すのが一般的な目標となります。
  • 無酸素運動(筋力トレーニング): スクワット、腕立て伏せ、腹筋などの筋肉に負荷をかける運動です。筋力トレーニングを行うことで筋肉量が増加し、基礎代謝が向上するだけでなく、筋肉自体がブドウ糖を取り込む能力が高まります。
    • 目安: 週に2~3回、無理のない範囲で行うのが良いでしょう。大きな筋肉(太もも、背中、胸など)を意識して行うと効果的です。
  • 日常生活に運動を取り入れる: エレベーターやエスカレーターではなく階段を使う、一駅分歩く、買い物は歩いて行くなど、普段の生活の中で体を動かす機会を増やすことも有効です。座っている時間を減らし、こまめに体を動かすだけでも効果があります。
  • 無理なく継続できる運動を選ぶ: どんなに効果的な運動でも、続けられなければ意味がありません。自分が楽しいと思える運動や、生活スタイルに合った運動を選び、習慣化することが大切です。家族や友人と一緒に運動するのも良いでしょう。

食事療法と運動療法は、どちらか一方だけでなく、両方をバランス良く行うことが血糖値コントロールには最も効果的です。

その他の生活習慣の改善

食事と運動以外にも、血糖値に影響を与える生活習慣があります。これらの改善も、血糖値の管理には欠かせません。

  • 質の良い睡眠を確保する: 睡眠不足はインスリンの働きを妨げ(インスリン抵抗性の増大)、血糖値を上げやすくすることがわかっています。また、睡眠不足は食欲をコントロールするホルモンバランスを崩し、高カロリーなものを食べたくなる傾向を強めます。毎日7時間程度の睡眠を目標にし、規則正しい時間に寝起きするように心がけましょう。寝る前にカフェインやアルコールを摂りすぎない、寝室の環境を整えるなども質の良い睡眠につながります。
  • ストレスを管理する: ストレスは血糖値を上げるホルモン(コルチゾールなど)の分泌を促進します。自分に合ったストレス解消法を見つけ、日頃からストレスを溜め込まないようにすることが大切です。軽い運動、趣味、リラクゼーション(深呼吸、瞑想、アロマテラピーなど)、十分な睡眠などはストレス管理に有効です。
  • 禁煙する: 喫煙は血管を傷つけ、インスリンの働きを悪くするだけでなく、糖尿病の合併症(特に動脈硬化性疾患)のリスクを著しく高めます。血糖値のコントロールを良好に保つためにも、禁煙は必須です。禁煙外来や禁煙補助薬なども活用しましょう。
  • 適量の飲酒にする、または控える: アルコールは肝臓での糖新生(糖を作る働き)を抑制し、血糖値を一時的に下げることもありますが、飲みすぎは肝臓に負担をかけたり、インスリンの働きを妨げたりします。また、アルコールに含まれるカロリーや、一緒に食べるおつまみによる糖質・脂質の摂りすぎも問題です。アルコールを飲む場合は、種類(糖質の少ないものを選ぶ)や量に注意し、週に数日は休肝日を設けるようにしましょう。

これらの生活習慣の改善は、血糖値だけでなく、血圧や脂質異常症など、他の生活習慣病のリスクを減らすことにもつながります。

血糖値のコントロールは、一朝一夕にできるものではありません。日々の意識と継続的な努力が大切です。目標を立て、無理のない範囲で少しずつでも良いので、できることから始めてみましょう。

まとめ|血糖値の異常を感じたら医療機関へ

血糖値が高い状態が続くと、最初はほとんど自覚症状がなくても、徐々に体に負担をかけ、将来的に様々な深刻な病気(糖尿病合併症)を引き起こすリスクを高めます。喉の渇き、多尿、体重減少、倦怠感といった症状が現れた時には、すでに血糖値がかなり高い状態である可能性も考えられます。さらに血糖値が著しく高くなると、命に関わる危険な状態に陥ることもあります。

血糖値が高い原因は、食生活や運動不足といった生活習慣が大きく関わっています。しかし、遺伝や加齢なども影響するため、完全に自分でコントロールできるものではありません。

血糖値を適切に管理し、合併症を防ぐためには、食事療法、運動療法を中心とした生活習慣の改善が非常に重要です。食べる順番、食物繊維、PFCバランスを意識した食事、食後に行う有酸素運動や筋力トレーニング、そして質の良い睡眠、ストレス管理、禁煙、適量の飲酒といった生活習慣の見直しは、血糖値コントロールに大きな効果を発揮します。

しかし、これらの対策を行っても血糖値が改善しない場合や、すでに高血糖の症状がある、健康診断で血糖値の異常を指摘された、ご家族に糖尿病の方がいるなど、血糖値に関する不安がある場合は、自己判断せずに必ず医療機関を受診してください。

医療機関では、血糖値やHbA1cなどの検査を行い、現在の血糖値の状態を正確に把握できます。検査結果に基づいて、医師が個々の状況に合わせた適切なアドバイスや治療(薬物療法など)を行います。早期に血糖値の異常を発見し、適切な管理を開始することが、将来の健康を守るために最も重要です。専門家である医師や管理栄養士、看護師と連携しながら、ご自身の血糖値と向き合っていくことが、健康で質の高い生活を長く続けるための鍵となります。

※本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の疾患の診断や治療法を推奨するものではありません。ご自身の健康状態に関しては、必ず医療機関で専門家の診断と指導を受けてください。

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