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インスリン注射の正しい打ち方・手順【初めてでも失敗しない】

[2025.06.29]

糖尿病と診断され、インスリン療法を開始することになった方へ。自己注射は初めてだと不安を感じるかもしれませんが、正しい知識と手順を身につければ、安全に毎日行うことができます。

この記事では、インスリン注射の正しい打ち方、最適な注射部位、詳しい手順、痛みを和らげるコツ、そしてよくある疑問について、分かりやすく解説します。安全で効果的な自己注射のために、ぜひ最後までお読みください。

インスリン注射の基礎知識

インスリンとは?役割を解説

インスリンは、膵臓のランゲルハンス島という場所で作られるホルモンです。私たちの体にとって非常に重要な役割を果たしています。

主な役割は、血液中のブドウ糖(血糖)を細胞に取り込ませることです。食事をすると血糖値が上昇しますが、インスリンが働くことで、ブドウ糖は肝臓や筋肉、脂肪細胞などに運ばれてエネルギーとして使われたり、貯蔵されたりします。これにより、血糖値は適切な範囲に保たれるのです。

インスリンは、血糖値を下げる働きを持つ唯一のホルモンです。このバランスが崩れると、血糖値が高くなりすぎてしまい、糖尿病という状態になります。

なぜインスリン注射が必要なのか

糖尿病になると、膵臓からのインスリン分泌が不足したり、体内でインスリンがうまく作用しなくなったりします。その結果、血糖値が高い状態が続き、全身の様々な臓器に合併症を引き起こすリスクが高まります。

食事療法や運動療法、飲み薬による治療でも血糖コントロールが難しい場合、不足しているインスリンを体外から補う必要があります。インスリンは消化管で分解されてしまうため、飲み薬として服用しても効果がありません。そのため、直接体内に吸収させるために注射という方法が用いられるのです。

特に、1型糖尿病のように膵臓からのインスリン分泌がほとんどない場合や、2型糖尿病でも病状が進んでインスリン分泌が著しく低下している場合、また一時的に血糖コントロールが非常に悪化した場合などに、インスリン注射が必要となります。自己注射は、ご自身の血糖値や生活スタイルに合わせてインスリン量を調整できるという大きなメリットがあります。

インスリン注射の種類と特徴

インスリン製剤には、効果が現れるまでの時間(作用発現時間)や効果が持続する時間(作用持続時間)によって、いくつかの種類があります。患者さんの病状やライフスタイルに合わせて、適切な製剤が医師によって選択されます。

主なインスリン製剤の種類は以下の通りです。

  • 超速効型インスリン製剤:
    注射後5~15分で効果が現れ始め、1~2時間でピークを迎え、3~5時間持続します。
    主に食事の直前(食直前)に注射し、食後の急激な血糖上昇を抑える目的で使用されます。
  • 速効型インスリン製剤:
    注射後30分~1時間で効果が現れ始め、2~4時間でピークを迎え、5~8時間持続します。
    超速効型と同様に食前(食事の30分前が一般的)に注射されます。
  • 中間型インスリン製剤:
    注射後1~3時間で効果が現れ始め、8~12時間でピークを迎え、18~24時間持続します。
    1日1~2回の注射で、基礎的なインスリン分泌を補う目的で使用されます。製剤によっては使用前に懸濁(混ぜ合わせる)が必要です。
  • 混合型インスリン製剤:
    超速効型または速効型と中間型を特定の割合で混合した製剤です。
    1回の注射で食後の血糖上昇と基礎的な血糖コントロールの両方を補うことができます。1日2回、朝夕食前に使用されることが多いです。これも使用前に懸濁が必要です。
  • 持効型インスリン製剤:
    注射後1~2時間で効果が現れ始め、ピークがなくほぼ平坦な作用が24時間以上持続します。
    中間型と同様に基礎的なインスリン分泌を補う目的で使用され、通常1日1回の注射です。

これらの製剤は、使いやすいペン型注射器(インスリンペン)として提供されていることがほとんどです。ペン型注射器には、あらかじめインスリン製剤が充填されている「キット製剤」と、インスリンカートリッジをセットして使用するタイプがあります。どちらも、必要な単位数をダイヤルで簡単に設定し、注射ボタンを押すことで薬液が注入される仕組みになっています。

インスリン注射の正しい打ち方・手順

インスリンの自己注射は、正確な手技が血糖コントロールに直結します。落ち着いて、正しい手順で行いましょう。

自己注射に必要な物品の準備

自己注射を始める前に、必要なものがすべて揃っているか確認しましょう。

  • インスリン製剤(ペン型注射器): 処方された種類と量のもの。
  • 注射針: インスリンペン専用の使い捨て針。毎回新しいものを使用します。
  • アルコール綿または消毒液: 注射部位の消毒に必要です。
  • 使用済み注射針の廃棄容器: 安全に針を捨てるための専用容器(ペットボトルなど硬い容器で代用する場合もありますが、医療機関の指示に従ってください)。
  • 必要に応じて、記録のための手帳や血糖測定器。

注射前の確認事項(有効期限、単位、製剤の状態など)

注射を始める前に、いくつかの重要な確認を行いましょう。

  1. 製剤の種類と単位数: 処方されたインスリン製剤が正しい種類であるか(例: 超速効型、持効型など)、そして注射する単位数が医師から指示された通りであるか、必ず確認します。特に複数の製剤を使用している場合は、間違えないように注意が必要です。
  2. 製剤の状態:
    超速効型、速効型、持効型は通常、透明な液です。濁りや沈殿がないか確認します。
    中間型や混合型は懸濁液(濁った液)です。使用前に添付文書に従って十分に混和(混ぜる)し、均一に濁っているか確認します。振るのではなく、優しく上下に転がす、あるいは上下にゆっくり反転させる方法が推奨されます(製剤によって異なるため、説明書を確認)。
  3. 有効期限: インスリン製剤の箱やペンに記載されている有効期限を確認します。期限切れのものは使用しないでください。
  4. 温度: 使用中のインスリン製剤は、室温(1~30℃)で保管できますが、凍結や高温は避けてください。冷蔵庫から出したばかりの冷たい製剤は痛みを伴うことがあるため、しばらく室温に置いてから使用すると良いでしょう。

具体的な注射の手順

ここでは、一般的なペン型注射器を使った自己注射の手順を解説します。使用するペン型注射器の種類によって、細部が異なる場合があるため、必ず製品に付属の取扱説明書もご確認ください。

注射器(ペン型)の準備

  1. キャップを外す: インスリンペンのキャップを外します。
  2. 新しい注射針を取り付ける: 新しい、滅菌された注射針の保護シールを剥がし、インスリンペンの先端にまっすぐねじ込んでしっかりと取り付けます。針には内側のキャップと外側のキャップがあるので、両方がついていることを確認して取り付けます。
  3. 空打ち(安全性試験と空気抜き): 薬液が正しく出るか、また針やペン内に空気が入っていないかを確認するため、「空打ち」を行います。通常、1~2単位(製剤によって異なるので取扱説明書参照)にダイヤルを合わせ、針先を上に向けて注射ボタンを押し、薬液が針先から出るのを確認します。薬液が出ない場合は、針が詰まっているか、取り付けが不十分である可能性があります。再度空打ちを行うか、新しい針に交換してください。
  4. 単位設定: 医師から指示された単位数に、正確にダイヤルを合わせます。ダイヤルが回しにくい場合は、無理に回さず医療機関に相談してください。

注射部位の決定と消毒

  1. 注射部位を選ぶ: 後述の「インスリン注射が可能な場所とローテーション」を参考に、今回注射する部位を決めます。前回と同じ場所に続けて打たないように、計画的にローテーションしましょう。
  2. 皮膚の準備: 注射部位の皮膚を清潔に保ちます。石鹸と水で洗うか、アルコール綿で消毒します。アルコールで消毒した場合、アルコールが完全に乾くのを待ってから注射してください(アルコールが残っていると痛みが増すことがあります)。毎回アルコール消毒が必須でない場合もありますが、清潔な状態で行うことが重要です。

皮膚をつまむ理由と正しいつまみ方

インスリンは皮下組織に注射する必要があります。特に針が長い場合や、痩せている方、筋肉が少ない方は、誤って筋肉に注射(筋肉内注射)してしまうリスクがあります。

皮膚をつまむ主な理由:

  • 皮下組織を盛り上げ、注射針が筋肉に届きにくくする
  • 確実に皮下組織に薬液を注入する

正しいつまみ方:
注射部位の皮膚と皮下脂肪を、親指と人差し指で軽くつまみ上げます。脂肪の厚さによってつまむ度合いを調整しますが、強くつまみすぎると痛みが増したり、皮下出血の原因になったりすることがあります。優しく、しかし確実に皮下組織を寄せ集めるイメージで行います。最近主流の短い針(4mmなど)を使用する場合や、皮下脂肪が十分に厚い場合は、つまむ必要がない、あるいは軽く伸ばすだけで良い場合もあります。これは、ご自身の体の特徴や使用する針の長さによって異なるため、必ず医師や看護師の指導を受けてください。

針の刺入角度と深さ

インスリン注射の基本的な刺入角度は垂直(90度)です。特に短い針(4mmなど)を使用する場合は、皮膚をつままずに90度で刺入することが推奨されています。

ただし、使用する針の長さや、ご自身の皮下脂肪の厚さによっては、皮膚をつまんで45度の角度で刺入する場合もあります。例えば、痩せている方で少し長めの針(6mmや8mmなど)を使用する場合は、皮膚をしっかりつまみ、45度で刺入することで筋肉内注射のリスクを減らすことができます。

針は、根元までしっかりと刺入します。これは、薬液が確実に皮下組織に注入されるようにするためです。

薬液の注入方法と速度

針を刺入したら、ペン型の注射ボタンをしっかりと最後まで押し込みます。ボタンが完全に押し込まれると、「カチッ」という音やクリック感があることが多いです。

薬液が完全に注入されるまで、注射ボタンを押し込んだまま、針を刺した状態を維持します。注入時間は製剤の量や粘度、ペン型によって異なりますが、数秒かかるのが一般的です。薬液注入が終わった後も、すぐに針を抜かず、ボタンを押し込んだまま10秒程度待つことが推奨されています。これは、ペン内の圧力を下げ、薬液が漏れ出すのを防ぐためです。添付文書や医療機関の指示に従って、推奨された時間を守りましょう。

針を抜くタイミングと方法

指定された時間(注入完了後10秒程度)が経過したら、注射ボタンから指を離し、刺入した時と同じ角度(垂直または45度)でまっすぐに針を抜き取ります

針を抜いた後、注射部位を揉んだり擦ったりしないでください。揉むと薬液が皮膚の表面に出てきたり、吸収速度が変わってしまったりする可能性があります。軽く押さえるのは構いません。

使用済み注射針の安全な廃棄方法

使用済みの注射針は、キャップを再度取り付ける際に誤って指に刺してしまうリスクがあります。一度使用した針にはキャップを戻さないようにしましょう。

使用済み針は、感染や針刺し事故を防ぐために、必ず専用の廃棄容器に捨てます。医療機関で配布される専用容器や、指示された硬い容器(ペットボトルなど)を使用し、安全に保管してください。容器がいっぱいになったら、医療機関や薬局などに相談し、正しく回収・処理してもらいます。絶対に家庭ごみとして捨てないでください。

インスリン注射が可能な場所とローテーション

インスリン注射は、体の中で皮下組織が比較的厚く、大きな血管や神経が少ない部位に行います。また、同じ場所に打ち続けると皮膚や皮下組織に変化(硬結や陥没など)が生じ、インスリンの吸収に影響が出るため、定期的に注射する場所を変える「ローテーション」が非常に重要です。

推奨される主な注射部位

インスリン注射に推奨される主な部位は以下の4ヶ所です。

  • 腹部
  • 大腿部(太もも)
  • 上腕部(二の腕)
  • 臀部(お尻)

これらの部位をバランスよく使っていくことが大切です。

腹部への注射(へそからの距離など)

腹部は、最も一般的で推奨される注射部位の一つです。皮下組織が比較的厚く、自分で確認しながら打ちやすいためです。

腹部に注射する際の注意点:

  • へそから指2~3本分(約4~5cm)以上離れた場所に注射します。へその周りや、ウエストライン付近、傷跡がある場所は避けてください。
  • お腹全体を広く使い、毎回少しずつ場所をずらして注射します。鏡を見ながら打つと、広い範囲を意識しやすくなります。
  • ベルトなどでお腹を圧迫しないように注意が必要です。

大腿部への注射

大腿部(太ももの前側~外側)も、腹部の次に多く使われる部位です。特に子どもや活動的な人に適しています。

大腿部に注射する際の注意点:

  • 太ももの中央よりやや上から膝にかけての範囲で、前側から外側にかけての広い範囲を使います。
  • 内股の柔らかい部分は、血管や神経が多いため避けてください。
  • ズボンの縫い目などが当たる場所は避けるようにします。
  • 立った姿勢よりも、座ってリラックスした姿勢の方が皮下組織を捉えやすくなります。

上腕部への注射

上腕部(二の腕の外側)も注射部位として利用できますが、ご自身で打つにはやや難しいため、家族などに打ってもらう場合に利用しやすい部位です。

上腕部に注射する際の注意点:

  • 肩と肘の中間あたりの、二の腕の外側の部分に注射します。
  • 筋肉注射になりやすいため、皮下組織をしっかりつまむか、短い針を使用することが重要です。
  • 力を抜いてリラックスした状態で注射します。

臀部への注射

臀部(お尻の上部やや外側)は、皮下組織が厚いため注射しやすい部位ですが、ご自身で打つのは非常に難しい部位です。通常は介護者や医療従事者が注射する場合に選択されます。

臀部に注射する際の注意点:

  • お尻の上部、やや外側の部分に注射します。
  • 骨に近い部分や、座るときに圧迫される場所は避けます。

注射部位ごとのインスリン吸収速度の違い

インスリンの吸収速度は、注射する部位によって異なります。

  • 腹部: 最も吸収速度が速く、安定しています。超速効型や速効型など、早く効果を出したい製剤に適しています。
  • 上腕部: 腹部の次に吸収速度が速いとされています。
  • 大腿部: 腹部や上腕部よりも吸収速度が遅く、安定性に欠ける場合があります。持効型や中間型など、ゆっくり吸収させたい製剤に適している場合があります。運動すると吸収が速まることがあるため注意が必要です。
  • 臀部: 最も吸収速度が遅く、安定しています。持効型や中間型に適しています。

同じ製剤を打つ場合でも、部位によって効果の出方にばらつきが生じることがあります。特に、食前インスリン(超速効型/速効型)は、吸収が速い腹部に打つのが一般的です。どの製剤をどの部位に打つのが適切かは、医師や看護師の指導に従ってください。

リポハイパートロフィーを防ぐための部位ローテーションの重要性

同じ場所に何度も注射を繰り返すと、注射部位の皮下組織が硬くなったり(硬結)、脂肪が異常に増殖して膨らんだり(リポハイパートロフィー、または脂肪肥大症)することがあります。

リポハイパートロフィーの問題点:

  • インスリンの吸収が悪くなり、血糖コントロールが不安定になる: 同じ単位数を打っても、以前と同じような効果が得られなくなります。
  • 見た目の問題や痛みの原因になる

リポハイパートロフィーを予防するためには、計画的な部位ローテーションが非常に重要です。

ローテーションの例:

  • お腹なら、お腹全体を4~6つのブロックに分け、毎日異なるブロックに注射する。
  • 腹部、大腿部、上腕部など、複数の部位を日替わりや曜日ごとに使い分ける。例えば、月曜日は腹部、火曜日は大腿部、水曜日は上腕部、木曜日は腹部...といった具合です。
  • 注射部位を記録しておくと、次にどこに打つべきか分かりやすくなります。

硬くなったり膨らんだりしている場所には、インスリンを注射しないでください。硬結やリポハイパートロフィーができてしまった場合は、その部位を使わず、回復を待つ必要があります。気になる場合は、医療機関に相談しましょう。

インスリン注射時の痛み対策とコツ

インスリン注射は細い針を使用するため、通常は大きな痛みはありませんが、それでも痛みが気になるという方もいらっしゃるでしょう。いくつかの工夫で痛みを軽減することができます。

痛みの原因を知る

痛みの主な原因としては、以下のようなものが考えられます。

  • 針: 針先の鈍り(再使用)、針が曲がっている、針の太さや長さ
  • 注射手技: 針を刺すスピード、角度、薬液の注入速度、皮膚のつまみ方、針を抜く時のブレ
  • 薬液: 冷たい薬液
  • 注射部位: 同じ場所に打ちすぎる(硬結など)、神経や血管に当たった
  • 消毒: アルコールが乾ききっていない

痛みを軽減するための注射方法のコツ

これらの原因を踏まえ、痛みを減らすための具体的なコツをご紹介します。

  • 毎回新しい針を使う: 一度使った針は、目に見えなくても針先が傷ついていたり、細菌が付着していたりします。痛みを避け、感染予防のためにも、必ず1回ごとに新しい針に交換しましょう。
  • できるだけ細く短い針を選ぶ: 現在では非常に細く短い(例:4mm、6mm)針が主流です。短い針は筋肉層に到達しにくく、痛みも感じにくい傾向があります。ご自身の皮下脂肪の厚さや打ち方に合わせて、医療機関と相談し、適切な針を選びましょう。
  • 針を刺すスピード: ゆっくり針を刺すよりも、迷わずスッと素早く刺入する方が痛みを軽減できる場合があります。
  • 薬液の温度: 冷蔵庫から出したばかりの冷たいインスリンは痛く感じやすいです。注射する少し前に冷蔵庫から出し、室温に戻してから使用すると良いでしょう(ただし、製剤の温度変化に注意し、極端な温度にならないように)。
  • 薬液の注入速度: 薬液を急いで注入すると、組織が圧迫されて痛みを感じやすくなります。ゆっくりと一定の速度で注入することを心がけましょう。注入ボタンを最後までしっかり押し込み、指示された時間待つことが大切です。
  • 皮膚のつまみ方: 皮膚を強くつまみすぎると痛みが増します。優しく、しかし確実に皮下組織を寄せるイメージで行います。短い針を使用する場合は、つままずに打つ方が痛みが少ないこともあります。
  • リラックスする: 体に力が入っていると、痛みを感じやすくなります。深呼吸するなどして、リラックスした状態で行いましょう。
  • 消毒をしっかり乾かす: アルコール消毒を行った場合は、アルコールが完全に蒸発して乾ききったことを確認してから針を刺します。
  • 計画的なローテーション: 同じ場所に打ち続けることによる組織の硬結や脂肪肥大は痛みの原因になります。前述の通り、定期的に注射部位を変えることが重要です。

短い針の活用について

近年、インスリン注射の針は非常に細く、短くなっています。特に4mm針は、小児から成人まで、皮下脂肪が十分に厚い方であれば、多くの場合皮膚をつままずに90度の角度で安全に皮下注射ができるとされています。

短い針を使用することで、筋肉内注射のリスクが減り、痛みも軽減されやすいというメリットがあります。ただし、体型や皮下脂肪の厚さには個人差があるため、短い針が全ての方に適切とは限りません。ご自身に合った針の長さや太さ、そしてつまむべきか否かについては、必ず医師や看護師に確認し、指導を受けてください。

インスリン注射の注意点とトラブル対策

インスリン注射は比較的安全な治療法ですが、注意すべき点や、まれに起こりうる副作用、トラブルについても知っておくことが大切です。

起こりうる主な副作用

インスリン注射で最も注意すべき副作用は「低血糖」です。その他、注射部位に関する副作用やアレルギー反応なども起こり得ます。

低血糖の症状と対処法

低血糖とは、血糖値が通常よりも低くなりすぎる状態です。インスリンが効きすぎたり、食事量が少なかったり、運動量が多かったりした場合に起こりやすくなります。

低血糖の主な症状:

  • 初期症状(血糖値が70mg/dL以下程度): 冷や汗、手の震え、動悸、空腹感、脱力感、不安感
  • 進行した症状(血糖値が50mg/dL以下程度): 目のかすみ、集中力低下、頭痛、眠気、めまい、言動がおかしくなる(酔っているように見える)
  • 重症の症状: 意識障害(昏睡)、けいれん

低血糖の対処法:
低血糖の症状を感じたら、すぐに血糖値を測定します。血糖値が70mg/dL以下であれば、すぐに糖分を補給する必要があります。

  • ブドウ糖: 10g程度(ブドウ糖タブレットなど)を摂取するのが最も効果的です。
  • 砂糖: 砂糖20g程度(角砂糖2~3個、スティックシュガー2~3本など)を水やお湯に溶かして飲むのも有効です。
  • ジュース: 糖分を多く含むジュース(例: オレンジジュース150~200mL)も有効です。ただし、清涼飲料水ではなく、果汁100%などの糖分濃度が高いものを選びます。人工甘味料の入った飲み物は効果がありません。

糖分を摂取したら、15分ほど待って再度血糖値を測定します。症状が改善しない場合や血糖値がまだ低い場合は、再度糖分を摂取します。症状が改善し、次の食事まで時間がある場合は、おにぎりやパンなどの糖質を含む軽食をとると良いでしょう。

意識がない、または意識がはっきりしない場合:
自分で糖分を摂取できない場合は、周りの人が医療機関に連絡するか、緊急用のグルカゴン注射(処方されている場合)を使用します。意識のない人に無理に食べ物や飲み物を口に入れると、窒息する危険があるため絶対にやめてください。

インスリン注射をしている方は、常にブドウ糖や砂糖を携帯しておくことが重要です。ご家族や周囲の人にも、ご自身が糖尿病でインスリン治療中であること、低血糖の症状と対処法を伝えておくことも、万が一の際に役立ちます。

注射部位のしこり(リポハイパートロフィー)

前述の通り、同じ場所に繰り返し注射することで、皮下組織が硬くなったり、脂肪が異常に増殖したりする「リポハイパートロフィー」が起こることがあります。見た目の問題だけでなく、インスリンの吸収が悪くなり、血糖コントロールを不安定にする最大の原因の一つです。

予防と対策:

  • 計画的な部位ローテーション: これが最も重要な予防法です。毎回注射部位をずらすように心がけましょう。
  • 注射部位の観察: 定期的に注射部位を触ったり見たりして、硬結や膨らみがないか確認します。
  • 硬結・リポハイパートロフィーのある場所には注射しない: 発見した場合は、その部位への注射を中止し、別の場所に打つようにします。多くの場合、注射を中止すれば数ヶ月から1年程度で改善していきます。
  • 医療機関への相談: 硬結やリポハイパートロフィーが気になる場合や、血糖コントロールがうまくいかない場合は、医師や看護師に相談しましょう。

アレルギー反応などのその他の副作用

インスリン製剤や添加物に対してアレルギー反応が起こることが非常にまれにあります。注射部位の赤み、かゆみ、腫れなどが起こることがありますが、通常は軽度で一時的なものです。全身にじんましんが出たり、呼吸困難になったりする重篤なアレルギー反応は極めてまれですが、そのような症状が現れた場合は直ちに医療機関に連絡してください。

その他、注射部位の皮膚の陥没(脂肪萎縮症)などもまれに起こることがありますが、現在は純度の高いインスリン製剤が主流となり、ほとんど見られなくなっています。

打ち忘れや打ち間違いがあった場合の対応

インスリン注射は毎日行う治療であり、時には打ち忘れたり、誤った単位数を打ってしまったり、間違った製剤を打ってしまったりすることがあるかもしれません。このような場合は、自己判断せずに必ず速やかに主治医や看護師に連絡し、指示を仰いでください

  • 打ち忘れ: 打ち忘れに気づいたタイミングや、普段打っている製剤の種類によって対応が異なります。例えば、食前インスリンを打ち忘れて食事をしてしまった場合、追加で打つべきか、どれくらいの量を打つべきかは、その後の血糖値や次の食事までの時間によって判断が変わります。自己判断で量を調整すると、高血糖や低血糖の原因となる可能性があります。
  • 打ち間違い: 単位数を間違えて多くまたは少なく打ってしまった、あるいは違う種類のインスリンを打ってしまった場合も、すぐに医療機関に連絡が必要です。打った製剤の種類、量、時間、現在の体調などを正確に伝え、指示を受けてください。特に指示された単位数より多く打ってしまった場合は、重症低血糖を起こす危険性があるため、注意が必要です。

インスリン製剤の正しい保管方法

インスリン製剤は、適切な温度管理が非常に重要です。温度が適切でないと、インスリンの成分が劣化し、効果が失われる可能性があります。

  • 未開封のインスリン製剤: 冷蔵庫(2~8℃)で保管します。凍結させないでください(凍結するとインスリンの構造が壊れてしまい、解凍しても使用できません)。
  • 使用開始後(開封済み)のインスリン製剤: 室温(1~30℃)で保管できます。通常、開封後は一定期間(製品によって異なりますが、約4週間程度)使用可能です。冷蔵庫に入れる必要はありませんが、高温多湿や直射日光を避け、夏場の車内などに放置しないように注意してください。こちらも凍結は厳禁です。

使用開始後のインスリン製剤の保管期間は、製品の添付文書に明記されていますので、必ず確認してください。使用開始日をペンや箱にメモしておくと管理しやすいでしょう。

旅行や災害時など特別な場合の注意点

旅行や出張、また災害時など、普段と異なる環境になる場合も、インスリン治療を継続するための準備が必要です。

  • 十分な量のインスリンと注射針を準備する: 予備も含めて、必要な期間よりも少し多めに準備しておくと安心です。
  • インスリンの保管: 旅行中は保冷バッグや専用の保冷ケースなどを利用し、適切な温度(特に凍結や高温)にならないように注意します。飛行機に乗る場合は、手荷物として機内に持ち込みます(貨物室は凍結する可能性があります)。
  • 証明書の携帯: 海外旅行の場合など、インスリン注射器や針を携帯していることを証明する英文の書類(主治医に作成してもらう)があると安心です。
  • 非常時の備え: 災害に備えて、少なくとも1週間分のインスリンと針、そしてブドウ糖を常備しておくことが推奨されます。電気が使えない状況でも保管できる方法(保冷剤とクーラーボックスなど)も考えておきましょう。
  • 医療機関への情報提供: 旅行先や避難先で体調を崩した場合に備え、かかりつけ医の連絡先や、普段の治療内容(インスリンの種類、単位数、その他の薬など)を記したものを携帯しておくと役立ちます。

インスリン注射に関するよくある質問

インスリン注射について、患者さんからよく聞かれる質問とその回答をまとめました。

注射はどのくらい痛いですか?

インスリン注射の痛みは個人差がありますが、多くの場合は我慢できる程度の軽い痛みです。現在使用されているインスリン注射針は、非常に細く、髪の毛よりも細いものもあります。蚊に刺される程度と感じる方もいらっしゃいます。

痛みの感じ方は、前述の「痛み対策とコツ」で解説したように、針の太さや長さ、注射の手技、注射部位の状態などにも影響されます。正しい方法で、新しい針を使用すれば、痛みは最小限に抑えられます。

血糖値がいくつからインスリン注射が必要になりますか?

「血糖値が〇〇mg/dLになったら必ずインスリン注射が必要」という明確な基準はありません。インスリン注射を開始するかどうかは、患者さん一人ひとりの血糖コントロールの状態、糖尿病の種類(1型か2型か)、病気の進行度、合併症の有無、年齢、ライフスタイル、そして他の治療法(食事・運動療法、飲み薬)の効果などを総合的に判断して、医師が決定します。

例えば、1型糖尿病の場合は、発症と同時にインスリン注射が必須となります。2型糖尿病の場合でも、飲み薬だけでは血糖コントロールがうまくいかない場合や、血糖値が非常に高い状態が続いている場合(例:HbA1cが9%を超えるなど)、あるいは腎臓や神経などの合併症が進行している場合などに、インスリン注射の開始が検討されます。

自己判断ではなく、必ず医師の診断と指導に基づいて治療を進めることが重要です。

インスリン注射にはどのくらいの費用がかかりますか?

インスリン注射にかかる費用は、使用するインスリン製剤の種類や単位数、注射回数、受診する医療機関、加入している公的医療保険の種類、そして自己負担割合(通常3割)によって大きく異なります。

インスリン製剤自体は比較的高価な薬剤ですが、糖尿病の治療は慢性疾患に対する継続的な治療であるため、医療費の負担を軽減するための制度があります。

  • 高額療養費制度: 医療費の自己負担額が、年齢や所得に応じて定められた上限額を超えた場合に、その超えた分の金額が支給される制度です。これにより、月々の医療費負担が軽減されます。
  • 障害者手帳の取得: 糖尿病の合併症が進行し、一定の基準を満たす場合は、障害者手帳を取得できることがあります。手帳を取得すると、医療費助成やその他の福祉サービスを受けられる場合があります。

具体的な費用や利用できる制度については、主治医や医療機関の医療相談員、お住まいの市区町村の窓口などに相談してみましょう。

インスリン注射で寿命が縮まるというのは本当ですか?

これは誤解です。インスリン注射は、不足したインスリンを補い、高血糖による体のダメージを防ぐための治療です。適切にインスリン治療を行い、良好な血糖コントロールを維持することは、むしろ糖尿病合併症(神経障害、網膜症、腎症、心筋梗塞、脳卒中など)の発症や進行を抑え、結果的に健康寿命を延ばすことにつながります

インスリン注射が必要になったということは、病状が進んでいるサインではありますが、インスリン注射自体が寿命を縮めるわけではありません。必要な治療をしっかりと行うことが、将来の健康を守るために最も重要です。

なぜ注射時に皮膚をつまむのですか?

皮膚をつまむのは、インスリンを確実に皮下組織に注射するためです。前述の「皮膚をつまむ理由と正しいつまみ方」で詳しく解説しましたが、つまむことで皮下組織を盛り上げ、針がそれより深い筋肉層に届きにくくします。

特に、針が長い場合や皮下脂肪が少ない方、子どもなどは、つままずに打つと筋肉内注射になるリスクが高まります。筋肉内注射は、インスリンの吸収が不安定になったり、痛みが強くなったりする可能性があるため避けるべきです。

ただし、最近の短い針(4mmなど)を使用する場合や、皮下脂肪が十分に厚い方では、つまむ必要がない、あるいは軽く皮膚を張るだけで良い場合もあります。ご自身の体型や使用する針に合わせて、医師や看護師の指導に従ってください。

へそから何センチ離して打つのが正しいですか?

腹部にインスリンを注射する場合、へそから指2~3本分(約4~5cm)以上離れた場所を選ぶのが一般的です。へその周りは、血管や神経が集中していたり、組織が硬くなっていたりする可能性があるため避けた方が良いとされています。

お腹全体を広く使い、毎回へそからの距離や位置をずらして注射することが、部位ローテーションの観点からも重要です。

注射器にはどのような種類がありますか?

インスリン注射器は、現在ほとんどがペン型注射器(インスリンペン)です。

  • キット製剤(プレフィルド型): あらかじめインスリン製剤がペンの中に充填されており、そのまま針を取り付けて使用するタイプです。使い捨てで、薬液がなくなったらペンごと廃棄します。
  • カートリッジ製剤: インスリン製剤が入ったカートリッジを、再利用可能なペン型ホルダーにセットして使用するタイプです。カートリッジがなくなったら、新しいカートリッジと交換します。

どちらのタイプも、必要な単位数をダイヤルで簡単に設定でき、注射ボタンを押すだけで薬液が注入される仕組みになっています。非常に使いやすく、自己注射に適しています。昔使われていたシリンジ(ガラス製の注射器)は、現在ではほとんど使われていません。

インスリン注射はダイエットに使えますか?

インスリン注射を糖尿病治療以外の目的、特にダイエット目的で使用することは、非常に危険であり、絶対に行ってはいけません。

インスリンには血糖値を下げる作用がありますが、同時に脂肪の合成を促進し、脂肪の分解を抑制する作用もあります。健康な人がインスリンを注射すると、血糖値が下がりすぎて重篤な低血糖(意識障害や昏睡など)を引き起こすリスクがあります。また、不適切に使用すると、体重増加やインスリン抵抗性の増悪、注射部位のリポハイパートロフィーなどの問題を引き起こす可能性もあります。

インスリン注射は、医師の診断に基づき、糖尿病の治療として適切に管理されたもとで行われるべき医療行為です。安易な自己判断による使用は、健康を著しく損なう可能性があります。

安全で効果的なインスリン注射のために

インスリンの自己注射は、糖尿病治療において非常に効果的な手段です。しかし、その効果を最大限に引き出し、安全に行うためには、正しい知識と手技が不可欠です。

自己判断せず医師・看護師の指導を受けることの重要性

この記事では、インスリン注射の一般的な方法や注意点について解説しましたが、インスリンの種類、単位数、注射のタイミング、そして最適な注射方法(針の長さ、角度、つまむかなど)は、患者さん一人ひとりの病状、体型、生活スタイルによって異なります

自己判断で注射の方法を変えたり、単位数を調整したりすることは、血糖コントロールを不安定にしたり、重篤な副作用(特に低血糖)を引き起こしたりする危険性があります。

インスリン注射を開始する際は、必ず医師、看護師、または薬剤師から直接、個別の指導を受けてください。注射の手順を実技で確認してもらい、疑問点があればその場で質問することが大切です。治療を開始した後も、定期的な受診で血糖値の状況を報告し、必要に応じてインスリンの量や打ち方の調整について指導を受けましょう。

継続的な血糖コントロールを目指して

インスリン注射は、糖尿病とともに生きるための大切なツールです。正しい「インスリン注射 打ち方」をマスターし、日々の血糖コントロールを良好に保つことは、将来的な合併症を防ぎ、質の高い生活を送るために非常に重要です。

最初は不安を感じるかもしれませんが、慣れてくれば毎日の生活の一部となります。焦らず、一つずつ手順を確認しながら、安全な自己注射を続けていきましょう。

もし注射に関して不安なことや困ったことがあれば、いつでも医療機関に相談してください。医療スタッフは、あなたが安全で効果的なインスリン治療を続けられるようサポートしてくれます。


免責事項: 本記事は、インスリン注射に関する一般的な情報提供を目的としています。個々の患者さんの病状や治療方針は異なります。インスリン注射の具体的な方法、単位数、注意点については、必ず主治医や医療機関の専門家にご確認・ご相談ください。本記事の情報に基づいて行われた行為によるいかなる結果についても、当方は責任を負いかねます。

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