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高齢者と糖尿病:知っておきたい特徴と低血糖・合併症の注意点

[2025.06.29]

高齢者糖尿病とは、一般的に75歳以上の後期高齢者や、加齢に伴う心身機能の変化(フレイル、認知機能障害、ADL低下など)を有する高齢者における糖尿病を指します。
近年、日本の高齢化に伴い、高齢者糖尿病患者数は増加の一途をたどっています。
若い世代の糖尿病とは異なる特徴を持つため、適切な診断と治療には高齢者ならではの視点が必要です。
この記事では、高齢者糖尿病の主な特徴、原因、診断基準、重要な血糖コントロール目標、低血糖対策、食事・運動療法、注意すべき合併症、そして寿命への影響について、専門的な知見に基づいて詳しく解説します。

高齢者糖尿病とは?その特徴と増加の原因

高齢者糖尿病は、加齢に伴う身体の変化や併存疾患、社会的な要因などが複雑に関係して発症・進行します。
単に血糖値が高いというだけでなく、全身の状態や生活状況を総合的に評価することが重要です。

高齢者特有の糖尿病の症状と特徴

糖尿病の典型的な症状として「多飲」「多尿」「体重減少」などがありますが、高齢者の場合はこれらの症状がはっきりと現れにくい、あるいは加齢による変化と見過ごされがちなケースが多く見られます。
その代わりに、以下のような高齢者特有の非典型的な症状や特徴を示すことがあります。

  • 全身倦怠感・意欲低下: なんとなく体がだるい、元気がなくなったと感じる。
  • 食欲不振: 食事量が減る。
  • 脱水傾向: 口の渇きを感じにくい、または水分摂取量が少ないために脱水状態になりやすい。
  • 認知機能の低下: 記憶力の低下、判断力の低下などが、糖尿病が原因で進行したり悪化したりすることがあります。特に血糖コントロールが不安定な場合に目立ちやすい傾向があります。
  • 抑うつ傾向: 気分が落ち込む、活動量が減るなどの精神的な症状。
  • 易感染性: 肺炎や尿路感染症、皮膚感染症など、さまざまな感染症にかかりやすく、重症化しやすい。
  • 低血糖の症状が出にくい(無自覚性低血糖): 低血糖が起きても、冷や汗や動悸などの典型的な自覚症状が現れにくいため、気づかないうちに重症化するリスクがあります。
  • サルコペニア・フレイルの進行: 筋肉量の減少(サルコペニア)や身体的・精神的な虚弱(フレイル)が、糖尿病によって加速されることがあります。

これらの症状は、加齢によるものと思われがちですが、実は糖尿病が隠れている、あるいは糖尿病によって悪化している可能性があります。

高齢者が糖尿病になりやすい主な原因

高齢者が糖尿病になりやすい背景には、加齢そのものに加え、長年の生活習慣の蓄積、他の病気の影響など、複数の要因が関与しています。

老化による機能低下

  • インスリン分泌能力の低下: 血糖値を下げるホルモンであるインスリンは、膵臓のβ細胞から分泌されます。加齢に伴い、このβ細胞の機能が徐々に低下し、インスリンの分泌量が減少したり、血糖値の上昇に対して適切な量のインスリンが分泌されにくくなったりします。
  • インスリン抵抗性の増大: 体の細胞がインスリンの働きに対して鈍感になる状態をインスリン抵抗性といいます。加齢により筋肉量が減少し、脂肪量が増加することや、慢性的な炎症などが関与し、インスリンが効きにくくなります。これにより、血糖値が下がりづらくなります。
  • 筋肉量の減少: 高齢になると活動量が減りやすく、筋肉量が減少しがちです。筋肉はブドウ糖を多く消費する組織であるため、筋肉量の減少は血糖コントロールを悪化させる要因となります。

合併症や併存疾患の影響

高齢者は複数の慢性疾患を抱えていることが少なくありません。これらの併存疾患や、その治療のために使用される薬剤が糖尿病の発症や悪化に関わることがあります。

  • 生活習慣病の蓄積: 高血圧、脂質異常症、肥満などの生活習慣病は、糖尿病と密接に関連しています。これらが長年積み重なることで、インスリン抵抗性が増大し、糖尿病のリスクが高まります。
  • 腎機能の低下: 高齢者では加齢に伴い腎機能が低下しがちです。腎臓はインスリンを分解する働きも担っているため、腎機能が低下するとインスリンの分解が遅れ、薬物療法に影響を及ぼすことがあります。また、糖尿病性腎症自体も高齢者糖尿病の重要な合併症です。
  • 心血管疾患や脳血管疾患: 心筋梗塞や脳卒中などの病気は、糖尿病の強力な危険因子であり、互いに悪影響を及ぼし合います。
  • 関節疾患などによる活動量の低下: 関節痛などがあると体を動かすのが億劫になり、運動不足に陥りやすくなります。これにより、インスリン抵抗性が増大し、血糖コントロールが悪化します。
  • 薬剤の影響: ステロイド薬、一部の降圧薬、免疫抑制薬など、他の病気の治療のために服用している薬剤の中には、血糖値を上昇させる作用を持つものがあります。

これらの要因が複合的に作用し、高齢者は糖尿病を発症しやすい、あるいは既存の糖尿病が悪化しやすい状態にあるといえます。

高齢者糖尿病の診断と血糖コントロール目標

高齢者糖尿病の診断基準は基本的に成人と同じですが、その後の治療目標設定においては、個々の高齢者の状態をきめ細かく評価することが極めて重要になります。

高齢者における糖尿病の診断基準

日本糖尿病学会では、血糖値とHbA1c(ヘモグロビン・エイワンシー)の値に基づいて糖尿病を診断します。
高齢者もこの基準に従いますが、前述のように症状が非典型的であったり、他の疾患の影響を受けていたりすることがあるため、診断時には注意が必要です。

診断の主な基準は以下のいずれかを満たす場合です。

  • 早朝空腹時血糖値: 126mg/dL以上
  • 75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)2時間値: 200mg/dL以上
  • 随時血糖値: 200mg/dL以上(糖尿病の典型的な症状がある場合)
  • HbA1c値: 6.5%以上

上記のうち、早朝空腹時血糖値、OGTT 2時間値、随時血糖値のいずれかと、HbA1c値の組み合わせで診断されることが多いです。
ただし、HbA1cは過去1〜2ヶ月の平均的な血糖値を反映する指標であり、腎機能や貧血などの状態によっては値が正確に反映されないこともあるため、医師が総合的に判断します。

血糖コントロール目標(HbA1c)の設定

高齢者糖尿病治療において最も特徴的かつ重要な点は、血糖コントロール目標の個別化です。
一律に厳しい目標を設定すると、低血糖のリスクが高まり、かえって健康状態を損なう可能性があります。

目標設定の考え方と注意点

高齢者の血糖コントロール目標は、患者さん一人ひとりの心身の状態や生活背景を十分に考慮して設定されます。
以下の点が特に考慮されます。

  • 全身状態: 比較的元気で活動的なのか、それとも複数の病気を抱え、体力が低下しているのか。
  • 認知機能: 自分で血糖管理ができるのか、服薬を忘れたり、低血糖の症状を認識できなかったりしないか。
  • ADL(日常生活動作): 身の回りのことが自分でできるのか、介助が必要なのか。
  • 併存疾患: 心臓病、腎臓病、脳卒中後遺症など、他の重い病気があるか。
  • 薬剤: 低血糖のリスクが高い薬剤(インスリンや一部の飲み薬)を使用しているか。
  • 予後予測: あと何年くらい健康に過ごせるか、という医師の判断。
  • QOL(生活の質): 厳格な血糖管理による負担と、QOLの維持・向上とのバランス。

これらの要素を総合的に評価し、「どこまで血糖値を下げるべきか」を柔軟に判断します。
重要なのは、合併症の予防を図りつつ、低血糖を避け、安全かつ快適な日常生活を送れるようにすることです。

具体的なHbA1cの目安値(フレイル・認知機能・ADLなどを考慮)

日本糖尿病学会は、「高齢者糖尿病診療ガイドライン」において、高齢者の状態に応じたHbA1cの目標値を提案しています。
これはあくまで目安であり、個々の患者さんによって調整が必要です。

以下に、その目安値の考え方を表形式で示します。

分類 特徴 血糖コントロール目標(HbA1c) 治療強化を検討するHbA1c
認知機能・ADLが自立しており、重症な併存疾患がない場合 比較的若年(〜74歳)の糖尿病に準じた対応が可能 <7.0% >8.0%
手段的ADLや認知機能の一部に障害がある場合 低血糖のリスクが増加する可能性がある <7.5% >8.5%
ADLが低下し、または認知機能障害がある場合 重症低血糖のリスクが高い。QOL維持を優先 <8.0% >9.0%
重症な併存疾患があり、予後が短いと予測される場合 QOL維持と症状緩和が最優先。血糖値の変動を小さくすることを目指す <8.5% 特になし

注意点

  • 上記の数値はあくまで目安です。
  • 低血糖を避けることが非常に重要であり、特にインスリンやSU薬などの低血糖を起こしやすい薬剤を使用している場合は、より高い目標値(例えば<8.0%や<8.5%など)を設定することもあります。
  • 血糖変動が大きい場合は、HbA1cが目標値内であっても、低血糖や高血糖のリスクがあるため注意が必要です。
  • 個々の患者さんの状態や価値観に合わせて、医師とよく相談して目標を設定することが大切です。

このように、高齢者糖尿病の治療目標は、若い世代のように合併症予防のために厳格に血糖値を下げることだけが目的ではなく、患者さんの「いま」と「これから」の生活の質をいかに保つかに重点が置かれます。

高齢者糖尿病治療の基本方針と注意すべき合併症

高齢者糖尿病の治療も、基本的には食事療法、運動療法、薬物療法が柱となりますが、それぞれの実施にあたっては、高齢者ならではの注意点があります。

治療の基本となる食事療法

食事療法は、糖尿病治療の基本中の基本です。
高齢者の場合、単にカロリーや糖質を制限するだけでなく、栄養バランスを保ち、低栄養やサルコペニアを防ぐ視点が重要になります。

高齢者向け食事療法のポイント

  • 極端な制限は避ける: 若い世代のように厳密なカロリー制限を設けると、必要な栄養素まで不足し、低栄養やサルコペニア、フレイルを招きやすくなります。
  • 栄養バランスを重視: 主食、主菜、副菜を揃え、様々な食品からバランスよく栄養素を摂取することが大切です。特に、筋肉を作るタンパク質をしっかり摂ることが、サルコペニアやフレイル予防に繋がります。
  • 食物繊維を十分に: 食物繊維は血糖値の急激な上昇を抑える効果があります。野菜、きのこ、海藻、豆類などを積極的に摂りましょう。
  • 規則正しい食事時間: 毎日決まった時間に食事を摂ることで、血糖値の変動を安定させやすくなります。
  • 水分をこまめに摂る: 高齢者は脱水になりやすいため、意識して水分を摂ることが大切です。ただし、糖分の多い清涼飲料水は避けましょう。
  • 噛む力、飲み込む力(嚥下機能)への配慮: 噛みにくい、飲み込みにくい場合は、食材を柔らかくしたり、小さく切ったり、とろみをつけたりするなど、食べやすい工夫が必要です。
  • 食事の楽しみを維持: 厳格な食事制限は、食欲不振やQOLの低下に繋がることがあります。適度な範囲で好物を取り入れるなど、食事の楽しみを失わないように配慮することも大切です。
  • 家族の協力: 一人暮らしの場合や、自分で食事管理が難しい場合は、家族や周囲のサポートが不可欠です。

安全かつ効果的な運動療法

運動療法も血糖コントロールを改善し、インスリンの効きを良くするために有効です。
また、筋力やバランス能力を維持・向上させ、サルコペニアやフレイル、転倒予防にも繋がります。

運動を行う上での注意点

  • 医師と相談の上で実施: 心臓病や関節疾患など、併存疾患がある場合は、運動の種類や強度について必ず医師と相談しましょう。
  • 無理のない範囲で継続的に: 激しい運動よりも、ウォーキングや軽い体操など、無理なく毎日続けられるものが効果的です。1回15〜30分程度を目標に、可能であれば食後に行うのが効果的とされています。
  • 筋力トレーニングも取り入れる: スクワットやつま先立ちなど、自宅でできる簡単な筋力トレーニングも、筋肉量を維持するために重要です。
  • 転倒に注意: バランスの悪い場所や、滑りやすい場所での運動は避けましょう。必要に応じて手すりを使うなど、安全に配慮します。
  • 運動前後の血糖測定: インスリンやSU薬を使用している場合は、運動中に低血糖を起こすリスクがあります。運動前後に血糖値を測定し、必要であれば糖分を補給しましょう。
  • 水分補給を忘れずに: 運動中は脱水になりやすいため、こまめに水分を摂ることが大切です。

低血糖の予防と対策

高齢者糖尿病において、最も注意すべき合併症の一つが低血糖です。
特にインスリンやSU薬などの血糖降下薬を使用している場合にリスクが高まります。

低血糖のサインと対処法

低血糖とは、血糖値が正常範囲(およそ70mg/dL)よりも低くなった状態を指します。
初期の自覚症状には個人差がありますが、一般的には以下のようなものがあります。

  • 初期症状: 空腹感、冷や汗、動悸、手の震え、顔面蒼白、不安感。
  • 進行した症状: 目のかすみ、集中力の低下、生あくび、眠気、頭痛。
  • 重症の場合: 意識障害、けいれん、昏睡。

高齢者の場合は、これらの典型的な症状が現れにくい「無自覚性低血糖」が多いことに注意が必要です。
気づいた時には意識障害を起こしている、というケースもあります。

低血糖の症状が現れたり、血糖値が70mg/dL未満であったりする場合は、速やかに糖分を摂取することが重要です。

  • 対処法:
    • ブドウ糖10g(ブドウ糖タブレット2〜3個)
    • 砂糖10〜20g(スティックシュガー2〜3本、ジュースや飴でも可)
    • 清涼飲料水(ジュースなど)150〜200ml
  • これらのうち、吸収の早いものを摂取します。チョコレートやアイスクリームは脂肪分が多く、糖の吸収が遅れるため適していません。
  • 糖分摂取後15分程度で症状が改善するか確認し、改善しない場合は再度同量の糖分を摂取します。
  • 食前や食間に低血糖が起きた場合は、その後の食事も通常通り摂るようにしましょう。

家族や周囲の人にも低血糖のサインや対処法を共有しておくことが、高齢者の安全を守る上で非常に大切です。

重症化しやすい高齢者の低血糖

高齢者の低血糖が重症化しやすい理由として、以下の点が挙げられます。

  • 無自覚性低血糖: 低血糖が起きても、自律神経機能の低下などにより、自覚症状が現れにくいため、発見が遅れやすい。
  • 認知機能低下: 自分で低血糖に気づいても、適切に糖分を摂取するなどの対処ができないことがある。
  • 食事摂取量の不安定: 食事量が少なかったり、欠食したりすることで、薬の量とのバランスが崩れやすい。
  • 腎機能低下: 薬の分解・排泄が遅れ、薬の効果が長く続きすぎる場合がある。
  • 併存疾患: 心臓病などがある場合、低血糖が心臓発作などを誘発するリスクがある。
  • 転倒・骨折リスク: 低血糖による意識障害やふらつきが原因で、転倒して骨折に至るリスクがある。

これらのリスクを避けるためにも、高齢者糖尿病の薬物療法においては、低血糖を起こしにくい薬剤を選択したり、使用量を慎重に調整したりすることが重要です。
また、定期的に血糖測定を行い、血糖値の変動を把握することも大切です。

注意すべき慢性合併症

糖尿病の怖いところは、血糖値が高い状態が長く続くことで、全身の様々な血管や神経が障害され、慢性合併症を引き起こすことです。
高齢者糖尿病では、これらの合併症がすでに進行しているケースや、加齢に伴う変化と相まって重症化しやすいという特徴があります。

大血管症(動脈硬化関連)

太い血管が障害される合併症で、主に動脈硬化が進行して起こります。

  • 脳卒中: 脳の血管が詰まったり破れたりする病気(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)。高齢者では特にリスクが高く、麻痺や言語障害などの後遺症を残しやすく、ADLや認知機能の低下に大きく影響します。
  • 心筋梗塞: 心臓に血液を送る血管(冠動脈)が詰まる病気。高齢者では典型的な胸痛がない「無痛性心筋梗塞」を起こすこともあり、発見が遅れることがあります。
  • 末梢動脈疾患: 足の血管が細くなったり詰まったりする病気。足のしびれ、冷感、歩行時の痛み(間欠性跛行)、ひどい場合は潰瘍や壊疽(えそ)を引き起こし、切断に至ることもあります。

これらの大血管症は、命に関わるだけでなく、その後の生活の質を著しく低下させる原因となります。
糖尿病だけでなく、高血圧、脂質異常症、喫煙などの他の危険因子も同時に管理することが非常に重要です。

細小血管症(網膜症・腎症・神経障害)

細い血管が障害される合併症で、「し・め・じ」(神経障害、網膜症、腎症)とも呼ばれます。
これらもQOLに大きく影響します。

  • 糖尿病網膜症: 目の奥にある網膜の血管が障害され、視力が低下したり、ひどい場合は失明に至ったりする病気です。初期には自覚症状がほとんどないため、定期的な眼科受診による検査が非常に重要です。
  • 糖尿病腎症: 腎臓の血管が障害され、腎機能が低下していく病気です。進行すると老廃物を体外に排出できなくなり、人工透析が必要になることがあります。初期には尿の中にタンパク質が混じる(微量アルブミン尿)といった変化が見られます。
  • 糖尿病神経障害: 全身の様々な神経が障害される病気です。手足のしびれ、痛み、感覚の麻痺などが主な症状です。自律神経が障害されると、立ちくらみ、便秘や下痢、排尿障害、ED(勃起障害)など、様々な症状が現れます。高齢者では、これらの神経症状が転倒や怪我の原因となることもあります。

これらの合併症は、一度発症すると完治が難しく、進行を遅らせることが治療の中心となります。
早期発見のためにも、定期的な検査(眼底検査、尿検査、神経学的検査など)を受けることが非常に重要です。

高齢者糖尿病と寿命の関係

高齢者糖尿病と寿命の関係は単純ではありません。
単に糖尿病であることよりも、どのような合併症があるか、他のどのような病気を抱えているか、そして心身の状態(フレイルの有無など)が、寿命や健康寿命(自立して生活できる期間)に大きく影響します。

適切に血糖コントロールを行い、合併症の発症や進行を抑えることができれば、健康寿命を延ばし、人生の終末期まで活動的に過ごせる可能性が高まります。
しかし、血糖コントロールが不十分であったり、大血管症などの重い合併症を合併したりすると、寿命が短くなったり、寝たきりになるなど健康寿命が大きく損なわれたりするリスクが高まります。

高齢者糖尿病の治療目標は、単に血糖値を下げるだけでなく、合併症の発症・進行を抑え、低血糖を回避し、サルコペニア・フレイルを予防することで、QOLを維持・向上させ、健康寿命を最大限に延ばすことにあると言えます。

高齢者糖尿病の予防策

高齢者になってから糖尿病と診断される方もいれば、若い頃から糖尿病があり、高齢者糖尿病に移行する方もいます。
いずれの場合も、糖尿病の発症や進行を予防・遅延させるための対策は重要です。

日常生活でできる予防のポイント

高齢者糖尿病の予防は、生活習慣の改善が中心となります。
若い世代の予防策と共通する部分が多いですが、高齢期特有の注意点も踏まえることが大切です。

  • バランスの取れた食事: 特定の食品を極端に制限するのではなく、主食、主菜、副菜をバランスよく摂り、栄養不足にならないように心がけましょう。特に、筋肉を維持するためのタンパク質摂取を意識することが重要です。
  • 適度な運動: ウォーキングなどの有酸素運動に加え、自宅でできる簡単な筋力トレーニングを習慣にすることで、筋肉量を維持・増加させ、インスリンの働きを良くすることができます。転倒に注意しながら行いましょう。
  • 適正体重の維持: 極端な肥満は糖尿病のリスクを高めますが、高齢者の場合は痩せすぎ(低栄養)も問題です。健康的な体重を維持することが大切です。
  • 禁煙: 喫煙は動脈硬化を促進し、糖尿病合併症のリスクを高めます。禁煙は最も重要な予防策の一つです。
  • 節酒: 過度な飲酒は血糖コントロールを乱し、様々な健康問題を引き起こします。適量を心がけましょう。
  • ストレス管理: ストレスは血糖値を上昇させることがあります。趣味やリラクゼーションなどで、自分に合ったストレス解消法を見つけましょう。
  • 十分な睡眠: 睡眠不足はインスリンの働きを悪くすることがあります。質の良い睡眠を確保することも重要です。
  • 定期的な健康診断: 定期的に健康診断や人間ドックを受け、自分の血糖値やその他の健康状態を把握することが、糖尿病の早期発見や予防に繋がります。

これらの生活習慣の改善は、糖尿病だけでなく、高血圧や脂質異常症などの他の生活習慣病や、サルコペニア、フレイルの予防にも繋がります。

高齢者糖尿病に関するよくある質問

Q1. 高齢でも糖尿病治療は必要ですか?

A1. はい、必要です。
ただし、若い世代のように血糖値を厳格にコントロールすることよりも、合併症の進行を抑え、低血糖を避けて安全に日常生活を送り、健康寿命を延ばすことに重点を置いた治療が行われます。
患者さんの全身状態や生活状況に合わせて、個別に治療目標が設定されます。

Q2. 薬を増やしたくないのですが、他に方法はありますか?

A2. 薬物療法が必要かどうかは、血糖値や合併症の状況、他の病気の有無などを総合的に判断して医師が決定します。
まずは食事療法と運動療法を基本とし、生活習慣の改善で血糖コントロールが不十分な場合に薬物療法が検討されます。
薬物療法が必要な場合でも、高齢者では低血糖を起こしにくい薬剤が優先的に選択されるなど、安全性を考慮した治療が行われますので、医師とよく相談してください。

Q3. 低血糖が怖いのですが、どうすれば良いですか?

A3. 低血糖は高齢者糖尿病で特に注意が必要です。
低血糖の初期サイン(冷や汗、動悸、手の震えなど)や、ご自身の場合にどのような症状が出るかを知っておくことが大切です。
また、ブドウ糖や砂糖などの糖分を常に持ち歩き、症状が出たらすぐに摂取できるように準備しておきましょう。
ご家族や周囲の方にも、低血糖のサインと対処法を伝えておくことも重要です。
無自覚性低血糖のリスクがある場合は、血糖測定をこまめに行うことが有効です。
不安な点は必ず主治医に相談し、適切な対策を立てましょう。

Q4. 甘いものを全く食べてはいけないのですか?

A4. 糖尿病だからといって、甘いものを一切食べてはいけないというわけではありません。
量や頻度、食べるタイミングなどを工夫すれば、適度に楽しむことは可能です。
例えば、食事の直後など、他の栄養素と一緒に摂る方が血糖値の急激な上昇を抑えやすい場合があります。
また、砂糖よりも人工甘味料を選ぶ、果物は適量にするなど、工夫次第で甘いものを楽しむことができます。
ただし、食べる量や頻度については、主治医や管理栄養士に相談して、ご自身の状態に合ったアドバイスを受けるのが最も良いでしょう。

Q5. 家族として、高齢の親の糖尿病をどうサポートすれば良いですか?

A5. ご家族のサポートは高齢者糖尿病の管理において非常に重要です。
食事療法のサポート(栄養バランスの良い献立、食べやすい調理法)、運動療法のサポート(一緒に散歩に出かける、安全な運動場所の確保)、服薬管理のサポート(飲み忘れがないか確認)、低血糖時の対応、定期的な受診の声かけや付き添いなど、様々な形で支えることができます。
本人の意思を尊重しつつ、無理のない範囲でサポートすることが大切です。
糖尿病について一緒に学び、理解を深めることも、より良いサポートに繋がります。

専門医への相談と定期的な受診の重要性

高齢者糖尿病の診断、治療目標の設定、そして日々の管理は、加齢に伴う心身の変化や併存疾患を考慮する必要があり、専門的な知識が不可欠です。

ご自身の血糖値が高いと言われた方、すでに糖尿病と診断されている高齢者の方、またはそのご家族の方は、必ず糖尿病専門医や、高齢者医療に詳しい医師に相談することをお勧めします。
専門医は、最新の知見やガイドラインに基づき、患者さん一人ひとりの状態を丁寧に評価し、最適な治療計画を提案してくれます。

また、糖尿病の合併症は自覚症状がないまま進行することが多いため、定期的な受診は非常に重要です。
定期的に血糖値やHbA1cをチェックするだけでなく、血圧、脂質、腎機能、眼底、神経などの検査を受けることで、合併症の早期発見・早期治療に繋がります。

高齢期を健康で活動的に過ごすためにも、「年だから仕方ない」と諦めず、積極的に専門医と連携を取り、適切な管理を行うことが何より大切です。

免責事項: この記事は一般的な情報提供を目的としており、個々の患者さんの病状や治療法に関する具体的なアドバイスではありません。高齢者糖尿病の診断や治療、血糖コントロール目標の設定、薬剤の選択については、必ず医師にご相談ください。

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