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2型糖尿病とは?原因・症状・治療法をわかりやすく解説

[2025.06.29]

二型糖尿病とは、私たちの体の中で血糖値を調整する働きを持つ「インスリン」というホルモンの作用が不十分になることで、慢性的に血糖値が高くなる病気です。これは、インスリンの分泌量が足りなくなる、あるいはインスリンが分泌されてもその効果が十分に発揮されない(インスリン抵抗性)といった問題が主な原因となります。

二型糖尿病は、食生活や運動不足、肥満、喫煙、ストレスといった生活習慣が深く関わって発症することが多く、日本を含む多くの国で患者数が増加しています。初期には自覚症状がほとんどないため、健康診断などで偶然見つかるケースも少なくありません。しかし、高血糖の状態が続くと、全身の血管や神経が徐々にダメージを受け、将来的に様々な合併症を引き起こす可能性があるため、早期発見と適切な管理が非常に重要です。この病気について正しく理解し、ご自身の健康管理に役立てていきましょう。

二型糖尿病の定義と概要

二型糖尿病は、糖尿病全体の約95%を占める最も一般的なタイプです。この病気の根本にあるのは、血糖値を下げる役割を持つインスリンの働きが、質的または量的に低下してしまうことです。

食事をすると、食べ物に含まれる糖質が消化吸収され、ブドウ糖となって血液中に入ります。これにより血糖値が上昇しますが、健康な体では膵臓からインスリンが分泌され、このブドウ糖を体の細胞(筋肉や脂肪など)に取り込ませたり、肝臓に蓄えたりすることで血糖値を適切な範囲に戻します。

二型糖尿病の場合、このインスリンの働きに問題が生じます。

  • インスリン分泌能の低下: 遺伝的な要因や長年の高血糖による膵臓の疲弊などにより、インスリンを分泌する力が弱まってしまう状態です。食事で血糖値が上がっても、それに十分対応できるだけのインスリンが分泌されません。
  • インスリン抵抗性: インスリンは分泌されているものの、その信号が体の細胞にうまく伝わらず、血糖を細胞に取り込ませる働きが鈍くなっている状態です。肥満、特に内臓脂肪の蓄積や運動不足などが大きな原因となります。細胞がインスリンに対して「抵抗」しているような状態です。

二型糖尿病の患者さんの多くは、これらの「インスリン分泌能の低下」と「インスリン抵抗性」の両方を合併していますが、どちらがより強いかは個人差があります。

これらのメカニズムにより、食後だけでなく空腹時にも血糖値が高い状態が慢性的に続くのが二型糖尿病です。高血糖が長期間続くと、血管の内壁が傷つき、動脈硬化が進行したり、神経が変性したりして、全身に様々な影響が及びます。これが糖尿病の怖い合併症へと繋がっていきます。

1型糖尿病との違い

糖尿病にはいくつかの病型がありますが、一般的に「糖尿病」として知られているものの多くは二型糖尿病です。しかし、1型糖尿病も存在し、原因や病態、治療法が大きく異なります。二型糖尿病をより深く理解するために、1型糖尿病との主な違いを見ていきましょう。

発症原因の違い

  • 1型糖尿病: 自己免疫の異常などが原因で、膵臓のインスリンを作る細胞(β細胞)が破壊されてしまう病気です。遺伝的な要因も関与しますが、二型のように生活習慣が直接の原因となるわけではありません。ウイルス感染などがきっかけになる可能性も指摘されています。インスリンを作る細胞が急速に、あるいは徐々に失われていくタイプがあります。
  • 二型糖尿病: 遺伝的な体質を背景に持ちながら、主に過食、運動不足、肥満、ストレス、喫煙といった長年の生活習慣の乱れが引き金となって発症します。インスリンを作る細胞が破壊されるわけではなく、その機能が低下したり、インスリンの効きが悪くなったりすることで発症します。

インスリンの状態の違い

  • 1型糖尿病: 膵臓のβ細胞が破壊されるため、体内でインスリンがほとんど、またはまったく作られなくなります。インスリンの絶対的な不足が特徴です。
  • 二型糖尿病: インスリンは作られますが、分泌量不足 または 効きが悪い(インスリン抵抗性)状態です。病気の進行とともに、インスリンを作る能力がさらに低下していくこともあります。インスリンの相対的な不足や作用不足が特徴です。

治療法の違い

  • 1型糖尿病: 体内でインスリンが作られないため、外部からのインスリン補充が必須となります。インスリン注射を一生涯続けることが治療の基本です。食事療法や運動療法も血糖コントロールのために行いますが、治療の中心はインスリン療法です。
  • 二型糖尿病: まずは食事療法と運動療法で生活習慣の改善を図り、インスリンの働きを改善することを目指します。これだけでは血糖コントロールが不十分な場合に、インスリンの分泌を促したり、インスリン抵抗性を改善したり、糖の吸収や排泄を調整したりする経口血糖降下薬が使用されます。病状によっては、GLP-1受容体作動薬などの注射薬や、最終的にインスリン療法が必要になることもありますが、必ずしも全ての患者さんにインスリン療法が必要なわけではありません。

これらの違いを以下の表にまとめました。

特徴 1型糖尿病 二型糖尿病
発症原因 自己免疫によるβ細胞破壊、ウイルス感染など 遺伝要因 + 生活習慣(過食、運動不足、肥満など)
インスリン ほとんど/まったく分泌されない(絶対的不足) 分泌量不足 または 効きが悪い(インスリン抵抗性)(相対的不足/作用不足)
治療の中心 インスリン注射(必須) 生活習慣改善 → 経口薬・注射薬 → インスリン療法(必要に応じて)
発症時期 比較的若年者に多いが、成人発症もある 中高年に多いが、若年者にも増加
体型 やせ型が多い 肥満型が多いが、標準体重やせ型でも発症
遺伝の影響 ある程度関与するが、二型ほど顕著ではない 関与が大きい
急性合併症 糖尿病ケトアシドーシスが多い 高浸透圧高血糖状態が多い(ケトアシドーシスも起こりうる)

このように、同じ「糖尿病」という名前でも、1型と二型は原因も病態も治療法も異なります。正確な診断を受けることが、その後の適切な治療に繋がります。

二型糖尿病の主な原因

二型糖尿病は、遺伝的な体質と、その体質に大きく影響する後天的な要因、すなわち生活習慣が組み合わさることで発症します。

遺伝的要因

二型糖尿病は、家族に糖尿病患者がいる場合に発症リスクが高まることが分かっています。これは、「糖尿病になりやすい遺伝的な体質」が親から子へ受け継がれるためです。具体的には、インスリンの分泌能力が遺伝的に低い、あるいは体の組織がインスリンに対して抵抗性を示しやすいといった体質が考えられています。

しかし、遺伝的素因があるからといって、必ずしも二型糖尿病になるわけではありません。遺伝はあくまで「なりやすさ」に関わるものであり、その後の生活習慣が発症を決定づける大きな要因となります。たとえ遺伝的なリスクが高くても、適切な生活習慣を送ることで、発症を予防したり、遅らせたりすることが可能です。逆に、遺伝的なリスクが低くても、非常に乱れた生活習慣を続けていれば発症する可能性があります。

生活習慣(食事・運動・肥満・喫煙など)

二型糖尿病の発症に最も強く関わっているのが、日々の生活習慣です。現代社会の生活様式の変化が、二型糖尿病患者の増加の背景にあると言えます。主な要因は以下の通りです。

  • 過食と栄養バランスの偏り:
    * **高カロリー食:** 必要以上にカロリーを摂取すると、余分なエネルギーは脂肪として蓄えられ、肥満につながります。これはインスリン抵抗性を高める大きな原因となります。
    * **高脂肪食:** 脂質の摂りすぎは、カロリー過多だけでなく、インスリン抵抗性を引き起こしやすくします。
    * **高糖質食:** 特に、清涼飲料水や菓子類など、吸収の早い糖質を大量に摂取すると、食後の血糖値が急激に上昇し、膵臓に大きな負担がかかります。これが続くと、インスリン分泌能力が疲弊してしまいます。
    * **食物繊維不足:** 食物繊維は糖の吸収を緩やかにする効果がありますが、現代の食生活では不足しがちです。
  • 運動不足: 体を動かす機会が少ないと、ブドウ糖の消費量が減り、血糖値が下がりくくなります。また、運動はインスリンの効きを良くする効果がありますが、運動不足だとインスリン抵抗性が高まりやすくなります。筋肉量の減少もインスリン抵抗性に関与します。
  • 肥満: 特に腹部に脂肪が蓄積する内臓脂肪型肥満は、インスリン抵抗性を引き起こす物質(アディポカインのバランス異常など)を分泌するため、二型糖尿病の強力な危険因子となります。日本では、標準体重でも内臓脂肪が蓄積しやすい体質の人がおり、見た目は太っていなくても糖尿病になることがあります(隠れ肥満)。
  • 喫煙: 喫煙は血管を収縮させ、血行を悪くするだけでなく、インスリンの働きを妨げる作用があることが分かっています。また、喫煙者は非喫煙者に比べて糖尿病合併症のリスクが高いことも指摘されています。
  • 過度な飲酒: アルコール自体が血糖値に影響を与える場合があるほか、アルコールに含まれる糖分や、飲酒時の食事(おつまみ)のカロリー過多が、肥満や血糖コントロールの悪化につながることがあります。
  • ストレス: 慢性的な精神的ストレスは、血糖値を上げるホルモン(コルチゾールなど)の分泌を増やし、血糖コントロールを乱す可能性があります。
  • 睡眠不足: 睡眠時間が不足したり、睡眠のリズムが乱れたりすることも、インスリンの働きや血糖コントロールに悪影響を与えることが研究で明らかになっています。

これらの生活習慣の要因が、遺伝的な体質に加わることで、インスリンの分泌や作用に問題が生じ、二型糖尿病の発症へと繋がります。

インスリン分泌低下・インスリン抵抗性

二型糖尿病は、主に以下の2つのメカニズムが複雑に絡み合って進行します。

  1. インスリン分泌能の低下: 膵臓のβ細胞がインスリンを十分に作り出し、適切に分泌する能力が低下します。これは、遺伝的にインスリン分泌能力が低い体質である場合や、長年の過食などによってβ細胞が慢性的な高血糖にさらされて疲弊した場合などに起こります。特に食後に血糖値が急上昇した際に、迅速かつ十分な量のインスリンを分泌できないことが問題となります。
  2. インスリン抵抗性: 体の組織(主に筋肉、脂肪組織、肝臓)がインスリンの作用に対して反応しにくくなる状態です。インスリンは分泌されているにも関わらず、細胞が血糖を取り込む効率が悪くなります。内臓脂肪の蓄積は、インスリン抵抗性を引き起こす物質を多く分泌するため、インスリン抵抗性の最大の原因の一つと考えられています。インスリン抵抗性があると、血糖値を正常に保つためにより多くのインスリンが必要となり、膵臓はインスリンを過剰に分泌して対応しようとします。しかし、その状態が長く続くと膵臓は疲弊し、やがてインスリン分泌能力も低下してしまいます。

多くの二型糖尿病患者さんでは、この「インスリン分泌能の低下」と「インスリン抵抗性」の両方が合併しており、病気の進行とともにどちらかの状態が悪化したり、両方が同時に進行したりします。これにより、最終的にインスリンだけでは血糖値を正常に保てなくなり、慢性的な高血糖状態となります。治療法は、これらの病態のどちらがより強く関与しているかによって選択される薬が異なります。

二型糖尿病の症状

二型糖尿病は、初期にはほとんど自覚症状がないことが多いため、気づかないうちに病気が進行していることが少なくありません。「サイレントキラー」と呼ばれる所以です。

初期段階の症状(自覚症状の有無)

二型糖尿病の初期段階では、多くの場合、全く自覚症状がありません。血糖値が正常値より少し高い程度では、体は特別なサインを出しません。健康診断で血糖値やHbA1cの値が高いことを指摘されて初めて気づく、というケースが非常に多いです。

症状が出始めたとしても、「なんとなく体がだるい」「疲れやすい」といった、他の原因とも考えられるような、見過ごしやすい曖昧な症状であることがほとんどです。このため、「これくらいなら大丈夫だろう」と自己判断してしまい、医療機関の受診が遅れることがあります。

自覚症状がない時期から、高血糖は体の中で静かにダメージを与え続けています。特に血管や神経は、高い血糖値の影響を受けやすく、初期の段階から少しずつ傷つき始めています。将来の深刻な合併症を防ぐためには、症状が現れる前の早期発見が非常に重要になります。定期的な健康診断や健康診断の結果をしっかり確認することが、早期発見の鍵となります。

進行した際の症状(口渇、多飲、頻尿、倦怠感、体重減少など)

糖尿病がさらに進行し、血糖値が非常に高い状態(一般的に血糖値が160〜180mg/dL以上)が続くと、腎臓が血液中の余分な糖を尿として体の外に出そうとします。この時、糖と一緒に大量の水分も排泄されるため、様々な自覚症状が現れてきます。

  • 口渇(のどが異常に渇く): 尿として水分が大量に失われるため、体が水分不足になり、強いのどの渇きを感じます。
  • 多飲(水分をたくさん摂る): のどの渇きを癒やすために、通常よりもたくさんの水分を飲むようになります。
  • 頻尿・多尿(尿の回数や量が増える): 腎臓が血液中の糖を排泄しようと働くため、尿量が増え、トイレに行く回数が多くなります。夜間に何度も起きてトイレに行くようになることもあります。
  • 倦怠感・疲労感: 摂取したブドウ糖がエネルギーとして細胞にうまく取り込まれないため、体がエネルギー不足となり、強い疲労感やだるさを感じます。
  • 体重減少: 体がエネルギー源であるブドウ糖をうまく利用できず、代わりに脂肪や筋肉を分解してエネルギーを得ようとするため、食欲があるにも関わらず体重が減ることがあります。特に急激な体重減少は注意が必要です。
  • その他:
    * **手足のしびれ、痛み、感覚異常:** 血糖値が高い状態が神経を傷つけ、手足の末端からしびれや痛み、感覚の鈍さなどが現れることがあります。
    * **目がかすむ、視力低下:** 目の網膜の血管が傷つき、視力に影響が出始めることがあります。
    * **傷が治りにくい、化膿しやすい:** 高血糖は免疫機能を低下させ、感染症にかかりやすくしたり、一度できた傷が治りにくく化膿しやすくなったりします。
    * **皮膚のかゆみ:** 乾燥、神経障害、感染などにより、全身や局所にかゆみが出ることがあります。

これらの症状は、すでに糖尿病がある程度進行しているサインです。これらの症状に気づいたら、放置せずに速やかに医療機関を受診し、適切な診断と治療を受けることが非常に大切です。

関連する症状(EDなど)

糖尿病は全身の血管や神経に悪影響を与えるため、様々な部位で機能障害を引き起こす可能性があります。その一つに、性機能障害があります。男性の場合、勃起不全(ED)は糖尿病患者さんによく見られる症状であり、合併症の一つと考えられています。

糖尿病がEDを引き起こす主な理由は以下の通りです。

  • 血管障害: 高血糖によって細い血管や太い血管が傷つき、動脈硬化が進行します。これにより、陰茎への血流が悪くなり、勃起に必要な十分な血液を送ることができなくなります。
  • 神経障害: 勃起をコントロールする自律神経も糖尿病によって障害されることがあります。神経からの信号がうまく伝わらないと、陰茎の血管が適切に拡張せず、勃起が困難になります。
  • ホルモンバランスの異常: 糖尿病によって男性ホルモンの分泌が低下するなど、ホルモンバランスが乱れることもEDに関与することがあります。
  • 心理的要因: 糖尿病の診断や治療、将来への不安などがストレスとなり、EDを引き起こしたり悪化させたりすることもあります。

糖尿病患者さんでは、糖尿病でない人に比べてEDを発症する頻度が高いことが報告されています。EDは、糖尿病の血管や神経へのダメージのサインとして現れることもあり、EDをきっかけに医療機関を受診し、糖尿病が発見されるケースも少なくありません。

女性においても、糖尿病は性機能障害(性感帯の感覚低下、潤いの低下、性交痛など)を引き起こす可能性があります。

性機能に関する悩みは医療機関に相談しにくいと感じるかもしれませんが、これらは糖尿病の合併症の一つであり、適切な治療や管理によって改善が見られる場合もあります。また、EDは心血管疾患のリスクが高いサインである可能性も指摘されており、決して軽視せずに医師に相談することが重要です。

二型糖尿病の診断と検査

二型糖尿病の診断は、主に血液検査で血糖値とHbA1cの値を測定し、日本糖尿病学会が定める診断基準に基づいて行われます。

血糖値・HbA1c検査

糖尿病の診断において最も基本的な検査が、血液中のブドウ糖濃度を示す「血糖値」と、過去1~2ヶ月の血糖値の平均的な状態を示す「HbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)」の測定です。

  • 血糖値: 測定するタイミングによって値が変動します。
    * **空腹時血糖値:** 10時間以上食事を摂らずに測定した血糖値です。
    * **随時血糖値:** 食事時間に関係なく、任意の時間に測定した血糖値です。
    * **75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)2時間値:** 75gのブドウ糖を溶かした飲み物を飲んだ後、2時間後に測定した血糖値です。食後の血糖上昇やインスリン分泌反応を詳しく評価するために行われます。
  • HbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー): 赤血球中のヘモグロビンにブドウ糖が結合したものです。一度結合すると血糖値に関わらずしばらくそのままの状態が続くため、過去1~2ヶ月の血糖値の平均を知る指標となります。食事の影響を受けにくいため、診断や血糖コントロールの評価に広く用いられています。

日本糖尿病学会の診断基準の概要

項目 診断基準値
HbA1c値 6.5%以上
空腹時血糖値 126mg/dL以上
75gOGTT 2時間値 200mg/dL以上
随時血糖値 200mg/dL以上

以下のいずれかに該当する場合、「糖尿病型」と判定されます。
1. HbA1c値 6.5%以上
2. 空腹時血糖値 126mg/dL以上
3. 75gOGTT 2時間値 200mg/dL以上
4. 随時血糖値 200mg/dL以上

糖尿病と診断されるのは、上記の「糖尿病型」が確認された上で、以下のいずれかを満たす場合です。

  • 別の日の再検査でも「糖尿病型」を示す場合。
  • 「糖尿病型」を示し、かつ糖尿病の典型的な症状(口渇、多飲、多尿、体重減少など)がある場合。
  • 「糖尿病型」を示し、かつ確実に糖尿病網膜症がある場合。

初回検査で「糖尿病型」を示したが、再検査の時間が取れない場合や典型的な症状がない場合は、「再検査または他の項目の検査が必要」と判断されます。

また、診断基準には満たないものの、血糖値やHbA1cが正常範囲より高い状態を「糖尿病予備群」または「境界型」と呼びます。例えば、空腹時血糖値100~125mg/dL、75gOGTT 2時間値140~199mg/dL、HbA1c値6.0~6.4%などの場合です。この段階は、将来的に糖尿病に進行するリスクが高い状態ですが、生活習慣の改善によって糖尿病の発症を予防したり遅らせたりすることが可能です。

その他の検査

糖尿病の診断を確定したり、病型を詳細に区別したり、合併症の有無や程度を評価したりするために、上記以外にも様々な検査が行われます。

  • 尿検査(尿糖、尿ケトン体、尿中アルブミンなど):
    * **尿糖:** 血糖値が非常に高い場合に尿中に出現します。簡易的な指標として用いられます。
    * **尿ケトン体:** インスリン作用が極度に不足している場合(1型糖尿病や、二型糖尿病が非常に悪化しインスリンが極端に足りない場合)に、体内で脂肪が分解されて生成されます。危険なサインとなることがあります。
    * **尿中アルブミン:** 腎臓の障害(糖尿病腎症)の早期発見に非常に重要な検査です。本来、尿中にはほとんど出ないはずの微量のたんぱく質(アルブミン)が漏れ出すことで、腎臓の初期の変化を捉えることができます。
  • インスリン分泌能検査: 膵臓がインスリンをどれくらい分泌できるかを評価する検査です。空腹時や食後、あるいはブドウ糖負荷後の血液中のインスリンやC-ペプチド(インスリンが作られる過程でできる物質で、インスリン分泌量をより正確に反映する)の値を測定します。1型と二型の鑑別や、二型糖尿病の病態把握に役立ちます。
  • 自己抗体検査: 膵臓のβ細胞に対する自己抗体(GAD抗体、IAA、ICA、IA-2抗体など)の有無を調べます。これらの抗体が存在する場合は、自己免疫性の1型糖尿病である可能性が高いと判断されます。
  • 合併症に関する検査:
    * **眼底検査:** 目の奥にある網膜の状態を専門医が観察し、糖尿病網膜症の有無や進行度を確認します。
    * **神経学的検査:** 手足のしびれや感覚異常などを調べるために、振動覚、触覚、圧覚、痛覚などの検査を行います。
    * **心電図、胸部X線、血管エコー、ABI検査(足の血行の検査)など:** 心臓や血管の合併症(心筋梗塞、狭心症、閉塞性動脈硬化症など)のリスクや程度を評価します。
    * **腎機能検査:** 血液中のクレアチニン値やeGFR(推算糸球体濾過量)などから、腎臓全体の機能(血液をろ過する能力)を評価します。

これらの様々な検査を組み合わせて行うことで、糖尿病の診断だけでなく、病型、病状の進行度、合併症の有無や程度などを総合的に評価し、一人ひとりに最適な治療方針を決定します。

二型糖尿病の治療法

二型糖尿病の治療の最大の目的は、高血糖を是正し、それを維持することで、将来的に起こりうる様々な合併症の発症・進行を予防し、健康寿命を延ばすことです。治療は、患者さん一人ひとりの状態(病状、年齢、合併症の有無、ライフスタイルなど)に合わせて個別に行われます。

治療の基本方針

二型糖尿病の治療は、まず食事療法運動療法といった生活習慣の改善が基本となります。これらは、血糖値を下げるだけでなく、インスリン抵抗性を改善し、体重管理や血圧・脂質の改善にも繋がるため、糖尿病治療の土台となります。

生活習慣の改善だけでは目標とする血糖コントロールが達成できない場合に、薬物療法が開始されます。薬物療法には、飲み薬である経口血糖降下薬と、注射による注射薬(GLP-1受容体作動薬、インスリンなど)があります。これらの薬は、患者さんの病態(インスリン分泌能がどの程度残っているか、インスリン抵抗性の程度など)や、合併症の有無、年齢などを考慮して選択されます。複数の薬を組み合わせて使用することも珍しくありません。

治療は、一度始めると多くの場合長期にわたります。重要なのは、医師や看護師、管理栄養士、薬剤師といった医療スタッフと連携しながら、ご自身も積極的に治療に参加することです。血糖コントロールの目標値も、合併症の状況や年齢によって個別に設定されます。

食事療法

食事療法は、二型糖尿病治療の最も重要な柱の一つです。適切な食事は、血糖値のコントロールだけでなく、体重管理、血圧、脂質異常症の改善にも繋がり、糖尿病合併症の予防に大きな効果を発揮します。

食事療法の基本は、「適正なエネルギー量を、バランス良く、規則正しく摂る」ことです。

  • 適正なエネルギー量: 一日に必要なカロリー量は、年齢、性別、身長、体重、活動量などによって異なります。過剰なエネルギー摂取は血糖値上昇と肥満の原因となるため、自分に必要な量を把握し、食べすぎないように心がけましょう。一般的には、標準体重を維持するためのカロリー量が目安となります。
  • 栄養バランス:
    * **糖質:** 血糖値に最も影響します。ご飯、パン、麺類、イモ類、果物、砂糖などに含まれます。極端な糖質制限は推奨されない場合が多く、全体のエネルギー量の中で適量を摂ることが重要です。特に、精製された糖質や清涼飲料水など、血糖値を急激に上げるものは控えめにしましょう。
    * **たんぱく質:** 筋肉や臓器を作る重要な栄養素です。魚、肉、卵、大豆製品などをバランスよく摂りましょう。腎臓病がある場合は、たんぱく質の摂取量に注意が必要です。
    * **脂質:** エネルギー源として必要ですが、摂りすぎは肥満や動脈硬化を促進します。飽和脂肪酸(肉の脂身など)やトランス脂肪酸(加工食品)を控え、不飽和脂肪酸(魚油、オリーブ油など)を適量摂るようにしましょう。調理法も、揚げ物よりは、焼く、蒸す、煮るなどを選びます。
    * **食物繊維:** 野菜、きのこ、海藻、こんにゃく、豆類、全粒穀物などに豊富です。糖質の吸収を緩やかにし、食後の血糖値の急上昇(血糖スパイク)を抑える効果があります。また、満腹感を与え、便通を整える効果もあります。毎食意識して多めに摂りましょう。
  • 食べる順番: 食物繊維の多い野菜やきのこ類を最初に食べ、次におかず(たんぱく質)、最後に主食(ご飯やパン)を食べる「ベジタブルファースト」は、食後の血糖値の上昇を抑えるのに有効です。
  • 規則正しい食事時間: 毎日ほぼ同じ時間に3食を摂ることが、体のリズムを整え、血糖コントロールを安定させるために大切です。朝食を抜くと、昼食後の血糖値が急上昇しやすくなる(セカンドミール効果の消失)ことが知られています。
  • ゆっくりよく噛んで食べる: 満腹中枢が刺激され、食べすぎを防ぐ効果があります。
  • 間食や夜食を控える: 食事と食事の間隔が短すぎたり、夜遅くに食事を摂ったりすると、血糖値が高い時間が長くなり、血糖コントロールが悪化しやすくなります。

具体的な食事の進め方については、患者さんの状態や好み、ライフスタイルに合わせて、管理栄養士による個別指導を受けることが推奨されます。

運動療法

運動療法は、二型糖尿病治療のもう一つの柱です。運動は、血糖値を下げるだけでなく、インスリンの働きを良くする(インスリン抵抗性を改善する)、体重を減らす、血圧や脂質異常症を改善する、心肺機能を高める、ストレスを軽減するなど、様々な良い効果があります。

運動療法のポイントは以下の通りです。

  • 運動の種類:
    * **有酸素運動:** ウォーキング、ジョギング、サイクリング、水泳、水中ウォーキングなど、筋肉に比較的軽い負荷をかけながら酸素を取り込む運動です。ブドウ糖や脂肪をエネルギーとして消費し、インスリン抵抗性を改善する効果が高いです。
    * **レジスタンス運動(筋力トレーニング):** スクワット、腕立て伏せ、ダンベル体操、チューブ体操など、筋肉に負荷をかける運動です。筋肉量を増やし、筋肉によるブドウ糖の取り込みを促進します。有酸素運動と組み合わせて行うのがより効果的です。
  • 運動量:
    * **頻度:** 週に3~5日、可能であれば毎日行うのが理想的です。
    * **時間・強度:** 1回あたり20~60分程度、軽く汗ばむくらいの「ややきつい」と感じる中強度の有酸素運動が推奨されます。1週間合計で150分以上行うことを目標としましょう。まとまった時間を取れない場合は、10分程度の短い運動を複数回行っても効果があります。日常生活の中で、意識的に体を動かす時間を増やす(例:掃除、庭仕事、通勤時の歩行など)ことも大切です。
  • 運動のタイミング: 食後1~2時間後に行うと、食後の血糖値の上昇を抑える効果が期待できます。
  • 継続: 運動の効果は継続することで発揮されます。無理なく楽しんで続けられる運動を見つけることが大切です。家族や友人と一緒に行ったり、地域の教室に参加したりするのも良い方法です。

運動療法の注意点:

  • 低血糖: 特にインスリン療法中や、一部の経口血糖降下薬を使用している場合は、運動によって血糖値が下がりすぎて低血糖を起こす可能性があります。運動前後の血糖測定を行い、必要に応じてブドウ糖や砂糖を含む飲み物・食品を準備しておきましょう。
  • 合併症: 糖尿病網膜症が進行している場合や、増殖網膜症がある場合は、運動によって眼底出血を起こすリスクがあります。腎症、神経障害(足のしびれや潰瘍など)、心臓病、関節疾患などがある場合も、運動の種類や強度に制限があることがあります。必ず運動を開始する前に医師に相談し、ご自身の状態に合った運動指導を受けましょう。
  • 足のケア: 神経障害がある場合は、足に傷や潰瘍ができやすくなっています。運動靴は足に合ったものを選び、運動後は足に傷ができていないかよく確認しましょう。
  • 体調: 熱がある時や体調が悪い時、血糖値が極端に高い時(例:血糖値250mg/dL以上でケトン体が出ているなど)は運動を控えましょう。

薬物療法(経口薬、注射薬)

食事療法や運動療法をしっかり行っても血糖コントロールが目標値に達しない場合や、診断時にすでに血糖値が非常に高い場合などに、薬物療法が開始されます。二型糖尿病の薬には様々な種類があり、それぞれ異なるメカニズムで血糖値を下げます。患者さんの病態(インスリン分泌能やインスリン抵抗性の程度、肥満の有無など)や、他の持病、年齢、副作用のリスクなどを考慮して、医師が最も適した薬を選択・処方します。

主な経口血糖降下薬の種類と作用:

様々な種類があり、単独で使用されたり、組み合わせて使用されたりします。

薬の種類 主な作用メカニズム 特徴
ビグアナイド薬 肝臓からの糖放出を抑え、筋肉などでのインスリン感受性を高める(インスリン抵抗性を改善) 二型糖尿病の最初の薬としてよく使われる。体重増加を起こしにくい。一部の患者さんで消化器症状(吐き気、下痢など)が出ることがある。
DPP-4阻害薬 GLP-1などのホルモンを分解する酵素(DPP-4)の働きを阻害し、血糖値が高い時にインスリン分泌を促進する。血糖値が低い時には作用しにくい。 低血糖のリスクが比較的低い。体重への影響は少ないことが多い。広く使われている。
SGLT2阻害薬 腎臓でのブドウ糖の再吸収を抑制し、尿と一緒にブドウ糖を体の外に排出する。 血糖値を下げる効果に加え、体重減少、血圧低下、腎臓や心血管イベントのリスク低減効果も期待される。尿路感染症や脱水に注意が必要な場合がある。
GLP-1受容体作動薬(注射薬だが経口薬もある) 消化管から分泌されるGLP-1というホルモンと同じような働きをし、血糖値が高い時にインスリン分泌を促進、グルカゴン分泌を抑制する。胃排出を遅らせ食欲を抑える効果も。 注射剤が主流だが、内服薬もある。血糖降下作用に加え、体重減少効果が期待される。低血糖のリスクは比較的低い。一部の薬剤は心血管イベントのリスク低減効果が認められている。
SU薬(スルホニル尿素薬) 膵臓からのインスリン分泌を強く促進する。 古くから使われている薬。効果は強いが、低血糖を起こしやすい、体重増加のリスクがあるといった特徴がある。
速効型インスリン分泌促進薬(グリニド薬) 食事開始後すぐにインスリン分泌を促進する。 食後の高血糖を抑えるのに有効。SU薬に比べて作用時間が短く、低血糖のリスクはやや低いが、食前に服用しないと効果が得られにくい。
チアゾリジン薬 筋肉や脂肪組織などでのインスリン感受性を高める(インスリン抵抗性を改善)。 インスリン抵抗性が強い患者さんに有効。効果が出るまでに時間がかかる。むくみや心不全、骨折のリスクに注意が必要な場合がある。
α-グルコシダーゼ阻害薬 糖質が小腸で分解・吸収されるのを遅らせ、食後の血糖値の急激な上昇を抑える。 食後の高血糖を抑えるのに有効。お腹の張りやガスなどの消化器症状が出やすい。

注射薬:

経口薬や他の注射薬でも血糖コントロールが不十分な場合や、インスリン分泌能が著しく低下している場合、あるいは重症な合併症がある場合などに、インスリン療法が開始されます。

インスリン療法

インスリン療法は、体内で不足しているインスリンを直接補充する治療法です。二型糖尿病では、病気が進行して膵臓のインスリン分泌能力がかなり低下してしまった場合に必要となります。

インスリン製剤には様々な種類があり、効果が現れるまでの時間や作用の持続時間が異なります。患者さんの血糖パターンやライフスタイルに合わせて、最適な種類のインスリンと注射回数が選択されます。

  • 基礎インスリン補充: 1日1回(または2回)、効果が一日中持続する「持効型インスリン」などを注射し、食間や夜間の基礎的なインスリン分泌を補います。
  • 追加インスリン補充: 食事のたびに(1日1~3回)、「超速効型」または「速効型インスリン」を注射し、食後の血糖値上昇を抑えます。
  • 混合型インスリン: 基礎分泌と追加分泌を補うインスリンがあらかじめ混合された製剤です。1日1~2回の注射で済みますが、食事時間や量にある程度規則性が必要です。

インスリン療法は、患者さん自身が自宅で注射を行う「自己注射」が基本となります。最初は抵抗があるかもしれませんが、医療スタッフから注射の方法やインスリン量の調節について丁寧な指導を受けることができます。最近では、針が細く痛みが少ないものや、注入が簡単なペン型の製剤が主流となっています。

インスリン療法を開始しても、食事療法と運動療法は引き続き非常に重要です。これらを適切に行うことで、インスリンの効果を最大限に引き出し、より少ない量のインスリンで良好な血糖コントロールを目指すことができます。

薬物療法は、医師の指示に従って正しく使用することが非常に大切です。副作用や低血糖の症状についても理解し、不安なことや疑問があれば遠慮なく医師や薬剤師に相談しましょう。

二型糖尿病になりやすい人

二型糖尿病の発症リスクを高める要因はいくつか知られています。自分がこれらの特徴に当てはまるかどうかを知ることは、予防や早期発見に繋がります。

二型糖尿病になりやすい人の特徴として、以下のようなものがあります。

  • 家族に糖尿病患者がいる: 親や兄弟姉妹に二型糖尿病の人がいる場合、遺伝的に糖尿病になりやすい体質を受け継いでいる可能性が高いです。
  • 肥満、特に内臓脂肪が多い: BMI(体格指数)が25以上の肥満、特に腹部の内臓脂肪が多い「メタボリックシンドローム」の状態にある人は、インスリン抵抗性が非常に高まりやすく、リスクが著しく上昇します。
  • 運動不足: 日常的に体を動かす習慣がなく、座っている時間が長い人は、ブドウ糖の消費量が少なく、インスリンの効きが悪くなりやすいです。
  • 過食、不規則な食事、偏った食事: 必要以上にカロリーを摂取したり、食事の時間がバラバラだったり、高脂肪・高糖質のものを頻繁に食べたりする習慣は、膵臓に負担をかけ、インスリンの働きを悪くします。
  • 高齢者: 加齢に伴い、インスリンの分泌能力が低下したり、インスリン抵抗性が高まったりするため、高齢になるほど糖尿病の発症リスクは高まります。
  • 高血圧または脂質異常症がある: これらの病気は糖尿病と同じ生活習慣病であり、原因やリスク因子が共通している部分が多いです。高血圧や脂質異常症がある人は、糖尿病を合併している可能性が高い、または将来的に発症するリスクが高いと考えられます。
  • 過去に妊娠糖尿病になったことがある女性: 妊娠中に一時的に糖尿病になった経験のある女性は、将来的に二型糖尿病になるリスクが高いことが知られており、産後も定期的な検査が推奨されます。
  • 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)がある女性: PCOSの女性はインスリン抵抗性を伴うことが多く、二型糖尿病のリスクが高いとされています。
  • 喫煙者: 喫煙はインスリンの働きを妨げるなど、様々なメカニズムで糖尿病の発症リスクを高めます。
  • ストレスを抱えている: 慢性的なストレスは血糖値を上昇させるホルモンの分泌を促し、血糖コントロールを乱す可能性があります。
  • 睡眠不足または不規則な睡眠: 適切な睡眠が取れていない状態もリスク因子となり得ます。

これらのリスク因子は複合的に作用することが多く、当てはまる項目が多いほど、二型糖尿病になるリスクは高まります。ご自身の生活習慣や健康状態を振り返り、当てはまる点があれば、積極的に予防や早期発見のための行動を起こすことが重要です。今日からできることから、少しずつ始めてみましょう。もし、ご自身の健康状態に不安がある場合は、医療機関に相談してみましょう。

二型糖尿病は治る?

二型糖尿病は、一度発症すると完全に「治る」と定義することは難しい病気です。糖尿病になりやすい体質や、長年の生活習慣によって変化した体の機能が、完全に健康な状態に戻るわけではないからです。

しかし、適切な治療と生活習慣の改善によって、「寛解(かんかい)」と呼ばれる状態を目指すことは可能です。寛解とは、薬物療法なしでも、血糖値が正常範囲(またはそれに近い良好な状態)を長期間維持できている状態を指します。これは、糖尿病が治ったわけではなく、病状が落ち着いてコントロールできている状態と言えます。

特に、病気の早期段階で発見され、食事療法や運動療法によって大幅な体重減少に成功したり、劇的に生活習慣を改善したりした場合に、寛解に至る可能性があります。例えば、肥満が原因でインスリン抵抗性が強かった人が、ダイエットで内臓脂肪が減り、インスリンの効きが良くなった結果、薬を使わずに血糖値が安定する、といったケースです。

寛解を達成できたとしても、糖尿病になりやすい体質自体が変わるわけではなく、また膵臓の機能が完全に回復するわけでもありません。そのため、生活習慣が再び乱れると、いつでも糖尿病が再発するリスクがあります。寛解を維持するためには、その後も油断せず、健康的な食生活や適度な運動を継続し、定期的に医療機関で血糖値などのチェックを受けることが非常に重要です。

結論として、二型糖尿病は「完治」は難しいものの、生活習慣の改善を徹底し、積極的に治療に取り組むことで「寛解」という薬を使わない状態を目指すことは可能です。しかし、そのためには継続的な努力と医療機関との連携が不可欠です。

二型糖尿病の合併症

二型糖尿病で最も注意すべきなのは、慢性的な高血糖が全身の血管や神経にダメージを与え、様々な合併症を引き起こすことです。これらの合併症は、糖尿病が進行してから現れることが多く、QOL(生活の質)を著しく低下させたり、命に関わったりすることもあります。合併症は、細い血管の障害によるものと、太い血管の障害によるものに大別されます。

特に「し・め・じ」として知られる以下の3つの合併症は、糖尿病に特有の細小血管合併症であり、早期発見・早期治療が非常に重要です。

糖尿病神経障害

糖尿病によって神経が傷つき、機能が悪くなる合併症です。糖尿病の合併症の中で最も早期から現れることが多いです。

  • 原因: 高血糖により、神経細胞そのものが障害されたり、神経に栄養を運ぶ細い血管が傷ついて血流が悪くなったりすることで起こります。
  • 症状:
    * **手足のしびれ、痛み、感覚異常:** 最も多い症状で、特に足の指先や裏、手の指先など、体の末端から左右対称に現れることが特徴です。「ピリピリ」「ジンジン」といった痛みやしびれ、または逆に感覚が鈍くなる(触られても分かりにくい、熱さや痛さを感じにくい)、砂利の上を歩いているような違和感など、様々な形で現れます。夜間に症状が強くなることもあります。
    * **自律神経障害:** 血糖コントロールに関わる膵臓や胃腸、心臓、血管、膀胱などの働きを調整している自律神経が障害されることで起こります。立ちくらみ、胃のもたれや吐き気(胃不全麻痺)、便秘や下痢、発汗異常(汗をかきすぎる、あるいは全くかかない)、排尿障害(尿が出にくい、残尿感)、ED(勃起不全)、不整脈など、様々な症状が出ることがあります。
  • 注意点: 足の感覚が鈍くなると、小さな傷や靴擦れ、火傷に気づきにくくなります。これが悪化すると感染を起こし、治りにくい潰瘍(かいよう)となり、さらに悪化すると足の組織が腐ってしまう壊疽(えそ)に至り、最悪の場合、足の切断が必要になることがあります(糖尿病足病変)。日頃から足の状態をよく観察し、清潔に保つことが非常に重要です。

糖尿病網膜症

目の奥にある、光を感じる神経の集まりである「網膜」の血管が傷つく合併症です。糖尿病網膜症は、日本の成人における失明の主要な原因の一つです。

  • 原因: 高血糖により、網膜の非常に細い血管が詰まったり、出血したり、破れやすくなったりします。病気が進行すると、酸素不足になった網膜が新しい異常な血管(新生血管)を作り出し、これが破れて大出血を起こしたり、網膜剥離を引き起こしたりします。
  • 症状:
    * **初期:** 自覚症状はほとんどありません。視力も通常は正常に保たれています。健診の眼底検査などで初めて異常を指摘されることが多いです。
    * **進行期:** 網膜の血管から血液成分が漏れ出たり、むくみが生じたりすると、視力低下、物が歪んで見える、かすみ目などの症状が現れます。
    * **末期:** 新生血管からの大量出血や網膜剥離、緑内障などを引き起こし、急激な視力低下や失明に至ることがあります。
  • 注意点: 視力低下などの自覚症状が現れた時には、すでに病気がかなり進行していることが少なくありません。症状がなくても、定期的に眼底検査を受けることが、早期発見と失明予防のために極めて重要です。眼科医と連携し、病状に応じたレーザー治療や注射薬、硝子体手術などが行われます。

糖尿病腎症

腎臓の働きが悪くなる合併症です。腎臓は血液をろ過して老廃物や余分な水分を尿として体外に排出する重要な臓器ですが、糖尿病によってこの機能が障害されます。

  • 原因: 高血糖により、腎臓の中にある血液をろ過するフィルターの役割を担う部分(糸球体)の細い血管が傷つき、障害されます。
  • 症状:
    * **初期:** 自覚症状はほとんどありません。最初のサインは、本来は漏れ出ないはずの微量のたんぱく質(アルブミン)が尿中に漏れ出すようになることです(微量アルブミン尿期)。この段階で発見し、適切な治療を行えば、病気の進行を遅らせたり、止めることが可能です。
    * **進行期:** 尿中のたんぱく質量が増え、むくみ(特に足や顔)、高血圧が悪化するなどの症状が現れます。腎臓の機能がさらに低下すると、体のだるさ、食欲不振、吐き気、貧血などの尿毒症症状が現れます。
    * **末期:** 腎臓の機能が著しく低下し、体内の老廃物や水分を自分で排泄できなくなり、生命を維持するために人工透析や腎臓移植が必要となります(末期腎不全)。糖尿病は、日本における透析導入の原因疾患の第1位です。
  • 注意点: 糖尿病腎症も、自覚症状が現れた時にはかなり進行していることがほとんどです。早期の腎臓の変化は、尿中の微量アルブミンを測定することで発見できます。定期的な尿検査(尿中アルブミン)と血液検査(クレアチニン、eGFRなど)を受け、早期に異常を発見することが、透析への移行を防ぐために非常に重要です。

その他の合併症(心血管疾患など)

糖尿病は、細い血管だけでなく、比較的太い血管(動脈)にもダメージを与え、動脈硬化を進行させます(大血管障害)。これにより、生命に関わる重篤な病気のリスクが高まります。

  • 心血管疾患(心筋梗塞、狭心症): 心臓に血液を送る冠動脈の動脈硬化によって起こります。血管が狭くなると胸の痛み(狭心症)が、完全に詰まると心筋梗塞となり、激しい胸の痛みや呼吸困難、冷や汗などの症状が現れます。糖尿病患者さんでは、神経障害のため典型的な痛みが現れにくい「無痛性心筋梗塞」を起こすこともあり、注意が必要です。
  • 脳卒中: 脳の血管が詰まる(脳梗塞)か破れる(脳出血、くも膜下出血)病気です。糖尿病患者さんは、脳卒中の発症リスクがそうでない人に比べて高いことが知られています。麻痺や言語障害、意識障害などを引き起こし、重い後遺症が残ったり、命に関わったりします。
  • 閉塞性動脈硬化症(PAD): 足の動脈の動脈硬化により、血流が悪くなる病気です。歩くと足が痛くなるが休むと和らぐ(間欠性跛行)、足が冷たい、しびれる、傷が治りにくいといった症状が現れます。進行すると、足の潰瘍や壊疽の原因となります。
  • 糖尿病足病変: 神経障害による感覚低下、血行障害による血流不足、免疫力低下による感染などが組み合わさって、足に傷や潰瘍、壊疽などが生じる病気です。放置すると足の切断に至る可能性が高く、糖尿病患者さんのQOLを著しく低下させる原因の一つです。日頃からの足の観察とケアが重要です。
  • 歯周病: 糖尿病患者さんは歯周病にかかりやすく、重症化しやすいことが知られています。また、歯周病があると血糖コントロールが悪化しやすいという相互関係もあります。
  • 認知症: 糖尿病がある人は、血管性の認知症やアルツハイマー型認知症のリスクが高いことが報告されています。
  • 感染症: 免疫機能が低下するため、肺炎、尿路感染症、皮膚感染症などにかかりやすく、また重症化しやすい傾向があります。

これらの合併症の発症や進行を防ぐためには、血糖値だけでなく、血圧、脂質、体重といった動脈硬化の危険因子を総合的に管理することが非常に重要です。定期的な検査を受け、早期に異常を発見し、根気強く治療を続けることが、健康な状態を長く保つために不可欠です。

二型糖尿病の予防

二型糖尿病は、遺伝的な体質が関与するとはいえ、その多くは生活習慣の改善によって発症を予防したり、発症を遅らせたりすることが可能な病気です。特に「糖尿病予備群(境界型)」と診断された方は、本格的な糖尿病に進行する前に生活習慣を見直すことが非常に効果的です。

二型糖尿病の予防の中心となるのは、以下の生活習慣の改善です。

  • 健康的な食生活:
    * **腹八分目:** 必要以上のカロリー摂取を控え、食べすぎないようにしましょう。
    * **バランスの取れた食事:** 主食(ごはん、パン、麺)、主菜(肉、魚、卵、大豆製品)、副菜(野菜、きのこ、海藻)を揃え、バランス良く摂るように心がけましょう。
    * **野菜や食物繊維を積極的に摂る:** 食物繊維は糖質の吸収を穏やかにし、食後の血糖値の急上昇を抑えます。毎食、野菜やきのこ、海藻などをたっぷりと摂りましょう。
    * **甘い飲み物や菓子類、脂っこい食事を控える:** これらはカロリー過多や血糖値の急上昇、内臓脂肪の蓄積を招きやすいため、できるだけ頻度や量を減らしましょう。
    * **規則正しい時間に食事を摂る:** 毎日ほぼ同じ時間に3食を摂ることで、体のリズムが整いやすくなります。
  • 適度な運動の継続:
    * **有酸素運動を中心に:** ウォーキング、軽いジョギング、スイミングなど、少し息が弾む程度の運動を週に150分以上(例えば、1日30分を週5日)行うことを目標にしましょう。
    * **筋力トレーニングも:** 週に2~3回、自宅でできる簡単な筋トレ(スクワット、腕立て伏せなど)を取り入れると、筋肉量が増え、インスリンの効きが良くなります。
    * **日常生活で体を動かす工夫:** エスカレーターを使わず階段を使う、少し遠回りして歩く、こまめに掃除をするなど、意識的に活動量を増やしましょう。
  • 適正体重の維持:
    * **BMI 25未満を目指す:** BMI(体重kg ÷ (身長m × 身長m))が25未満になるように体重を管理しましょう。肥満がある場合は、現在の体重から5~10%減量するだけでも、糖尿病の発症リスクを大きく下げることができます。
  • 禁煙: 喫煙は糖尿病の発症リスクを高めるだけでなく、様々な合併症のリスクも高めます。禁煙は糖尿病予防・改善のために非常に重要です。
  • 節度ある飲酒: アルコールの摂りすぎは、カロリー過多や血糖コントロールの乱れにつながります。適量を守り、週に数日はアルコールを摂らない日(休肝日)を設けるようにしましょう。
  • ストレスを上手に管理する: 自分に合った方法でストレスを解消し、心身のリフレッシュを心がけましょう。
  • 十分な睡眠時間の確保: 睡眠不足や不規則な睡眠は、血糖コントロールに悪影響を与える可能性があります。規則正しい生活を心がけ、十分な睡眠時間を確保しましょう。
  • 定期的な健康診断: 二型糖尿病は初期には症状がないため、定期的な健康診断を受けることが早期発見に繋がります。特に糖尿病の家族歴がある方や、上記のリスク因子に当てはまる方は、毎年血糖値やHbA1cの検査を受けることをお勧めします。

これらの予防策を継続することで、二型糖尿病の発症リスクを大きく下げることができます。今日からできることから、少しずつ始めてみましょう。もし、ご自身の健康状態に不安がある場合は、医療機関に相談してみましょう。

免責事項:

この記事は、二型糖尿病に関する一般的な情報を提供することを目的としており、個別の診断や治療法について推奨するものではありません。病状や治療に関する決定は、必ず医師やその他の医療専門家と相談の上で行ってください。記事の内容は執筆時点での一般的な知見に基づいていますが、医学的な情報は常に更新される可能性があります。この記事の情報によって生じたいかなる結果についても、当方では責任を負いかねます。

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