糖尿病性ケトアシドーシスとは?見逃せない危険サインと緊急対策
糖尿病性ケトアシドーシスは、糖尿病患者さんにとって、非常に危険な急性合併症の一つです。高血糖状態が著しく進行し、体内で異常な物質が増加することで、命に関わる状況に陥る可能性があります。特に、インスリン治療を行っている方や、新たに糖尿病と診断される方に起こりやすいとされています。しかし、適切な知識を持ち、早期に症状に気づいて対応することで、重症化を防ぐことができます。この記事では、糖尿病性ケトアシドーシスがなぜ起こるのか、どのような症状が現れるのか、そしてどのように診断・治療・予防するのかについて、詳しく解説していきます。もし、ご自身やご家族に糖尿病があり、気になる症状がある場合は、この記事を参考に、早めに医療機関に相談することが大切です。
糖尿病性ケトアシドーシスの原因:なぜ発生する?
糖尿病性ケトアシドーシスが発生する根本的な原因は、体内のインスリン作用が著しく不足することです。このインスリン不足が引き金となり、体内で様々な異常が生じます。
インスリン作用の不足
インスリンは、血糖値を下げる唯一のホルモンであり、ブドウ糖が細胞に取り込まれてエネルギーとして利用されるのを助ける重要な働きをしています。インスリンの作用が不足すると、血糖値が上昇するだけでなく、細胞がエネルギー不足に陥ります。
インスリン作用が不足する主な状況は以下の通りです。
- インスリン治療の中断・不足: 1型糖尿病患者さんがインスリン注射を自己判断で止めたり、必要な量を打ち忘れたりした場合。インスリンポンプを使用している場合、機械のトラブルやチューブの詰まりなどでインスリンが適切に供給されない場合も原因となります。
- 新規発症の1型糖尿病: まだ糖尿病と診断されておらず、インスリンがほとんど分泌されていない状態。特に小児や若年者で急激に発症することがあります。
- 感染症: 風邪、肺炎、尿路感染症などの感染症は、体に強いストレスを与え、血糖値を上げるホルモン(アドレナリン、コルチゾールなど)の分泌を促進します。これらのホルモンはインスリンの働きを妨げるため、インスリンが不足しやすくなります。
- その他の病気やストレス: 手術、外傷、心筋梗塞、脳卒中などの急性の病気や精神的なストレスも、血糖値を上昇させ、インスリンの必要量を増やすため、DKAのリスクを高めます。
- 特定の薬剤: ステロイド薬や一部の免疫抑制剤などは、血糖値を上昇させる作用があるため、DKAを引き起こす可能性があります。
- インスリンの効果が不十分: 2型糖尿病患者さんで、長年の経過でインスリン分泌能力が著しく低下した場合や、極度の肥満などでインスリン抵抗性が非常に強い場合にも起こりえます。
ケトン体の過剰な産生
インスリンの作用が不足すると、体はエネルギー源としてブドウ糖を利用できなくなるため、代わりに脂肪を分解してエネルギーを得ようとします。脂肪が肝臓で分解される過程で、「ケトン体」と呼ばれる物質(アセト酢酸、β-ヒドロキシ酪酸、アセトン)が大量に生成されます。
通常、ケトン体は飢餓時などに少量生成され、脳などのエネルギー源として利用されますが、インスリン不足が続くとその産生量が処理能力をはるかに超えてしまいます。ケトン体は酸性の物質であるため、血液中に蓄積すると血液が酸性に傾き始めます。
血液が酸性に傾くアシドーシス
ケトン体が血液中に大量に蓄積すると、血液のpH(酸性度・アルカリ性度を示す指標)が低下し、「代謝性アシドーシス」という状態になります。健康な人の血液のpHは弱アルカリ性(約7.35~7.45)に保たれていますが、DKAではpHが7.3未満、重症では7.0未満になることもあります。
アシドーシスは、全身の細胞や臓器の機能に様々な悪影響を及ぼします。特に、心臓、脳、腎臓などの重要な臓器の働きが障害され、重篤な症状を引き起こします。体は血液の酸性度を正常に戻そうとして、過呼吸(速く深い呼吸)をしたり、酸性の物質を尿から排出しようとしますが、DKAではケトン体の産生量が非常に多いため、これらの代償機構が追いつかず、アシドーシスが進行します。
まとめると、糖尿病性ケトアシドーシスは、インスリン不足によってブドウ糖が利用できなくなり、代わりに脂肪が分解されてケトン体が大量に作られ、結果として血液が酸性になる(アシドーシス)という一連の異常反応によって引き起こされる病態です。
糖尿病性ケトアシドーシスの主な症状
糖尿病性ケトアシドーシスの症状は、高血糖による症状、ケトン体増加による症状、そしてアシドーシスや脱水による全身症状が複合的に現れます。早期に気づくことが重要であり、初期症状を知っておくことが大切です。
ケトアシドーシスの初期症状
糖尿病性ケトアシドーシスの発症は比較的急激で、数時間から数日のうちに進行することが多いです。初期には、以下のような高血糖による症状が顕著に現れます。
- 強い口渇: 血糖値が高いと、体は余分なブドウ糖を尿として排出しようとします。このとき、水分も一緒に排出されるため、体が脱水状態になり、強い喉の渇きを感じます。
- 多飲: 喉の渇きを潤すために、水分を大量に摂取します。
- 多尿: 体内のブドウ糖を排出しようとするため、尿の回数が増え、量も多くなります。夜間に何度もトイレに起きることもあります。
- 体重減少: 尿と一緒にブドウ糖と水分が排出されるため、急激に体重が減少することがあります。
- 全身倦怠感: エネルギー源であるブドウ糖が細胞で利用できないため、体がだるく、疲れやすくなります。
これらの症状は、単なる高血糖でも見られますが、DKAでは急速に悪化していく傾向があります。
吐く息が甘い匂いになるケトン臭
ケトン体の成分の一つであるアセトンは揮発性があり、肺から呼気として排出されます。このアセトンの匂いは、熟した果物のような、あるいは除光液のような甘酸っぱい匂いに例えられます。DKAが進行すると、患者さんの息がこの特徴的な匂いを帯びるようになります。これは、ケトン体が体内に大量に蓄積しているサインであり、DKAを強く疑うべき重要な症状の一つです。
重症化に伴う症状と危険性
糖尿病性ケトアシドーシスが進行し、アシドーシスや脱水が高度になると、命に関わる重篤な症状が現れます。これらの症状が見られた場合は、直ちに救急搬送が必要です。
意識障害・昏睡
脳細胞もエネルギー不足やアシドーシスの影響を受けるため、思考力が低下したり、ぼんやりしたりする意識障害が現れます。さらに重症化すると、呼びかけにも反応しなくなる昏睡状態に陥ることがあります。意識障害はDKAの重症度を示す重要な指標です。
腹痛や嘔吐
ケトン体やアシドーシスは、消化管の動きを障害し、腹部の痛みを引き起こすことがあります。また、吐き気や嘔吐も頻繁に起こり、これが脱水をさらに悪化させる悪循環に陥ることもあります。腹痛はDKAの比較的早期から現れることがあり、他の原因(虫垂炎など)と間違われることもあるため注意が必要です。
クスマウル呼吸
アシドーシスを打ち消すために、体は血液中の酸(二酸化炭素)を肺から強制的に排出しようとします。その結果、速く、深く、規則的な呼吸になります。これをクスマウル呼吸と呼びます。これは体がアシドーシスを代償しようとする働きですが、この呼吸が見られるということは、アシドーシスがすでに進行していることを示しています。
その他にも、重症化すると血圧低下、頻脈(脈が速くなる)、呼吸困難、電解質異常(特にカリウムの異常)による不整脈など、全身の機能が障害されます。これらの症状は、放置すれば死に至る危険性があるため、一刻も早い医療介入が必要です。
糖尿病性ケトアシドーシスの診断方法
糖尿病性ケトアシドーシスは、問診、身体診察、そしていくつかの検査結果を組み合わせて診断されます。症状と血糖値が高いという情報があれば、DKAを疑い、速やかに以下の検査を行います。
血糖値・血液検査
糖尿病性ケトアシドーシスでは、高血糖が必須の条件となります。一般的に、血糖値は250 mg/dL以上となることが多いですが、まれに正常に近い血糖値でアシドーシスとケトン体増加が見られる「euglycemic DKA」という病態もあります(特にSGLT2阻害薬を服用している場合など)。
血液検査では、以下の項目が重要になります。
- 血糖値: 高値を示します。
- 血中ケトン体: β-ヒドロキシ酪酸が診断に最も重要です。高値を示します。
- 電解質: ナトリウム、カリウム、クロールなどを測定します。脱水やアシドーシスによって異常を示すことが多く、特にカリウムは治療中に変動しやすいため注意が必要です。
- 血清浸透圧: 脱水の程度を評価するのに役立ちます。通常、高値を示します。
- 腎機能: BUN(尿素窒素)やクレアチニンを測定し、脱水による腎臓への影響を評価します。
- 白血球数: 感染症が原因でDKAが誘発された場合、白血球数が増加することがあります。
- 炎症反応: CRPなどの炎症マーカーも、感染症の有無を評価するのに役立ちます。
尿検査(ケトン体)
尿中のケトン体を測定することも、DKAの診断に役立ちます。簡易的な試験紙で迅速に検査が可能で、陽性(特に+++や++++と強陽性)であれば、DKAを強く疑います。ただし、血中ケトン体(特にβ-ヒドロキシ酪酸)の測定の方が、病態の評価にはより正確です。
血液ガス分析
血液ガス分析は、血液のpH、重炭酸イオン(HCO3-)、動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)などを測定する検査で、アシドーシスの種類や重症度を正確に評価するために不可欠です。
糖尿病性ケトアシドーシスでは、以下の特徴が見られます。
- pHの低下: 7.3未満となります。
- 重炭酸イオン(HCO3-)の低下: 18 mEq/L未満となります。
- アニオンギャップの開大: 血液中の陽イオンと陰イオンの差を示す指標で、DKAではケトン体という測定されない陰イオンが増えるため、アニオンギャップが開大します。これは代謝性アシドーシスがケトン体によるものであることを示唆します。
類似疾患との鑑別(高浸透圧高血糖状態 HHS)
糖尿病の急性合併症には、糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)の他に、高浸透圧高血糖状態(Hyperosmolar Hyperglycemic State; HHS)があります。HHSも重篤な病態であり、高血糖と脱水を特徴としますが、DKAとはいくつかの点で異なります。特に、HHSではケトン体の上昇やアシドーシスが軽度または認められないのが特徴です。
両者の主な違いを以下の表にまとめます。
項目 | 糖尿病性ケトアシドーシス(DKA) | 高浸透圧高血糖状態(HHS) |
---|---|---|
発症 | 急激(数時間~数日) | 緩徐(数日~数週間) |
罹患しやすい人 | 主に1型糖尿病、若年者 | 主に2型糖尿病、高齢者 |
血糖値 | 高値(一般的に250 mg/dL以上) | 著しい高値(一般的に600 mg/dL以上) |
血清浸透圧 | 高値(一般的に320 mOsm/kg未満) | 著しい高値(一般的に320 mOsm/kg以上) |
血中ケトン体 | 著しく高値 | 軽度上昇または正常 |
血液pH | 低値(7.3未満) | 正常または軽度低下(7.3以上) |
重炭酸イオン | 低値(18 mEq/L未満) | 正常または軽度低下(18 mEq/L以上) |
アニオンギャップ | 開大 | 正常または軽度開大 |
意識障害 | あり(アシドーシスの重症度による) | 頻繁に見られる(高浸透圧による) |
脱水 | あり(一般的に中等度~重度) | 著しい(一般的に重度) |
ケトン臭 | あり | なし |
腹痛・嘔吐 | あり(比較的よく見られる) | なし(または軽度) |
DKAとHHSは治療法に共通点も多いですが、病態の重点が異なるため、正確な鑑別診断が重要です。いずれも緊急性の高い病態であることには変わりありません。
糖尿病性ケトアシドーシスの治療
糖尿病性ケトアシドーシスは救急疾患であり、診断がつき次第、迅速な治療を開始する必要があります。治療の目標は、インスリン不足とアシドーシス、脱水を改善し、全身状態を安定させることです。治療は通常、集中治療室(ICU)または準集中治療室(HCU)などで行われます。
治療の柱は以下の4つです。
- 輸液(点滴)療法
- インスリン補充療法
- 電解質バランスの補正
- 原因への対応
輸液(点滴)療法
DKAでは、高血糖による浸透圧利尿(尿量の増加)と嘔吐などにより、高度の脱水状態に陥っています。まずは失われた水分と電解質を補うために、大量の輸液(点滴)を行います。
初期には生理食塩水などの電解質を含む輸液を速いスピードで投与し、循環血液量を回復させます。脱水が補正され、血糖値が改善してくると、カリウムなどの電解質の補充も考慮しながら、輸液の種類や投与速度を調整します。輸液療法によって、脱水が改善されるだけでなく、希釈効果によって血糖値が低下し、腎臓からのブドウ糖やケトン体の排出も促進されます。
インスリン補充療法
DKAの根本原因はインスリン作用の不足です。インスリンを補充することで、細胞へのブドウ糖取り込みを促進し、高血糖を改善します。また、肝臓でのブドウ糖産生を抑制し、脂肪の分解とそれに伴うケトン体の産生を強力に抑制します。
治療には、超速効型または速効型インスリンを静脈内持続投与するのが標準的です。少量を持続的に投与することで、インスリン濃度を安定させ、血糖値とケトン体を徐々に低下させることができます。血糖値が200 mg/dL程度まで低下してきたら、ブドウ糖を含む輸液に切り替え、インスリン投与を続けながら低血糖を防ぎつつ、ケトン体の改善を目指します。
インスリン投与開始後、アシドーシスが改善するまで(pHが7.3以上、重炭酸イオンが18 mEq/L以上になるまで)は、静脈内投与を継続します。アシドーシスが改善し、経口摂取が可能になったら、皮下注射によるインスリン療法に切り替えるのが一般的です。
電解質バランスの補正
DKAでは、脱水やアシドーシス、インスリン療法の影響で、電解質のバランスが大きく崩れることがあります。特にカリウムは重要な電解質であり、DKAの治療中に注意が必要です。
アシドーシスがある状態では、細胞内のカリウムが細胞外(血液中)に移動するため、血液検査上のカリウム値が高めに出ることがあります。しかし、体全体のカリウム量は尿からの排出などで減少していることが多いです。インスリン療法を開始すると、ブドウ糖とともにカリウムも細胞内に移動するため、急速に血中カリウム値が低下し、低カリウム血症を引き起こす危険があります。低カリウム血症は、心臓に重篤な不整脈を引き起こす可能性があるため、輸液にカリウムを補充することが非常に重要です。カリウムの補充は、血液中のカリウム値を頻繁に測定しながら慎重に行われます。
その他、リン酸なども不足することがあり、必要に応じて補充が行われます。
原因への対応
DKAを誘発した原因(感染症、インスリン中断、心筋梗塞など)があれば、それに対する治療も並行して行われます。例えば、細菌感染が原因であれば抗生物質の投与を行います。原因を取り除くことは、DKAを根本的に改善し、再発を防ぐために不可欠です。
DKAの治療は、これらの要素を患者さんの状態に合わせて綿密に調整しながら進められます。治療が成功すれば、多くの場合、数日以内に全身状態は改善し、通常の糖尿病管理に戻ることができます。
糖尿病性ケトアシドーシスの予防
糖尿病性ケトアシドーシスは、適切な管理と対策によって予防することが可能です。特に、インスリン療法を行っている患者さんや、糖尿病と診断されたばかりの方は、予防策を理解しておくことが非常に重要です。
血糖コントロールの徹底
DKAの最も基本的な予防策は、日頃から良好な血糖コントロールを維持することです。
- 定期的な血糖測定: 自己血糖測定(SMBG)や持続血糖モニター(CGM)を活用し、ご自身の血糖値の状態を把握しましょう。特に体調が優れない時や、いつもと違う生活をしている時は、血糖測定の回数を増やすことが推奨されます。
- 処方された薬剤を正しく使用: 医師から指示された通りに、インスリンやその他の糖尿病治療薬を正しく使用しましょう。自己判断で減量したり、中止したりすることは非常に危険です。インスリン療法を行っている方は、絶対にインスリンを中断しないでください。
- 食事・運動療法の継続: バランスの取れた食事と適度な運動は、血糖コントロールの基本です。体調が良い時は、日頃の療養指導を守りましょう。
- HbA1cの目標達成: 定期的な受診でHbA1cなどの検査を受け、血糖コントロールの状態を確認し、目標達成を目指しましょう。
シックデイ(病気などで体調が悪い日)対策
糖尿病患者さんが風邪、胃腸炎、インフルエンザなどの病気にかかり、発熱、下痢、嘔吐、食欲不振などで体調が悪くなった日を「シックデイ」と呼びます。シックデイは、体にストレスがかかり、血糖値を上げるホルモンが増加するため、血糖値が普段より高くなりやすく、DKAを誘発するリスクが高まります。
シックデイにおけるDKA予防のための対策は以下の通りです。
- インスリンや内服薬は自己判断で中止しない: 食事が摂れない場合でも、インスリンや内服薬を自己判断で中止すると、かえって高血糖やDKAを招くことがあります。必ず医師の指示に従いましょう。インスリンは少量でも継続が必要な場合が多いです。
- 血糖測定を頻繁に行う: 普段より頻繁に(例えば2~4時間おきに)血糖測定を行い、血糖値の変動を把握しましょう。
- 尿ケトン体を測定する: 血糖値が高い場合(例えば200 mg/dL以上)や、体調が悪い場合は、尿ケトン体を測定しましょう。尿ケトン体が陽性(+以上)であれば、DKAに進行する危険性があります。
- 水分・糖分を補給する: 食事が摂れない場合でも、脱水を防ぐために十分な水分を摂りましょう。おかゆ、スープ、果物ジュース、ゼリー飲料など、消化が良く糖分や電解質を含むものを少量ずつ頻繁に摂るようにしましょう。
- シックデイの対応について医師に相談しておく: 普段から、かかりつけ医にシックデイになった場合の対応について具体的な指示(飲む薬の種類、量、連絡するタイミングなど)を聞いておきましょう。
- 迷ったらすぐに医療機関に連絡する: 体調不良が続く場合、血糖値が異常に高い場合、尿ケトン体が強陽性の場合、嘔吐が続く場合、意識がはっきりしない場合などは、迷わずかかりつけ医や医療機関に連絡し、指示を仰ぎましょう。
定期的な受診と早期発見の重要性
定期的に医療機関を受診し、医師や看護師、管理栄養士から指導を受けることは、良好な血糖コントロールを維持し、合併症を予防するために非常に重要です。
医師は、定期的な検査結果や患者さんの状態に基づいて、治療計画を適切に調整してくれます。また、シックデイ対策や、DKAの初期症状についても詳しく説明を受けることができます。
もし、上に挙げたDKAの初期症状(強い口渇、多飲多尿、全身倦怠感、吐き気、腹痛、息の甘い匂いなど)が現れた場合は、「いつもの高血糖かな」と軽く考えず、すぐに医療機関に連絡するか、救急外来を受診してください。特に、血糖値が高いだけでなく、吐き気や腹痛がある、息が甘い匂いがする、尿ケトン体が陽性であるといった場合は、DKAの可能性が高いため、迅速な対応が必要です。
早期にDKAを発見し、治療を開始することができれば、重症化を防ぎ、回復も早まります。自己判断で様子を見たり、インスリンを中断したりすることは絶対に避けましょう。
糖尿病性ケトアシドーシスを放置するとどうなるか?
糖尿病性ケトアシドーシスを放置することは、非常に危険です。インスリン作用の不足、高血糖、ケトン体の蓄積、アシドーシス、そしてそれに伴う脱水と電解質異常は、時間とともに悪化し、全身の臓器に深刻な影響を与えます。
具体的には、以下のような事態に進展する可能性があります。
- 意識障害の進行: ぼんやりする程度だった意識障害が、刺激への反応が鈍くなる傾眠、さらに呼びかけにも応じない昏睡へと進行します。脳機能が高度に障害されていることを示し、生命の危機に関わります。
- 循環不全・ショック: 高度の脱水により、血液量が減少し、血圧が著しく低下します。心臓はこれを代償しようと速く拍動しますが、全身への血液供給が不十分となり、ショック状態に陥る危険があります。これは多臓器不全を引き起こす原因となります。
- 呼吸不全: アシドーシスが進行すると、クスマウル呼吸のような代償機構も限界に達し、呼吸筋の疲労などにより呼吸不全に陥ることがあります。
- 電解質異常による合併症: 特に重篤な低カリウム血症は、心臓の興奮伝導系に異常を来し、致死的な不整脈(心室細動など)を引き起こす可能性があります。
- 急性腎障害: 高度の脱水は腎臓への血流を低下させ、急性腎障害を合併することがあります。
- 脳浮腫: 特に小児のDKA治療中に起こりうる重篤な合併症です。急激な血糖降下や輸液速度などが関連すると考えられており、注意深い管理が必要です。
- 多臓器不全: 上記のような様々な臓器障害が複合的に発生し、全身の機能が破綻する多臓器不全に至る危険があります。
このように、糖尿病性ケトアシドーシスは放置すれば確実に重症化し、死に至る可能性のある、まさに「救急疾患」です。自宅で自己判断で対応できる状態ではありません。
もし、糖尿病患者さんで、強い口渇、多飲多尿、全身倦怠感、吐き気、腹痛、息の甘い匂い、意識がはっきりしない、といった症状が一つでも現れた場合は、「何かおかしい」と気づき、すぐに救急車を呼ぶか、最寄りの医療機関の救急外来を受診してください。早期発見と適切な救急医療こそが、命を守る鍵となります。
まとめ:糖尿病性ケトアシドーシスは救急疾患
糖尿病性ケトアシドーシスは、インスリン作用の著しい不足によって引き起こされる、高血糖、ケトン体増加、そして血液が酸性に傾くアシドーシスを特徴とする、糖尿病の重篤な急性合併症です。主に1型糖尿病患者さんに発生しやすいですが、2型糖尿病患者さんにも起こりうる病態です。
原因としては、インスリン注射の自己中断や量不足、新規発症、感染症やその他の病気、精神的なストレスなどが挙げられます。
症状は、高血糖による強い口渇、多飲多尿、全身倦怠感から始まり、ケトン体増加に伴う吐き気、腹痛、そして特徴的な熟した果物のような「ケトン臭」が息に現れます。さらに進行すると、アシドーシスや脱水が高度になり、クスマウル呼吸、血圧低下、そして意識障害や昏睡といった、命に関わる重篤な状態に陥ります。
診断は、症状に加えて、高血糖、血中または尿中ケトン体陽性、そして血液ガス分析による代謝性アシドーシスの確認によって行われます。高浸透圧高血糖状態(HHS)との鑑別も重要です。
治療は救急医療として行われ、大量の輸液による脱水補正、インスリンの静脈内持続投与による血糖降下とケトン体産生抑制、そして電解質バランス(特にカリウム)の綿密な管理が柱となります。同時に、DKAを誘発した原因疾患(感染症など)への対応も行われます。
糖尿病性ケトアシドーシスは、早期に発見し、適切な治療を迅速に開始すれば回復が見込めますが、放置すると多臓器不全や心停止などにより死に至る非常に危険な病態です。
DKAを予防するためには、日頃からの良好な血糖コントロールが最も重要です。インスリン療法を行っている方は、決して自己判断でインスリンを中断しないでください。また、風邪などで体調が悪くなった「シックデイ」には、血糖測定や尿ケトン体測定を頻繁に行い、医師から指示された対応をとりましょう。迷ったり、症状が悪化したりした場合は、すぐに医療機関に連絡または受診することが、早期発見と重症化予防の鍵となります。
ご自身やご家族に糖尿病があり、DKAの症状が疑われる場合は、躊躇せずにすぐに医療機関にご相談ください。
免責事項: この記事は、糖尿病性ケトアシドーシスに関する一般的な情報提供を目的としています。個々の症状や治療については、必ず医師にご相談ください。この記事の情報のみに基づいて自己判断や治療を行わないでください。