糖尿病合併症の種類とリスクを徹底解説|失明・腎不全など怖い合併症とは
糖尿病と診断された方が最も恐れることの一つが「合併症」ではないでしょうか。糖尿病は、血糖値が高い状態が長く続くことで、全身の血管や神経が傷つき、さまざまな病気を引き起こします。これらの病気が「糖尿病合併症」と呼ばれます。合併症は自覚症状がないまま進行することが多く、気づいたときには重篤な状態になっていることも少なくありません。
しかし、合併症の種類や原因、症状、そして何よりも予防と対策について正しく理解することで、そのリスクを減らし、健やかな生活を維持することが可能です。この記事では、糖尿病の主な合併症から、予防と早期発見の重要性、そして具体的な対策について、分かりやすく解説します。
糖尿病合併症とは?高血糖が招く全身への影響
糖尿病合併症とは、糖尿病によって引き起こされる様々な病気の総称です。糖尿病で血糖値が高い状態が長期間続くと、全身の血管や神経が少しずつダメージを受けます。このダメージが蓄積することで、特定の臓器や組織の機能が低下し、重篤な病気を発症するのです。
合併症は、主に「小血管合併症」と「大血管合併症」の二つに分けられます。小血管合併症は、全身の細い血管が傷つくことで起こり、特に目、腎臓、神経に影響が出やすいのが特徴です。これらは「糖尿病の三大合併症」とも呼ばれ、糖尿病網膜症、糖尿病腎症、糖尿病神経障害を指します。一方、大血管合併症は、脳や心臓、足などの太い血管が動脈硬化を起こすことで発症します。これには、脳卒中、虚血性心疾患(心筋梗塞や狭心症)、末梢動脈疾患などが含まれます。
合併症は、糖尿病と診断されてすぐに現れるわけではありません。しかし、血糖コントロールが不十分な状態が続くと、数年から十数年かけてゆっくりと進行します。初期段階では自覚症状がほとんどないため、定期的な検査を受けていないと、気づかないうちに進行してしまう危険性があります。合併症を予防し、進行を遅らせるためには、日頃からの血糖管理と定期的な健康チェックが非常に重要です。
糖尿病合併症の原因とメカニズム
糖尿病合併症の根本的な原因は、高血糖状態が続くことです。血液中のブドウ糖(血糖)が慢性的に高い状態にあると、いくつかのメカニズムによって血管や神経にダメージを与えます。
主なメカニズムとしては、以下の点が挙げられます。
- タンパク質の糖化(AGEsの蓄積): 血液中の余分なブドウ糖は、体内のタンパク質と結合して「終末糖化産物(AGEs)」という物質を生成します。AGEsは、血管や組織に蓄積し、それらを硬くしたり、弾力性を失わせたりする働きがあります。これにより、血管がもろくなり、機能が低下します。
- ソルビトール代謝異常: 血糖が高い状態では、ブドウ糖が「ソルビトール」という物質に変換される経路が活性化します。ソルビトールが細胞内に過剰に蓄積すると、細胞の機能が障害され、特に神経細胞や網膜の細胞などに悪影響を及ぼします。
- 酸化ストレスの増加: 高血糖は、体内で活性酸素を過剰に発生させ、細胞を傷つける「酸化ストレス」を増加させます。酸化ストレスは、血管内皮細胞の機能障害を引き起こし、動脈硬化を促進します。
- 炎症反応の亢進: 高血糖状態では、血管壁などで慢性的な炎症が引き起こされます。この炎症も、血管の構造や機能を障害し、動脈硬化の進行に関与します。
これらのメカニズムが複合的に作用し、全身の細い血管や太い血管、そして神経にダメージを与え続けることで、糖尿病網膜症、糖尿病腎症、糖尿病神経障害といった小血管合併症や、脳卒中、心筋梗塞などの大血管合併症が引き起こされるのです。
合併症の発症や進行のスピードは、血糖コントロールの状態だけでなく、血圧、脂質の値、喫煙習慣、遺伝的要因など、様々な因子に影響されます。そのため、高血糖を是正することに加え、これらの危険因子を総合的に管理することが、合併症予防には不可欠となります。
糖尿病の主な合併症の種類(三大合併症)
糖尿病の合併症の中でも特に重要視されるのが、「三大合併症」と呼ばれる「糖尿病網膜症」「糖尿病腎症」「糖尿病神経障害」です。これらは、糖尿病が引き起こす細い血管(細小血管)の障害によって主に発生します。放置すると、それぞれ失明、腎不全(透析)、重い神経障害といった深刻な状態に至る可能性があります。
糖尿病網膜症(目の合併症)
糖尿病網膜症は、糖尿病が原因で目の奥にある網膜の血管が傷つき、視力が低下したり、最終的に失明に至る可能性のある病気です。網膜は光を感じ取る重要な組織であり、その血管が障害されると、網膜への酸素や栄養の供給が不足し、様々な異常が生じます。日本の失明原因の第一位であり、早期発見と治療が非常に重要です。
糖尿病網膜症の症状と進行時期
糖尿病網膜症は、初期には自覚症状がほとんどありません。視力低下やかすみ目などの症状が出た時には、すでに病気がある程度進行していることが多いです。進行に応じて、主に以下の3つの段階に分けられます。
- 単純網膜症: 網膜の毛細血管に小さな瘤(こぶ)ができたり、出血点や白斑が現れたりする初期の段階です。自覚症状はほとんどありません。
- 増殖前網膜症: 血管の詰まりが増え、網膜の一部に血液が届かなくなり(虚血)、栄養や酸素が不足する段階です。虚血部位から異常な血管(新生血管)が発生する準備が始まります。視力低下を感じることもありますが、まだ症状がない場合も多いです。
- 増殖網膜症: 異常な新生血管が網膜表面や硝子体(眼球内部を満たすゼリー状の物質)の中に伸びてくる進行した段階です。新生血管は非常にもろく、破れやすいため、出血(硝子体出血)を起こしやすいです。出血が起こると、急激な視力低下や飛蚊症(目の前に糸くずのようなものが見える)が現れます。また、新生血管に関連して増殖膜という組織ができ、これが網膜を引っ張ると、網膜剥離を引き起こし、失明に至る危険性が非常に高まります。
進行段階 | 網膜の状態 | 主な症状 |
---|---|---|
単純網膜症 | 小さな出血、瘤、白斑 | ほとんどなし |
増殖前網膜症 | 血管の詰まり、虚血部位の増加 | 軽度の視力低下(自覚しないことも多い) |
増殖網膜症 | 新生血管、硝子体出血、網膜剥離のリスク増大 | 急激な視力低下、飛蚊症、失明リスク |
新生血管が黄斑部(網膜の中心部で最も視力に関わる部分)に影響を及ぼす「糖尿病黄斑浮腫」も、進行段階に関わらず視力低下の大きな原因となります。
糖尿病網膜症の検査と治療方法
糖尿病網膜症の早期発見には、自覚症状がなくても定期的な眼科受診が不可欠です。
- 検査:
- 眼底検査: 瞳孔を開く目薬(散瞳薬)を使い、目の奥にある網膜の状態を医師が直接観察します。出血、瘤、新生血管の有無などを確認します。最も基本的な検査です。
- 蛍光眼底造影: 腕の静脈から蛍光色素を注射し、網膜の血管を連続的に撮影します。血管の詰まりや新生血管の正確な状態を詳しく調べることができます。
- 光干渉断層計(OCT): 近赤外線を使って網膜の断層画像を撮影します。網膜のむくみ(黄斑浮腫)や層構造の異常などを精密に評価できます。
- 治療: 網膜症の進行段階や状態に応じて、治療法が選択されます。最も重要なのは、治療と並行して良好な血糖コントロールを維持することです。
- レーザー光凝固術: 網膜の虚血部分や新生血管の発生源となる部分にレーザーを照射して焼き固める治療です。新生血管の発生や進行を抑え、網膜剥離などの重篤な合併症を防ぐことを目的とします。視力の回復ではなく、現在の視力を維持するための治療であることが多いです。
- 抗VEGF薬硝子体注射: 網膜症の進行や黄斑浮腫に関わる血管新生因子(VEGF)の働きを抑える薬剤を眼球内の硝子体に注射する治療です。黄斑浮腫による視力低下の改善に効果が期待できます。
- 硝子体手術: 硝子体出血が吸収されない場合や、網膜剥離が起きた場合に行われる手術です。眼球内に器具を挿入し、出血を取り除いたり、剥がれた網膜を元の位置に戻したりします。
糖尿病網膜症は、一度進行すると視力回復が難しい場合があります。失明を防ぐためには、糖尿病と診断されたら自覚症状がなくても必ず眼科を受診し、その後も医師の指示に従って定期的に検査を受けることが非常に重要です。
糖尿病腎症(腎臓の合併症)
糖尿病腎症は、糖尿病が原因で腎臓の機能が徐々に低下していく病気です。腎臓には、血液をろ過して老廃物や余分な水分を尿として体外に排泄する重要な役割がありますが、高血糖が続くと、腎臓の糸球体という小さな血管の塊が障害され、この働きが悪くなります。進行すると、最終的に腎臓がほとんど機能しなくなる腎不全に至り、人工透析や腎移植が必要になることがあります。
糖尿病腎症の症状と進行段階(透析のリスク)
糖尿病腎症も、初期には自覚症状がほとんどありません。病気がかなり進行してから、むくみや倦怠感などの症状が現れることが多いです。進行は主に以下の5つの段階に分けられます。
進行段階 | 腎臓の状態 | 尿中のアルブミン量 | 糸球体ろ過量(eGFR) | 主な症状 |
---|---|---|---|---|
第1期 | 腎臓の機能が亢進 | 正常 (<30 mg/日) | 正常または増加 | なし |
第2期 | 軽度の変化 | 正常 (<30 mg/日) | 正常 | なし |
第3期 | 初期腎症(微量アルブミン尿期) | 増加 (30~299 mg/日) | 正常または軽度低下 | なし |
第4期 | 顕性腎症(顕性タンパク尿期) | 高度に増加 (≧300 mg/日 または タンパク尿陽性) | 軽度〜中等度低下 (30-59 ml/min) | むくみ(浮腫)、高血圧 |
第5期 | 腎不全 | 高度に増加 | 高度低下 (<30 ml/min) | むくみ、倦怠感、食欲不振、呼吸困難、貧血など |
末期腎不全 | 腎臓がほとんど機能しない状態 | <15 ml/min | 人工透析や腎移植が必要 |
特に重要なのが第3期(微量アルブミン尿期)です。この段階から、本来は尿中に出てこないはずのアルブミンというタンパク質が少量だけ尿中に漏れ出すようになります。この微量アルブミン尿は、腎症の早期発見につながる重要なサインです。この段階で適切な治療を開始すれば、腎症の進行を食い止めたり、遅らせたりできる可能性があります。
しかし、第4期(顕性タンパク尿期)に進むと、尿中のタンパク質がさらに増え、むくみや高血圧が悪化します。腎機能も低下し始め、一度この段階まで進むと、たとえ血糖コントロールを改善しても、残念ながら腎症の進行を完全に止めることは難しくなります。
最終段階である第5期(腎不全)では、腎機能が著しく低下し、体内に老廃物や水分が溜まります。倦怠感、食欲不振、吐き気、息切れ、皮膚のかゆみ、貧血、骨が弱くなるなどの様々な症状が現れ、生命を維持するために人工透析や腎移植が必要となります。糖尿病腎症は、日本の新規人工透析導入原因の第一位です。
糖尿病腎症の検査と治療方法
糖尿病腎症の早期発見には、定期的な検査が不可欠です。
- 検査:
- 尿検査:
- 尿糖・尿タンパク検査: 尿に糖やタンパクが出ているかを確認します。タンパク尿は腎機能障害のサインです。
- 尿中微量アルブミン検査: ごく少量のアルブミンが尿中に漏れ出ているかを確認します。腎症の最も早期のサインとなるため、定期的な検査が強く推奨されています。
- 血液検査:
- 血清クレアチニン値: 筋肉から出る老廃物で、腎臓でろ過されて尿として排泄されます。腎機能が低下すると血液中のクレアチニン値が上昇します。
- eGFR(推算糸球体ろ過量): 血清クレアチニン値と年齢、性別から計算される値で、腎臓がどのくらい血液をろ過できているか(腎機能の程度)を示します。
- その他: 腎臓のエコー検査などが行われることもあります。
- 尿検査:
- 治療: 糖尿病腎症の治療は、腎症の進行を抑え、腎不全に至るのを防ぐことが目標です。最も重要なのは、良好な血糖コントロールと血圧コントロールです。
- 血糖コントロール: HbA1cを目標値内に保つことが重要です。特に、初期の腎症(第3期)では、血糖コントロールの改善が進行抑制に大きく貢献します。
- 血圧コントロール: 高血圧は腎機能障害を悪化させるため、厳格な血圧管理が必要です。多くの場合、降圧薬が使用されます。特に、レニン・アンジオテンシン系阻害薬(ARBやACE阻害薬)は、血圧を下げる効果に加えて、腎臓を保護する作用も期待できるため、よく使用されます。
- 食事療法: 塩分制限、タンパク質制限(腎症の進行段階に応じて)、カリウム制限(腎機能が低下した場合)など、腎臓への負担を減らすための食事療法が重要です。
- SGLT2阻害薬: 血糖を下げる薬ですが、腎臓を保護する効果も報告されており、近年、糖尿病腎症の治療薬として注目されています。
- 透析療法: 腎機能が末期まで低下した場合(第5期)、人工透析(血液透析や腹膜透析)や腎移植が検討されます。
糖尿病腎症は静かに進行するため、「まだ大丈夫」と自己判断せず、定期的に尿検査と血液検査を受けて、早期に異常を発見し、適切な対策を開始することが非常に重要です。
糖尿病神経障害(神経の合併症)
糖尿病神経障害は、高血糖が原因で全身の神経が障害される病気です。神経は体の様々な機能(感覚、運動、自律神経)をコントロールしているため、神経が障害されると多様な症状が現れます。糖尿病合併症の中で最も早く出現しやすいとされています。
糖尿病神経障害の主な症状(しびれ、痛みなど)
糖尿病神経障害の症状は、障害される神経の種類によって異なります。最も一般的なのは、手足の末梢神経が障害される「多発性神経障害」です。
- 多発性神経障害の主な症状:
- 感覚障害: 手足の指先や足裏など、体の末端から左右対称に症状が出ることが多いです。
- しびれ、ピリピリ・チクチクする感じ
- やけどや怪我をしても痛みや熱さを感じにくい(痛覚・温覚鈍麻)
- 砂利の上を歩いているような違和感、足の裏に何か張り付いているような感覚
- 夜間に強くなる手足の痛みや異常感覚(安静時痛)
- 運動障害: 進行すると、手足の力が弱くなったり、歩行が不安定になったりすることがあります。
- 感覚障害: 手足の指先や足裏など、体の末端から左右対称に症状が出ることが多いです。
痛みやしびれといった感覚異常はつらい症状ですが、逆に痛覚が鈍麻してしまうことは、足の小さな傷や潰瘍に気づきにくくなり、後述する糖尿病足病変のリスクを高めるため、さらに危険です。
糖尿病神経障害の種類と進行
多発性神経障害以外にも、障害される神経によって様々な種類の神経障害があります。
- 自律神経障害: 体温調節、発汗、血圧、心拍数、胃腸の動き、排尿、性機能などをコントロールする自律神経が障害されます。
- 立ちくらみ、めまい(起立性低血圧)
- 異常な発汗(特定の場所だけ汗をかく、または全く汗をかかない)
- 胃もたれ、吐き気、下痢、便秘(糖尿病性胃腸障害)
- 排尿困難、尿失禁(神経因性膀胱)
- 勃起障害(ED)
- 無痛性心筋梗塞(心臓発作が起きても痛みを感じにくい)
- 夜間の低血糖に気づきにくい
- 単神経障害: 特定の一本の神経が障害されます。突然発症することが多いです。
- 顔面神経麻痺
- 手足の一部の筋肉の麻痺や痛み
- 目の動きが悪くなる(眼筋麻痺)
糖尿病神経障害は、一般的に手足の末梢神経の感覚障害から始まり、進行とともに痛覚鈍麻が進み、自律神経障害や運動神経障害が現れることがあります。しかし、進行のパターンや症状の現れ方には個人差が大きいです。
糖尿病神経障害の検査と治療方法
糖尿病神経障害の診断は、症状の問診と身体診察(アキレス腱反射の確認、振動覚検査、触覚検査など)が基本となります。さらに、症状や疑われる神経の種類に応じて、以下のような検査が行われることがあります。
- 神経伝導速度検査: 神経に電気刺激を与え、信号が伝わる速度を測定することで、神経の機能障害の程度を評価します。
- 心電図変動検査: 心拍数の変動パターンを解析し、心臓に関する自律神経の機能を評価します。
- 起立性低血圧検査: 横になった状態と立ち上がった状態での血圧の変化を測定し、血圧を調整する自律神経の機能を評価します。
- 胃内容排出能検査: 食事をしてから胃の中に内容物が留まっている時間を測定し、胃の動き(蠕動運動)を評価します。
治療の根幹は、やはり良好な血糖コントロールによって神経へのダメージの進行を抑えることです。
- 血糖コントロール: 神経障害の進行予防には、早期からの良好な血糖管理が最も重要です。
- 症状を和らげる治療:
- 薬物療法: 痛みやしびれに対しては、鎮痛薬、抗うつ薬(神経痛に効果がある種類)、抗てんかん薬(神経痛に効果がある種類)、アルドース還元酵素阻害薬(ソルビトールの蓄積を抑える薬)などが使用されることがあります。自律神経症状に対しては、それぞれの症状(立ちくらみ、胃腸症状など)に応じた薬が処方されます。
- 非薬物療法: リハビリテーション、足のマッサージ、温浴なども症状緩和に役立つことがあります。
- 足のケア: 痛覚が鈍麻している場合は、怪我や潰瘍に気づきにくいため、日頃から足の状態を観察し、清潔に保ち、適切な靴を選ぶなどの足のケアが非常に重要です。詳細は後述の糖尿病足病変の項目で触れます。
糖尿病神経障害は、一度障害された神経の機能回復は難しい場合が多いですが、適切な血糖管理と対症療法によって、症状の悪化を防ぎ、QOL(生活の質)を維持することができます。
糖尿病の大血管合併症(動脈硬化)
糖尿病の大きな問題の一つが、全身の太い血管(大血管)で動脈硬化が進行しやすいことです。高血糖に加え、糖尿病患者さんでは高血圧、脂質異常症、肥満、喫煙などが合併していることが多く、これらの危険因子が重なることで、動脈の壁が厚く硬くなり、弾力性を失い、血液の流れが悪くなる「動脈硬化」が加速します。この動脈硬化が原因となって、脳、心臓、足などの重要な臓器に重篤な病気を引き起こします。これらが「糖尿病の大血管合併症」です。
脳卒中(脳梗塞、脳出血)
脳卒中は、脳の血管に異常が起きて脳の機能が障害される病気の総称です。糖尿病患者さんは、そうでない人に比べて脳卒中を起こすリスクが2~4倍高いとされています。
- 脳梗塞: 脳の血管が詰まってしまい、その先に血液が流れなくなることで、脳の組織が壊死する病気です。糖尿病による動脈硬化が進むと、脳の太い血管が詰まったり(アテローム血栓性脳梗塞)、細い血管が詰まったり(ラクナ梗塞)しやすくなります。不整脈(心房細動など)があると、心臓の中にできた血栓が飛んで脳の血管を詰まらせる「心原性脳塞栓症」のリスクも高まります。
- 主な症状: 突然の体の片側の麻痺やしびれ、ろれつが回らない、言葉が出にくい、他人の言うことが理解できない、片方の目が見えにくい、物が二重に見える、めまい、歩行時のふらつきなど。
- 脳出血: 脳内の血管が破れて出血し、脳の組織を圧迫したり壊したりする病気です。高血圧が最大の原因ですが、糖尿病も血管壁を弱くするため、リスクを高めます。
- 主な症状: 突然の激しい頭痛、吐き気・嘔吐、体の片側の麻痺、意識障害など。
- くも膜下出血: 脳を覆う膜の間の血管(多くは動脈瘤)が破れて出血する病気です。
脳卒中は、発症すると命に関わることも多く、一命を取り留めても体の麻痺や言語障害などの後遺症が残ることが少なくありません。早期に兆候に気づき、すぐに医療機関を受診することが重要です(FASTチェックなど)。
虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症)
虚血性心疾患は、心臓の筋肉に血液を送る冠動脈が動脈硬化によって狭くなったり詰まったりすることで、心臓の筋肉に酸素や栄養が十分に届かなくなる(虚血)病気です。糖尿病患者さんは、虚血性心疾患のリスクがそうでない人の2~4倍高く、特に女性ではリスクの上昇が顕著と言われています。
- 狭心症: 冠動脈が狭くなり、運動したり興奮したりして心臓の負荷が増えたときに、一時的に血流が悪くなって心臓の筋肉が酸素不足を起こす病気です。
- 主な症状: 運動時や労作時の胸の痛み、圧迫感、締め付けられるような感じ(数分で治まることが多い)。左肩や顎、歯に痛みが放散することもあります。
- 心筋梗塞: 冠動脈が完全に詰まってしまい、その先の心臓の筋肉が壊死してしまう病気です。生命に関わる非常に危険な状態です。
- 主な症状: 安静時でも続く強い胸の痛み(30分以上続くことが多い)、冷や汗、吐き気、呼吸困難など。
糖尿病患者さん、特に神経障害を合併している場合、「無痛性心筋梗塞」といって、強い痛みを感じずに心筋梗塞を発症することがあります。痛みがないために発見が遅れ、重症化しやすい点が危険です。
脳卒中や虚血性心疾患といった大血管合併症は、生命予後に大きく関わるため、血糖管理だけでなく、高血圧や脂質異常症、禁煙といった動脈硬化の危険因子を総合的に管理することが、予防には極めて重要となります。
末梢動脈疾患(閉塞性動脈硬化症と糖尿病足)
末梢動脈疾患は、主に足の血管(動脈)が動脈硬化によって狭くなったり詰まったりして、血流が悪くなる病気です。「閉塞性動脈硬化症」とも呼ばれます。糖尿病患者さんは、高血糖によって末梢の血管が傷つきやすく、神経障害も合併していることが多いため、末梢動脈疾患を発症しやすい傾向があります。
- 主な症状:
- 間欠性跛行(かんけつせいはこう): 少し歩くと足(特にふくらはぎ)が痛くなったり疲れたりして歩けなくなり、しばらく休むとまた歩けるようになる、という症状を繰り返します。病状が進むと、短い距離でも症状が出るようになります。
- 安静時痛: 病状がさらに進行すると、休んでいるときや夜間でも足が痛むようになります。
- 足の冷感、しびれ、皮膚の色が悪くなる、毛が抜ける、爪が変形するなどの栄養障害性の変化が見られることもあります。
糖尿病足病変(潰瘍、壊疽、切断)
末梢動脈疾患に糖尿病神経障害や感染が加わると、「糖尿病足病変」という重篤な状態に至ることがあります。糖尿病足病変とは、足の潰瘍や壊疽(組織が死んでしまうこと)などの病変の総称です。
糖尿病患者さんの足では、以下の要因が重なることで、小さな傷やトラブルが治りにくく、重症化しやすい傾向があります。
- 神経障害: 痛覚が鈍麻しているため、靴擦れや小さな傷、やけど、異物などが足にあっても気づきにくい。また、自律神経障害により汗腺の働きが悪くなり、皮膚が乾燥してひび割れしやすくなる。
- 血行障害(末梢動脈疾患): 足への血流が悪くなっているため、傷の治癒に必要な酸素や栄養が十分に供給されず、組織が修復されにくい。また、感染に対する抵抗力も低下する。
- 感染: 血糖が高い状態は、細菌にとって繁殖しやすい環境であり、免疫機能も低下しているため、一度感染が起きると急速に悪化しやすい。
これらの要因が組み合わさることで、気づかないうちにできた小さな傷や水ぶくれ、タコ、巻き爪などが悪化し、深い潰瘍を形成したり、組織が壊疽(黒く変色して腐敗する)に至ることがあります。
なぜ糖尿病で足の切断が必要になるのか?
糖尿病足病変が悪化し、潰瘍が深くなったり、壊疽が広がったり、感染が骨にまで及んだりした場合、そのまま放置すると全身に感染が広がり、命に関わる状態になる危険性があります。このような場合、感染源や壊死した組織を取り除き、全身への影響を防ぐために、やむを得ず足の一部や全体を切断するという選択が必要になることがあります。
足の切断は、患者さんのQOLを著しく低下させ、その後の生活に大きな影響を与えます。しかし、これは多くの場合、早期の発見と適切なケアによって防ぐことができる悲劇です。糖尿病患者さんは、日頃から自分の足の状態をよく観察し、小さな傷や変化も見逃さないようにすることが極めて重要です。また、専門家によるフットケアを受けることも有効です。
糖尿病のその他の合併症
糖尿病は、三大合併症や大血管合併症だけでなく、全身の様々な臓器や組織に影響を及ぼし、多様な合併症を引き起こす可能性があります。
感染症(肺炎、尿路感染、皮膚感染など)
糖尿病患者さんは、高血糖によって免疫機能が低下しやすいため、様々な感染症にかかりやすく、また重症化しやすい傾向があります。
- 肺炎: 呼吸器系の感染症で、糖尿病患者さんの死亡原因の一つです。
- 尿路感染: 膀胱炎や腎盂腎炎など。特に神経因性膀胱を合併していると尿が溜まりやすくなり、リスクが高まります。
- 皮膚感染: 化膿しやすい、水虫(白癬)が悪化しやすい、足に潰瘍ができやすいなど。
- 結核: 糖尿病は結核の発症リスクを高めることが知られています。
- 歯周病: 後述します。
感染症にかかると血糖コントロールが悪化し、それがさらに感染を悪化させるという悪循環に陥りやすい点にも注意が必要です。
歯周病
糖尿病と歯周病は、お互いに悪影響を及ぼし合う関係にあります。糖尿病患者さんは、そうでない人に比べて歯周病にかかりやすく、また進行しやすい傾向があります。歯周病が悪化すると、炎症によってインスリンの働きを妨げる物質が放出され、血糖コントロールがさらに難しくなります。
歯周病は、進行すると歯を支える骨が破壊され、最終的に歯が抜けてしまう病気です。口の中の健康を保つことは、全身の健康、特に糖尿病の管理においても非常に重要です。定期的な歯科検診と適切な口腔ケアが必要です。
認知症
近年、糖尿病患者さんではアルツハイマー型認知症や血管性認知症を発症するリスクが高いことが明らかになってきています。高血糖や動脈硬化は脳の血管や神経にもダメージを与え、認知機能の低下に関与すると考えられています。血糖コントロール不良の期間が長いほど、認知症のリスクが高まるという報告もあります。
その他の合併症(ED、胃腸障害など)
糖尿病は、上記以外にも様々な合併症を引き起こす可能性があります。
- 勃起障害(ED): 糖尿病神経障害や動脈硬化によって、陰茎への血流や神経の働きが悪くなり、EDを引き起こすことがあります。
- 糖尿病性胃腸障害: 自律神経障害によって胃や腸の動きが悪くなり、胃もたれ、吐き気、下痢、便秘などの症状が現れます。特に、食べたものがなかなか胃から排出されない「胃不全麻痺」は、血糖コントロールを不安定にする原因ともなります。
- 肩関節周囲炎(五十肩): 肩の関節周囲に炎症が起き、痛みや運動制限が生じます。糖尿病患者さんで起こりやすい合併症の一つです。
- 手根管症候群: 手首にある神経が圧迫され、指先のしびれや痛みが生じます。
- シャルコー関節: 足の関節や骨が神経障害によって変形・破壊される病気です。重症化すると足の変形が著しくなり、潰瘍や感染の原因となります。
- 皮膚疾患: 乾燥、かゆみ、感染しやすい(真菌症など)、すねに褐色の斑点ができる(糖尿病性皮膚症)など。
これらの合併症は、QOLを低下させるだけでなく、重篤な病気のサインである可能性もあります。気になる症状がある場合は、遠慮なくかかりつけ医に相談することが大切です。
糖尿病合併症の予防と早期発見
糖尿病合併症は、一度発症すると完治が難しいものが多く、進行するとQOLを著しく低下させたり、命に関わったりします。しかし、適切な対策を行うことで、合併症の発症を予防したり、進行を遅らせたりすることが可能です。最も重要なのは、「高血糖状態をできるだけ避ける」こと、そして「他の危険因子を管理すること」です。
厳格な血糖コントロールの重要性
糖尿病合併症を予防するための最も基本的な、そして最も重要な対策は、良好な血糖コントロールを継続することです。血糖値が高い状態が続くほど、血管や神経へのダメージは蓄積され、合併症のリスクは高まります。
- HbA1c: 過去1~2ヶ月の平均的な血糖の状態を示す指標です。合併症予防のためには、個別目標はありますが、一般的に7.0%未満を目標とすることが多いです。年齢や合併症の有無などによって目標値は異なりますので、必ずかかりつけ医と相談して自分自身の目標値を設定し、それを達成・維持することが重要です。
- 食後の高血糖: 食後の急激な血糖上昇(血糖スパイク)も血管にダメージを与えると考えられています。バランスの取れた食事、食べる順番(野菜から食べるなど)、ゆっくり食べることを心がけることも重要です。
良好な血糖コントロールを維持するためには、医師の指示に従って、食事療法、運動療法、薬物療法(内服薬やインスリン注射)を適切に行う必要があります。
血圧、脂質異常症の適切な管理
糖尿病患者さんでは、高血糖に加え、高血圧や脂質異常症(コレステロールや中性脂肪が高い状態)を合併していることが非常に多いです。これらの危険因子は、それぞれが動脈硬化を促進しますが、糖尿病と合併することで動脈硬化のリスクは相乗的に高まります。特に、脳卒中や心筋梗塞などの大血管合併症の予防には、血糖管理だけでなく、血圧と脂質の管理が不可欠です。
- 血圧コントロール: 多くの糖尿病患者さんで、目標血圧は130/80 mmHg未満とされています(合併症の有無などによって目標値は異なります)。食事療法(減塩)、運動療法、適切な降圧薬の使用などにより、血圧を目標値に保つことが重要です。
- 脂質コントロール: LDLコレステロール(悪玉コレステロール)、HDLコレステロール(善玉コレステロール)、中性脂肪などの値を目標値に保つことが重要です。食事療法(飽和脂肪酸やコレステロールを控える)、運動療法に加え、スタチンなどの脂質異常症治療薬が必要になる場合があります。
血圧や脂質の目標値についても、患者さんの状態によって異なるため、必ず医師と相談して個別の目標値を設定し、管理することが大切です。
生活習慣の改善(食事療法、運動療法、禁煙)
糖尿病管理の基本であり、合併症予防の土台となるのが生活習慣の改善です。
- 食事療法: 栄養バランスの取れた食事を、適切な量、規則正しく摂ることが重要です。糖質、脂質、塩分の摂りすぎに注意し、野菜や食物繊維を多く摂ることを心がけましょう。個々の患者さんの状態や必要なエネルギー量に応じた食事指導を受けることが推奨されます。
- 運動療法: 定期的な運動は、血糖値を下げる効果があるだけでなく、血圧や脂質プロファイルの改善、心肺機能の向上、体重管理にも役立ち、動脈硬化予防に有効です。ウォーキングやジョギングなどの有酸素運動を中心に、筋力トレーニングも組み合わせるとより効果的です。ただし、運動の種類や強度、時間は、患者さんの合併症の有無や体力に応じて調整する必要があります。運動を始める前には、必ず医師に相談しましょう。
- 禁煙: 喫煙は、それ自体が強力な動脈硬化の危険因子です。糖尿病患者さんが喫煙していると、脳卒中や心筋梗塞、末梢動脈疾患、糖尿病腎症、糖尿病網膜症といったあらゆる合併症のリスクが飛躍的に高まります。合併症予防のためには、禁煙が極めて重要です。禁煙外来や禁煙補助薬などを利用することも有効です。
- 適正体重の維持: 肥満はインスリン抵抗性を高め、血糖コントロールを悪化させるだけでなく、高血圧や脂質異常症、睡眠時無呼吸症候群など、他の合併症のリスクも高めます。適正な体重を維持することも重要な予防策です。
定期的な合併症検査の必要性
糖尿病合併症の多くは、初期には自覚症状がありません。症状が出たときには、すでに病気がかなり進行している場合が多いです。そのため、症状がなくても定期的に合併症の検査を受け、早期に異常を発見し、適切な対策を開始することが非常に重要です。
主な合併症の定期検査は以下の通りです。
合併症の種類 | 検査項目 | 推奨される検査頻度 |
---|---|---|
糖尿病網膜症 | 眼底検査、必要に応じて蛍光眼底造影、OCT | 年1回以上(病状に応じて数ヶ月に1回) |
糖尿病腎症 | 尿中微量アルブミン検査または尿タンパク検査、血清クレアチニン、eGFR | 年1回以上(病状に応じて数ヶ月に1回) |
糖尿病神経障害 | 問診、アキレス腱反射、振動覚検査、触覚検査、必要に応じて神経伝導速度検査 | 年1回以上(症状に応じてより頻繁に) |
大血管合併症 | 血圧測定、脂質検査、心電図、頸動脈超音波検査、足関節上腕血圧比(ABI)など | 定期的に(頻度は患者さんのリスクによって異なる) |
糖尿病足病変 | 足の観察、触覚・痛覚検査、アキレス腱反射、振動覚検査、足の動脈の触診/ABI | 年1回以上(リスクに応じてより頻繁に)、日頃の観察 |
これらの検査を定期的に受けることで、合併症の兆候を早期に捉え、治療や生活習慣の見直しといった手を打つことができます。かかりつけ医と相談し、自分に必要な検査の種類や頻度を確認しましょう。
糖尿病合併症に関するよくある質問
糖尿病の合併症には具体的にどのようなものがありますか?
糖尿病の主な合併症としては、「三大合併症」と呼ばれる糖尿病網膜症(目)、糖尿病腎症(腎臓)、糖尿病神経障害(神経)があります。これらは主に細い血管や神経の障害によって起こります。
その他にも、脳卒中(脳梗塞、脳出血)、虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症)、末梢動脈疾患といった動脈硬化による「大血管合併症」や、感染症にかかりやすい、歯周病、認知症、勃起障害(ED)、胃腸障害など、全身にわたる様々な病気が合併症として起こる可能性があります。
糖尿病は診断からどれくらいの期間で合併症が起こりますか?
合併症が起こるまでの期間は、患者さんの血糖コントロールの状態や、その他の危険因子(高血圧、脂質異常症、喫煙など)の有無、発症からの期間などによって大きく異なります。
一般的に、三大合併症などの小血管合併症は、糖尿病と診断されてから数年~十数年かけてゆっくりと進行することが多いです。しかし、診断された時点で既に合併症が始まっている場合や、血糖コントロールが非常に悪い状態が続く場合は、より早く進行する可能性があります。
大血管合併症である動脈硬化は、糖尿病発症前から始まっていることもあり、診断された時点ですでに進行している場合も少なくありません。
重要なのは、診断からの期間に関わらず、高血糖の状態を放置せず、早期から適切な管理を開始することです。
糖尿病になるとどれくらいで死に至りますか?合併症との関係は?
糖尿病自体が直接的な死因となることは少ないですが、糖尿病によって引き起こされる合併症が生命予後に大きく関わります。特に、脳卒中や心筋梗塞などの大血管合併症は、糖尿病患者さんの主な死亡原因となっています。また、糖尿病腎症が進行して腎不全となり、人工透析が必要な状態に至ると、心血管疾患のリスクが高まり、生命予後に影響します。
血糖コントロールが非常に悪い状態が長く続くと、合併症が進行し、重篤な状態に至るリスクが高まります。合併症を予防・進行抑制することで、糖尿病があっても健康寿命を延ばし、合併症による死亡リスクを低減することが可能です。
糖尿病の後遺症とは何ですか?
糖尿病の後遺症とは、糖尿病によって引き起こされた合併症が進行し、治療しても回復が難しく、体に永続的に残る機能障害を指すことが多いです。
具体的な例としては、以下のようなものがあります。
- 視力障害、失明: 糖尿病網膜症が進行し、治療しても視力が回復しない場合。
- 腎不全: 糖尿病腎症が進行し、人工透析や腎移植が必要な状態。
- 神経障害による感覚異常や痛み: 神経のダメージが大きく、治療しても手足のしびれや痛みが続く場合。
- 足の潰瘍や壊疽、切断: 糖尿病足病変が進行し、組織の欠損や機能障害が残る、または切断が必要になった場合。
- 脳卒中の後遺症: 半身麻痺、言語障害、嚥下障害、認知機能障害など。
- 心筋梗塞後の心機能低下: 心臓の筋肉が壊死した範囲に応じて、心臓のポンプ機能が低下する場合。
これらの後遺症は、患者さんのQOLを著しく低下させ、日常生活や社会生活に大きな影響を与えます。後遺症を残さないためには、やはり合併症の早期発見と予防、そして適切な治療が最も重要です。
1型糖尿病と2型糖尿病で合併症の種類やリスクは異なりますか?
合併症の種類という点では、1型糖尿病も2型糖尿病も同じように三大合併症や大血管合併症を起こす可能性があります。
しかし、合併症のリスクや発症する時期には違いが見られることがあります。
- 1型糖尿病: 若年で発症することが多く、自己免疫によって膵臓のインスリンを作る細胞が破壊される病気です。発症早期から高血糖状態が続くと、比較的早い時期から小血管合併症(網膜症、腎症、神経障害)が進行しやすい傾向があります。厳格なインスリン療法による血糖コントロールが合併症予防に非常に重要です。
- 2型糖尿病: 生活習慣病の一つとして発症することが多く、インスリンの分泌が不足したり、インスリンが効きにくくなったり(インスリン抵抗性)することが原因です。中年以降に発症することが多く、診断された時点で既に高血圧や脂質異常症、肥満などの他の危険因子を合併していることが少なくありません。そのため、診断時には既に合併症(特に大血管合併症や神経障害)が始まっていることもあります。小血管合併症も起こりますが、大血管合併症のリスクが特に高いとされています。血糖管理に加え、高血圧や脂質異常症といった他の危険因子の管理が重要です。
いずれのタイプの糖尿病であっても、合併症予防のためには良好な血糖コントロールに加え、他の危険因子を適切に管理し、定期的な検査を受けることが不可欠です。
糖尿病合併症はどのような順序で進行することが多いですか?
糖尿病合併症の進行順序は、患者さんのタイプや状態によって異なりますが、一般的に以下の傾向が見られます。
- 神経障害: 糖尿病の診断から比較的早い時期に現れることがある合併症です。特に手足の末梢神経の感覚障害(しびれ、痛みなど)から始まることが多いです。自律神経障害も早期から見られることがあります。
- 網膜症・腎症: 診断から数年から十数年を経て発症・進行することが多い小血管合併症です。網膜症は初期には無症状ですが、進行すると視力低下のリスクが高まります。腎症も初期には無症状ですが、微量アルブミン尿から始まり、進行すると腎不全に至ります。
- 大血管合併症: 動脈硬化は糖尿病発症前から始まっていることも多く、診断時にはすでに進行していることもあります。脳卒中、心筋梗塞、末梢動脈疾患といったイベントは、糖尿病の罹病期間が長くなるほどリスクが高まりますが、他の危険因子(高血圧、脂質異常症、喫煙など)の影響が大きいため、比較的早い時期に発症することもあります。
ただし、これは一般的な傾向であり、必ずこの順序で進行するわけではありません。診断された時点で複数の合併症が既に存在している場合や、特定の合併症が急速に進行する場合もあります。重要なのは、特定の合併症だけでなく、全身の様々な合併症のリスクがあることを理解し、包括的な管理と定期的な全身チェックを行うことです。
まとめ:糖尿病合併症を理解し、対策を始めましょう
糖尿病合併症は、高血糖が長期間続くことで、全身の血管や神経がダメージを受け、様々な病気を引き起こす深刻な問題です。三大合併症(網膜症、腎症、神経障害)は失明や腎不全、重い神経障害に繋がる可能性があり、大血管合併症(脳卒中、心筋梗塞、末梢動脈疾患)は生命に関わる危険性があります。
しかし、合併症は必ずしも避けられないものではありません。合併症の発症を予防し、進行を遅らせるためには、以下の点が極めて重要です。
- 良好な血糖コントロール: 医師や管理栄養士の指導のもと、食事療法、運動療法、薬物療法を適切に行い、HbA1cを目標値に保ちましょう。
- 血圧・脂質異常症の管理: 高血圧や脂質異常症は動脈硬化を加速させます。これらも目標値にコントロールすることが、特に大血管合併症の予防には不可欠です。
- 生活習慣の改善: 禁煙は必須です。バランスの取れた食事と定期的な運動も、血糖、血圧、脂質の改善に役立ち、全身の健康維持につながります。
- 定期的な合併症検査: 合併症は初期には自覚症状がないことがほとんどです。眼科医や腎臓専門医などとも連携し、定期的に必要な検査を受け、早期に異常を発見することが非常に重要です。
糖尿病合併症について正しく理解することは、予防と早期発見の第一歩です。今日から、かかりつけ医と相談しながら、自分自身の合併症予防に向けた対策を始めましょう。日々の努力の積み重ねが、合併症のリスクを減らし、将来の健康を守ることにつながります。
監修者・著者情報
この記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の医師が監修したものではありません。最新の医療情報やご自身の病状については、必ずかかりつけの医師にご相談ください。
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