糖尿病の薬の種類と効果は?副作用も解説【初心者向け】
糖尿病と診断された方、あるいはそのご家族にとって、薬物療法は治療の重要な柱の一つです。
糖尿病の薬にはさまざまな種類があり、それぞれ血糖値を下げる仕組みや効果、注意すべき点が異なります。
この記事では、現在主に使われている糖尿病の薬について、種類別にその特徴や作用機序、主な副作用などを詳しく解説します。
ご自身の治療や薬について理解を深めるための一助となれば幸いです。
ただし、最終的な治療方針や薬の選択は、患者さんの状態や合併症の有無などを総合的に判断し、医師が決定します。
ご不明な点は必ず医師や薬剤師にご相談ください。
糖尿病治療の目標は、単に血糖値を正常値に戻すことだけではありません。高血糖状態が長く続くことで起こる心血管疾患(心筋梗塞や脳卒中など)や、腎臓病、神経障害、網膜症といった重篤な合併症の発症・進行を防ぎ、健康な人と変わらないQOL(生活の質)を維持し、健康寿命を延ばすことが最も重要です。
糖尿病の治療の基本は、まず食事療法と運動療法です。これらをしっかり行うことで、血糖コントロールが改善することが多くあります。しかし、食事療法や運動療法だけでは目標とする血糖値に到達できない場合や、病状が進行している場合には、薬物療法が開始されます。
薬物療法は、患者さんの病態(インスリン分泌能、インスリン抵抗性、合併症の有無など)や年齢、ライフスタイルなどを考慮して、最も適した薬が選択されます。多くの場合、一つの薬から開始し、効果が不十分な場合は、作用機序の異なる複数の薬を組み合わせて使用します。
糖尿病薬の種類と作用機序【一覧】
現在、日本で使われている糖尿病治療薬は、大きく分けて「経口血糖降下薬」と「注射薬」の2種類があります。それぞれさらに細かく分類され、異なるメカニズムで血糖値をコントロールします。
経口血糖降下薬の種類と特徴
口から服用するタイプの薬です。インスリンの働きを助けたり、糖の吸収を抑えたりするなど、様々な作用機序を持ちます。
ビグアナイド薬(第一選択薬)
- 主な薬剤: メトホルミン(メトグルコ®、グリコラン®など)
- 作用機序: 肝臓での糖を作る働き(糖新生)を抑える、筋肉などでの糖の取り込みを促進する、腸からのブドウ糖吸収を少し抑えるなど。インスリン抵抗性を改善する効果があります。
- 主な効果: 血糖値の上昇を抑える。HbA1cを低下させる。体重増加を招きにくい、あるいはわずかに減少させる傾向がある。
- 特徴: 2型糖尿病の薬物療法で最初に検討されることが多い第一選択薬の一つです。単独で低血糖を起こしにくいのが特徴です。心血管疾患のリスクを減少させる可能性も示唆されています。
- 主な副作用: 吐き気、下痢、腹痛などの消化器症状。これらの症状は服用開始時に起こりやすく、徐々に軽減することが多いですが、継続する場合は医師に相談が必要です。まれに乳酸アシドーシスという重篤な副作用を起こすことがあります(特に腎機能障害や心疾患、肝疾患のある方、脱水時、アルコール過量摂取時など)。
- 注意点: 腎機能が著しく低下している方、重い肝臓病、心臓病、肺の病気がある方、脱水しやすい状態の方などは使用できません。ヨード造影剤を用いた検査を受ける際には、一時的に休薬が必要になる場合があります。
スルホニル尿素(SU)薬
- 主な薬剤: グリクラジド(アマリール®)、グリベンクラミド(オイグルコン®、ダオニール®)、グリメピリド(グリミクロン®)
- 作用機序: 膵臓のβ細胞に働きかけ、インスリンの分泌を強力に促進します。
- 主な効果: 血糖値を低下させる。インスリン分泌能がある程度保たれている場合に有効です。
- 特徴: 比較的古くから使われている薬で、血糖降下作用が強いのが特徴です。
- 主な副作用: 低血糖を起こしやすい薬です。体重増加を招くことがあります。
- 注意点: 食事時間が不規則な方、高齢者、腎機能・肝機能障害のある方などは低血糖に注意が必要です。インスリン分泌能がほとんどない1型糖尿病には効果がありません。
速効型インスリン分泌促進薬(グリニド薬)
- 主な薬剤: ナテグリニド(スターシス®、ファスティック®)、ミチグリニド(グルファスト®)、レパグリニド(シュアポスト®)
- 作用機序: SU薬と同様に膵臓のβ細胞に働きかけインスリン分泌を促進しますが、作用時間が短く、効果の発現が速いのが特徴です。食後の高血糖を抑えるのに優れています。
- 主な効果: 食後の血糖上昇を抑える。
- 特徴: 食事の直前(5~10分前)に服用します。食事を摂らない場合は服用しません。
- 主な副作用: SU薬よりは少ないですが、低血糖を起こす可能性があります。
- 注意点: 食事摂取と連携して服用することが重要です。食事を抜く場合は服用を忘れないようにしましょう。
チアゾリジン薬
- 主な薬剤: ピオグリタゾン(アクトス®)
- 作用機序: 筋肉や脂肪組織などのインスリンが働く場所(標的臓器)でのインスリンの効き(インスリン感受性)を改善します。インスリン抵抗性を改善する効果があります。
- 主な効果: 血糖値を低下させる。特にインスリン抵抗性が主な原因となっている場合に有効です。
- 特徴: 効果が出るまでに時間がかかることがあります。単独で低血糖を起こしにくい薬です。
- 主な副作用: むくみ、体重増加。心不全を悪化させる可能性があるため、心不全の既往やリスクがある方には使用できません。まれに膀胱がんのリスク増加が報告されていますが、関連性は明らかになっていません。骨折リスクの上昇も報告されています。
- 注意点: 心不全、重い肝機能障害、腎機能障害がある方には使用できません。
DPP-4阻害薬
- 主な薬剤: シタグリプチン(ジャヌビア®、グラクティブ®)、ビルダグリプチン(エクア®)、アログリプチン(ネシーナ®)、リナグリプチン(トラゼンタ®)、テネリグリプチン(テネリア®)、アナグリプチン(スイニー®)、サキサグリプチン(オングリザ®)、トレラグリプチン(ザファテック®)、オマリグリプチン(マリゼブ®)
- 作用機序: GLP-1やGIPといった、食事を摂ることで腸から分泌されインスリン分泌を促すホルモン(インクレチン)を分解する酵素(DPP-4)の働きを阻害します。これにより、体内のインクレチン濃度が高まり、血糖値に応じてインスリン分泌を促進し、グルカゴン(血糖値を上げるホルモン)の分泌を抑えます。
- 主な効果: 血糖値を低下させる。特に食後の血糖上昇を抑える効果も期待できます。
- 特徴: 血糖値が高いときにだけ作用するため、単独では低血糖を起こしにくい薬です。多くの種類があり、腎機能に応じた用量調整が必要なもの、不要なものなど特徴が異なります。週に一度の服用で済むタイプもあります。
- 主な副作用: 便秘、腹部膨満感などの消化器症状。まれに急性膵炎、腸閉塞、類天疱瘡(水ぶくれ)、関節痛などの副作用が報告されています。
- 注意点: SU薬やインスリン製剤と併用すると低血糖のリスクが高まるため、注意が必要です。
α-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI)
- 主な薬剤: アカルボース(グルコバイ®)、ボグリボース(ベイスン®)、ミグリトール(セイブル®)
- 作用機序: 腸で炭水化物をブドウ糖に分解する酵素(α-グルコシダーゼ)の働きを遅らせることで、食後のブドウ糖の吸収をゆっくりにします。
- 主な効果: 食後の急激な血糖上昇(血糖スパイク)を抑える。
- 特徴: 食事の直前または食事中に服用します。単独で低血糖を起こしにくい薬です。
- 主な副作用: お腹の張り、おならが増える、下痢などの消化器症状。これは、分解されなかった糖が大腸で腸内細菌によって発酵されるために起こります。
- 注意点: 低血糖を起こした場合、砂糖(スクロース)では分解されないため効果がありません。ブドウ糖(グルコース)を摂取して対処する必要があります。
SGLT2阻害薬(痩せる効果も?)
- 主な薬剤: イプラグリフロジン(スーグラ®)、ダパグリフロジン(フォシーガ®)、ルセオグリフロジン(ルセフィ®)、トホグリフロジン(アプルウェイ®、デベルザ®)、エンパグリフロジン(ジャディアンス®)、カナグリフロジン(カナグル®)
- 作用機序: 腎臓で糖を尿中に再吸収する働きを持つSGLT2(ナトリウム-グルコース共輸送体2)というタンパク質の働きを阻害し、血液中の余分な糖を尿として体の外に排出させます。
- 主な効果: 血糖値を低下させる。ブドウ糖を尿に出すことでカロリーが消費されるため、体重減少効果が期待できます。血圧低下効果、心不全や慢性腎臓病に対する保護効果も報告されており、これらの合併症がある方にも積極的に使用が検討される薬です。
- 特徴: インスリンの働きに関係なく血糖を下げるため、比較的病期が進んだ方やインスリン治療中の患者さんにも有効です。
- 主な副作用: 尿量増加、頻尿。尿中に糖が増えることで、尿路感染症や性器感染症(膀胱炎、性器カンジダ症など)のリスクが高まります。脱水やそれに伴う脳梗塞などのリスクも報告されています(特に高齢者や利尿薬を使用している方)。まれに、euglycemic DKA(血糖値が高くないのにケトアシドーシスになること)を起こすことがあります。
- 注意点: 脱水を防ぐため、十分な水分補給が重要です。発熱や下痢などで体調が悪い時、手術を受ける前後などは休薬が必要な場合があります。腎機能が著しく低下している方には効果が不十分になることがあります。
配合錠
上記の経口血糖降下薬のうち、作用機序の異なる2種類以上の成分が一つになった薬です。複数の薬を服用する際の負担を減らし、飲み忘れを防ぐのに役立ちます。例えば、DPP-4阻害薬とビグアナイド薬の配合錠などが多く使われています。
注射薬の種類と特徴
自分で注射して体内に薬を投与するタイプの薬です。経口薬で十分な血糖コントロールが得られない場合などに使用されます。
GLP-1受容体作動薬
- 主な薬剤: リラグルチド(ビクトーザ®)、エキセナチド(バイエッタ®、ビデュリオン®)、リキシセナチド(リキスミア®)、デュラグルチド(トルリシティ®)、セマグルチド(オゼンピック®、リベルサス®)、テュルパタイド(マンジャロ®)
- 作用機序: DPP-4阻害薬で説明したインクレチンの一つであるGLP-1と似た働きをします。血糖値に応じてインスリン分泌を促進し、グルカゴン分泌を抑制します。また、胃の内容物の排出を遅らせ、食欲を抑える作用もあります。
- 主な効果: 血糖値を低下させる。食後の血糖上昇を抑える。体重減少効果が期待できます。一部の薬剤は心血管疾患や腎臓病に対する保護効果も報告されています。セマグルチド(リベルサス®)は、GLP-1受容体作動薬としては唯一の経口薬です。
- 特徴: 自分で注射するタイプが主で、毎日の注射、週に一度の注射など様々な製剤があります。食欲抑制作用により体重減少効果が期待できるため、肥満を伴う方にも有効です。
- 主な副作用: 吐き気、嘔吐、下痢、便秘などの消化器症状。これらの症状は治療初期に起こりやすく、徐々に軽減することが多いです。まれに急性膵炎が報告されています。
- 注意点: 胃の内容物の排出を遅らせる作用があるため、胃腸の動きが悪い方には慎重に使用されます。
GIP/GLP-1受容体作動薬
- 主な薬剤: チルゼパチド(マンジャロ®)
- 作用機序: GLP-1だけでなく、もう一つのインクレチンであるGIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)にも働きかける、デュアルアゴニスト(二重作動薬)です。GLP-1とGIPの両方の作用により、より強力にインスリン分泌を促進し、血糖値を下げます。GLP-1と同様に食欲を抑える作用もあります。
- 主な効果: 強力な血糖降下作用。顕著な体重減少効果が期待できます。
- 特徴: 週に一度の注射製剤です。従来のGLP-1受容体作動薬よりも高い血糖降下作用と体重減少効果を持つことが示されています。
- 主な副作用: 吐き気、下痢、便秘などの消化器症状。
- 注意点: まだ新しい薬であり、長期的なデータは蓄積中です。
インスリン製剤
- 主な薬剤: 速効型、超速効型、混合型、中間型、持効型溶解インスリンなど多くの種類があります。(例: ヒューマログ®、ノボラピッド®、ランタス®、トレシーバ®など)
- 作用機序: 膵臓から分泌されるインスリンそのものを、体の外から補充します。血液中のブドウ糖を細胞に取り込ませ、血糖値を下げます。
- 主な効果: 血糖値を強力に低下させる。インスリン分泌能が低下している1型糖尿病や、2型糖尿病で経口薬やGLP-1受容体作動薬でも血糖コントロールが不十分な場合、または妊娠中の糖尿病などに用いられます。
- 特徴: 注射によって投与します。効果が出るまでの時間や持続時間によって様々な種類があり、患者さんの病態やライフスタイルに合わせて使い分けられます。自己注射が一般的です。
- 主な副作用: 低血糖が最も重要な副作用です。注射部位の反応(赤み、かゆみ、しこりなど)、体重増加を招くことがあります。
- 注意点: 低血糖を起こさないように、指示された量とタイミングで正確に注射し、規則正しい食事を摂ることが非常に重要です。インスリン製剤の種類や単位数を間違えないように注意が必要です。シックデイ(発熱、下痢、嘔吐などで体調が悪い時)の対応についても事前に医師から指導を受けておく必要があります。
経口血糖降下薬・注射薬一覧表
薬の種類 | 主な作用機序 | 特徴・期待される効果 | 主な副作用 |
---|---|---|---|
経口血糖降下薬 | |||
ビグアナイド薬 | 肝臓での糖産生抑制、末梢での糖利用促進 | 第一選択薬、インスリン抵抗性改善、体重増加なし/軽度減少、心血管保護効果の可能性 | 消化器症状(吐き気、下痢など)、まれに乳酸アシドーシス |
スルホニル尿素(SU)薬 | 膵臓からのインスリン分泌促進(強力) | 血糖降下作用が強い | 低血糖、体重増加 |
速効型インスリン分泌促進薬 | 膵臓からのインスリン分泌促進(速効性) | 食後の高血糖抑制 | 低血糖(SU薬よりは少ない) |
チアゾリジン薬 | インスリン抵抗性改善 | インスリン感受性向上、効果発現に時間 | むくみ、体重増加、心不全の悪化、骨折リスク増加、まれに膀胱がんリスク |
DPP-4阻害薬 | インクレチン分解酵素阻害 → GLP-1/GIP濃度上昇 | 血糖依存性インスリン分泌促進、グルカゴン抑制、単独での低血糖リスク低い、多様な製剤 | 消化器症状、まれに急性膵炎、腸閉塞、類天疱瘡 |
α-グルコシダーゼ阻害薬 | 腸での糖分解・吸収遅延 | 食後高血糖抑制 | 腹部膨満感、おなら増加、下痢 |
SGLT2阻害薬 | 腎臓からの糖排泄促進 | 血糖降下、体重減少、血圧低下、心不全・腎保護効果、インスリン抵抗性に関わらず有効 | 尿量増加、頻尿、尿路/性器感染症、脱水、まれにケトアシドーシス |
配合錠 | 複数の作用機序(成分による) | 複数の薬の効果を1錠で得られる、服薬負担軽減 | 成分による |
注射薬 | |||
GLP-1受容体作動薬 | GLP-1受容体刺激 → 血糖依存性インスリン分泌促進、食欲抑制 | 血糖降下、体重減少、心血管・腎保護効果(一部)、多様な製剤(毎日~週1回、経口も) | 消化器症状(吐き気、嘔吐など)、まれに急性膵炎 |
GIP/GLP-1受容体作動薬 | GIP/GLP-1受容体刺激 → 血糖依存性インスリン分泌促進、食欲抑制 | 強力な血糖降下、顕著な体重減少効果 | 消化器症状(吐き気、下痢、便秘など) |
インスリン製剤 | 外からインスリン補充 | 強力な血糖降下、すべてのタイプの糖尿病に使用可能、多くの種類(効果時間で分類) | 低血糖、注射部位反応、体重増加 |
糖尿病薬の選び方と使用方法
糖尿病薬は、患者さん一人ひとりの状態に合わせて Tailor-made(テーラーメイド)で選択・使用されます。画一的な治療法ではなく、個別の状態を考慮した判断が重要です。
患者さんの状態に応じた薬の選択
薬を選ぶ際には、以下のような様々な要因が考慮されます。
- 糖尿病のタイプと病態: 1型糖尿病ではインスリン補充が必須です。2型糖尿病では、インスリン分泌能力がどの程度残っているか、インスリン抵抗性が強いかなど、病態を評価して薬を選択します。
- 血糖コントロールの目標: HbA1cの目標値は、年齢、罹病期間、合併症の有無、低血糖のリスクなどを考慮して個別に設定されます。設定された目標を達成するために、どの薬が必要か検討されます。
- 合併症の有無と種類: 心血管疾患(心筋梗塞、脳卒中)、慢性腎臓病、心不全などの合併症がある場合は、それらの疾患の進行を抑える効果が報告されているSGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬などが優先的に検討されることがあります。
- 年齢: 高齢者では低血糖のリスクが高まるため、低血糖を起こしにくい薬(ビグアナイド薬、DPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬など)が好まれる傾向があります。
- 腎機能・肝機能: 多くの薬は腎臓や肝臓で代謝・排泄されるため、これらの機能が低下している場合は使用できない薬があったり、用量調整が必要な薬があります。
- 体重: 肥満を伴う方には、体重減少効果が期待できるビグアナイド薬、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬などが検討されます。痩せている方には、体重増加傾向のあるSU薬やチアゾリジン薬が適している場合もあります。
- ライフスタイル: 食事時間や回数、仕事や運動の状況などを考慮し、低血糖のリスクが少なく、服用しやすい薬(例:1日1回の薬、週1回の注射)が選択されます。
- 経済状況: 薬の値段も選択の一因となります。ジェネリック医薬品の有無や、定期的な通院・検査にかかる費用も含めて検討が必要です。
薬の併用療法
一つの薬で血糖コントロールが目標値に達しない場合、作用機序の異なる複数の薬を組み合わせて使用します。これを併用療法といいます。例えば、インスリン抵抗性を改善するビグアナイド薬と、インスリン分泌を促進するSU薬やDPP-4阻害薬を組み合わせるなど、患者さんの病態に合わせて最適な組み合わせが選択されます。
併用療法を行うことで、単剤よりも強力な血糖降下作用が得られる可能性があります。ただし、薬の種類が増えることで副作用のリスクが高まる場合や、低血糖のリスクが増加する場合があるため、医師の指示をしっかり守り、定期的に効果や副作用を確認することが重要です。
糖尿病薬の主な副作用と注意点
どんな薬にも副作用のリスクはあります。糖尿病薬も例外ではなく、効果だけでなく副作用についても理解しておくことが大切です。
種類別の副作用について
先ほど各薬の種類で主な副作用に触れましたが、代表的なものを再度まとめます。
- 低血糖: SU薬、速効型インスリン分泌促進薬、インスリン製剤で起こりやすいです。これらの薬を服用(使用)している方は、特に注意が必要です。GLP-1受容体作動薬、DPP-4阻害薬も、SU薬やインスリンと併用することで低血糖のリスクが高まります。
- 消化器症状: ビグアナイド薬(吐き気、下痢など)、α-グルコシダーゼ阻害薬(腹部膨満感、おなら増加)、GLP-1受容体作動薬・GIP/GLP-1受容体作動薬(吐き気、便秘など)でよく見られます。
- 体重の変化: SU薬、チアゾリジン薬、インスリン製剤は体重増加を招くことがあります。ビグアナイド薬、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬・GIP/GLP-1受容体作動薬は体重減少効果が期待できる場合があります。
- 浮腫(むくみ): チアゾリジン薬で起こりやすい副作用です。
- 尿路・性器感染症: SGLT2阻害薬を使用している場合にリスクが高まります。
- まれな重篤な副作用: 乳酸アシドーシス(ビグアナイド薬)、急性膵炎(DPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬、GIP/GLP-1受容体作動薬)、ケトアシドーシス(SGLT2阻害薬、特にインスリンが不足している場合)などがあります。これらの重篤な副作用は非常にまれですが、起こりうることを理解しておくことが重要です。
低血糖の症状と対処法
低血糖は血糖値が正常値を下回りすぎる状態です。特にSU薬やインスリン製剤を使用している方にとって、最も注意すべき副作用です。
主な症状:
空腹感、冷や汗、手の震え、動悸、顔色が悪くなる、めまい、脱力感、集中力の低下、生あくびなど。
症状が進行すると、頭痛、目のかすみ、異常な行動(酔っ払いのような状態)、けいれん、昏睡に至ることもあります。
対処法:
低血糖の症状が現れたら、速やかに糖分を補給することが必要です。
- すぐに吸収される糖分を摂る: ブドウ糖10g(ブドウ糖タブレット数粒)、砂糖10~20g(角砂糖2~4個)、ジュース(糖分の多いもの、150~200ml)、清涼飲料水(150~200ml)などを摂取します。α-グルコシダーゼ阻害薬を服用している場合は、砂糖ではなく必ずブドウ糖を摂取してください。
- 15分待つ: 糖分摂取後15分程度待ち、症状が改善したか確認します。
- 症状が改善しない場合: 再度同じ量の糖分を摂取します。
- 症状が改善したら: 食事に近い形で炭水化物を摂る(例: 軽食、おにぎり半分など)。次の食事まで時間がある場合や、運動をする場合などに低血糖の再発を防ぎます。
- 意識がない場合: 周囲の人が無理に飲食物を口に入れると窒息の危険があります。すぐに救急車(119番)を呼び、あらかじめ医師から処方されている場合はグルカゴン注射を行います。
低血糖は、食事や運動の量・タイミングの乱れ、薬の飲み間違い、アルコールの飲みすぎ、シックデイなどが原因で起こりやすくなります。低血糖が起こった際は、その時の状況を記録しておき、次回の診察時に医師に伝えるようにしましょう。常にブドウ糖や砂糖、ブドウ糖を含む食品などを携帯しておくことが勧められます。
飲み続けることの影響
糖尿病薬は、糖尿病という慢性疾患の治療のために、長期にわたって服用することが前提となる薬がほとんどです。指示通りに薬を飲み続けることで、血糖コントロールを良好に保ち、将来的な合併症の発症や進行を予防する効果が期待できます。これは薬物療法の最大の目的の一つです。
一部の薬(特にインスリン分泌を刺激するSU薬など)では、長期間使用することで膵臓のβ細胞が疲弊する可能性が懸念されることがありましたが、現在の薬ではそのような明確な影響は確認されていません。また、多くの薬で「耐性がついて効かなくなる」ということは基本的になく、血糖コントロールが悪化する場合は、病状の進行や他の要因が考えられます。
ただし、長期服用に伴い、まれに特定の副作用のリスクがわずかに高まる可能性が指摘される薬もあります(例:チアゾリジン薬と膀胱がんリスク)。そのため、医師は定期的に検査を行い、薬の効果だけでなく、副作用の有無や患者さんの全体的な状態を評価しながら、治療薬を見直していきます。自己判断で薬を中断したり、減量したりすることは、血糖コントロールの悪化を招き、合併症のリスクを高めるため絶対に行わないでください。
糖尿病薬に関するよくある質問
糖尿病薬について、患者さんからよく聞かれる疑問にお答えします。
糖尿病の薬は飲み続けるとどうなる?
前述の通り、糖尿病薬は長期にわたって服用することが前提です。飲み続けることで、血糖値を目標範囲に保ち、将来的に起こりうる糖尿病合併症(神経障害、網膜症、腎症、心筋梗塞、脳卒中など)のリスクを減らすことができます。薬の種類によっては、体重管理や血圧管理、心臓・腎臓の保護といった副次的なメリットも期待できます。
一方で、長期服用による体への影響や副作用がないわけではありません。定期的な診察や検査は、薬の効果判定だけでなく、潜在的な副作用の早期発見のためにも非常に重要です。自己判断せず、必ず医師の指示に従って服用を続けましょう。
糖尿病薬をやめると数値はどうなる?
糖尿病薬は、食事療法や運動療法と組み合わせて、血糖値をコントロールするために使用されています。薬をやめると、薬の効果によって抑えられていた血糖値が再び上昇し、血糖コントロールが悪化する可能性が非常に高いです。
特に、インスリン分泌能が低下している場合や、インスリン抵抗性が強い場合など、薬なしでは血糖値を正常に保てない病態の患者さんが薬を中断すると、血糖値が著しく上昇し、急性合併症(糖尿病ケトアシドーシスや高浸透圧高血糖状態など)のリスクが高まることがあります。
糖尿病薬の中止や減量は、必ず医師と相談して、血糖値の変化を確認しながら慎重に行う必要があります。食事療法や運動療法がうまくいって血糖値が安定した場合など、医師の判断で薬の量を減らしたり、種類を変えたりすることはあります。
糖尿病薬で痩せる薬はありますか?
はい、糖尿病薬の中には体重減少効果が期待できる薬があります。
- SGLT2阻害薬: 尿から糖を排出することで、エネルギー(カロリー)を体外に出すため、体重減少につながります。
- GLP-1受容体作動薬、GIP/GLP-1受容体作動薬: 食欲を抑えたり、胃の内容物の排出を遅らせたりする作用があるため、食事量が減少し、体重減少につながることが期待できます。
ただし、これらの薬を服用すれば必ず痩せるというわけではありません。体重減少効果には個人差があり、食事や運動の状況にも影響されます。これらの薬も、あくまで血糖値を下げるための薬であり、体重を減らすことだけを目的として使用されるわけではありません。体重管理が必要な糖尿病患者さんにとって、体重減少効果はメリットの一つと考えられます。
糖尿病の薬は市販されていますか?
いいえ、糖尿病の治療薬は、医師の処方箋がなければ購入できない「医療用医薬品」です。薬局やドラッグストアで市販薬として販売されているものはありません。
糖尿病は血糖コントロールが非常に重要であり、患者さんの病態や合併症の有無に応じて、使うべき薬の種類や量が異なります。また、副作用のリスク管理も専門的な知識が必要です。そのため、必ず医師の診察を受け、適切な診断のもとで薬を処方してもらう必要があります。
インターネットなどで販売されている海外の糖尿病薬や類似品は、偽造薬であったり、品質が保証されていなかったりする危険性があります。安全性が確保されておらず、健康被害を引き起こす可能性があるため、絶対に使用しないでください。糖尿病の薬は、必ず医療機関を受診して医師の処方を受けましょう。
薬物療法以外の糖尿病治療(食事療法・運動療法)
糖尿病の治療は、薬物療法だけではありません。基本となるのは、継続的な食事療法と運動療法です。
- 食事療法: 適切なエネルギー量(カロリー)を摂取し、栄養バランスの取れた食事を規則正しく摂ることが重要です。炭水化物の摂取量や質に注意し、野菜やきのこ類、海藻類などを積極的に摂ることで、食後の血糖値の急激な上昇を抑えることができます。専門家(医師、管理栄養士)の指導のもと、一人ひとりに合った食事計画を立てることが大切です。
- 運動療法: 有酸素運動(ウォーキング、ジョギング、水泳など)やレジスタンス運動(筋力トレーニング)を組み合わせることで、インスリンの働きが改善し、血糖値が低下します。また、体力向上やストレス解消にもつながります。ただし、血糖値が高い場合や合併症がある場合は、運動の種類や強度に注意が必要なため、開始前に医師に相談しましょう。
薬物療法は、あくまで食事療法と運動療法で血糖コントロールが不十分な場合に行われます。薬を服用しているからといって、食事や運動がおろそかになって良いわけではありません。薬の効果を最大限に引き出し、血糖コントロールを良好に保つためには、食事療法、運動療法、薬物療法を三位一体として継続していくことが不可欠です。
糖尿病の薬について専門家へ相談しましょう
この記事では、糖尿病薬の主な種類や特徴、副作用などについて解説しました。糖尿病の薬は日々進歩しており、患者さん一人ひとりに最適な治療法を選択することが可能になってきています。
ご自身の治療に用いられている薬について疑問がある場合や、効果や副作用について不安がある場合は、遠慮なく医師や薬剤師に質問してください。薬の名前や用法・用量を正確に把握し、なぜその薬が処方されているのか、どのような効果や注意点があるのかを理解することは、糖尿病治療を適切に継続していく上で非常に重要です。
また、最近ではオンライン診療で糖尿病専門医に相談できるクリニックも増えています。忙しくて通院が難しい方や、専門医の意見を聞きたい方にとって、一つの選択肢となるでしょう。
糖尿病治療は、医師、薬剤師、看護師、管理栄養士など、様々な医療スタッフがチームとなって患者さんをサポートします。専門家としっかり連携を取りながら、ご自身の糖尿病と向き合っていくことが、健康な未来につながります。
免責事項: 本記事は、糖尿病薬に関する一般的な情報提供を目的としており、特定の薬剤の使用を推奨したり、個別の診断や治療を意図したりするものではありません。病状や治療に関するご判断は、必ず担当の医師にご相談ください。情報の正確性には努めていますが、常に最新の情報やご自身の状態に基づいた専門家の判断が最優先されます。