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乳酸アシドーシスの症状とは?初期サインから危険な兆候まで解説

[2025.06.29]

乳酸アシドーシスは、体内で乳酸が過剰に蓄積し、血液が酸性に傾く(アシドーシス)状態を指します。この状態は、様々な基礎疾患や特定の薬剤の使用によって引き起こされる可能性があり、早期発見と適切な対応が非常に重要です。乳酸アシドーシスは、初期には見過ごされやすい非特異的な症状から始まり、進行すると生命にかかわる重篤な状態に至ることもあります。そのため、「乳酸アシドーシス 症状」について正しく理解しておくことは、自身や周囲の人の健康を守る上で役立ちます。この記事では、乳酸アシドーシスの具体的な症状、その原因、リスク因子、そして診断から治療、予防について詳しく解説します。

乳酸アシドーシスとは?病態と基本的な知識

乳酸アシドーシスの定義

乳酸アシドーシスは、血中の乳酸濃度が異常に高くなり、同時に血液のpHが低下する状態を指します。通常、私たちの体は代謝の過程で乳酸を生成しますが、健康な状態であれば肝臓や腎臓で速やかに代謝・排泄され、血中濃度は一定範囲に保たれています。しかし、何らかの原因で乳酸の産生が増えすぎたり、代謝・排泄がうまくいかなくなったりすると、乳酸が体内に蓄積し、アシドーシスを引き起こします。血液のpHが基準値(約7.35〜7.45)より低下した状態をアシドーシスといい、特に乳酸の蓄積によるものを乳酸アシドーシスと呼びます。これは、代謝性アシドーシスの一種であり、適切に対処されないと重篤な臓器障害を引き起こす可能性があります。

体内で乳酸が増えるメカニズム

体内で乳酸が増える主なメカニズムは二つあります。一つは、組織への酸素供給が不足する場合(A型乳酸アシドーシス)、もう一つは、酸素供給は十分であるにもかかわらず、乳酸の代謝や排泄に問題がある場合(B型乳酸アシドーシス)です。

A型乳酸アシドーシスは、体の組織が十分な酸素を受け取れない状態、すなわち「嫌気性代謝」が増加することで起こります。通常、エネルギーを作り出す過程(好気性代謝)では酸素が不可欠ですが、酸素が不足すると、体は酸素を使わない別の経路(嫌気性解糖系)でエネルギーを作り出そうとします。この嫌気性解糖系の最終産物として乳酸が大量に生成されます。酸素不足は、ショック(循環血液量減少性、心原性、敗血症性、アナフィラキシーなど)、重度の貧血、一酸化炭素中毒、重度の呼吸不全など、様々な状態によって引き起こされます。組織への血流が低下したり、血液の酸素運搬能力が低下したりすると、細胞は酸素不足に陥り、乳酸産生が増加します。

B型乳酸アシドーシスは、組織への酸素供給が比較的保たれているにもかかわらず、乳酸の代謝・排泄能力が低下したり、特定の薬剤や疾患が原因で乳酸産生が増加したりする場合に起こります。具体的な原因としては、肝臓や腎臓の機能障害(乳酸の代謝・排泄能力が低下)、悪性腫瘍(腫瘍細胞の代謝亢進による乳酸産生増加)、感染症(特に敗血症以外のもの)、特定の薬剤(後述)、先天性代謝異常などがあります。特に糖尿病治療薬であるメトホルミンは、B型乳酸アシドーシスの原因としてよく知られています。

このように、乳酸は体のエネルギー代謝と深く関わっており、様々な病態や薬剤によってそのバランスが崩れることで乳酸アシドーシスが発生します。

乳酸アシドーシスの具体的な症状

乳酸アシドーシスの症状は、その原因や重症度によって異なります。初期段階では非特異的な症状が多く、他の疾患と区別がつきにくい場合があります。しかし、病態が進行すると、より重篤で生命に関わる症状が現れてきます。

乳酸アシドーシスの初期症状(前兆)

乳酸アシドーシスの初期には、以下のような症状が現れることがあります。これらは、体のpHバランスが崩れ始めている兆候であると同時に、原因となっている基礎疾患の症状であることもあります。

全身倦怠感・疲労感: 体がエネルギーを効率よく作り出せなくなり、だるさや疲れを感じやすくなります。

食欲不振・吐き気・嘔吐: 消化器系の不調が現れることがあります。乳酸の蓄積が消化管の働きに影響を与えるためと考えられます。

腹痛: 原因によっては腹痛を伴うことがあります。特に、腸管の血流障害によるアシドーシスでは強い腹痛が見られます。

筋肉痛・こむら返り: 乳酸は筋肉の疲労とも関連が深く、アシドーシスによって筋肉の機能が影響を受けることがあります。

息苦しさ・呼吸が速くなる(頻呼吸): 体がアシドーシスを代償しようとして、二酸化炭素を体外に排出しようと呼吸を速めたり深くしたりすることがあります。初期には自覚しにくいこともありますが、進行のサインとなることがあります。

頭痛: アシドーシスによって脳の血管が拡張したり、電解質バランスが崩れたりすることで頭痛が生じることがあります。

これらの症状は、風邪や疲労、他の病気でも見られることが多いため、乳酸アシドーシスに特有のものではなく、見逃されやすい傾向があります。しかし、特に糖尿病や腎臓病などの基礎疾患がある方、特定の薬剤を服用している方がこれらの症状を訴える場合は注意が必要です。

進行すると現れる重篤な症状

乳酸アシドーシスが進行し、血液のpHが著しく低下すると、体の様々な機能に深刻な影響が出始め、以下のような重篤な症状が現れます。これらの症状は、緊急性の高い状態を示唆しています。

クスマウル呼吸: アシドーシスを代償するために、深く、速く、大呼吸をする状態です。体内の過剰な酸(二酸化炭素)を積極的に排出しようとする体の防御反応ですが、アシドーシスが重度であることを示しています。

意識障害: 脳の機能が低下し、混乱、傾眠、昏睡に至ることがあります。アシドーシスそのものや、原因となっている病態(ショック、低酸素血症など)による脳への影響が考えられます。

血圧低下・ショック: 循環不全が進行し、血圧が維持できなくなることがあります。乳酸アシドーシスは心臓の収縮力を低下させ、血管を拡張させる作用があり、これらが重なるとショック状態に陥ります。

不整脈: 重度の酸性化は心臓の電気信号伝達に影響を与え、危険な不整脈を引き起こす可能性があります。

乏尿・無尿: 腎臓への血流が低下したり、腎機能自体が悪化したりすることで、尿の量が減少したり全く出なくなったりします。乳酸の排泄がさらに妨げられ、アシドーシスが悪化するという悪循環に陥ります。

手足の冷感・チアノーゼ: 末梢循環が悪化し、手足が冷たくなったり、皮膚の色が青紫色になったりします。組織への酸素供給不足がさらに進行しているサインです。

これらの重篤な症状が現れた場合は、生命の危険が差し迫っている状態であり、速やかに医療機関で集中治療を受ける必要があります。

患者さんが自覚しやすい兆候

上記の中でも、患者さん自身が比較的自覚しやすい兆候としては、「全身の強いだるさ」「息苦しさ」「吐き気や嘔吐」「原因不明の腹痛」などがあります。特に、普段から服用している薬がある場合や、糖尿病などの持病があり、体調が優れない(シックデイ)ときにこれらの症状が現れたら、単なる風邪や疲れだと放置せず、乳酸アシドーシスの可能性を疑い、早めに医療機関に相談することが重要です。自分の体の変化に注意を払い、いつもと違うと感じたら専門家の意見を求めることが、重症化を防ぐ第一歩となります。

乳酸アシドーシスの原因とリスク因子

乳酸アシドーシスは単独で起こる病気ではなく、多くの場合、何らかの基礎疾患や特定の状態、薬剤が引き金となって発生します。原因は大きくA型とB型に分類されます。

乳酸産生が増加する原因(A型アシドーシス)

A型乳酸アシドーシスは、組織への酸素供給が需要に対して不足することによって、嫌気性解糖系が亢進し乳酸産生が増加する病態です。主な原因は以下の通りです。

ショック: 様々な原因(心不全、大量出血、敗血症、重度のアレルギー反応など)による循環不全により、全身の組織に十分な血液(酸素)が送られなくなる状態。これはA型乳酸アシドーシスの最も一般的な原因です。

重度の呼吸不全: 肺炎やARDS(急性呼吸窮迫症候群)などにより、肺での酸素の取り込みが著しく障害され、血液中の酸素濃度が低下する状態。

重度の貧血: 血液中のヘモグロビン(酸素を運ぶ役割)が極端に少なくなり、酸素運搬能力が低下する状態。

一酸化炭素中毒: 一酸化炭素がヘモグロビンと結合し、酸素が運ばれなくなる状態。

局所的な組織虚血: 心筋梗塞(心臓)、脳梗塞(脳)、腸管虚血(腸)、四肢虚血(手足)など、特定の臓器や組織への血流が途絶え、酸素不足に陥る状態。

これらの状態では、細胞がエネルギーを作るために酸素を使う経路(好気性代謝)が働けなくなり、酸素を使わない経路(嫌気性解糖系)に頼るしかなくなります。この過程で大量の乳酸が生成され、血中に蓄積します。

乳酸の代謝・排泄が低下する原因(B型アシドーシス)

B型乳酸アシドーシスは、組織の酸素化が比較的保たれているにもかかわらず、乳酸のクリアランス(代謝・排泄)が低下したり、乳酸産生が亢進したりする病態です。原因は多岐にわたります。

肝機能障害: 乳酸の主要な代謝器官である肝臓の機能が低下すると、乳酸を効率よく処理できなくなり、血中濃度が上昇します。肝硬変や劇症肝炎など、重度の肝機能障害で発生します。

腎機能障害: 乳酸の排泄に腎臓も関わっているため、腎機能が著しく低下すると乳酸の排泄が滞り、蓄積につながります。

悪性腫瘍: 特定の悪性腫瘍(特に血液がんや固形がんの一部)では、腫瘍細胞自体の代謝が非常に活発で、嫌気性解糖系によって大量の乳酸を産生することがあります。

感染症: 敗血症以外の重度の感染症でも、炎症反応やサイトカインの放出などが代謝に影響を与え、乳酸値が上昇することがあります。

特定の薬剤や毒物: 後述するメトホルミンのほか、サリチル酸(アスピリンなど)、メタノール、エチレングリコールなどの毒物摂取、ART(抗レトロウイルス薬)の一部なども乳酸アシドーシスを引き起こす可能性があります。

先天性代謝異常: 生まれつきの酵素欠損などにより、乳酸の代謝経路に異常がある場合。これは比較的まれですが、特に小児期に発症します。

重度の運動: 強度の高い運動を長時間行うと、一時的に筋肉での乳酸産生が処理能力を上回り、軽度の乳酸アシドーシスを引き起こすことがありますが、これは生理的な反応であり通常は速やかに回復します。病的とは区別されます。

薬剤(メトホルミンなど)による乳酸アシドーシス

B型乳酸アシドーシスの原因として特に重要なのが薬剤性です。中でも、2型糖尿病治療薬として広く使われているメトホルミン(ビグアナイド系薬剤)による乳酸アシドーシスは、頻度は低いものの、発生すると重篤になりやすいため注意が必要です。

メトホルミンによる乳酸アシドーシスの発生機序

メトホルミンは、肝臓での糖新生を抑制し、末梢組織での糖利用を促進することで血糖値を下げる薬です。この作用に関連して、メトホルミンは嫌気性解糖系を促進する作用や、ミトコンドリアの呼吸鎖を阻害する作用を持つと考えられています。健康な状態であれば、これらの作用があっても肝臓での乳酸処理能力が高いため、乳酸が危険なレベルに蓄積することはほとんどありません。

しかし、以下のような状態では、メトホルミンの作用に加えて乳酸のクリアランスが低下したり、乳酸産生が増加したりするため、乳酸アシドーシスのリスクが著しく高まります。

腎機能障害: メトホルミンは主に腎臓から排泄されます。腎機能が低下しているとメトホルミンが体内に蓄積しやすくなり、血中濃度が上昇することで乳酸アシドーシスのリスクが増大します。

肝機能障害: 肝臓は乳酸を代謝する主要な臓器です。肝機能が低下していると、メトホルミンによる乳酸産生促進作用に加えて、肝臓での乳酸処理能力が低下するため、乳酸が蓄積しやすくなります。

心不全、呼吸不全などの低酸素状態を伴う病態: A型アシドーシスを引き起こすような状態が合併すると、嫌気性代謝が亢進し、メトホルミンの影響と相まって乳酸アシドーシスが発生しやすくなります。

脱水状態: 循環血液量が減少し、腎血流量も低下するため、メトホルミンの排泄が低下し、乳酸のクリアランスも低下します。

過度のアルコール摂取: アルコールは肝臓での乳酸代謝を抑制する作用があり、メトホルミンとの併用でリスクが増加します。

造影剤を用いた検査: 造影剤が一時的に腎機能に影響を与えることがあるため、メトホルミン服用中の患者さんでは、造影検査の前後でメトホルミンの休薬が必要になる場合があります。

これらのリスク因子を持つ患者さんにメトホルミンが処方される場合や、メトホルミン服用中にこれらの状態になった場合は、医師は乳酸アシドーシスの発生に十分注意する必要があります。患者さん自身も、メトホルミン服用中に体調が悪くなった場合は、速やかに医師に相談することが大切です。

乳酸アシドーシスを起こしやすい患者さんの特徴

乳酸アシドーシスは、健康な人には通常起こりにくい状態です。特定の基礎疾患や状態を持つ患者さんでリスクが高まります。

脱水状態とアシドーシス

脱水状態は、乳酸アシドーシスの重要なリスク因子の一つです。脱水によって体液量が減少すると、全身の血流が低下します。これにより、組織への酸素供給が不足しやすくなるため、A型乳酸アシドーシスを引き起こす可能性があります。また、脱水は腎臓への血流量も減少させるため、腎機能が一時的に低下し、メトホルミンなどの薬剤の排泄や乳酸のクリアランスが低下することにつながり、B型乳酸アシドーシスのリスクも高めます。特に、糖尿病患者さんがシックデイ(発熱、下痢、嘔吐などで食事がとれず、体調を崩しているとき)になった際には、脱水になりやすく、血糖コントロールが悪化したり、メトホルミンによる乳酸アシドーシスが発生したりするリスクが高まります。

シックデイにおける注意点

糖尿病患者さんにとって、シックデイは血糖コントロールが乱れやすく、様々な合併症のリスクが高まる危険な時期です。特に、インスリン注射やSU薬を自己判断で中止すると高血糖性昏睡(DKAやHHS)のリスクが高まる一方、メトホルミンを服用している場合は、脱水や食欲不振による体調悪化と相まって乳酸アシドーシスを合併するリスクが高まります。

シックデイ時には、以下の点に注意が必要です。

自己判断で薬を中止しない:
必ず主治医に連絡し、指示を仰ぎましょう。メトホルミンについては、シックデイ時には一時的に休薬を指示されることが多いです。

水分補給をしっかり行う:
脱水を防ぐために、スポーツドリンクや経口補水液などで十分に水分・電解質を補給します。

食事可能な範囲で栄養を摂る:
食事がとれない場合でも、ゼリーやスープなど、消化の良いものを少量でも摂るように心がけます。

血糖値やケトン体を頻繁に測定する:
血糖コントロールの状態を把握し、異常があれば速やかに医師に連絡します。

体調の変化に注意する:
前述の乳酸アシドーシスの初期症状(強いだるさ、吐き気、腹痛、息苦しさなど)が現れたら、迷わず医療機関を受診しましょう。

これらのことから、乳酸アシドーシスは、重症患者さんだけでなく、特定の基礎疾患を持つ患者さんや特定の薬剤を服用している患者さんでも、体調不良時には注意が必要な病態であることがわかります。

乳酸アシドーシスの診断方法

乳酸アシドーシスの診断は、患者さんの症状、病歴、身体診察に加え、血液検査が中心となります。特に血液ガス分析と血中乳酸濃度の測定は診断に不可欠です。

血液検査の項目と基準値

乳酸アシドーシスを診断するために測定される主な血液検査項目は以下の通りです。これらの項目を総合的に評価することで、乳酸アシドーシスの有無や重症度、原因の推測が可能になります。

検査項目 通常の基準値(目安) 乳酸アシドーシスにおける変化 補足
血中pH 7.35 - 7.45 低下 (< 7.35) 血液の酸性度を示す。pHが低いほど酸性が強い。
重炭酸イオン(HCO3-) 22 - 26 mEq/L 低下 (< 22) 血液中の緩衝物質。アシドーシスを打ち消すために消費され低下する。
血中乳酸値 < 2 mmol/L 上昇 (> 2 mmol/L)。重症では8-10 mmol/L以上にも。 乳酸アシドーシスを診断する最も重要な指標。
アニオンギャップ 8 - 16 mEq/L 増加 血中の陽イオンと陰イオンのバランスから、測定されていない陰イオンの存在を示す。乳酸が増加するとアニオンギャップが拡大する。
動脈血酸素分圧(PaO2) 80 - 100 mmHg 原因によっては低下 血液中の酸素の量。A型アシドーシスの原因(呼吸不全など)を示唆する場合がある。
PaCO2 35 - 45 mmHg 原因によっては低下(代償)または上昇 血液中の二酸化炭素の量。アシドーシスを代償するために呼吸が速まると低下する。
血糖値 70 - 100 mg/dL (空腹時) 高値の場合がある(糖尿病など) 糖尿病が原因の一つである場合に関連。
腎機能(Cr, BUN) Cr: 0.6-1.2 mg/dL
BUN: 8-20 mg/dL
上昇(腎機能障害) 腎臓での乳酸やメトホルミンの排泄能力を評価。
肝機能(ALT, ASTなど) 基準値内 上昇(肝機能障害) 肝臓での乳酸代謝能力を評価。

これらの検査は通常、緊急で行われ、結果に基づいて速やかに治療方針が決定されます。特に、血中乳酸値の測定は迅速に行える機器(POCT: Point of Care Testing)が普及しており、ベッドサイドですぐに結果が得られるようになってきています。

また、一般的なL-乳酸アシドーシスに加えて、特殊な「D-乳酸アシドーシス」という病態もあります。これは、短腸症候群などで腸内細菌が増殖し、食物に含まれる糖質を代謝してL-乳酸ではなくD-乳酸を大量に産生する場合に起こります。通常の検査ではL-乳酸しか測定できないことがあるため、D-乳酸アシドーシスが疑われる場合には、D-乳酸を特異的に測定する検査が必要になります。

診断においては、これらの検査結果とともに、患者さんの全身状態や考えられる原因(感染症、ショック、薬剤服用歴、基礎疾患など)を総合的に評価することが非常に重要です。

乳酸アシドーシスの治療法(直し方)

乳酸アシドーシスの治療は、速やかな診断と同時に開始される緊急性の高い処置です。治療の基本は、「原因に対する治療」と「アシドーシス自体の是正」の二本柱で行われます。

原因に対する治療

乳酸アシドーシスは多くの場合、 underlying condition(根 underlying disease:基礎疾患)によって引き起こされるため、最も重要な治療は、乳酸アシドーシスの根本原因を取り除くことです。原因が異なれば、取るべき治療法も全く異なります。

ショック:
原因に応じたショックの治療を行います。例えば、出血性ショックであれば輸血、心原性ショックであれば心臓の機能を改善する治療、敗血症性ショックであれば抗菌薬投与と輸液などです。これにより全身の血流を改善し、組織への酸素供給を回復させます。

低酸素血症:
呼吸不全などによる低酸素状態が原因であれば、酸素投与や人工呼吸器による呼吸管理を行います。

薬剤性(メトホルミンなど):
原因となっている薬剤の投与を直ちに中止します。メトホルミンの場合は、体からの排泄を促進するために透析が必要になることもあります。

感染症:
適切な抗菌薬や抗ウイルス薬による治療を行います。

肝機能障害・腎機能障害:
肝臓や腎臓の機能が回復するように治療を行いますが、重症の場合は肝臓移植や腎臓の機能補助(人工透析など)が必要になることもあります。

悪性腫瘍:
腫瘍の治療(化学療法、手術など)を行います。

毒物摂取:
解毒剤の投与や、体からの排泄を促進する処置(透析など)を行います。

原因に対する治療が成功すれば、乳酸の産生が減少し、体自身の力でアシドーシスが改善に向かいます。

アシドーシス自体の是正

アシドーシスが重度の場合(血中pHが非常に低いなど)、原因に対する治療の効果が現れるまでの間、あるいは原因治療だけでは改善が不十分な場合に、アシドーシスそのものを是正する治療が行われることがあります。

輸液:
十分な輸液を行うことで循環血液量を回復させ、組織への血流を改善し、乳酸のクリアランスを高める効果が期待できます。また、輸液によってメトホルミンなどの薬剤の排泄を促進することもできます。

重炭酸ナトリウムの投与:
血液中の酸を中和するために、重炭酸ナトリウム(メイロン®など)を静脈から投与することがあります。これにより一時的に血液のpHを上げることができます。しかし、重炭酸ナトリウムの投与には、かえって細胞内のアシドーシスを悪化させたり、二酸化炭素の産生を増やしたり、電解質バランスを崩したりする可能性など、いくつかの問題点や議論があるため、その適用は慎重に行われ、特に重症例に限られることが多いです。

人工透析:
特に腎機能障害が合併している場合や、メトホルミン中毒などで薬剤の排泄が困難な場合、あるいは重炭酸ナトリウム投与でもアシドーシスが改善しないような重症例では、人工透析が有効な治療法となります。人工透析は、血液中から乳酸や原因薬剤、過剰な水分・電解質などを効率的に除去することができます。

アシドーシス自体の是正は、あくまで原因に対する治療を補助するものであり、根本的な解決には原因を取り除くことが不可欠です。

D-乳酸アシドーシスの治療

一般的なL-乳酸アシドーシスとは原因が異なるD-乳酸アシドーシスの治療は、主に原因となっている腸内細菌の異常増殖を抑制することと、代謝されるべきD-乳酸の量を減らすことに焦点が当てられます。

抗菌薬投与:
異常増殖している腸内細菌を抑制するために、特定の抗菌薬が投与されます。

経口摂取の制限:
短腸症候群などで糖質を多く摂取するとD-乳酸が産生されやすいため、一時的に経口摂取を制限したり、食事内容を調整したりすることがあります。

水分・電解質補給:
脱水や電解質異常を補正するために輸液を行います。

人工透析:
重症の場合や、他の治療で改善しない場合には、人工透析がD-乳酸を除去するのに有効な手段となります。

このように、乳酸アシドーシスの治療は、その原因や病態に応じて多岐にわたります。患者さんの状態を常に監視し、適切な治療法を迅速に選択・実施することが、予後を大きく左右します。

乳酸アシドーシスの予防

乳酸アシドーシスは、様々な重篤な病態に合併して起こることが多いため、完全に予防することは難しい場合もあります。しかし、特に特定の薬剤(メトホルミンなど)によるものや、基礎疾患の管理が不十分なことによって起こるリスクを減らすための対策は可能です。

リスク因子を管理するための注意点

乳酸アシドーシスを起こしやすいリスク因子を持つ患者さんは、以下の点に注意することで、発症リスクを低減することができます。

基礎疾患の適切な管理:
糖尿病: 血糖コントロールを良好に保つことが重要です。HbA1cの目標値を医師と相談し、食事療法、運動療法、薬物療法を継続します。特に、シックデイ時の対応について、主治医や看護師から指導を受けておきましょう。
心疾患、腎疾患、肝疾患: これらの機能が低下しないように、主治医の指示に従って定期的な診察を受け、適切な治療を継続することが重要です。病状が悪化した際には、速やかに医療機関を受診しましょう。

薬剤の適正使用:
メトホルミン: メトホルミンを服用している患者さんは、特に腎機能障害、肝機能障害、心不全、呼吸不全などが新たに発生または悪化した場合、あるいは脱水状態になった場合に、乳酸アシドーシスのリスクが高まることを理解しておく必要があります。これらの状態になった場合は、自己判断で服用を続けず、必ず主治医に相談し、必要に応じて休薬の指示を仰ぎましょう。造影剤を用いた検査を受ける際も、事前の薬剤休薬について医師や検査担当者に確認することが重要です。
その他の薬剤: 乳酸アシドーシスを引き起こす可能性のある他の薬剤(特定の抗生物質や毒物など)の使用についても、医師の指示を厳守し、安易な自己判断や過量服用は避ける必要があります。

脱水の予防:
発熱、下痢、嘔吐など、体から水分が失われやすい状態の際には、意識的に水分を補給することが非常に重要です。特に高齢者や自分で水分を摂るのが難しい方は、周囲のサポートも必要です。
暑い時期や激しい運動をする際も、こまめな水分・電解質補給を心がけましょう。

体調不良時の早期相談(シックデイ対応):
糖尿病患者さんなど、シックデイ時の対応が重要な方は、体調が優れないと感じたら、かかりつけ医に早めに連絡しましょう。指示された受診の目安や連絡方法(時間外の連絡先など)を事前に確認しておくと安心です。

過度の飲酒を避ける:
アルコールは乳酸の代謝を抑制する作用があるため、過度の飲酒は乳酸アシドーシスのリスクを高めます。特にメトホルミン服用中の患者さんは注意が必要です。

栄養状態の管理:
極端な低栄養やビタミン欠乏(特にチアミン欠乏)も乳酸アシドーシスのリスク因子となり得るため、バランスの取れた食事を心がけることも間接的な予防になります。

これらの予防策は、乳酸アシドーシスだけでなく、多くの疾患の管理や全身状態の維持にも繋がります。日頃から自身の健康状態に注意を払い、リスク因子を理解し、適切に対応することが、重篤な合併症を防ぐために非常に重要です。

まとめ:症状に気づいたら速やかに医師へ相談を

乳酸アシドーシスは、体内で乳酸が異常に蓄積し、血液が酸性に傾く状態であり、基礎疾患や薬剤などが原因で発生します。初期には全身倦怠感、食欲不振、軽度の息苦しさといった非特異的な症状が見られることが多く、見過ごされやすい傾向があります。しかし、進行するとクスマウル呼吸、意識障害、血圧低下などの重篤な症状が現れ、生命にかかわる危険な状態に陥る可能性があります。

特に、糖尿病、心疾患、腎疾患、肝疾患などの基礎疾患がある方や、メトホルミンをはじめとする特定の薬剤を服用している方は、乳酸アシドーシスのリスクが高いと言えます。脱水状態や、糖尿病患者さんにおけるシックデイ時には、このリスクがさらに高まるため、体調管理には十分な注意が必要です。

乳酸アシドーシスの診断は、血液ガス分析や血中乳酸値の測定を含む血液検査が中心となります。治療は、原因となっている病態を根本的に治療することが最も重要であり、必要に応じてアシドーシス自体を是正するための輸液や重炭酸ナトリウム投与、人工透析などが行われます。

乳酸アシドーシスを予防するためには、基礎疾患を適切に管理し、リスクのある薬剤を適正に使用し、脱水を避けることなどが重要です。特にメトホルミン服用中の患者さんは、腎機能の状態に注意し、シックデイ時には必ず医師の指示を仰ぐようにしましょう。

もし、ご自身やご家族に、この記事で解説した乳酸アシドーシスの初期症状や兆候が見られ、特にリスク因子をお持ちの場合は、「単なる体調不良だろう」と軽視せず、速やかに医療機関を受診し、医師に相談することが極めて重要です。早期に発見し、適切な診断と治療を受けることが、重症化を防ぎ、予後を改善するために不可欠です。

免責事項:
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個々の病状の診断や治療を意図するものではありません。病気に関するご相談や治療方針の決定は、必ず医療機関を受診し、医師の判断を仰いでください。記事内容の正確性には万全を期しておりますが、情報の活用によって生じたいかなる結果についても、当方は一切の責任を負いかねます。

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