【症状チェック】糖尿病の初期症状?自宅で簡単セルフチェック
糖尿病は、初期には自覚症状がほとんどないことも多く、気づかないうちに進行してしまうケースが少なくありません。
「サイレントキラー(静かなる殺人者)」とも呼ばれるほど、知らず知らずのうちに全身の血管や神経を傷つけ、将来的に重篤な合併症を引き起こす可能性があります。
だからこそ、自分の体の変化に気づき、早期に発見・対処することが非常に大切です。
この記事では、まずご自身で簡単にできる糖尿病チェックのリストをご紹介します。
当てはまる項目がないか確認することで、ご自身の糖尿病リスクや、すでに糖尿病のサインが出ている可能性を知る手助けとなるでしょう。
さらに、それぞれの症状がなぜ起こるのか、見逃しやすい初期サイン、そして正確な診断に必要な病院での検査について詳しく解説します。
もしチェックしてみて不安を感じるようであれば、迷わずに医療機関へ相談することをおすすめします。
早期発見は、糖尿病の進行を抑え、健康な毎日を送るための第一歩です。
セルフチェックリスト:あなたの糖尿病リスク度を確認
まずは、ご自身の体の状態や最近の生活習慣を振り返り、以下のリストに当てはまるものがないかチェックしてみましょう。
あくまで簡易的なチェックですが、多くの項目に当てはまる場合は、糖尿病のリスクが高い、あるいはすでに糖尿病が始まっている可能性が考えられます。
当てはまるかチェックしてみましょう
以下の項目を読み、最近1~2ヶ月の間に経験した症状や、ご自身の状態・生活習慣と照らし合わせてみてください。
- 最近、急に体重が減った、または急に太った
- 水やお茶などを飲む量が増えた(特に喉が異常に乾く)
- トイレに行く回数が増え、尿の量が多いと感じる
- 以前より疲れやすくなった、体がだるいと感じることが多い
- 手足の指先がしびれることがある、または感覚が鈍くなった
- 物がかすんで見えるようになった、視力が落ちたと感じる
- 体がかゆいことが増えた(特に下半身や股間)
- ちょっとした傷や虫刺されが治りにくい
- 風邪や感染症にかかりやすく、治りにくい
- 足の水虫や爪のトラブル(変形、化膿など)が悪化した
- 健康診断などで血糖値やHbA1cが高いと指摘されたことがある
- 親や兄弟など、血縁者に糖尿病の人がいる
- 40歳以上である
- 肥満気味である(BMI 25以上が目安)
- 日頃からあまり運動をしない
- 食事は早食い、不規則、間食が多い
- 甘いものや脂っこいものをよく食べる
- ストレスが多いと感じる
- 喫煙している
これらの項目に多く当てはまるほど、糖尿病のリスクは高まります。
次のセクションでは、それぞれの項目がなぜ糖尿病と関連するのかを解説します。
チェック項目の解説:なぜこれらの症状が出るのか
セルフチェックリストに挙げた症状やリスク因子は、糖尿病が進行する過程で体に現れるサインであったり、糖尿病になりやすい体質や生活習慣に関連するものです。
それぞれの項目が糖尿病とどのように結びついているのかを詳しく見ていきましょう。
体重や体型の変化(体重減少、急な太り)
血糖値が高い状態が続くと、体内のブドウ糖をエネルギーとしてうまく利用できなくなります。
細胞がブドウ糖を取り込めないため、体は代わりに脂肪や筋肉を分解してエネルギーを得ようとします。
この状態が続くと、食事量は変わらない、あるいは増えているのに、体重が急激に減少することがあります。
これは進行した糖尿病でよく見られるサインの一つです。
一方で、糖尿病になる前の段階(糖尿病予備群)や初期の段階では、インスリンの働きが悪くなる(インスリン抵抗性)ことで、糖質や脂質を効率よく体に蓄えやすい状態になり、体重が増えやすくなることもあります。
特に、お腹周りに脂肪がつく「内臓脂肪型肥満」は、インスリン抵抗性をさらに悪化させるため、糖尿病の大きなリスク因子となります。
喉の渇き・尿量増加(多飲多尿)
血液中のブドウ糖の濃度(血糖値)が非常に高くなると、体は余分なブドウ糖を尿として排出しようとします。
この際、ブドウ糖は水分を一緒に引き連れて出ていく性質があるため、尿の量が増えます(多尿)。
たくさんの水分が体から失われるため、体が水分を欲し、異常に喉が渇くようになります(多飲)。
多飲多尿は、高血糖がかなり進んでいる可能性を示す重要なサインです。
特に夜中に何度もトイレに起きるようになった、などの変化は要注意です。
疲れやすさ・だるさ
ブドウ糖が細胞にうまく取り込まれず、エネルギーとして利用できないため、体全体がエネルギー不足のような状態になります。
このため、普段の活動でもすぐに疲れてしまったり、全身の倦怠感(だるさ)を感じやすくなります。
十分に睡眠をとっても疲れが取れない、体が重く感じる、といった症状が続く場合は、糖尿病のサインかもしれません。
手足のしびれ・感覚異常
高血糖が長く続くと、体の細い血管や神経が傷ついていきます。
特に、体の末梢にある手足の指先や足裏の神経が障害されることが多く、しびれやチクチクした痛み、あるいは逆に感覚が鈍くなる(触っても分かりにくい、温度を感じにくいなど)といった症状が現れます。
これは「糖尿病神経障害」と呼ばれる合併症の初期サインである可能性があります。
目のかすみ・視力の低下
高血糖は目の細い血管も傷つけます。
特に網膜にある血管が障害されると、「糖尿病網膜症」という合併症を引き起こし、視力低下やかすみ、飛蚊症(小さなゴミのようなものが見える)などの症状が出現します。
初期には自覚症状がないことも多いですが、進行すると失明に至る可能性もある怖い合併症です。
急にかすみ目がひどくなった、といった場合は注意が必要です。
皮膚のかゆみ・化膿しやすい
高血糖状態では、皮膚が乾燥しやすくなったり、免疫機能が低下したりするため、皮膚のバリア機能が弱まります。
この結果、全身、特に下半身や股間などに強いかゆみが出たり、細菌や真菌(カビ)に感染しやすくなり、おできや水虫などができやすくなったり、化膿しやすくなったりします。
傷が治りにくい
高血糖は血行を悪くし、免疫機能も低下させます。
このため、一度できた傷が治りにくくなったり、化膿しやすくなったりします。
小さな傷や虫刺されでも、通常よりも治癒に時間がかかる場合は、血糖コントロールが悪くなっているサインかもしれません。
足や爪のトラブル(水虫、潰瘍など)
糖尿病になると、神経障害による感覚の鈍化、血行障害、免疫機能の低下などが組み合わさることで、足のトラブルが起こりやすくなります。
小さな傷や靴擦れに気づきにくく、気づいたときには悪化していたり、血行が悪いため傷が治りにくく、進行すると潰瘍(皮膚が深くえぐれる)ができやすくなります。
また、水虫や爪の変形・化膿といった感染症も起こしやすくなります。
糖尿病患者さんの足のトラブルは、重症化すると切断に至るケースもあるため、早期発見とケアが非常に重要です。
セルフチェックで注意が必要な人:主なリスク因子(年齢、家族歴、生活習慣など)
セルフチェックリストの後半部分にある項目は、直接的な症状というよりは、糖尿病になりやすい体質や環境を示す「リスク因子」です。
これらのリスク因子が多い人も、自覚症状がなくても定期的な健康診断や血糖値チェックを積極的に行うことが推奨されます。
主なリスク因子には以下のようなものがあります。
- 年齢: 40歳以上になると、糖尿病の発症リスクが高まると言われています。
加齢とともにインスリンの分泌能力が低下したり、インスリンが効きにくくなったりすることが関係しています。 - 家族歴: 親や兄弟姉妹に糖尿病の人がいる場合、遺伝的な要因から糖尿病になりやすい体質を受け継いでいる可能性があります。
特に2親等以内の血縁者に糖尿病患者さんがいる場合は、注意が必要です。 - 肥満(特に内臓脂肪型肥満): 体重過多、特に内臓に脂肪が蓄積しているタイプ(お腹ポッコリなど)は、インスリンの働きを妨げる物質を分泌するため、インスリン抵抗性を高め、糖尿病のリスクを大幅に上昇させます。
BMI 25以上が目安となります。 - 運動不足: 体を動かさないでいると、筋肉でのブドウ糖の利用が減り、インスリンの働きも悪くなりがちです。
定期的な運動は、血糖値を下げるだけでなく、インスリンの効きを良くする効果があります。 - 不健康な食習慣: 過食、早食い、間食が多い、高カロリー・高脂肪・高糖質な食事が多い、食物繊維が不足している、朝食を抜くなどの不規則な食事習慣は、血糖値の急激な上昇を招きやすく、インスリンに負担をかけます。
- ストレス: 慢性的なストレスは、血糖値を上げるホルモンの分泌を促したり、不健康な生活習慣につながったりするため、糖尿病のリスクを高める可能性があります。
- 喫煙: 喫煙は血管を傷つけ、インスリンの効きを悪くする(インスリン抵抗性を高める)ため、糖尿病の発症リスクを高めるだけでなく、糖尿病の合併症を進行させやすくします。
- 高血圧・脂質異常症: 糖尿病は高血圧や脂質異常症といった他の生活習慣病と合併しやすい傾向があります。
これらの病気がある場合、動脈硬化が進みやすく、糖尿病の合併症リスクも高まります。 - 過去の妊娠糖尿病: 妊娠中に血糖値が高くなった経験がある女性は、将来的に糖尿病を発症するリスクが高いことが分かっています。
これらのリスク因子を複数持っている場合は、たとえ現在のセルフチェックリストの症状が少なくても、定期的な健康診断や血糖値の確認を怠らないようにしましょう。
糖尿病の初期サイン:見逃しやすい症状とは
糖尿病の初期段階では、前述した多飲多尿や体重減少といった典型的な症状がまだはっきり現れないことも珍しくありません。
そのため、ご自身では「病気かな?」と思うほどではない、些細な体の変化として現れることが多く、見逃されやすいのです。
見逃しやすい初期サインとしては、以下のようなものが挙げられます。
- なんとなく体がだるい、疲れやすい: 急激な倦怠感ではなく、「以前より根気がないな」「休んでも疲れが取れないな」といった程度の変化。
加齢や仕事のせいだと片付けてしまいがちです。 - 肌が乾燥しやすい、かゆみがある: 特に季節の変わり目でもないのに肌がカサつく、特定の部位(足や股間など)にかゆみを感じるが、すぐに治まることもあり気にしない。
- 小さな傷が治りにくい: 絆創膏を貼っていれば治るだろうと油断しがちですが、いつもより治癒に時間がかかる、赤みが長引くなどの変化。
- 目が疲れやすい、かすむことがある: 長時間パソコン作業をした後などに一時的にかすむ程度で、「ただの眼精疲労だろう」と思ってしまう。
- 足がつりやすい: 夜寝ているときなどに、ふくらはぎなどがつりやすくなる。
これも単なる運動不足や水分不足と考えがちです。 - 風邪をひきやすい、治りが遅い: 「年のせいかな」「忙しかったからかな」と考えがちですが、免疫力の低下が関係していることがあります。
- 歯周病が悪化しやすい: 歯ぐきが腫れやすい、出血しやすいなど。
糖尿病は歯周病を悪化させることが知られています。
これらの症状は、糖尿病以外の原因でも起こりうるものがほとんどです。
しかし、複数の症状が同時に現れたり、以前はなかった症状が続くようになったりした場合は、特に注意が必要です。
ご自身の体の「いつもと違う」サインに敏感になり、不安な場合は医療機関に相談することが大切です。
正確な診断のために:病院での糖尿病検査
セルフチェックリストで気になる項目があったり、初期サインかもしれないと感じたりした場合、正確な診断には医療機関での検査が不可欠です。
糖尿病の診断は、医師が問診や体の状態の確認に加え、血液検査や尿検査の結果を総合的に判断して行われます。
どんな検査をする?(血液検査、尿検査)
糖尿病の診断に主に用いられる検査は以下の通りです。
- 血液検査:
- 空腹時血糖値: 検査の前に原則10時間以上飲食をしない(水は可)状態で測定する血糖値です。
通常、早朝空腹時に測定します。 - 随時血糖値: 食事とは関係なく、随時測定した血糖値です。
- 75g経口ブドウ糖負荷試験(75gOGTT): 検査前夜から飲食を控え、空腹時にまず採血して血糖値を測定します。
その後、ブドウ糖75gを溶かした検査薬を飲み、30分後、1時間後、2時間後などに採血して血糖値の変化を測定する検査です。
食後の血糖値の上がり方や、インスリン分泌能力などを詳しく調べることができます。 - HbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー): 過去1~2ヶ月の血糖値の平均的な状態を示す指標です。
赤血球に含まれるヘモグロビンというタンパク質にブドウ糖が結合したもので、血糖値が高いほどこの結合が増えます。
過去の血糖値を反映するため、採血前の食事の影響を受けにくいのが特徴です。 - グリコアルブミン: 過去2週間程度の血糖値の平均的な状態を示す指標です。
アルブミンという血液中のタンパク質にブドウ糖が結合したものです。
HbA1cよりも短い期間の血糖変動を反映します。
- 空腹時血糖値: 検査の前に原則10時間以上飲食をしない(水は可)状態で測定する血糖値です。
- 尿検査:
- 尿糖: 尿中にブドウ糖が出ているかを調べます。
血糖値がある程度高くなると、腎臓でブドウ糖を再吸収しきれなくなり、尿中に出てくるようになります。 - 尿蛋白: 尿中にタンパク質が出ているかを調べます。
糖尿病が進んで腎臓の機能が低下すると、タンパク質が尿中にもれやすくなります。
糖尿病腎症の早期発見に役立ちます。
- 尿糖: 尿中にブドウ糖が出ているかを調べます。
これらの検査結果を組み合わせて、糖尿病であるかどうか、あるいは糖尿病予備群であるかを診断します。
検査値(血糖値・HbA1c)の見方
糖尿病の診断に使われる代表的な検査値とその基準は以下のようになっています。
検査項目 | 基準値(正常型) | 境界型(糖尿病予備群) | 糖尿病型 |
---|---|---|---|
空腹時血糖値 | 100mg/dL未満 | 100mg/dL以上 110mg/dL未満 | 126mg/dL以上 |
75gOGTT 2時間値 | 140mg/dL未満 | 140mg/dL以上 200mg/dL未満 | 200mg/dL以上 |
随時血糖値 | 食事と関係なく正常範囲 | 200mg/dL以上(典型的症状あり) | |
HbA1c | 5.6%未満 | 5.6%以上 6.5%未満 | 6.5%以上 |
- 空腹時血糖値が126mg/dL以上、または75gOGTT 2時間値が200mg/dL以上の場合、原則として別の日の再検査で同じ基準を満たした場合に糖尿病と診断されます。
- HbA1cが6.5%以上の場合も、糖尿病の可能性が非常に高く、別の日の再検査や他の検査結果と組み合わせて診断されます。
- 空腹時血糖値、75gOGTT 2時間値、HbA1cのいずれかが境界型に該当する場合を「境界型」または「糖尿病予備群」と呼びます。
この段階ではまだ糖尿病と診断されませんが、将来的に糖尿病に移行するリスクが高い状態です。
重要: これらの基準値はあくまで目安です。
医師は、これらの検査値だけでなく、患者さんの症状、家族歴、年齢、体の状態などを総合的に判断して診断を行います。
自己判断は危険ですので、必ず医師の診断を受けてください。
何科を受診すれば良い?
糖尿病の検査や診断、治療は、主に内科で行われます。
中でも、糖尿病や代謝疾患を専門とする糖尿病内科を受診するのが最も適切です。
かかりつけ医がいる場合は、まずはその医師に相談してみましょう。
必要に応じて専門医を紹介してもらえるはずです。
もし、かかりつけ医がいない場合や、専門的な診療を受けたい場合は、インターネットなどで「糖尿病内科」や「内科(糖尿病専門)」を標榜している病院やクリニックを探して受診すると良いでしょう。
初めて受診する際は、最近気になる体の症状や、セルフチェックで気になった点、家族に糖尿病の人がいるかなどを医師に正確に伝えることが重要です。
糖尿病と間違えやすい症状
糖尿病の初期症状や進行した症状の中には、他の病気や体の不調と間違えやすいものがあります。
自己判断で「これは糖尿病ではない」と決めつけてしまうと、発見が遅れてしまう可能性があります。
例えば、
- 疲れやすさ・だるさ: 風邪、貧血、甲状腺機能亢進症、慢性疲労症候群などでも起こります。
- 喉の渇き: 水分不足、発熱、シェーグレン症候群(唾液腺や涙腺の機能低下)などでも起こります。
- 手足のしびれ: ビタミン不足、末梢神経障害(糖尿病以外)、脳卒中、頚椎症・腰椎症などでも起こります。
- 体重減少: 甲状腺機能亢進症、がん、消化器疾患などでも起こります。
- かゆみ: 乾燥肌、アレルギー、腎臓病、肝臓病などでも起こります。
- かすみ目: 加齢によるもの、白内障、緑内障、ドライアイなどでも起こります。
このように、糖尿病の症状の中には他の病気と共通するものも多いため、「きっと大丈夫だろう」と軽視せず、気になる症状がある場合は、必ず医療機関で医師の診察を受けることが大切です。
正確な診断には専門的な検査が必要となります。
糖尿病が進行すると?ステージと合併症
糖尿病が怖い病気と言われるのは、高血糖の状態が長く続くことで、全身の血管や神経がじわじわと傷つけられ、さまざまな合併症を引き起こすからです。
糖尿病の進行度合いや合併症の有無によって、治療方針も変わってきます。
糖尿病の進行段階を厳密に分ける基準はありませんが、一般的には以下のように捉えられます。
- 糖尿病予備群(境界型): 空腹時血糖値や75gOGTTの検査値が正常と糖尿病の間に位置する状態(前述の表を参照)。
まだ糖尿病ではないが、将来糖尿病に移行するリスクが高い。
合併症はまだ起こっていないか、ごく初期の段階。
この段階で生活習慣を改善すれば、糖尿病の発症を予防したり遅らせたりすることが可能です。 - 糖尿病初期: 血糖値が糖尿病型の基準を満たしているが、まだ自覚症状がほとんどない段階。
健康診断などで偶然発見されることが多い。
この段階でも、血糖コントロールを始めることで合併症の発症を抑えることができます。 - 糖尿病進行期: 血糖コントロールが十分でない期間が続くと、徐々にさまざまな合併症が現れてくる段階。
典型的な症状(多飲多尿、体重減少など)が現れることもあります。 - 合併症進行期: 糖尿病の合併症がさらに進行し、臓器の機能障害などが顕著になる段階。
失明、腎不全、手足の切断、心筋梗塞、脳卒中など、重篤な状態に至るリスクが高まります。
糖尿病の代表的な合併症は、主に細い血管が障害されることによって起こる「細小血管合併症」と、比較的太い血管が障害されることによって起こる「大血管合併症」に分けられます。
特に「し・め・じ」として知られる3つの細小血管合併症は、糖尿病の最も特徴的な合併症です。
糖尿病神経障害(しびれ、足の異常、EDなど)
高血糖により末梢神経が傷つき、手足のしびれや痛み、感覚の鈍化などが起こります。
特に足の裏や指先から始まり、左右対称に進行することが多いです。
感覚が鈍くなるため、足にできた傷や潰瘍に気づきにくく、重症化しやすいです。
また、自律神経も障害されることがあり、立ちくらみ、胃腸の不調(下痢や便秘)、発汗異常、排尿障害(尿が出にくい、残尿感)などが起こることがあります。
男性では勃起不全(ED)の原因の一つとなることもあります。
EDは、神経障害だけでなく、血行障害や精神的な要因なども絡むことがありますが、糖尿病患者さんでは発症しやすい合併症です。
糖尿病網膜症(視力低下)
高血糖により目の網膜の細い血管が傷つき、出血やむくみなどが起こります。
初期にはほとんど自覚症状がありませんが、進行すると視力低下、飛蚊症、視界のかすみなどが現れます。
さらに進行すると、血管新生や硝子体出血などを起こし、最終的には失明に至る可能性のある非常に怖い合併症です。
定期的な眼科検診による早期発見・早期治療が重要です。
糖尿病腎症(むくみ)
高血糖により腎臓の糸球体(血液をろ過する部分)の細い血管が傷つき、腎臓の機能が徐々に低下していきます。
初期には自覚症状がなく、尿検査で微量のタンパク質(微量アルブミン)が出始めることで気づかれます。
進行すると、むくみ(特に顔や足)、だるさ、食欲不振などが現れ、さらに進行すると腎不全となり、最終的には人工透析が必要になることがあります。
人工透析に至る原因として、糖尿病腎症が最も多いです。
その他にも、比較的太い血管が障害される大血管合併症として、動脈硬化が進みやすくなり、心筋梗塞や狭心症といった虚血性心疾患、脳梗塞や脳出血といった脳血管障害、足の血管が詰まる閉塞性動脈硬化症(足のしびれや痛み、歩行困難など)などのリスクが高まります。
これらの合併症を予防・遅らせるためには、血糖値を良好にコントロールすることが最も重要です。
糖尿病予防・改善のための生活習慣
糖尿病予備群と診断された方や、すでに糖尿病と診断されたばかりの方、そして糖尿病を予防したいと考えている方にとって、生活習慣の改善は非常に重要です。
食事療法と運動療法が基本となります。
食事療法のポイント
食事は血糖値に直接影響を与えるため、非常に大切です。
極端な食事制限ではなく、バランスの取れた健康的な食習慣を継続することが目標です。
- 適正なエネルギー量: ご自身の年齢、性別、体の活動量に応じた適正なエネルギー量を摂取しましょう。
食べ過ぎは血糖値を上げ、肥満につながります。 - 栄養バランス: 炭水化物、タンパク質、脂質をバランス良く摂ることが大切です。
特に炭水化物(糖質)の摂りすぎは血糖値を急激に上げる原因となります。 - 食べる順番: 食事の最初に野菜やきのこ、海藻などの食物繊維が豊富なものを食べると、糖の吸収を緩やかにする効果が期待できます。
次にタンパク質(肉、魚、豆腐など)、最後に炭水化物(ご飯、パン、麺類など)を摂るように意識しましょう。 - ゆっくりよく噛んで食べる: 早食いは血糖値を急激に上げやすいです。
ゆっくりと時間をかけて食べることで、満腹感も得やすくなります。 - 規則正しい食事時間: 毎日ほぼ同じ時間に食事を摂ることで、体のリズムが整い、血糖値の変動が安定しやすくなります。
朝食を抜いたり、夜遅くに食べたりするのは避けましょう。 - 間食に注意: ダラダラと間食を続けると、常に血糖値が高い状態になりやすいです。
間食をする場合は、時間と量を決め、少量にするか、ナッツ類や無糖ヨーグルトなど、血糖値を上げにくいものを選びましょう。 - 甘い飲み物・加工食品を減らす: ジュース、清涼飲料水、菓子パン、スナック菓子などは、糖質が多く含まれており、血糖値を急激に上げやすいです。
できるだけ控えるようにしましょう。
運動療法のポイント
運動は、筋肉がブドウ糖をエネルギーとして利用するため、血糖値を下げる効果があります。
また、インスリンの効きを良くする効果(インスリン抵抗性の改善)も期待できます。
- 有酸素運動: ウォーキング、ジョギング、水泳、サイクリングなど、比較的軽い負荷で長く続けられる運動が効果的です。
週に3~5回、1回30分以上行うのが理想ですが、まずは1回10分程度からでも始めてみましょう。
買い物のついでに少し遠回りする、階段を使うなど、日常生活の中で体を動かす機会を増やすことも有効です。 - 筋力トレーニング: 筋肉量を増やすことで、ブドウ糖を消費しやすい体になります。
スクワットや腕立て伏せなど、自宅でできる簡単な筋トレでも効果があります。 - 運動のタイミング: 食後に運動すると、食後の血糖値の上昇を抑える効果が期待できます。
食後30分~1時間後を目安に体を動かすのがおすすめです。 - 無理なく続ける: 運動習慣は継続することが大切です。
ご自身の体力やライフスタイルに合わせて、無理なく楽しめる運動を選びましょう。
その他生活習慣の注意点
食事療法や運動療法に加え、以下の点にも注意が必要です。
- 禁煙: 喫煙は糖尿病の発症リスクを高め、合併症を悪化させます。
禁煙は糖尿病管理において非常に重要です。 - 適正な飲酒: アルコールの飲みすぎは血糖コントロールを乱す可能性があります。
飲む量や頻度を控えるか、可能であれば禁酒しましょう。
飲む場合は、糖質の少ない種類を選び、適量にとどめるようにしましょう。 - 十分な睡眠: 睡眠不足は血糖コントロールに悪影響を与える可能性があります。
毎日質の良い睡眠を十分にとるように心がけましょう。 - ストレス管理: ストレスは血糖値を上げるホルモンを分泌させたり、不健康な行動につながったりします。
リラクゼーションや趣味などでストレスを上手に解消する方法を見つけましょう。 - 定期的な健康診断: 特にリスク因子が多い方や、セルフチェックで気になる症状があった方は、定期的に健康診断や血糖値、HbA1cの検査を受け、ご自身の体の状態を把握することが大切です。
これらの生活習慣改善は、糖尿病の予防だけでなく、すでに糖尿病と診断された方の血糖コントロールを良好に保ち、合併症の発症や進行を防ぐためにも不可欠です。
焦らず、できることから一つずつ取り組んでいきましょう。
チェックで不安になったら:早期受診のススメ
この記事でご紹介した糖尿病チェックリストに複数当てはまる項目があったり、解説を読んで「もしかしたら…」と不安を感じたりした方は、迷わずに医療機関を受診することをおすすめします。
「まだ症状が軽いから大丈夫」「忙しくて時間がない」などと考えて受診を先延ばしにしていると、気づかないうちに糖尿病が進行し、将来的に重篤な合併症を発症するリスクが高まってしまいます。
糖尿病の合併症は、一度発症すると完全に元に戻すことが難しいものがほとんどです。
しかし、早期に糖尿病を発見し、適切な治療や生活習慣の改善を開始すれば、血糖値を良好にコントロールすることが可能になり、合併症の発症を予防したり、進行を遅らせたりすることができます。
つまり、早期受診は、健康な将来を守るための最も重要なステップなのです。
ご自身の健康状態に真摯に向き合い、勇気を出して専門家(医師)に相談してみましょう。
内科や糖尿病内科の医師は、あなたの体の状態を詳しく検査し、正確な診断を行います。
そして、もし糖尿病や糖尿病予備群と診断された場合でも、あなたに合った最適な治療計画や生活改善のアドバイスをしてくれます。
「自分は大丈夫だろう」と思い込まず、少しでも不安があれば、ぜひお近くの医療機関に相談してみてください。
まとめ
糖尿病は、初期症状が乏しいため見過ごされがちな病気ですが、放置すると将来的に重篤な合併症を引き起こす可能性がある怖い病気です。
ご自身でできる糖尿病チェックは、体の変化やリスク因子に気づくための手助けとなります。
この記事では、セルフチェックリストの項目がなぜ糖尿病と関連するのか、見逃しやすい初期サイン、そして病院で行われる正確な診断のための検査(血糖値やHbA1cの見方を含む)について詳しく解説しました。
また、糖尿病の進行と怖い合併症についても触れ、予防や改善のための生活習慣についてもご紹介しました。
もし、セルフチェックで気になる項目があったり、解説を読んで不安を感じたりした場合は、自己判断せずに必ず医療機関を受診してください。
内科や糖尿病内科の専門医に相談し、正確な診断を受けることが、早期発見・早期治療につながり、健康な将来を守るために最も重要です。
少しの勇気が、あなたの未来の健康につながります。
ご自身の体のサインを見逃さず、適切な行動を起こしましょう。
免責事項:
この記事は、一般的な情報提供を目的として作成されたものであり、医療行為や診断、治療を代替するものではありません。
読者の皆様ご自身の健康状態に関する懸念やご質問については、必ず医療機関を受診し、医師や専門家にご相談ください。
本記事の情報に基づいて読者が下した判断や行動によって生じたいかなる結果についても、当方は一切の責任を負いかねます。
検査値の基準や診断基準は、学会の指針改定などにより変更される場合があります。
最新の情報については、専門家にご確認ください。