認知症初期症状の特徴、早期発見、MCIとは、受診は何科
「認知症」は、様々な脳の病気によって、脳の神経細胞の働きが低下し、それによって認知機能(記憶、判断力など)が損なわれる、社会生活が困難になる状態を指します。
認知症は、高齢なほど、発症する可能性が高いため、超高齢化社会の現代では、今後も認知症と診断される方の増加が予想されています。
画像出典:「政府広報オンライン「知っておきたい認知症の基本」
誰でもなる可能性がある「認知症」。
認知症は、自身で気が付く事が難しいため、周囲の気づきが重要です。
この記事では、認知症の初期症状や、加齢によるもの忘れとの違い、受診するなら何科の病院へ行くか等を解説します。
※紹介する症状は、あくまでも参考となります。医学的診断基準ではないので、認知症の心配を感じた際は、専門家へ相談しましょう。
認知症の特徴や原因・基本の4種類
認知症には、様々な原因や要因があり、その種類によって現れやすい症 状や、治療方法が異なってきます。
ここでは、認知症の基本の4種類などを解説します。
- アルツハイマー型認知症
- 血管性認知症
- レビー小体型認知症
- 前頭側頭型認知症
- 認知症の原因となる病気
アルツハイマー型認知症
認知症の原因として、最も多いアルツハイマー型。
長い年月をかけ、脳に「アミロイドβ」や「リン酸化タウタンパク質」等が蓄積され、認知症を発症すると考えられています。
- 記憶障害(もの忘れ)
- 失語(音として聞こえていても話がわかりにくい、物の名前がわかないなど)
- 失認(視力は問題ないのに、目で見えた情報を形として把握し難い)
- 失行(手足の動きは問題ないのに、今までできていた動作を行えない)
等が目立つこともあります。
血管性認知症
- 脳梗塞
- 脳出血
などの、脳血管障害により、一部の神経細胞に、必要な栄養や酸素が行き渡らなくなる事で、認知症を発症します。
症状は様々ですが、脳血管障害を起こした場所によっては、麻痺などの身体に現れる症状を伴う事もあります。
レビー小体型認知症
- 記憶障害などの認知機能障害
- 克明な幻視(無いものが、実際にあるように見える等)
- 歩行困難、転びやすくなる等のパーキンソン症状
- 睡眠中の夢で叫ぶ
等の症状が見られます。
脳に「αシヌクレイン」というタンパク質が蓄積される事で認知症が発症し、上記のような症状が現れると考えられています。
前頭側頭型認知症
脳の「前頭葉」と「側頭葉」をメインに進行していく認知症です。
- 同じ行動パターンを繰り返す(行動障害型)
- 周囲の刺激に反応する(行動障害型)
- 言葉の障害が目立つようになる(言語障害型)
認知症の原因となる病気
厚生労働省の「都市部における認知症有症率と認知症の生活機能へ障害への対応」(平成25年5月報告)には、認知症の原因となる病気の内訳が示されています。
- アルツハイマー型認知症 67.6%
- 血管性認知症 19.5%
- レビー小体型認知症4.3%
- 前頭側頭型認知症 1.0%
- アルコール性 0.4%
- 混合型 3.3%
- その他 3.9%
画像出典:「政府広報オンライン「知っておきたい認知症の基本」
原因詳細と、治る可能性があるか否か
原因 | 疾患名 | 治る認知症 |
---|---|---|
中枢神経変性疾患 | アルツハイマー型認知症 | |
レビー小体型認知症 | ||
前頭側頭型認知症 | ||
大脳皮質基底核変性症 | ||
進行性核上性麻痺 など | ||
血管性認知症 (VaD) | 多発梗塞性認知症 | |
戦略的な部位の単一病変によるVaD | ||
小血管病変性認知症 | ||
感染症 | 脳炎、神経梅毒 | 〇 |
腫瘍 | 原発性脳腫瘍、転移性脳腫瘍 | 〇 |
外傷性疾患 | 慢性硬膜下出血、脳挫傷 | 〇 |
髄液循環障害 | 正常圧水頭症 | 〇 |
内分泌障害 | 甲状腺機能低下症 | 〇 |
副甲状腺機能亢進症 など | 〇 | |
中毒、栄養障害 | アルコール中毒、ビタミンB12欠乏 など | 〇 |
認知症の初期症状・定義・加齢でのもの忘れとの違い
認知症を早期に発見するには、周囲の気付きが大切になります。
認知症は自覚する事が難しいからです。
認知症の初期症状には、多くの種類がありますが、「もの忘れ」がきっかけとなり、認知症に気が付くケースが多く見られます。
初期段階から、判断能力の低下や、気持ちの混乱などの症状が見られる事もあります。
ここでは、認知症初期によく見られる症状や、加齢によるもの忘れとの違い等を解説します。
- 認知症初期によく見られる症状
- 認知症の初期症状の具体例
- 加齢でのもの忘れと、認知症のもの忘れの違い
認知症初期によく見られる症状
記憶障害
何度も同じ事を聞く、質問した事自体を忘れ再度聞く等、短期的に起こった物事を忘れてる傾向があります。
実行機能障害
段取りなどが分かりづらくなる症状です。
料理の手順がわからなくなる、今までは使えていた家電の操作手順がわからなくなる等、計画を立てる、順序よく行動する等の実行面が難しくなります。
時間の見当識障害
朝、昼、夜の区別がつかない、季節がわからない等、日付や時間の把握が困難になる事があります。
判断力・理解力の低下
信号を渡るタイミングがわからない、見聞きした事をすぐに理解・判断する事が困難になる等、理解力や判断力が低下する事があります。
無気力、無関心(アパシー)
好きだった趣味や、身の回りの物事の関心が薄れる、服装や髪などの身支度を整える気力が無くなる等、無気力・無関心が目立つ事があります。
物盗られ、被害妄想
失くした物や、自分で片付けた物を、「盗まれた」と言い出す、嘘をつかれたと言い出す等、被害妄想が強くなる事があります。
家族などの親しい人を疑う事もあれば、介助で訪れるヘルパー等を疑うケースも見受けられます。
認知症の初期症状の具体例
- 同じ物事を、何度も聞いたり話したりする
- 片付けた事や置き忘れを忘れ、常に探し物をしてしまう
- ついさっきまで、電話や直接話していた相手の名前が分からない
- 料理の段取りがうまくできなくなる
- 計算の間違えや、運転操作などのミスが多くなる
- テレビや本、新聞などを見ても、内容が理解できない
- 約束を忘れてしまう事がある
- 今日が何月何日かわからない
- 趣味や日課だった事に、興味を示さなくなる
- やる気がない、だらしなくなる
- 近所でもあっても、迷子になる事がある
- 少しの事で怒りやすくなった
- 「財布を盗まれた」など、人を疑うことがある
など
加齢でのもの忘れと、認知症のもの忘れの違い
誰もが経験する事が多くなる、加齢に伴う「もの忘れ」。
この「もの忘れ」には、
- 生理的な「もの忘れ」
- 認知症でよくみられる「もの忘れ」
の種類があります。
「生理的なもの忘れ」は、物事の一部分を忘れてしまいます。
認知症では、物事の全て(いつ、どこで、何をしたか等のエピソード記憶)を忘れてしまうという違いがあります。
以下に、加齢と認知症でのもの忘れの違いを表にしていますので、参考にされてください。
「加齢でのもの忘れ」と「認知症でのもの忘れ」の違いの例
体験したこと | もの忘れの自覚 | 日常生活への支障 | 症状の進行 | |
---|---|---|---|---|
加齢でのもの忘れ | 一部を忘れる(例:朝ごはんのメニュー) | ある | ない | 極めて徐々にしか進行しない |
認知症でのもの忘れ | 全てを忘れる(例:朝ごはんを食べた事自体を忘れる) | ない(初期には自覚がある事が少なくない) | ある | 進行する |
認知症と診断される一歩手前|軽度認知障害(MCI)の特徴
実は認知症の一歩手前の状態で、正式な「認知症」ではない「軽度認知障害(MCI)」と呼ばれる段階があります。
ここでは、軽度認知障害(MCI)の定義や、状態を解説します。
軽度認知障害(MCI)の定義
軽度認知障害(MCI:Mild Cognitive Impairment)とは、「認知症と完全に診断される一歩手前の状態」の事を指します。
この状態で、対策をせずに放置しておくと、認知症に進行してしまいます。
しかし、軽度認知症障害(MCI)の段階で、適切な予防をする事で、健常な状態に回復する可能性があります。
軽度認知障害は正常と認知症の中間ともいえる状態です。その定義は、下記の通りです。
- 年齢や教育レベルの影響のみでは説明できない記憶障害が存在する。
- 本人または家族による物忘れの訴えがある。
- 全般的な認知機能は正常範囲である。
- 日常生活動作は自立している。
- 認知症ではない。
まとめると、
- 記憶力に障害があって物忘れの自覚はあるものの、記憶力の低下以外に、明らかな認知機能の障害は見られない
- 日常生活への影響は、無いか、あった場合でも軽度のものである
という状態になります。
軽度認知障害(MCI)は、健常と認知症の中間の状態にあり、その後の対策次第では、どちらの状態にもなり得ます。 軽度認知障害(MCI)の状態で、1年経過すると、
- 約5~15%の人が認知症に移行
- 約16~41%の人は健常な状態に回復
する事がわかっています。
健常な状態に復帰するためには、早期から認知症予防の対策を行う事が重要です。
その人に合った、適切な認知症予防策を講じることで、健常な状態への回復、認知症への移行を遅らせる事などが期待できます。
認知症初期の受診は|医療機関、何科
認知症かもしれないと思ったら、早めに医療機関などの専門家へ相談しましょう。
認知症・受診の流れ
かかりつけ医
いつも通っているかかりつけ医がある場合、相談してみましょう。
これまでの病歴や体質、性格なども知っているかかりつけ医であれば、ご本人も家族も安心して相談する事が可能です。
更に専門的な検査や診察が必要だと判断された場合、他の専門医療機関を紹介してもらう事も可能なので、少しでも気になる事は、具体的にじっくり相談しましょう。
専門医療機関(認知症疾患医療センター、認知症専門医、認知症サポート医)
認知症の専門科を有している病院、認知症専門医やサポート医が在籍してる病院を調べ、受診しましょう。
もの忘れ外来、神経内科、精神科、脳精神外科など
医療機関で「もの忘れ外来」として診察、検査などを行っている病院に相談しましょう。
住まいの近くに該当する病院があるかを検索できる「全国もの忘れ外来一覧」もあります。
公益社団法人 認知症の人と家族の会「全国もの忘れ外来一覧」
地域包括支援センター
認知症の診察、介護相談、その他気を付けたい事など、認知症という症状の多様さから、「最初の一歩をどうしたら良いか」というスタートから迷うかもしれません。
そんな時は、地域に根ざして相談できる、地域包括支援センターに相談しましょう。
市区町村の役所、福祉センターなど、公的な窓口で相談したい旨を伝えて、適した担当部署と繋がっていきましょう。
認知症初期・もの忘れ対策、家庭でできる工夫
認知症の初期に多い、物の置き忘れや用事忘れ。
大事な事は、忘れてしまっても気が付けるようにしておく事です。
ここでは、家庭でも出来る工夫を紹介します。
普段使うものは決まった場所に置く
眼鏡や手帳など、普段からよく使うものは、決まった場所に置くようにしましょう。
取りに行く、また所定の位置に戻すという動作で覚えておきます。
引き出しにラベルを貼って分かりやすく
文具、小物、服などの入っている引き出しには、中身を書いたラベルを貼っておきましょう。
中が透けて見えるプラスチック製の引き出しを使うのも、見分けがつきやすくなります。
日頃からの整理や整頓を手伝って、分かりやすくしておくのも重要です。
家族の連絡先は、すぐに目につく所にメモを貼る
家族やかかりつけ医などの電話番号を、冷蔵庫やドアに貼っておくと便利です。
薬を飲む時間にタイマーを設定しておく
薬を飲み忘れるのも、認知症初期にはよく見られる症状です。
1週間分の薬を日ごと、朝・昼・晩などに分けれ入れられるケースや、ウォールポケットなどを利用して、目につくようにしておくと良いでしょう。
飲む時間を忘れてしまうという場合は、タイマーを服用時間にセットしておくという方法も取れます。
飲む薬が複数あり、個数を数えるのも煩雑だという場合、薬局で処方してもらう際に「一包化」してもらうと良いでしょう。
一包化でお願いしますと頼めば、複数種類を、1回分をそれぞれまとめて包んでもらえます。
※薬の種類によっては、一包化が難しいものもあるため、薬局でご相談ください。
まとめ・早期発見、早めの対策が重要
認知症かも?と思ったら、なるべく抱え込まずに、周囲へ相談しましょう。
早期発見し、対策を取れば改善が期待できる認知症症状もあります。
認知症・初期のポイント
- 初期症状のサインを見落とさない
- 早めに受診
- 相談、介護サービスなどを積極的に利用する
悩んだら、最初の一歩として、お住まいの役所に相談先自体を聞くのも重要です。
利用できる施設、サービス、補助制度も数多くあります。
是非、ご自身やご家族に適した相談先を見つけ、タッグを組んでもらいましょう。
参考文献
厚生労働省 e-ヘルスネット「軽度認知障害(けいどにんちしょうがい)」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/alcohol/ya-033.html
厚生労働省「若年性認知症ハンドブック」
https://www.mhlw.go.jp/content/000521132.pdf
政府広報オンライン「知っておきたい認知症の基本」
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201308/1.html