男性更年期障害は何科?泌尿器科?|症状別の適切な受診先ガイド

もしあなたが、以前よりも疲れやすくなった、わけもなくイライラしたり落ち込んだりすることが増えた、あるいは性欲の低下やED(勃起障害)に悩んでいるとしたら、それは単なる加齢のせいではないかもしれません。もしかしたら、「男性更年期障害」のサインかもしれません。

男性更年期障害は、誰にでも起こりうる病気ですが、「何科に行けばいいのか分からない」「受診するのは恥ずかしい」と感じて、一人で悩みを抱え込んでしまう方が少なくありません。しかし、適切な医療機関で診断を受け、適切な治療を受けることで、症状は改善し、再び充実した日々を送れる可能性が高いのです。

この記事では、男性更年期障害の基本的な情報から、あなたの症状に合わせて「何科」を受診すべきか、診断や治療はどのように行われるのか、そして自分に合った病院をどのように選べば良いのかについて、詳しく解説します。この記事を読めば、男性更年期障害に関する疑問が解消され、最初の一歩を踏み出すための具体的な道筋が見えてくるはずです。ぜひ最後までお読みいただき、あなたの悩みを解決するための一助としてください。

男性更年期障害とは

男性更年期障害は、医学的にはLOH症候群(Late-onset Hypogonadism Syndrome)と呼ばれ、主に加齢に伴う男性ホルモン(テストステロン)の低下によって引き起こされる様々な身体的・精神的な症状を特徴とする病気です。LOH症候群は、加齢に伴う男性ホルモン(テストステロン)の減少が原因で発症し、身体的症状(筋力低下・疲労感・ほてり)、精神的症状(意欲低下・抑うつ・記憶力障害)、性機能症状(性欲減退・勃起障害)など多様な症状を呈するとされています(LOH症候群 – Wikipediaより)。女性の更年期障害が閉経前後の短期間にホルモンバランスが大きく変動することによって起こるのに対し、男性の場合はホルモンの低下が比較的緩やかに進むため、症状に気づきにくかったり、長期間にわたって悩まされたりすることがあります。

男性ホルモンであるテストステロンは、思春期以降に分泌量が増加し、男性の二次性徴を促したり、筋肉や骨を健康に保ったり、性機能や精神状態に関わるなど、全身の様々な働きに関与しています。テストステロンの分泌量は20代頃をピークに、その後は個人差はありますが緩やかに減少していきます。このテストステロンの低下が、ある一定のレベルを超えたり、感受性が変化したりすることで、心身に様々な不調が現れるのが男性更年期障害です。

一般的に40代後半から50代にかけて発症することが多いとされていますが、最近では30代といった比較的若い世代でも見られることが分かっています。これは、仕事や人間関係のストレス、不規則な生活習慣、睡眠不足などがテストステロンの分泌に悪影響を与えるためと考えられています。つまり、男性更年期障害は単なる「歳のせい」ではなく、男性ホルモンバランスの乱れによって引き起こされる治療可能な病気なのです。適切な診断と治療を受けることで、症状の改善や緩和が期待できます。

男性更年期障害の主な症状

男性更年期障害の症状は非常に多岐にわたり、個人によって現れる症状の種類や程度は大きく異なります。また、これらの症状は単なる「加齢による変化」や「疲れ」として見過ごされがちなため、病気に気づきにくいという側面もあります。しかし、いくつかの症状が同時に、あるいは継続的に現れている場合は、男性更年期障害の可能性を疑ってみる必要があります。

主な症状は、大きく以下の3つのカテゴリーに分けられます。

  • 身体症状:
    疲労感・倦怠感: 十分な休息をとっても疲れが取れない、体がだるいと感じる。
    筋力低下・関節痛: 以前に比べて力が入らなくなった、筋肉が落ちたように感じる。関節や筋肉に痛みを覚える。
    ほてり・発汗: 急に顔や体が熱くなる、汗を異常にかく。
    睡眠障害: 寝つきが悪くなる、夜中に何度も目が覚める、熟睡できない。
    頭痛・めまい・耳鳴り: 原因不明の頭痛やめまい、耳鳴りが続く。
    頻尿・残尿感: トイレが近くなる、排尿後もすっきりしない感じがする。
    体毛の変化: 体毛が薄くなる、抜けやすくなる。
    内臓脂肪の増加: お腹周りに脂肪がつきやすくなる。
  • 精神症状:
    イライラ・怒りっぽい: ささいなことで感情的になりやすくなる、攻撃的になる。
    意欲・集中力の低下: 何事にも興味が持てなくなる、やる気が出ない、物事に集中できない。
    抑うつ・不安感: 気分が落ち込む、ゆううつな気分が続く、漠然とした不安を感じる。
    記憶力・判断力の低下: 物忘れが多くなる、決断力が鈍る。
    神経過敏: 音や光に敏感になる、落ち着きがなくなる。
  • 性機能に関する症状:
    性欲減退: 性行為への関心がなくなる、または低下する。
    ED(勃起障害): 勃起しにくくなる、維持できなくなる。
    射精障害: 射精に関する問題が生じる。

これらの症状は単独で現れることもありますが、多くの場合、いくつかの症状が組み合わさって現れます。特に、身体症状と精神症状、そして性機能に関する症状が同時期に現れ、日常生活に支障をきたしている場合は、男性更年期障害の可能性を強く疑うべきでしょう。

重要なのは、これらの症状が「歳のせいだから仕方ない」と諦めずに、病気の可能性を考えて専門家へ相談することです。適切な診断と治療によって、つらい症状から解放されることが期待できます。

男性更年期障害は何科で診察を受けるべきか

男性更年期障害が疑われる症状が現れたとき、多くの人が「一体何科に行けばいいのだろう?」と迷ってしまうでしょう。男性更年期障害は、一つの科だけで完結するとは限らず、症状の種類や程度によって適した診療科が異なります。また、複数の科が連携して治療にあたることもあります。

ここでは、男性更年期障害の診察や治療に対応している代表的な診療科をご紹介します。

泌尿器科

泌尿器科は、男性更年期障害の代表的な受診先の一つです。特に、性機能に関する症状(性欲減退やEDなど)や、頻尿、残尿感といった泌尿器系の症状が主な悩みの場合は、まず泌尿器科を受診するのが一般的です。

泌尿器科医は、男性の生殖器や尿路に関する専門知識を持っており、男性ホルモンであるテストステロンについても詳しいため、男性更年期障害の診断に必要な血液検査(テストステロン値測定)や問診、身体診察を適切に行うことができます。

また、泌尿器科の中には「男性不妊外来」や「男性更年期外来」「メンズヘルス外来」といった専門外来を設けている施設も多く、男性特有の疾患や悩みに特化した診療を受けることができます。これらの専門外来では、男性更年期障害に対する豊富な知識と経験を持つ医師が、症状の原因を多角的に探り、ホルモン補充療法(テストステロン注射や塗り薬など)を含む専門的な治療を提供していることが多いです。

このような症状や状況の場合、泌尿器科が適しています:

  • 性欲の低下やED(勃起障害)が最も気になる症状である。
  • 頻尿や残尿感など、泌尿器系の症状も伴う。
  • 男性ホルモン(テストステロン)の低下が強く疑われる。
  • ホルモン補充療法について詳しく知りたい、または検討したい。
  • 男性医学を専門とする医師の診察を受けたい。

泌尿器科は男性更年期障害の中心的な診療科と言えますが、精神的な症状が強い場合などは、他の科との連携が必要となることもあります。

内分泌内科

内分泌内科は、ホルモンのバランス異常によって起こる疾患を専門とする診療科です。男性更年期障害は男性ホルモンであるテストステロンの低下が主な原因であるため、内分泌内科でも診断・治療を行うことができます。

内分泌内科医は、テストステロンだけでなく、甲状腺ホルモン、副腎皮質ホルモン、成長ホルモンなど、全身の様々なホルモンに関する専門知識を持っています。そのため、男性更年期障害の症状が、テストステロンの低下だけでなく、他のホルモン異常や全身的な疾患によって引き起こされている可能性も考慮して診断を進めることができます。

特に、男性更年期障害と似た症状を引き起こす他のホルモン疾患(例えば、下垂体の異常によるホルモン分泌不全など)が疑われる場合や、複数のホルモン異常が合併しているような複雑なケースでは、内分泌内科での詳しい検査や診断が有効です。

このような症状や状況の場合、内分泌内科が適しています:

  • 男性更年期障害の症状だけでなく、他のホルモン異常を示唆する症状(例:体重の急激な変化、極端な暑がり・寒がりなど)もある。
  • 既に他のホルモン関連疾患で治療を受けている。
  • テストステロン以外のホルモンバランスも詳しく調べたい。
  • 全身的な観点からホルモンバランスの異常を診断・治療してほしい。

内分泌内科はホルモンの専門家ですが、性機能に関する専門性は泌尿器科ほど高くない場合があります。症状によって、どちらの科がより適しているか判断する必要があります。

精神科・心療内科

男性更年期障害では、抑うつ気分、不安感、イライラ、意欲低下、不眠といった精神症状が前面に出ることが多くあります。これらの精神症状が特に強く、日常生活や仕事に大きな影響を与えている場合は、精神科や心療内科の受診も検討すべきです。

心療内科は、心身症(精神的な要因が身体症状として現れる病気)を専門としており、精神的な問題が身体の不調に繋がっている可能性を考慮して診療を行います。精神科は、より幅広い精神疾患に対応しています。

男性更年期障害による精神症状は、うつ病や適応障害など他の精神疾患と見分けがつきにくい場合があります。精神科医や心療内科医は、これらの精神疾患の専門家として、症状の評価を詳細に行い、適切な診断や治療(抗うつ薬や抗不安薬の使用、カウンセリングなど)を提供することができます。

ただし、精神科や心療内科では男性ホルモン値の測定やホルモン補充療法には対応していないことがほとんどです。男性更年期障害による精神症状である可能性が高い場合は、泌尿器科や男性専門外来と連携して治療を進めることが理想的です。

このような症状や状況の場合、精神科・心療内科が適しています:

  • 抑うつ気分、強い不安感、パニック症状などが主な悩みである。
  • 不眠がひどく、睡眠薬の処方などを検討したい。
  • 精神的なストレスが強く、心身のバランスを崩していると感じる。
  • 他の精神疾患の可能性も考慮して診断してほしい。

まずは泌尿器科や男性専門外来でホルモン値を確認し、その上で精神症状が強い場合に精神科・心療内科を受診するという流れも考えられます。

男性専門外来

近年、都市部を中心に「男性専門外来」や「メンズヘルス外来」といった、男性特有の健康問題や疾患に特化した専門外来が増えています。これらの外来は、男性更年期障害の診断・治療において最も包括的な対応が期待できる受診先と言えます。

男性専門外来には、泌尿器科医を中心に、内分泌内科医、精神科医などが連携して診療にあたっている場合が多く、男性更年期障害の多様な症状(身体、精神、性機能)をまとめて診察し、総合的な診断と治療計画を立てることが可能です。

テストステロン値の測定はもちろんのこと、前立腺疾患、ED、男性不妊など、男性更年期障害と関連したり、合併しやすい他の男性特有の疾患についても同時に相談・検査できるメリットがあります。また、ホルモン補充療法や、必要に応じて精神的なサポートなども含めたテーラーメイドの治療を受けることが期待できます。

「どの症状が一番つらいか判断できない」「様々な症状が組み合わさっている」「どこから受診すればいいか全く分からない」という場合は、男性専門外来を最初に受診するのが最も効率的で安心できる選択肢となるでしょう。男性特有の悩みを専門とする医師に、気兼ねなく相談できる環境が整っていることも、大きなメリットです。

このような症状や状況の場合、男性専門外来が適しています:

  • 複数の更年期症状(身体、精神、性機能)が組み合わさっている。
  • 男性特有の疾患についてまとめて相談したい。
  • 男性更年期障害に最も詳しい専門医に診てもらいたい。
  • どの科を受診すべきか迷っている。
  • 包括的で専門的な診断と治療を希望する。

ただし、男性専門外来は全ての医療機関にあるわけではありません。お住まいの地域に専門外来があるか事前に確認が必要です。

【受診先の選び方まとめ】

主な症状や状況 おすすめの受診先
性欲減退、EDが気になる、泌尿器系の症状もある 泌尿器科(特に男性専門外来・メンズヘルス外来)
全身倦怠感、筋力低下、ほてり、発汗など身体症状が中心 泌尿器科、または内分泌内科
イライラ、抑うつ、不安、不眠など精神症状が強い 精神科・心療内科(泌尿器科や男性専門外来との連携推奨)
様々な症状が組み合わさっている、どこから診ればいいか不明 男性専門外来(ない場合は泌尿器科が一般的)
他のホルモン疾患の既往がある、全身的なホルモン異常が疑われる 内分泌内科(泌尿器科との連携推奨)

あくまで一般的な目安であり、自己判断が難しい場合は、まずはかかりつけ医に相談したり、最寄りの総合病院の泌尿器科や内分泌内科に問い合わせてみるのも良い方法です。

男性更年期障害の診断方法

男性更年期障害を適切に診断するためには、症状の把握、身体の状態の確認、そして最も重要なテストステロン値の測定が必要です。これらの情報を総合的に評価して診断が確定されます。

一般的な診断の流れは以下のようになります。

  • 問診:
    現在の症状について、いつ頃から、どのような症状が、どのくらいの頻度で、どの程度つらいかなどを詳しく聞き取ります。
    症状の程度を客観的に評価するために、「AMSスコア(Aging Males’ Symptoms Scale)」という質問票が用いられることが一般的です。AMSスコアは、身体症状、精神症状、性機能に関する症状の各項目について、症状の有無や程度を自己評価する形式になっており、合計点数によって更年期症状の重症度を判断する目安となります。
    過去の病歴、現在服用している薬、アレルギー、生活習慣(喫煙、飲酒、食生活、運動習慣、睡眠、ストレス状況など)についても確認されます。
    家族構成や仕事の状況など、心理的・社会的な背景についても尋ねられることがあります。
  • 身体診察:
    全身の状態を確認します。血圧や脈拍の測定、体重・体脂肪率の測定などが行われることがあります。
    必要に応じて、男性器や前立腺の触診が行われることもあります。これは、男性更年期障害以外の疾患(例えば、前立腺肥大症や前立腺がんなど)の可能性を除外するためや、ホルモン補充療法を検討する上で前立腺の状態を確認するために重要です。
  • 血液検査:
    男性更年期障害の診断において最も重要な検査です。血液中の男性ホルモン(テストステロン)の濃度を測定します。
    測定されるテストステロンには、「総テストステロン」と「遊離テストステロン」があります。総テストステロンは血液中に存在する全てのテストステロンの量を示し、遊離テストステロンは他のタンパク質と結合しておらず、生体内で実際に働くことができるテストステロンの量を示します。遊離テストステロン値の方が、身体への影響をより正確に反映すると考えられています。
    診断基準としては、一般的に早朝(午前中に採血するのが望ましいとされる)の遊離テストステロン値が8.5 pg/mL未満の場合に男性更年期障害の可能性が高いと判断されることが多いです。ただし、これはあくまで目安であり、症状や他の検査結果と合わせて総合的に診断されます。
    テストステロンだけでなく、他のホルモン(例えば、LH(黄体形成ホルモン)、FSH(卵胞刺激ホルモン)、プロラクチンなど)の測定や、一般的な血液検査(貧血、肝機能、腎機能、脂質、血糖値など)が行われることもあります。これは、症状の原因がテストステロン低下以外にある可能性を除外したり、全身状態や他の疾患の有無を確認したりするためです。
  • その他の検査:
    精神症状が強い場合は、心理テスト(抑うつ尺度など)が行われることがあります。
    骨密度の低下が疑われる場合は、骨密度検査が行われることもあります。テストステロンは骨密度を維持する働きがあるため、テストステロン低下が長期間続くと骨粗しょう症のリスクが高まるためです。

これらの検査結果と問診の内容を総合的に判断して、男性更年期障害であるかどうかが診断されます。診断の結果、男性更年期障害と判断された場合は、症状の程度や患者さんの希望に合わせて、次項で解説する治療法が検討されます。

診断には専門的な知識が必要ですので、「自分は更年期かな?」と思ったら、自己判断せずに必ず専門医の診察を受けるようにしましょう。

男性更年期障害の治療法

男性更年期障害の治療は、症状の改善とQOL(生活の質)の向上を目的として行われます。治療法は患者さんの症状の種類、程度、年齢、全身状態、合併症の有無などによって個別に決定されます。主に以下のような治療法があります。

ホルモン補充療法(HRT)

男性更年期障害の最も基本的な治療法は、低下したテストステロンを補うホルモン補充療法(Androgen Replacement Therapy: ART または Testosterone Replacement Therapy: TRT とも呼ばれます)です。テストステロン製剤を体内に補充することで、テストステロン値が正常レベルに近づき、様々な症状の改善が期待できます。

ホルモン補充療法にはいくつかの投与方法があります。

  • 注射剤:
    最も一般的に行われている方法です。テストステロン製剤を筋肉注射します。
    通常、2~4週間に1回の頻度で注射します。
    メリットとしては、確実にテストステロン値を上昇させることができ、効果の実感が得られやすい点です。
    デメリットとしては、注射時の痛みを伴うこと、定期的な通院が必要なこと、注射後しばらくするとテストステロン値がピークになり、次の注射までの間に値が低下するため、症状の波が出やすい(値が高いときにイライラしやすいなど)点が挙げられます。
    日本では「エナント酸テストステロン」「プロピオン酸テストステロン」といった製剤が使用されます。
  • 塗り薬(ジェル、クリーム、ローションなど):
    テストステロン製剤を皮膚に塗布して吸収させる方法です。
    毎日、決まった時間に皮膚(脇の下、肩、腹部など)に塗ることで、テストステロンが持続的に体内に吸収されます。
    メリットとしては、注射のような痛みがなく、自宅で投与できること、テストステロン値の変動が少なく安定しやすい点が挙げられます。
    デメリットとしては、効果が現れるまでに時間がかかる場合があること、塗布部位の皮膚トラブル(かゆみ、かぶれなど)が起こる可能性があること、塗布後しばらくは他の人(特に女性や子供)に皮膚を通してテストステロンが移る可能性があるため注意が必要な点が挙げられます。
    日本では「テストステロンゲル」といった製剤が使用されます。
  • 貼り薬(パッチ):
    テストステロン製剤が練り込まれたパッチを皮膚に貼る方法です。
    毎日、決まった時間に皮膚(陰嚢など)に貼ります。
    メリット・デメリットは塗り薬と似ていますが、皮膚トラブルのリスクや、貼る部位が限られるといった特徴があります。日本ではあまり一般的ではありません。
  • 飲み薬(内服薬):
    一部の国で使用されていますが、テストステロンは内服すると肝臓で分解されやすいため、効果が安定しにくかったり、肝臓への負担が懸念されたりすることがあります。日本では男性更年期障害の治療薬としては一般的ではありません。

ホルモン補充療法は、多くの男性更年期障害の症状、特に性機能に関する症状や身体症状、精神症状の一部に効果が期待できます。しかし、全ての人に適応されるわけではありません。特に、前立腺がんやその疑いがある方、重度の心疾患や肝疾患がある方、睡眠時無呼吸症候群の方などには禁忌とされています。また、ホルモン補充療法を開始する前には、前立腺の状態(PSA値や触診)や全身状態を詳しく調べ、治療中も定期的にテストステロン値やPSA値などをモニタリングする必要があります。

ホルモン補充療法による副作用としては、多血症(赤血球が増えすぎる状態)、睡眠時無呼吸症候群の悪化、ニキビ、脱毛、乳房の腫れや痛みなどが報告されています。しかし、これらの副作用は比較的少なく、医師の管理のもとで適切に行われれば、安全性の高い治療法とされています。

対症療法

ホルモン補充療法が適さない場合や、特定の症状が特に強い場合には、それぞれの症状に対する対症療法が行われます。

  • 精神症状(抑うつ、不安、不眠など): 抗うつ薬、抗不安薬、睡眠導入剤などが処方されることがあります。
  • ほてり・発汗: 漢方薬(例えば、補中益気湯など)や、一部の抗うつ薬などが効果を示すことがあります。
  • ED(勃起障害): PDE5阻害薬(バイアグラ、シアリス、レビトラなど)が処方されることがあります。ただし、これらの薬は一時的に勃起を助けるものであり、テストステロン低下による性欲減退など、根本的な原因を治療するものではありません。
  • その他の症状: 痛みに対して鎮痛剤、頻尿に対して過活動膀胱治療薬など、症状に応じた薬が用いられます。

対症療法は、つらい症状を和らげる目的で行われますが、男性ホルモン低下という根本原因を解決するものではないため、症状が再燃したり、他の症状が現れたりする可能性があります。

精神療法・カウンセリング

特に精神症状(抑うつ、不安、イライラなど)が強い場合や、病気を受け入れることへの抵抗がある場合、ストレス対処法を学びたい場合などには、精神療法やカウンセリングが有効です。

心理士やカウンセラーとの対話を通じて、自身の感情や思考パターンを理解し、更年期障害に伴う変化に適応していくためのサポートを受けられます。ストレスマネジメントやリラクゼーション法を学ぶことも、症状の緩和に繋がります。

生活習慣の改善

男性更年期障害の症状改善には、医療的な治療だけでなく、患者さん自身の生活習慣の改善も非常に重要です。場合によっては、生活習慣の改善だけで症状が軽減することもあります。

  • 運動: 適度な運動、特に筋力トレーニングや有酸素運動は、テストステロン分泌を促進し、筋力や骨密度の維持、内臓脂肪の減少、気分の改善など、男性更年期障害の様々な症状に良い影響を与えます。週に数回、ウォーキングやジョギング、軽い筋トレなどを習慣にすることをお勧めします。
  • 食事: バランスの取れた食事を心がけましょう。特に、テストステロン合成に必要な亜鉛や、ビタミンD、DHA/EPAなどの栄養素を積極的に摂取することが推奨されます。高脂肪食や加工食品の過剰摂取は避ける方が良いでしょう。
  • 睡眠: 十分な睡眠時間を確保し、質の高い睡眠をとることが重要です。睡眠中にテストステロンは多く分泌されるため、睡眠不足はテストステロン低下を招く可能性があります。規則正しい生活を送り、寝室環境を整えるなどの工夫をしましょう。
  • ストレス管理: 過度なストレスはテストステロン分泌を抑制することが分かっています。趣味やリラクゼーション、適度な休息などを取り入れ、自分なりのストレス解消法を見つけることが大切です。
  • 禁煙・節酒: 喫煙や過度な飲酒は、テストステロン分泌に悪影響を及ぼす可能性があります。禁煙を心がけ、飲酒量を控えることも更年期症状の改善に繋がります。

男性更年期障害の治療は、ホルモン補充療法、対症療法、精神療法、生活習慣の改善などを組み合わせて、個々の患者さんに最適な方法で行われます。最も重要なのは、一人で悩まず、専門医に相談し、自分に合った治療法を見つけることです。治療には時間がかかる場合もありますが、根気強く取り組むことで、症状の改善と充実した生活を取り戻すことが期待できます。

男性更年期障害の受診を検討すべきタイミング

「なんとなく体の調子が悪い」「以前と違う気がする」と感じていても、それが男性更年期障害のサインなのか、いつ病院に行くべきなのか、判断に迷うことがあるかもしれません。男性更年期障害は、特定の年齢で急に発症するものではなく、症状も多様なため、受診のタイミングを逃しやすい病気です。

しかし、以下のようなサインに気づいたら、一度専門家への相談を検討してみることを強くお勧めします。

  • 複数の症状が同時に、または継続して現れている:
    例えば、「体がだるくてやる気が出ない」と同時に「性欲もなくなった」「夜中に目が覚めてしまう」など、身体的、精神的、性機能に関する症状が複数見られる場合です。単一の症状であれば他の原因も考えられますが、複数のカテゴリーに跨る症状が継続している場合は、男性更年期障害の可能性が高まります。
    特に、以前にはなかった症状や、以前よりも症状が顕著になっていると感じる場合は注意が必要です。
  • 症状によって日常生活や仕事に支障が出ている:
    疲れやすさから仕事の効率が落ちた、イライラして人間関係に問題が生じている、性機能の低下によってパートナーとの関係に悩んでいるなど、症状があなたの生活の質を明らかに低下させている場合です。「歳のせいだから」と我慢せずに、症状の改善を目指して受診を検討しましょう。
  • 症状が数週間以上続いている:
    一時的な疲労やストレスによる不調は誰にでも起こり得ますが、症状が長期間(例えば数週間から数ヶ月)続いているにもかかわらず改善が見られない場合は、病気の可能性を疑う必要があります。
  • 自己判断で対処しようとしたが改善しない:
    市販のサプリメントを試したり、休息を多めにとったり、生活習慣を見直したりしても、症状が改善しない場合は、根本的な原因として男性更年期障害があるかもしれません。専門家による正確な診断と治療が必要です。
  • 特に気になる症状がある(性欲減退、ED、強い精神症状など):
    たとえ他の症状が軽度でも、性欲の低下やEDは男性にとって深刻な悩みとなることが多く、男性更年期障害の重要なサインの一つです。また、強い抑うつや不安感は、放置すると他の精神疾患に発展するリスクもあります。これらの症状が気になる場合は、早めに専門医に相談しましょう。

年齢について:

男性更年期障害は40代後半から50代に多いとされていますが、個人差が大きく、30代や60代以降で発症することもあります。年齢だけにとらわれず、「最近どうも調子が悪いな」と感じたら、まずは専門医に相談してみることが重要です。早期に発見し、適切な治療を開始することで、症状の進行を抑えたり、より早く改善したりすることが期待できます。

「受診するのは恥ずかしい」と感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、男性更年期障害は誰にでも起こりうる病気であり、多くの男性が同じ悩みを抱えています。専門医はあなたの悩みに寄り添い、適切なサポートを提供してくれます。一人で抱え込まず、勇気を出して最初の一歩を踏み出してみてください。

男性更年期障害の病院選び

男性更年期障害の診断と治療を受ける病院を選ぶ際には、いくつか考慮すべきポイントがあります。前述のように、症状の種類によって適した診療科が異なりますが、ここでは男性更年期障害をしっかり診てもらうための病院選びのヒントをご紹介します。

病院を選ぶ際の重要なポイント

  • 専門性:
    男性更年期障害や男性医学に詳しい医師がいるかが最も重要なポイントです。病院のウェブサイトで医師のプロフィールや専門分野を確認したり、「男性更年期外来」「メンズヘルス外来」といった専門外来があるか確認したりしましょう。日本泌尿器科学会や日本性機能学会などが認定する専門医がいるかどうかも参考になります。
    専門性の高い医師であれば、最新の知見に基づいた正確な診断と適切な治療法を提案してくれる可能性が高まります。
  • 実績・経験:
    男性更年期障害の症例を多く診ている病院や医師は、様々なタイプの症状や合併症に対する経験が豊富であると考えられます。ウェブサイトで診療実績や更年期外来の開設期間などを確認できる場合もあります。
  • 診断体制:
    男性更年期障害の診断には、正確な血液検査(特に遊離テストステロン値の測定)が不可欠です。病院内に検査設備が整っているか、あるいは外部の検査機関と連携して迅速かつ正確な検査ができる体制があるか確認しましょう。
    AMSスコアなどの質問票を用いたり、必要に応じて他のホルモンや全身状態に関する検査も行えるかも重要な要素です。
  • 治療オプションの多様性:
    ホルモン補充療法(注射、塗り薬など)、対症療法、生活習慣指導など、様々な治療法の中から患者さんに最適な方法を選択できるか確認しましょう。特にホルモン補充療法を検討している場合は、取り扱っている製剤の種類や投与方法(注射、塗り薬など)について事前に調べておくと良いでしょう。
  • 他の診療科との連携:
    男性更年期障害は多様な症状を伴うため、必要に応じて泌尿器科、内分泌内科、精神科・心療内科などが連携して診療できる体制があると、より包括的なケアを受けることができます。特に、精神症状が強い場合や、他の疾患(糖尿病、高血圧、脂質異常症、骨粗しょう症など)を合併している場合は、複数科連携が可能な病院を選ぶと安心です。
  • アクセスと通いやすさ:
    男性更年期障害の治療は、症状や治療法によっては長期にわたる場合があります。定期的な通院や検査が必要となることも考慮し、自宅や職場からのアクセスが良いか、通院しやすい時間帯に診療しているかなども重要なポイントです。
    オンライン診療に対応しているかも、近隣に専門病院がない場合や、仕事などで忙しく通院が難しい場合の選択肢となります。オンライン診療では、自宅などから医師の診察を受け、薬を配送してもらうことができます。ただし、初診は対面診療が必要な場合や、対応できる検査などに限りがある場合もあるため、事前に確認が必要です。
  • 医師やスタッフとの相性:
    男性更年期障害の悩みはデリケートな問題も含まれるため、安心して相談できる、話しやすい雰囲気の医師やスタッフがいるかどうかも大切です。ウェブサイトの雰囲気や、実際に受診した人の口コミなども参考になるかもしれません。

病院を探す具体的な方法:

病院を探す具体的な方法:

  • かかりつけ医に相談する: まずは普段から診てもらっているかかりつけ医に相談し、男性更年期障害の可能性について意見を聞いたり、専門医を紹介してもらったりするのが手軽な方法です。
  • 日本泌尿器科学会や関連学会のウェブサイト: 専門医のリストや、関連施設が掲載されている場合があります。
  • 病院検索サイト: 「男性更年期外来」「メンズヘルス外来」「泌尿器科」といったキーワードで検索し、上記のポイントを踏まえて比較検討します。
  • 地域の医師会や保健所への問い合わせ: 地域の医療機関に関する情報を提供してもらえる場合があります。

いくつかの病院を比較検討し、自分にとって最も適した病院を選ぶことが、納得のいく診断と治療につながります。まずは情報収集から始めてみましょう。

まとめ

男性更年期障害は、加齢に伴う男性ホルモン(テストステロン)の低下によって引き起こされる、様々な身体的・精神的・性機能に関する症状を特徴とする病気です。以前のような元気がない、イライラや落ち込みが続く、性欲がなくなった、EDになったなど、「歳のせいかな」と諦めてしまいがちな症状の裏に、男性更年期障害が潜んでいる可能性があります。

男性更年期障害の診断や治療は、主に泌尿器科(特に男性専門外来やメンズヘルス外来)、内分泌内科、精神症状が強い場合は精神科・心療内科で行われます。どの科を受診すべきか迷う場合は、男性更年期障害に詳しい男性専門外来を最初に受診するのが最も包括的な対応が期待できます。

診断は、問診(AMSスコアを含む)、身体診察、そして血液検査によるテストステロン値の測定などによって行われます。特に遊離テストステロン値の測定は診断に不可欠です。

治療法には、低下したテストステロンを補うホルモン補充療法(注射や塗り薬)、それぞれの症状を和らげる対症療法、精神的な側面へのアプローチとしての精神療法・カウンセリング、そして病状改善に不可欠な生活習慣の改善(運動、食事、睡眠、ストレス管理など)があります。これらの治療法を組み合わせて、患者さん一人ひとりに合わせた最適な治療が行われます。

もしあなたが、男性更年期障害かもしれないと感じる症状に悩んでいるのであれば、一人で抱え込まず、まずは専門家へ相談することを強くお勧めします。適切な診断と治療を受けることで、つらい症状は改善し、再び活動的で充実した日々を送ることが十分に可能です。

病院を選ぶ際は、男性更年期障害や男性医学に詳しい医師がいるか、必要な検査体制が整っているか、多様な治療オプションがあるか、他の科との連携はどうか、通いやすさ(オンライン診療の有無を含む)などを考慮して、ご自身に合った医療機関を見つけましょう。

男性更年期障害は、適切なケアによって改善が見込める病気です。勇気を出して医療機関のドアを叩き、健康な体と心を取り戻すための一歩を踏み出してください。


免責事項:
この記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の疾患の診断や治療を推奨するものではありません。個々の症状や健康状態については、必ず医療機関を受診し、医師の診断と指導に従ってください。この記事の情報に基づいて行われたいかなる行為についても、当方は責任を負いかねます。